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福岡県における下水汚泥処理・処分の現況と今後

福岡県建築都市部下水道課
野 上 和 孝

1 はじめに
福岡県は,九州と本州を結ぶ交通の要衝にあり,また,アジアの玄関口として近年発展が著しい。
県内は,福岡市,北九州市の両政令市を含む97市町村から構成されており,平成7年度末における行政面積は4,966㎢,行政人口は489万人である。
都市の発展に伴い下水道の整備も進捗しており,平成7年度末における,県内の下水道処理人口普及率は,全国平均を上回っている。
このように,下水道整備が進捗し,処理水量が増加するに伴い,発生する下水汚泥も年々増加しており,今後も普及拡大に伴い確実に増加していくと考えられる。
現在,県内で発生している下水汚泥は,そのほとんどが海洋投入,陸上埋立,緑農地利用(コンポスト化)で処分されている。
しかし,海洋投入は,海洋環境の保全の観点から中止しようとする動きがあり,また,陸上埋立についても,埋立処分場の立地適地が少ないため,早急に他の処分方法への移行を図る必要が生じている。
また,平成7年の都市計画中央審議会の答申,さらに,第8次下水道整備五箇年計画において,下水汚泥の有効利用の推進が掲げられており,下水汚泥を廃棄物として処分することから,資源として有効利用することへの転換に積極的に取り組んでいく必要がある。
ここでは,福岡県における現在の下水汚泥の処理処分の状況を報告するとともに,県管理の流域下水道事業における資源化を踏まえた有効利用への取り組みを紹介する。

2 県内の下水道整備状況
(1)下水道整備の状況
平成7年度末における福岡県の公共下水道の普及率は59%であり,全国平均の54%を上回っている。
しかし,北九州市,福岡市の両政令市を除いた場合,27%と低い状況にある。
また,下水道事業を実施している市町村は,県内97市町村のうち40市町(18市22町)であり,実施率41%と全国平均の59%を大きく下回っている状況にある。
今後は,全県的な下水道整備に対する要望に応え,いかに地方部における下水道の普及拡大を促進していくかが大きな課題である。
県内の下水道実施市町を図ー1に示す。

(2)流域下水道事業
市町村が事業主体となる公共下水道とは別に,都道府県が事業主体となり,2以上の市町村の下水を受け処理するものが流域下水道である。
流域下水道は,下水を行政界にとらわれず効率的に集めて処理する下水道施設として位置付けられている。
福岡県では,昭和46年に福岡市とその周辺都市の5市1町を対象として着手した御笠川那珂川をはじめ,多々良川,宝満川,宝満川上流,筑後川中流右岸,遠賀川下流および矢部川の7箇所で流域下水道事業を実施しており,このうち,御笠川那珂川,宝満川および多々良川の3箇所で供用を行っている。

3 下水汚泥の処分状況
平成7年度末に県内で供用を開始している終末処理場は,県および7市4町で管理を行っている22箇所であり,ここから年間約19万4千トンの下水汚泥(脱水汚泥ベース)が発生している。
このうち,流域下水道事業により発生した下水汚泥は20.7%,公共下水道事業は79.3%である。
これを,海洋投入(24.7%),陸上埋立(37.0%),緑農地利用[コンポスト化](14.4%),セメント原料化等その他の資源化(23.9%)で処分している。
県内の下水汚泥の発生量および処分方法を表ー1に示す。(一部,濃縮,消化,焼却により場外に搬出しているが脱水汚泥に換算している。)

