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博多川上昇式セクタゲートについて

福岡市河川建設課
 第1係長
梅 津 正 光

株式会社ミゾタ
 技術本部長
若 松  誠

株式会社ミゾタ
 設計部次長
鶴 丸 隆二郎

1 はじめに
福岡市の博多川に3年をかけて上昇式セクタゲートが完成した。
博多川は福岡市博多区の中洲・川端地区を流れる,延長1.25kmの準用河川である。
福岡市では「福岡市総合計画」に基づいて,21世紀を展望した都市づくりを進めている。その中に博多川,那珂川などの水辺空間を整備し,魅力ある街づくりに活用するという内容が盛り込まれており,博多川を都心のオアシス空間として整備するため,平成3年に「博多川夢回廊整備事業」を着手した。
その事業の一環として,水質浄化を図り,親水性の向上などのためにゲートを設置することとしたが,景観やメンテナンスに優れ,夢回廊整備事業のシンボルとして上昇式セクタゲートを採用したものである。
本型式のゲートは,国内はもちろん,国外においても実施例が乏しく,施工に先立ち水理実験や本ゲートに適した水密ゴムの開発などの工程を重ねて,ゲート機能の確認を行っている。

2 上昇式セクタゲート扉体形状および基本寸法
扉体の径間部主桁断面は円形の一部からなる蒲鉾形で,その桁の両端部は円盤形を成している。
円盤の中心部分を基礎壁に固定したトラニオンピンによって回転自由に支えている。
扉体の全開,点検時の状態を図ー1に記している。すなわち,全開から点検まで扉体は180゜回転する。
扉体基本寸法…径間長,扉体高さ(弦長)扉半径および扉体の厚さは図ー1に示すように,扉体高さが同じでも扉半径が異なれば,扉体厚さは同じではないので,合理的寸法決定に当っては土木形状をも考慮して十分な検討が必要である。
博多川のゲート諸元を表ー1に示す。

3 運 用
ゲートの運用は目的によって図ー2に示すようになる。

4 構造概要
(1)扉 体
① 扉体主桁は,蒲鉾型断面のシェル構造で,その両端を同半径で,厚さ約500mmの円盤状の脚ではさんだ形状を成す門型ラーメン構造としている。この円盤中心に回転ボスを設け,φ300mmの球面オイルレス軸受を介して,トラニオンピンで支持する。
 軸受はテーパ形状を採用して取替作業を容易にすることに配慮している。
② 扉体はステンレス製であるが,直上流の既設の起伏ゲートの腐食状況を入念に調査を行い,その結果も参考にして,同じSUS304を採用した。
③ 扉体シェル部分に注排水孔を設けた場合,穴による断面欠損や土砂,流下塵芥の流入および排除の困難が確実視されるので,全気密構造とし,万一浸水があった場合においても開閉荷重の増加による開閉力の不足が生じない扉体の開度での排水も可能なようにシェル内部にはドレン用のパイピングを施している。
④ 水密部は,扉体底部,側部とも扉体側のスキンプレート前面に額縁状に取付けている。詳細については,6項に後述する。
⑤ 扉体下部端には全径間に渡ってスクレーパなるものを取付け,シル部に残った転石を下流へ掻き出す構造にしている。スクレーパには板ゴムを挟み込み,多少の水漏れを許す準水密の機能も持たせている。これは図ー3に示すようにアンダフローさせる時,底部水密ゴムがシルから離れても,河床に堆積した転石を流下させる強さの流れが起きず,スクレーパがシルから離れて初めて転石等が流れ出すので,水密ゴムに衝突して損傷を与えることがないよう保護するためであり,また底部水密ゴム部に作用する水理力を軽減するためである。なお全閉,全開時にも極力スキンプレートとシルの間に土砂,転石,塵芥が入り込まないよう,また掻き出せるように補助スクレーパを設けている。

(2)戸当金物および基礎材
① 戸当金物河床部は,逆蒲鉾状の凹部(シル部)を設け,扉体全開時に扉体がシル部に完全に格納される構造である。水密構造の高さや転石の大きさも考慮して,スキンプレートとシル部の隙間は250mmとしている。
② シル部も含めて,埋設露出部分は,ステンレス鋼またはステンレスクラッド鋼を使用している。
③ 基礎材は,扉体に作用する水圧荷重,扉体自重および開閉荷重をコンクリート基礎に伝達する構造物であり,トラニオンピン,アンカレージおよび支圧板より構成されている。

(3)開閉装置
① 油圧シリンダからアーム・ロッドを介して扉体に連結するリンク機構方式である。
② ゲート運用の種々のケースにおいて,扉体に作用する荷重に対して開閉トルクを図ー4に示すように求め,シリンダ能力を決定した。

5 水理模型実験
水理模型実験は,未知の部分が数多く残っている上昇式セクタゲートの水理特性を解明すると共に,その結果をゲートの設計,運転実施に反映させることを目的として1/12.5のスケール模型で実施した。
(1)実験および検証事項
① 扉体各部に作用する圧力とその分布
② その圧力により,扉体を回転させる力およびトルクの検証
③ 流況の観察

(2)実験結果
① 全ての条件において,ゲート運転上支障が有る特異な軸トルクおよび水圧分布は見られなかった。
② 設計計算の方法,計算仮定の妥当性が確認された。
③ アンダフローにした場合は,流速の測定によってシル部および上流側河床部に堆積した土砂を排除する排砂効果が期待できることがわかった。
(3)実験結果③についての報告
排砂効果実験は,上流水深2.5m,下流水深0m,開度ー41.59゜扉体下端と河床の距離0.813mの条件を例にとって,上流側シル平坦部(河床部)の掃流力の推算を行った。図ー6にその条件での流速分布計測結果を示す。

