市街地直下を掘り抜ける天神山トンネルについて
建設省 佐賀国道工事事務所
管理第二課長
(前)建設省 長崎工事事務所
工務課長
管理第二課長
(前)建設省 長崎工事事務所
工務課長
田 中 定 光
建設省 宮崎工事事務所
都城国道維持出張所 管理係長
(前)建設省 長崎工事事務所
工務課 設計係主任
都城国道維持出張所 管理係長
(前)建設省 長崎工事事務所
工務課 設計係主任
森 賢 二
建設省 佐賀国道工事事務所
管理第二課建設技官
(前)建設省 長崎工事事務所
工務課建設技官
管理第二課建設技官
(前)建設省 長崎工事事務所
工務課建設技官
小 辻 英 俊
1 はじめに
佐世保道路は福岡県福岡市を起点とし,佐賀県武雄市に至る全長150㎞の高規格幹線道路西九州自動車道のうち佐世保区間を形成する自動車専用道路である。その一部である天神山トンネルは,佐世保湾の東に位置する天神山(標高135.8m)を東西に掘り抜くもので,トンネルルート上全線にわたり住宅が密集する都市型山岳トンネルである。トンネル全長は945mで,NATM工法を採用したが,特に断層破砕帯部および低土被り(最小土被り5m,住宅直下部10m)である両坑口部での掘削による地表面沈下を最小限にするためAGF工法等の様々な掘削補助工を採用した。
本報告では,当トンネルの計測を中心とした施工実績,特に沈下抑制を第一の目的とした掘削補助工について述べるものである。
2 天神山トンネルの概要
(1)トンネル諸元
(2)旋工概要
本トンネルの施工方法,標準断面図を以下に示す。
① 掘削工法
掘削上法は.ショートベンチカットNATM工法であり,上部半断面と下部半断面の同時併進とした。
② 掘削方式
掘削方式は,周辺環境の内,特に振動・騒音に対する配慮から,自由断面掘削機による機械掘削とした。機種は,掘削工法,掘削断面形状および地山強度等を考慮してカッター出力200kw級の大型機械を採用した。また,坑内のずり搬出はタイヤ方式とし,坑外仮設ヤードに仮置きし,積替えにより2次運搬を行った。
③ 掘削補助工
坑口部の低土被り区問および断層破砕帯部では,AGF工法を採用し,特に地山不良区間では注入式フォアパイリングや鏡止ボルト等の対策上を行った。また,AGF工法の効果の確認および対策工の選定を行うために,計測(B)を実施した。
④ インバート工
両坑口でインバートコンクリートを打設した。
⑤ 覆 工
掘削完了後,1打設長L=10.5mの全断面スライドセントルにて覆工コンクリートを打設した。
(3)地質概要
本トンネル周辺の地質は,新生代第三紀佐世保層群相浦層(砂岩,頁岩および砂岩頁岩の互層)ならびに,これを不整合に覆って分布する玄武岩類である。トンネル施工基面に分布する地質は相浦層であり,トンネルの起点側より終点側に向かって8~10度に傾斜している。相浦層の内,中粒砂岩(Ssm)は無層理で一部に泥岩の薄層を含んでいるものの比較的硬質であるが砂岩頁岩互層(Alt)は全体的に亀裂が多く,またはクラッキーな石炭層あるいは軟質の凝灰岩を挟んでおり,比較的不均質な地層である。また,大黒側坑口付近で計画された擁壁基礎の地質調査の結果,「岩盤地すべり面(弱線)」となり得る凝灰質頁岩層や断層破砕帯が存在することがわかった。
3 補助工法
(1)補助工法の選定
工法選定にあたっては,
① 地上の構造物,地下埋設物等に有害な沈下を発生させないこと(地表面沈下抑制)
② トンネル切羽の安定がはかれること(切羽・天端安定対策)
③ 天端崩落の防止がはかれること(切羽・天端安定対策)
を考慮して,以下の2案について検討した。
第1案;坑外からの先受け工法(パイプルーフ工法等)
第2案;坑内からの先受け工法(岩盤固結工法,AGF工法,フォアパイリング工法等)
この内,第1案については,
① 施工延長が長く,精度・能力に問題があること
② 工期が長くかかること
③ トンネル線形が曲線であるため、余掘りが大きく不経済であること
により,第2案を採用することにした。
(2)先受け工法の選定
