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公共事業に由来する草木廃材の有効利用技術の開発
独立行政法人土木研究所 岡本誠一郎
1 はじめに

現在、地球温暖化対策への取り組みの一層の強化が求められるなかで、バイオマスの生産利用が世界的に注目されており、我が国においてもその利用促進が期待されている。
一方、河川や道路、公園、空港などの公共施設、公共空間からは、工事に伴う伐採木・抜根材や、さらには施設の機能維持や環境・景観保全のために定期的に刈草や剪定木材が大量に発生している。これらは、質・量ともに安定しているばかりでなく、供給源が都市域中心であること、管理システムが確立していることなどから、利用価値のきわめて高い資源として評価できるものであるが、現在、そのリサイクル手法は限られており、利用は十分には進んでいない。
今後はこれを適切に管理し、持続的な利用に繋げていくことが、わが国の地球温暖化対策の面から重要である。本稿では、こうした「公共事業由来バイオマス」の資源化に向けて、これまでに(独)土木研究所が行ってきた研究開発の概要を紹介したい。

2 公共事業由来バイオマスの利用技術
(1)インベントリー構築に向けた調査
道路、河川、公園、空港等の公共事業に由来するバイオマスは、前述のとおり利用価値のきわめて高い資源であるとともに、エネルギー賦存量も比較的大きいと推定している。
発生した草木類を資源として活用するためには、その発生量や発生場所、時期、性状などを正確に把握して数量管理することが必要であることから、(独)土木研究所では、バイオマス・インベントリーを構築するために必要な草木類の組成性状調査や発生量原単位調査等を行ってきた。これまでの調査で、河川及び道路法面の1回あたりの除草による刈草発生量として、平均的に0.2~0.3kg(乾燥重量)/m2・回程度となることが推定された(図-1参照)。除草回数が増加すれば、年間での発生量は増加することも確認した。また、単一種群生地での値として、オオイタドリ:1.34kg(乾燥重量)/m2・回、クマザサ:1.11kg(同)/m2・回などとなっていることから、管理方法の工夫等によりバイオマスの収量を増加させる可能性が示唆された。

図-1 公共緑地等から発生するバイオマスの状況


なお、これらの分析結果は、水分や強熱減量、高位発熱量とともに土木研究所資料「草木系バイオマスの組成分析データ集」1) としてとりまとめている。草木系バイオマスの資源化を検討する際には、草木類の伐採時における生の資材の性状として、得られたデータの中央値±10%から求めた値(写真-1、表-1参照)が活用できる。
平成21年度からは、コスト面、エネルギー面(CO2削減)からみて最適なバイオマス利用を行うための活用プロセス管理システムの構築に向けた研究を行っていく予定である。

写真-1 採取した草木資料と組成分析結果

表-1 草木系バイオマスの発熱量等

(2)バイオマス利用技術の開発
① 蒸煮爆砕物の緑化資材への利用
わが国では法面緑化資材や園芸資材としてピートモスが大量に使用されており、その多くを輸入に頼っているが、産地となっている湿原の乾燥化などの環境破壊も懸念されている。このため、木質廃材を用いてピートモス代替物を生産し、法面緑化資材等に利用するための技術開発を行った((独)土木研究所及び東興建設㈱、日本植生㈱、ライト工業㈱の共同研究)。
木質材には、その糖化、飼料化などを目的とした蒸煮爆砕法と呼ばれる処理方法が確立している。これは木質チップを高温高圧の水蒸気で数十秒から十数分程度蒸煮した後に、瞬時に圧力を開放して粉砕・分解する方法である(写真-2参照)。

写真-2  爆砕装置の概要


各種試験を行った結果、以下のことが明らかとなり、木質爆砕物は若干の留意点はあるがピートモスの代替となり、周辺環境に調和した緑化が可能な資材として利用できることが分かった。
a. 木質爆砕物に含まれる有機酸とそれによる低pHは、植物の発芽・生育阻害要因となる。
b. 爆砕物に中和資材を添加した場合、植物は十分生育可能であった。
c. 中和資材を添加し、木質爆砕物を配合した法面緑化工の結果、成育の早い緑化草本植物の発育は良好ではなかった。
d. 一方で、木本植物、周辺環境からの進入草本植物の発芽生育は良好であり、遅滞なく地域の環境に調和した植生遷移が進行すると推察された(写真-3)。
e. 木質爆砕物は短期間での堆肥化が可能であり、その発芽・生育阻害は堆肥化でも回避することができた。

写真-3 爆砕物による法面緑化試験施工の状況(土木研究所内)
左:吹き付け施工後  右:施工1年後の植生の状況


現在、国土交通省九州地方整備局嘉瀬川ダム工事事務所の協力を得て、同事務所管内の付替道路工事の法面において試験施工を行っており、施工性、植生の発育性、植生遷移等の調査を実施中である(写真-4)。本稿執筆時点(2008年11月)では、吹き付け施工後約1ヶ月を経過しているが、施工個所での種子の発芽が確認された状況である。引き続き追跡調査を行うこととしている。