実験結果より,軸芯より5m以上上流では流速は水深方向にほぼ一定なのに対し,上流4m付近から河床に近い部分の流速が速くなり,上流3m付近では,河床に近い部分の流速は3m/s(平均流速2.946m/s)を超えていることがわかる。(今回の計測は水平方向成分しか行っていない。)
一般に掃流力とは,流砂の問題における底面に働く剪断応力のことである*1。この剪断応力が,一定の限界値を超えると,砂礫の移動が始まる。
河床に静止している1個の砂粒には

である。明らかに,F(流体力)>R(抵抗力)の時には砂粒は移動し,F<Rでは静止状態を保つから,限界の条件はF=Rで与えられる(図ー7)。

以上の仮定と,計測結果である平均流速2.946m/sを(1),(2)に代入し,砂粒が移動する条件F>Rより,
    d<0.161m 
という結果が得られる。よって,この計算では,粒径が16.1cmより小さければ砂粒の移動が起こることになる。これは,ほとんどすべての砂礫が移動することを意味する。
ただし,低流速で排砂した場合,砂礫は下流後方までは流れずに,シル凹部に堆積する可能性がある。
博多川においても,実際の流況の観察によって実験の妥当性を確認した。
博多川において,写真ー2に示す試験石を3個戸当りシル部に投入し,上下流水位差0.98mで排砂を行ったところ,3個共シル部より排除された。同上水位差では,75mm程度の石の排除が予想されたが,投入した石はそれよりかなり大きいにもかかわらず,シル部より排除された理由は,試験石が他の石と干渉することなく,単独で戸当り上に置かれたこと,さらに試験石が球状でなく,形状に凹凸があり,水流を受ける面積が大きかった等の理由が考えられる。

6 水密ゴム実証実験
上昇式セクタゲートは,比較的径間が長く,従って,底部ゴムの止水幅も大きい。このためゴムの強度上および開閉荷重の軽減のため,止水時のみ水密ゴムを空気圧によって膨張させ,戸当りに圧着して止水するタイヤ型水密ゴムを開発した。(図ー8参照)

(1)実験方法
図ー8に示すように,一定の水密ゴム圧着量の下で,ゴム空気圧と水密ゴム漏水圧Pℓの関係を求める。圧着量は0,5,10,15,20mの5ケースとした。
(2)実験結果
実験結果は,表ー2,表ー3に示す通りである。
実験結果より,水密ゴム空気圧を1.5kgf/㎠に設定すると,ゴムの圧着量が5mmの場合でも,水深3mまで止水可能であることがわかった。実験結果をふまえて,実機においても,水密ゴム空気圧の設定値を1.5kgf/㎠と決定したが,十分な水密機能を有することを確認した。

7 施 工
(1)製 作
全ステンレス鋼で特異構造・機構の為,製作に当っては材料から積込出荷まで種々の検討が必要であったが,特に縮み,歪みなど溶接に関して細心の注意を払った。
実物大の一部モデルを製作し,溶接シミュレーションおよび溶接施工前試験を実施した。
(2)据付け
据付工事は,半川締切工法とし,3期に工事を分割して施工した。1期工事は,右岸および中央ピアの埋設部(戸当金物,基礎材,開閉機アンカー金物等)2期工事は,左岸の残りの埋設部,最後に,3期工事として,扉体および開閉装置の据付けを行った。
戸当金物の据付けに当っては,コンクリート打設時の戸当金物の浮き上り防止のため,2段階に分けて施工した。
扉体は,現場溶接部を最小限に押えるため,出来るだけ分割(径間方向に4分割)を少なくした。このため,扉体の1ブロックが大きくなり,特殊な運搬車輛を使用することにより対応した。
現場溶接に当っては,縮みおよび捩れに十分留意しながら施工した。また,扉体は全気密構造なので,エアーによる気密テストを実施した。

(3)試運転
平成10年12月に左岸側ゲートが完成し,平成11年2月より通水による試運転を開始した。試運転によりゲート設備の性能が,設計値を十分満足することを確認した。平成11年4月には,右岸側ゲートも完成し,5月には総合試運転も無事終了した。

8 あとがき
本ゲートは,竣工以来順調に稼動しており,初期の目的を十分満足する性能を発揮している。
6月に博多川沿いにオープンした常設劇場「博多座」のこけら落しとして,歌舞伎役者が博多川を舟で下りながら来場を呼びかける「舟乗り込み」が大盛況のうちに行われた。当時は干潮の時刻でこのゲート操作により水面を湛え,水深を確保することができ,ゲート完成後初めての大きな仕事を無事終えることができた。
都市部に設置されるゲートは,周辺景観との調和は欠かせない条件である。従来の引揚式ゲートのような,視界を妨げる高い門柱や大きな操作室等を必要としない上昇式セクタゲートは,都市型ゲート設備として最適であるといえる。また,本型式ゲートは,使用目的に柔軟に対応できるゲートで,今後,閘門ゲート,土砂吐ゲート,魚道ゲート等に広く使用されるものと思われる。
最後に,今回の博多川セクタゲートに携わられた多くの方々に深く感謝の意を表します。

参考文献
 1)「水理学演習(下巻)」(荒木正夫,椿東一郎)森北出版
 2)「水力学」(島 章,小林陵二)丸善
 3)「水理学Ⅱ」(椿東一郎)

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