沿岸に位置する桁橋の塩害について
㈶沖縄県建設技術センター 安里交差点建設事務所
主任技師
(前)沖縄県八重山支庁 土木建築課
主任技師
主任技師
(前)沖縄県八重山支庁 土木建築課
主任技師
仲 村 守
沖縄県土木建築部 都市モノレール建設室
主 任
(前)沖縄県八重山支庁 土木建築課
技 師
主 任
(前)沖縄県八重山支庁 土木建築課
技 師
安 里 嗣 也
沖縄県土木建築部 北部土木事務所
主 任
(前)沖縄県八重山支庁 土木建築課
技 師
主 任
(前)沖縄県八重山支庁 土木建築課
技 師
奥 間 正 博
1 はじめに
道路改築事業に伴い架替される橋梁を中心に,沖縄県八重山管内の橋梁の一部を目視観察したところ,沿岸に位置する桁橋の塩害にそれぞれ特徴が見られた。特に,複数の主桁を持つ桁橋では,海風や波浪の影響を受けやすいと思われる海側の主桁よりも,山側の主桁に塩害(錆など)の発生が著しいことが観察された(写真ー1)。ここで実際の付着塩分量の測定を行い,定量的な状況をほぼ確認した。この傾向は,架設された周辺の環境によって異なることも観察結果で考察された。
今回観察した橋のうち,重点的に調査した橋は西表島北岸の一般県道白浜南風見線の渡川橋「ゲーダ橋」である。昭和52年に架設されたH型鋼(非合成H-BB)橋で,昭和61年2月に維持塗装の履歴を持つ橋梁である。他に目視観察した橋は,同路線のクーラ橋・大見謝橋・野崎橋・船浦橋等であるが,改築事業の影響や調査の難易度よりゲーダ橋で付着塩分量を測定することとした。地形的な要因による付着塩分量の違いについては,他業務等の都合により測定できず今回は机上での考察とした。
2 付着塩分量の測定と結果
(1)付着塩分量の測定方法
飛来塩分量や付着塩分量の測定方法としては,JIS Z 2381(屋外暴露試験方法通則)による「ガーゼ法」,建設省土木研究所による「土研法」等があるが,測定方法の多くが,試料採取の開始から終了までに長期間を必要とする事や,多くの経費・労力を必要とすることから対応が難しく,他の測定方法を模索する事とした。結果的に,構造物に付着している塩分をガーゼにより直接拭き取ることとした。(以降これを「直接拭き取り法」と呼ぶ)
(2)付着塩分量の測定位置と測定方法
「直接拭き取り法」とは,あらかじめ10cm×10cmのセルロイドフィルムの型枠を作成,現場の構造物に貼り付けて一定の面積を確保し,枠内を蒸留水で浸したガーゼで拭き取る方法である(写真ー2)。ガーゼに付着した塩分は,室内において塩素イオン濃度をモール法で測定した。
採取の方法は簡単であるが,抜取りが人為的であるため誤差が生じることが考えられるが,今回の目的は,同一構造物でその部位の違いによる相対的な塩分付着量の差異に主眼をおいた調査であり,調査目的にかなった測定方法と判断される。
測定橋梁は,前述したゲーダ橋である。橋長は19m・H型の4本の鋼主桁をもつ構造で,標高は桁下EL=3.0m満潮位面より2.1mの高さに桁下が位置する橋梁である。
(3)付着塩分量の測定結果
試料の採取は,橋を山手より見て(下流方向)左(L)・中央(C)・右(R)の3測線(Line)を設定,桁を海側より1~4までの番号をふり,各桁断面の部位をA~Gの7ポイントで拭き取りを実施,合計84検体を採取した。
付着塩分を,Line(断面)ごとの各測定部位に合わせて示したものが図ー3である。黒丸の大きさで,付着塩分餓の大小を表現している。また,図ー2は各桁ごとの付着量の分布を表しており,濃い着色部分がその値が高いことを示している。この2つの図から山手側の主桁,特に内側に付着量が多いことが分かる。
今回の測定結果は,維持塗装の履歴から結果的に,塗装後約10年間に付着した塩分量を測定したことになる。m2に換算して最大4.01g・最小0.10gの堆積付着量は,沖縄県建設技術センターが行っている「鋼橋における腐食度調査」結果(第4回土木建築部研究発表会研究課題集)と比較すると,呉我橋の0.965g/m2/yより少ない傾向にある。この差は気象の影響や地形的要因によるものと考えられる。
技報堂出版コンクリート構造物の耐久性シリーズ「塩害(Ⅰ)」に報告されている,日本海沿岸に位置するⅠ型PC橋の飛来塩分量(塩素イオン)では,6カ月で最大10.4g/m2を測定しており,やはり気象や地形要因が大きな原因と考えられる。
この報告で興味深いのは,山手側の桁に付着する塩分量が多い傾向がうかがえることである。
今回の測定結果は,決定的な値として付着塩分量の差が現れたわけではないが,目視で観察されたように,主桁の山手側での腐食が著しいことが裏付けられたと言える。
3 目視観察の結果
ゲーダ橋と同様に山手側の桁の錆びが著しい橋梁として,クーラ橋があげられるがゲーダ橋程ではない。ただし鋼製の排水パイプの腐食が,山手側の塩害を象徴している。(写真ー3)