4 下水汚泥の処分および有効利用方法
(1)陸上埋立
現在,脱水汚泥および焼却灰について,5つの自治体13の下水処理で埋立処分を行っている。
しかし,埋立処分場は年々減少しており,環境問題が社会的にクローズアップされているなか,処分場建設に対する住民感情や今後の都市化の進展を考えると処分地の確保は一層困難になるものと考えられる。
(2)海洋投入
これは,「海洋汚染および海上災害の防止に関する法律」の廃棄物の排出基準によリ定められた排出海域であるC海域(すべての国の領域の基線からその外側50海里を越える海域)に投入するものである。
本処分方法は,海洋環境の保全・保護の立場から全国的に大幅に減少しており,本県においても近い将来中止する方向で検討している。
(3)緑農地利用
下水汚泥の有効利用方法として一番多いのが,コンポスト化による緑農地利用である。
県内では,福岡市がコンポスト化プラントにより自ら下水汚泥たい肥の製造を行っており,他の自治体はすべて,民間肥料会社に脱水汚泥を引き渡している。
下水汚泥の肥料としての利用を考えた場合,問題となるのが重金属の含有量と需要の拡大(市場販路の確保)である。
肥料は,肥料取締法により普通肥料と特殊肥料に区分されるが,下水汚泥は特殊肥科に属しており重金属規制を受ける。
また,全国農業協同組合中央会により有機質肥料等推奨基準に係わる認証要領が定められ,新たに肥料として望ましい基準が設けられた。
現在県内で生産されている下水汚泥肥料は,すべて肥料取締法上の基準を満足しており,販路も確保されている。

(4)セメント資源化
福岡県はセメント生産県であり,県内には10箇所のセメント工場がある。
県内すべてのセメント工場で,年間約2千万トンのセメントを製造しており,これは,全国のセメント製造量の2割程度に相当する。
セメントの主要原料は石灰石と粘土類であり,これを焼成キルン内で1500℃程度の高温により焼成しクリンカを生成する。
最後にクリンカに3%程度石膏を加えることによリセメントが生成される。
現在いくつかのセメント工場で,このセメント製造工程に建設廃材,廃油,煤塵など様々な廃棄物を投入し,再資源化を行っている。
下水汚泥を投入した場合,有機質は熱源の一部になり,無機質は他の原料と共にキルンに送られセメントの一部となる。
このセメント製造工程への下水汚泥の投入は,大量で安定した消費が期待できる上,二次的な廃棄物が発生しないという利点がある。
現在県内では,北九州市,福岡市の両政令市が発生下水汚泥の一部のセメント資源化を実施しており,他の自治体も有効な一手法として注目している。

5 有効利用への取り組み
本県では,流域下水道事業として3つの下水終末処理場を管理している,
この3つの処理場から発生する下水汚泥は年間約4万トン,日量換算で約110トンであり,これを,海洋投入(70.6%),陸上埋立て(19.0%),緑農地利用(10.4%)で処分しており,有効利用量は全体のわずか1割程度にすぎない。
このため,下水汚泥の減量化を図るとともに,有効利用を推進することが緊急の課題であり,御笠川浄化センターに平成4年度よリ処理能力日量100トンの汚泥溶融炉の建設に着手し,平成9年4月から供用を行っている。
また,さらに資源化を促進し,処理・処分の多様化を図るため,油温減圧式乾燥技術の実用化研究に取り組んでいる。
(1)汚泥溶融施設
汚泥溶融方式は大きく分けて,表面溶融,旋回溶融,コークスベット溶融およびアーク溶融の4つがあるが,本県では表面溶融方式を採用している。溶融炉は,下水汚泥を1,300~1,500℃で高温処理し,有機物を燃焼させ,無機物をガラス状のスラグとして取り出す施設である。
これにより,脱水汚泥に対し容量を1/20程度にまで減容することができる。
現在,汚泥溶融施設を導入している各自治体では,スラグの路盤材,埋戻し材,コンクリート骨材,および透水性ブロック等としての有効利用の実施および研究が行われており,本県においても建設資材化による再利用を図るため,現在検討を行っているところである。表面溶融設備の処理システムフローを,図ー3に示す。
① 脱水汚泥受入・供給設備
含水率80%程度の脱水汚泥を脱水汚泥貯留ピットに圧送し,さらに,バケットクレーンにより脱水汚泥供給ホッパに供給する。
② 乾燥設備
脱水汚泥を,ホッパから汚泥乾燥機に投入し,間接加熱方式によリ含水率20%程度にまで乾燥する。
③ 溶融設備
乾燥汚泥を,汚泥溶融炉に投入し,高温処理により有機物を燃焼させ,無機物をスラグとして取り出す。
溶融炉は,乾燥汚泥ホッパ,主燃焼室,二次燃焼室から構成されており,燃料として灯油および消化ガスを使用するとともに,汚泥自身の燃焼熱を熱源の一部として利用している。
④ 熱回収設備
排ガスの熱エネルギーを幅射式および水管式の廃熱ボイラによリ蒸気として熱回収する。
回収した蒸気は,汚泥乾燥機および白煙防止用熱交換機に供給し,有効利用を行う。
⑤ 排ガス処理設備
排ガス中のSOx,HCℓ,煤塵を除去し,無害なガスとして大気に放出する。
さらに,排ガス中の水蒸気が冷やされ白煙となる現象を防止する。