写真-4 嘉瀬川ダム(九州地整)取付道路における試験施工の状況
左:吹き付け施工状況  右:施工完了

② 下水汚泥との混合メタン発酵によるエネルギー利用
今日、草木廃材のエネルギー利用の拡大が期待されるところであるが、実用化のためにはエネルギー化施設の建設や、施設への運搬のコストをいかに低減するかが課題となる。周辺の地域に存在する既存のバイオマス利用施設の利用が可能であれば、公共事業に由来する草木廃材のエネルギー利用に弾みがつくことが考えられる。
都市における代表的なバイオマス利用施設としては、同じ公共施設である下水処理場における下水汚泥の嫌気性消化槽が挙げられる。嫌気性消化槽は、溶存酸素も結合性酸素も存在しない状態(嫌気状態)で下水汚泥をメタン生成細菌等により発酵させ、性状の安定化及び減容化とともに、メタンガスを回収することが可能な施設である。回収したメタンガスは加温用、発電用などに利用されている。現在、全国で約300個所の処理場において施設が稼動している。この嫌気性消化槽を活用して草木系のバイオマスからメタンガスの回収を行うことができれば、初期投資のかからない安価な利用方策とすることができる。
木質材や乾燥した草類はそのままの有機質の性状では発酵されにくく、これを改質する必要がある。(独)土木研究所では、(2)①で紹介した蒸煮爆砕法を用いて、草木廃材の爆砕物と下水汚泥との混合発酵によるメタン回収技術を開発した(図―2)。


図-2  草木系バイオマスの混合メタン発酵(イメージ図)


爆砕処理により草木廃材は繊維化するとともに、廃材中のセルロース、ヘミセルロース、リグニンなどが溶出・可溶化される。爆砕物に多く含まれる有機酸は、緑化資材の場合には発芽・生育阻害の要因となっていたが、下水汚泥との混合発酵ではメタン生成の重要な基質となるものであり、むしろプラス要因として働く物質となる。
(独)土木研究所におけるこれまでの研究では、下水汚泥との混合発酵に適した草木系バイオマスの爆砕条件(温度・圧力・蒸煮時間)を明らかにするとともに、発酵液中の成分や、混合比の違いによる発酵状況等を明らかにした。広葉樹系の爆砕物と下水汚泥の混合発酵では、固形物混合比(乾燥重量ベース)1:1以上でも酸発酵に陥ることなく良好なメタン発酵が行われ、混合割合に概ね比例してメタンが回収できることを確認した(図-3参照)。

     図-3 混合発酵によるガス発生量の比較
(例えば、乾燥重量ベースで下水汚泥と爆砕物を1:0.5で混合した場合、ガス発生量は1.54倍となることを示している)


また、爆砕物と下水汚泥の発酵物の脱水では、下水汚泥単独より低い含水率が得られ、脱水性状が良好になるなど、下水汚泥の処理工程にとってもメリットが期待できることが明らかになっている。今後は、実施設への適用に向けたパイロット試験等を進める予定である。
蒸煮爆砕処理は、特別な化学物質などを一切使用することのない簡易な前処理法である。さらに、汚泥焼却施設を有する下水処理場では、その廃熱を蒸煮爆砕処理に活用することも可能と考えられることから、使用エネルギーを極力抑えたシステム化も期待できる技術である。

3 おわりに

わが国の地球温暖化対策の重要な柱の一つである新エネルギー導入促進のなかでも草木廃材などのバイオマス利用については、現状では利用率が低く、今後のポテンシャルの高い分野であると考えている。
冒頭でも述べたとおり、公共事業由来のバイオマスは、他の草木系バイオマスと比較しても、エネルギー賦存量、存在場所、管理状況などの面からみて非常に優れた資源である。本稿では紹介できなかったが、(独)土木研究所ではこの他にも、草木廃材と下水汚泥の混焼による新たなエネルギー転換型燃焼システム(過給式流動燃焼システム)などの開発も行っており、引き続き草木系バイオマスの利用促進のための支援研究・技術開発に努めていく所存である。
なお、(独)土木研究所では、公共事業由来バイオマス等に関する調査・研究については、随時、技術情報の提供、技術指導、共同研究などを実施しているので、関心のある方はお気軽にリサイクルチーム(eメール:recycle@pwri.go.jp)まで御連絡いただければ幸いである。

【参考文献】
  1)独立行政法人土木研究所:草木系バイオマスの組成分析データ集、
   土木研究所資料第4095号、平成20年2月

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