ここで,ほぼ同時期に維持塗装を施した4橋を比較する。目視により桁の錆びの程度を比較すると,野崎橋・ゲーダ橋・クーラ橋・大見謝橋の順に桁の腐食が進行している。同時期に維持塗装を施している橋で,このように錆びの程度が異なる原因は,橋が架設されている周辺環境に大きく起因していると考えられる。それぞれの橋桁の腐食状況と架設された箇所の周辺環境を整理する。
特に大きな影響を与えると考えられる,風向の卓越方向と各橋の開口部を平面図で照合すると,一応の相関がうかがえる(図ー5)。但し,今回の観察は数橋であり,必ずしも相関を言い切れない。
しかし,図ー3より分かるように塩分を含んだ風が滞留する,H型桁のフランジ部分の腐食が他の部分に比べて激しいことが分かる。
野崎橋・ゲーダ橋・クーラ橋は汀線からの距離が0m,大見謝橋は100m程度である。また,汀線に近く直上流で遮蔽物として植物が群生しているのは,ゲーダ橋と野崎橋である。
ゲーダ橋の錆びの特徴として,前述した山手側の桁が著しい状況はクーラ橋でも観察される。これまで紹介した橋梁は西表島に架かる橋梁であるが,ゲーダ橋と同様に山手側の桁の塩害が著しい橋梁が石垣島・石垣港伊原間線の名蔵小橋で観察される。
名蔵小橋は,コンクリート構造のゲルバーT桁橋である。4本の主桁のうち山手側の塩害が著しい。この橋の架設されている周辺環境は,ゲーダ橋と同様に直上流側にマングローブ林の遮蔽物が存在している。
ここで,上下流に全く遮蔽物の無い船浦橋との比較を行ってみた。船浦橋は,約1.3kmの海中道路の中央に位置する,146mの鋼単純活荷重合成桁橋で3本の主桁を持つ。昭和52年に架設され維持塗装の履歴を持たない橋梁である。目視調査の結果,3本の主桁の発錆状況は,ほぼ同様のものと観察された。このように,周辺の遮蔽物,上流域の地形などで塩害の状況が異なることは,前述した「塩害(Ⅰ)」の報告を引用すると,「ゆっくりではあるが,恒常的に休む暇なく塩分などを陸へ運んでいる海風」がその錆びの原因と考えられる。海風は海岸から川沿いに,ゆっくり遡上し橋梁桁下を通過する。その間の遮蔽物の状況によって桁に与える付着塩分量は異なる。特に樹木などの自然林による遮蔽効果は高いと考えられ,大見謝橋のように海岸から100mの距離であってもその周辺の環境によって,鋼橋の腐食の程度は大きく異なる。(周辺の環境条件が良ければ,鋼橋であっても20年程度のメンテナンスフリーは十分確保されるものと思われる。)
また,上流の地形的要因・遮蔽状況によってもその量は異なると考えられる。橋梁の直上流に樹木などの遮蔽物があると,何らかの要因で山手側の塩害が著しくなるという傾向がうかがえる。
4 課 題
今回行った桁橋の塩害調査は時間的制約などもあり,内容は予測の範囲を脱しえないものといえる。しかし,観察されたデータの中で考察すれば,桁の塩害は,橋のおかれている周辺環境によって大きく異なる事がうかがえる。特に,海側より山手側の桁の塩害が著しいという結果は,周辺環境の違いを象徴的に表しているとも言える。その原因は,上流側に遮蔽物があるという地形的要因があげられるが,実際どのような影響を及ぼしているか,今回の調査だけでははっきりと述べられない。風の卓越方向からの風雨による塩分の洗い流しが,付着量の違いと考えられるなど,新たな観測調査を行う必要がある。
たとえば,風洞実験により主桁間の風の滞留状況を把握する必要や,実際の橋の上下流・桁下に風速計を設置,風の実況を調査する等である。特に,腐食の大きな原因とされている橋桁自体の乾湿繰り返し状況の調査も必要である。これらのデータを解析することによって,その原因は明らかになるものと考えられる。また,今回の調査で地形的要因が,塩害の程度に影響をおよぼすことがわかったため,今後,周辺環境の要因を定量的に表す手法の確立も必要だと思われる。
今回は,5橋(付着塩分測定は1橋)だけの調査であったが,調査対象橋梁を増やし周辺環境・架設時期によるグループ分けを行い,塩害の傾向を調査する必要がある。
5 あとがき
課題で述べた内容については,今後十分に調査研究する必要があるが,特に,その原因が明らかにされる段階で,次のような橋梁架設計画時点での対応が可能と考えられる。たとえば,沿岸部であっても周辺環境によって,鋼橋・RC橋の採用検討や,主桁形状の検討,また塗装塗膜の厚みやコンクリートかぶりの使い分け等が考えられる。
今回の報告が,今後の研究の足掛かりとなれば幸いである。
参考文献
1)大城久雄,西浜完治,平良勝則:鋼橋における腐食度調査,第2回土木建築部研究発表会研究課題集,平成4年
2)大城久雄,上原盛隆,平良勝則:鋼橋における腐食度調査,第4回土木建築部研究発表会研究課題集,平成6年
3)大城武:鉄筋コンクリート構造物の塩害
4)大城武:沖縄県のコンクリート構造物に対する塩害および耐久性設計について
5)大城武,山田義智,谷川伸:厳しい環境下での実大RC建物の長期暴露試験について,
コンクリート工学年次論文報告集,Vol.17, No.1 1995
6)岸谷孝一,西澤紀昭 他編:塩害(Ⅰ),技術堂出版,昭和61年5月
7)月永洋一,庄谷征美:国内の塩分環境をみる,セメント・コンクリートNo.532, June 1991