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土木分野における近未来型三次元
CADシステム開発の必要性について
特定非営利活動法人タウン・コンパス 東島隆三
特定非営利活動法人タウン・コンパス 平坂道則
九州大学大学院教授         大塚久哲
福岡大学工学部教授         井上信昭
1 土木分野における三次元キャドの現状

土木事業はその規模、投資額が大きく事業期間も長いため、その効率化・迅速化が強く求められており、そのためには測量調査、設計、施工及び管理のすべての段階において、三次元CADシステムを開発・導入することが、喫緊の課題である。
土木分野における三次元CADの活用は一部では実施されているが、機械等他の工学分野と比較してかなり遅れているのが現状である。その要因として、土木分野が自然相手のため三次元地形データをデジタル化して設計に活用する技術開発の遅れや情報共有形式の未整備によることが大きいと考えられる。ちなみに、土木分野に近い建築分野ではBIM(Building Information Modeling)という呼称で最近三次元CADと三次元データの活用が推進されている。
現在我々は、二次元CADソフトと表計算ソフトを活用することで、三次元データベースを作成し、それを基に土木設計、施工管理、三次元FEM解析用データ作成等の支援を行ってきた。その過程で、三次元データを活用した設計や施工管理に多くの実績を持ち、業務の効率性や品質向上にその有効性を実感している。しかし、現時点では表計算ソフトを使用せざるを得ないため作業が複雑になっており、これを解決するために三次元CADの中で三次元データを作成するシステムを開発する必要がある。ここでは、我々の実例を紹介すると共に、三次元CAD開発とその普及への今後の道程を示す。

2 二次元CADと三次元CADの違い

二次元CADでは、平面図、縦横断図を描いたとき夫々のデータは独立しており、修正する場合関連する全ての図面を人の手により修正する必要があるが、三次元CADでは、例えば平面データを修正すると、縦横断図も自動的に修正することができる。
数量等各種計算を表計算ソフトで実行する場合、二次元CADでは変更数値を表計算ソフトに再入力するが、三次元CADではCAD上で図面を修正した後、CADデータを表計算ソフトに出力して自動的に数量等の修正を行うことができる。又表計算ソフトで数値を修正後表計算ソフト上のデータをCADに出力し図面を修正することができる。これらの概要を表2-1に示す。


表2-1 二次元CADと三次元CADの違い

3 三次元CADによる設計支援の事例

我々の三次元CADシステムの特徴は、既成の三次元CADソフトではなく、表計算ソフトと二次元CADを活用して様々な土木構造物設計の図面作成、数量計算等を行い、基本設計レベルだけでなく詳細設計にも対応でき、かつ設計変更や修 正に迅速に対応できることにある。したがって、設計検討業務では、構造物の配置形状等が決定した後、図面作成と数量計算を本システムで行うだけでなく、配置や形状を検討する手段として三次元CADシステムを活用し、結果的に設計の最適化を得ることができる。
また、施工における出来高管理や出来形管理においても三次元データを活用することで測量や数量計算のスピードアップや効率化を図ることができる。
現在市販されている各種専用ソフトは設計対象物に限界があるが、我々のシステムは設計対象物に合わせて二次元CADをカスタマイズすることで、道路、河川、ダム、港湾など全ての構造物に対応でき、また三次元座標を有しているために任意の断面図を簡単に作成することができる。しかし、現時点では技術者が二次元CADと表計算の二つのソフトを使いこなせるようにトレーニングすることで設計等が可能である。
本システムの特徴を表3-1に、作業手順を図3-1に示す。また、設計の成果である対象物の立体的表示の例を図3-2に示す。このような立体図は設計成果を目で確認できるため第三者にも説明し易く、又データチェックとして活用することも可能である。


表3-1 我々の三次元CADシステムの特徴


図3-1 三次元CADシステムによる設計の作業手順


図3-2 ダムの立体表示の例

4 近未来型三次元CADの構想

我々の三次元CADシステムは二次元CADと表計算ソフトを駆使しているが、本来はBIMシステムのように三次元CADシステムの中で三次元データ入力と図面修正を行える近未来型三次元CADにする必要がある。近未来型三次元CADの全体フローを図4-1に、仕組みの概要を図4-2、図4-3に示す。


図4-1 近未来型三次元CADの全体フロー


図4-2 近未来型三次元CADの概要(1)


図4-3 近未来型三次元CADの概要(2)

5 近未来三次元CADシステム開発と普及の課題
(1) 三次元CADシステム開発の課題
CADシステム開発のためには、CADメーカーにとってのビジネスメリットが不可欠であるが、日本のCADメーカー数社に主旨を説明して開発の問い合わせをしたところ前向きな解答を頂いた会社はなかった。現在において、日本のCADメーカーは資本力などの点で海外メーカーと比較して劣っていること、日本製のシステム開発に経済合理性が働いていないことなどが主な原因と考えられる。
日本製の土木用三次元CADシステムを開発することは土木業界の発展にとって必要条件の一つであり、発注者側の国が支援策を早急に提示する必要があると考える。

(2) 三次元CADの普及の課題
これまでは土木構造物を三次元で認識して設計施工することがほとんど無かった。これは、技術が無かったことだけでなく、そのメリットを認識できなかったことも大きい要素であると考えられる。三次元CADの活用が便利でかつ効率的であると技術者が認識できるようにすることが重要であり、そのメリットを具体的に示す必要がある。
三次元で設計する目的は、便利で効率的なシステムを使って経済合理性を追求することにあり、初期の段階では発注者がそのインセンティブを示すことが必要である。例えば、発注者側が三次元CADの活用を積極的に認め、プロポーザル等で優遇措置を図ること、工期短縮に高い評価やボーナスを付与することなどが上げられる。
三次元CADによる設計等を推進するには、発注者もそのメリットを具体的に実感する必要があり、各分野においてモデル事業として試行する必要がある。
また、システムがあるからといって良い成果が出るわけではなく、いいシステムを活用して社会に認められて、その結果技術者の誇りが満足されるような仕組みを構築していく必要がある。

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