(2)油温減圧式乾燥技術
油温減圧式乾燥とは,下水汚泥と動植物系廃油を混合し,水より沸点の高い油を熱媒体として水分を蒸発させ除去する乾燥技術であり,原理は調理の天ぷら・唐揚げと同様である。
本技術では,脱水汚泥を1/4程度まで減容することが可能であり,さらに,廃油の再利用にも役立つという利点がある。
また,処理された乾燥汚泥は,含水率5%以下,含油率30%程度となり,セメント製造工程における補助燃料並びに特殊肥料として利用できる。
本県では,平成7~8年度に本技術の実用化研究に取り組んでおり,国の「新技術活用モデル事業」に採択されている。
本研究は,県管理の御笠川浄化センターの脱水汚泥を用いて乾燥実験を行い,基礎データを収集するとともに,技術のシステムとしての適用性および安全性の評価・検討を行った。
加えて,乾燥汚泥をセメント補助燃料および肥料として有効利用するための検討を実施した。
今後は,施設の早期導入を図ることにより,下水汚泥の経済的かつ有効的な減量化および資源化を図る計画である。
本乾燥技術の構成を図ー4に示す。
① 予備処理タンク
下水汚泥と廃食油を混合し,80~90℃に加熱しながら撹拌を行う。
② 油温減圧式乾燥装置
予備処理タンクから油混合汚泥を投入し,120~140℃で加温,さらに減圧を行う。
装置内部の温度と蒸発するガス湿度が逆転した時点で運転を終了する。
③ 遠心分離装置
処理した油混合汚泥を固形分と油分に分離し,含油率を30%程度まで低減する,
④ オイルホッパー
遠心分離装置から油を回収し,再利用するためオイル回収タンクに送り,新たに油を補給する。
⑤ コンデンサー
蒸発した水分を冷却・凝縮し,水処理施設へ排出する。

6 おわりに
今後,県内の下水道事業を実施する市町村の増加および下水道整備の促進により,発生する下水汚泥は大幅に増加すると考えられる。
下水汚泥を適正に処理・処分することは,下水処理を行う上で水質管理と並び,下水道の維持管理上最も大きな課題である。
しかし,下水汚泥の有効利用の割合は低く,各自治体とも,有効利用を前提とした方策について様々な検討を行っている状況にある。
下水汚泥の再利用の方法としては,脱水・乾燥汚泥の緑農地利用(コンポスト化)と建設資材化(セメント原料等)および焼却・溶融後の建設資材化(骨材,ブロック等)がある。
このような再利用を推進するためには,資源化技術の研究開発,製品流通経路の開拓および拡大等いくつかの課題がある。
近い将来,下水汚泥を全量,安定的に再利用するためには,今後下水道関係機関をはじめ建設業界,農業関係者等の協力を得ながら積極的に課題の解決に取り組んでいく必要がある。

参考文献
1)福岡県建築都市部下水道課:福岡県の下水道
2)下水汚泥資源利用協議会:下水汚泥緑農地利用マニュアル
3)社団法人日本下水道協会:下水道施設計画・設計指針と解説

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