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中小水力発電に関するシンポジウム報告
大塚久哲

キーワード:中小水力発電、既存ダムの利用、再生可能エネルギー

ダム工学会九州地区連絡会では、連絡会の内部に設置した「中小水力発電勉強会」における約2年間の検討成果をとりまとめ、平成25 年12 月5 日(木)に九州地方計画協会との共催による標記シンポジウムを福岡市早良区の九大西新プラザで開催した。民間企業、電力会社、官公庁担当者が多数出席し、九州の特性を生かした地産地消型の中小水力発電の実現、普及に向けて知識を共有することができた。
上述の中小水力発電勉強会は、東日本大震災以降の我が国の電力供給改善への貢献、すなわちダム施設のさらなる有効活用による再生可能エネルギーの導入拡大等を目指し、平成23 年6 月頃より議論を開始していた。
勉強会ではまず、様々な情報を収集し共有することから始め、参加者それぞれの知識や経験を共有しつつ、次第に取り組みの方向性を見出していくことが出来た。具体的には、
①事例調査、特に事業の継続性に関する課題の掘り下げ
②九州地区内におけるケーススタディによる実現可能性の検証
③土木、エネルギー、農林など裾野の広い分野間での議論の共有化と社会啓発
という3つの取り組み課題を設定し、3つのワーキンググループにて検討を進めた。
検討の成果は「中小水力発電に関するシンポジウム 講演概要集」(補遺1に目次を示す)に詳しく記述されているが、シンポジウムでは多分野にわたる関係者から話題提供があり、以下のようにその内容をまとめることができる。
・ダム施設を活用した再生可能エネルギー導入の必要性や意義についてはほぼ認識が共有された。
・福岡県・宮崎県など、先進的な自治体は既に基礎的な調査等を進めており、県以外の事業主体の導入を図るなど、積極的な取り組みを展開している。
・大分県などでは、再生可能エネルギー事業を売電事業に留めることなく、産業振興や地域活性化方策まで含めてビジョンを描き、検討を進めている。
・国土交通省九州地方整備局は、水利権手続きの簡素化や登録制度の創設など中小水力発電プロジェクトの実現支援策を実施している。また、同局の直轄ダム活用による水力発電の事業例もある。平成25 年12 月施行の河川法施行令の紹介は、タイムリーであった。
・水資源機構筑後川局、鹿児島県、九州電力からも事業者の立場から中小水力発電の取り組みと現状を報告した。これまでは採算性が低いために取り組まれていなかった事業でも、固定価格買取制度の導入により積極的に事業化が進められている事例の報告があった。
・中小水力発電機器の技術動向など最新技術に関する講演も行われた。
・連絡会のワーキンググループからは、事業を進めるうえでの課題や小水力発電の可能性などの調査結果が報告された。
以上のとおり、本シンポジウムでは様々な関係者と知見を共有し交流することができ、中小水力発電は採算性も高く、事業が成立する可能性が明らかになったことで、シンポジウム開催の意義を高く評価することができる。
今後の課題として、地域の行政や地域住民に対する啓発活動などが挙げられる。引き続き連絡会としては中小水力発電の普及のために勉強と活動を継続し、2 回目のシンポジウム開催を平成26年12 月頃に予定している。関係各位の積極的な参加を希望します。

補遺1 シンポジウム講演概要集の目次
1.再生可能エネルギーとしての水力発電への期待
2.小水力発電に伴う河川法の改正について(水利権
手続きの簡素化・円滑化)
3. 九州地方整備局における小水力発電の取り組み
4.(独)水資源機構筑後川局における水力発電の現状
5.福岡県における中小水力発電に関する取組と現状
6.大分県における中小水力発電に関する取組と現状
7. 九州電力における中小水力発電に関する取組と
現状
8. 鹿児島の小水力発電について
9. ダム用エネルギーシステムの技術的可能性(DAS)
10.中小水力発電機器の技術動向
11.九州における既設ダム・砂防ダムを利用した中小
水力発電
12.既設ダムを利用した小水力発電の可能性について
付録 既存施設の未利用エネルギーを活用した水力発
電への取り組み(宮崎県)

補遺2 現在および今後開発可能な水力発電量
文献1)の発電方式別包蔵水力の表によれば,2007年度の一般水力(混合揚水を除く)発電設備容量は2,220 万kW,発電電力量は927 億kWh/ 年である。したがって,総発電電力量を9,565 億kWh /年(2009年)2)とした場合,総発電電力量に占める割合は約9.7%になる。
同様に文献1)によれば包蔵水力調査による工事中・新規水力開発地点による一般水力発電電力量の見込み高は468 億kWh/年とされている。一方,文献3)によればダムの弾力的運用・嵩上げ等による発電電力量の見込み高は343 億kWh/ 年、また文献4)によれば既存ダム・水路の未利用落差発電により,発電電力量17 億kWh/ 年が可能とされている。これらの合計値は828 億kWh /年となる。
さらに、文献5)によれば日本の小水力発電の可能性は莫大で,10-100kW のもので出力200 万kW 程度になるとされている。さらに1-10 k W を入れればさらに同程度の量が期待できるとの記述もある。仮に,発電容量を400 万kW としその年間稼働時間を180日× 24 時間とすると、発電電力量は両者を掛け合わせて、173 億kWh /年となる。
上記の828 億kWh/ 年と173 億kWh/ 年を足しあわせると約1001 億kWh/ 年の総発電量となる。前述の2009 年の総発電電力量9,565 億kWh/ 年に対する割合は、実に10.5%である。

補遺2の参考文献
1) 資源エネルギー庁:平成19 年度水力開発の促進対策
2) 電気事業連合会:電気の情報広場,電源別発電電力量の実績と見通し
3) (社)日本プロジェクト産業協議会:太陽の水力エネルギーによる未来の日本水循環委員会報告書,2008.11
4) (財)新エネルギー財団:平成20 年度中小水力開発促進指導事業基礎調査(未利用落差発電包蔵水力調査)報告書,2009.3
5) 地域分散電源等導入タスクフォース編著:小水力発電を地域の力で,(独)科学技術振興機構,社会技術研究開発センター,2010.12

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