坑内からの先受け工法については,表ー2に示す3案について比較検討を行い,地表面沈下の抑制および切羽天端沈下の安定対策を含めて,最も信頼性の高いAGF工法(注入式長尺鋼管先受け工法)を補助工法とすることにした。なお、AGF施工に伴う作業シフト部においては注入式フォアパイリングを採用した。
4 AGF工法の施工
図ー7にAGF工法の支保パターン,図ー8に施工フローを示す。
AGF鋼管は,外径φ=114.3㎜,厚さt=6㎜,長さL=12.5mで,トンネル天端を中心に120度の範囲で50㎝ピッチに打設した。
AGF鋼管の打設にあたっては,トンネル現場で使用している2ブーム油圧ドリルジャンボを使用した。鋼管先端に取り付けたリングロストビットおよび管内のインナービットにより削孔,打設した後,鋼管をそのまま残し,管内のロッドおよびビットを引き抜く方法で行った。また,削孔には,拡径ビットが一般に用いられるが,当現場では断層破砕帯や強風化岩があるためリングロストビットを使用した。
打設手順としては,削孔による孔壁の崩壊および隣接孔からのリークを防止するため,一本置きに鋼管の打設を行い,シリカレジンを注入後,残りの鋼管を打設,注入した。
AGF鋼管打設後,1シフト9mのトンネル掘削を行い,ラップ長3.5mを残して,次のシフトに移行する。本工事では,6シフト分54mを施工した。
5 計測結果
(1)計測項目
本トンネルにおいて実施した計測項目としては,通常行われるA計測(内空変位測定,天端沈下測定,切羽観察)と,工法の妥当性の検証,地山挙動の事前予測のため,下記のB計測を行った。B計測項目一覧を表ー3に,計器配置図を図ー9に示す。
(2)計測結果
① 天端沈下・内空変位
図ー10に,上半内空変位収束値と天端沈下収束値のトンネル軸方向の分布を示す。
断層破砕帯での変位はばらつきがあるが,AGF鋼管施工範囲では,比較的小さな値である。よって,AGF工法を採用した効果が十分発揮されていると考えられる。また,地盤の支持力があまり得られない破砕帯では変位がやや大きな値を示しているが,ここでは後に述べる対策工を追加施工することにより最小限の沈下量に抑えることができた。
② 地表面沈下
図ー11に,トンネル上半掘削における地表面沈下の経時変化を示す。
計測結果は天端沈下の値とかなり近い挙動を示している。これは,土被りが小さいためアーチアクションが形成されにくく,トンネル内の変状が直ちに地表面沈下に影響したものと考えられる。
③ B計測
地質が切羽の左右で大きく異なったため,支保の変形が大きく現れた。B計測ではこの不均等な変形に伴い,支保の耐力を越える応力が発生しないかどうかの確認と次項で述べる対策工の決定をB計測結果より行うことができた。
6 対策工
(1)施工概要
本トンネルでは,DⅢ-a3区間より断層破砕帯に入り,日々の計測データを検討した。その結果,特に重要である地表面沈下が収束しない恐れがあると判断し,沈下抑制のため様々な対策工を行った。表ー4に対策工種および施工概要を,図ー12に施工要領図を示す。
(2)対策結果
切羽の安定対策として注入式フォアパイリング,鏡ボルト,リングカットを行った結果,掘削による地山の緩みを抑えることができた。また,既掘削部の補強であるが,天端沈下・内空変位の経時変化および対策時期の一例を図ー13に示す。掘削直後は,沈下速度が緩やかであるが,その後急速に沈下し,収束する傾向にない。対策工として補強プレート・増ロックボルトの順に施工することにより沈下速度を徐々に抑え,根固めコンクリートを打設した後,収束する結果となった。以上のように.計測結果をもとに切羽安定対策と既掘削部の補強をおこなった結果,トンネルを安定させることができた。
7 あとがき
平成10年4月佐世保道路は大塔~佐世保みなと間が無事開通した。市街地トンネルの宿命である振動,騒音等の制約や沈下対策といった問題点も機械掘削やAGF工法で乗り切ることができた。
今回の施工を通じ,本工法は市街地トンネルにおいて,今後もより多く採用されると考えられる。
最後に,天神山トンネルの設計から施工にわたって携わってこられた関係者の皆様に厚く感謝の意 を表す次第です。