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DXを用いた防災技術の開発について

国土交通省 九州地方整備局
インフラDX推進室
建設専門官
房 前 和 朋

キーワード:点群、クラウド、5G、VR、360 度カメラ、3D

1.はじめに
近年、データとデジタル技術を活用して国民のニーズを基に社会資本や公共サービスを変革するDX(デジタルトランスフォーメーション)が注目されています。
九州地方整備局においてもインフラ分野のDXを推進する体制強化を図るため、令和3年4月1日に企画部長をセンター長とした、九州インフラDX 推進センターを発足しました。

図 1 九州インフラDX推進室の体制

九州地方整備局におけるインフラDX の取り組みの重要課題の一つが、「災害対応のDX」です。
近年九州では、平成28年熊本地震、平成29年7月九州北部豪雨、平成30年7月豪雨(西日本豪雨)、令和2年7月豪雨等の大災害が発生しています。頻発する大災害に対して、防災能力の向上、被災後の速やかな日常の回復には非常に大きな国民のニーズがあります。このため、災害対応をデジタル技術(3D、VR、クラウド、5G、ドローン等)を用いて変革するDX に取り組んでいます。

2.防災能力向上のDX
災害の頻発・大規模化に伴い、効率的に情報を収集し、共有する必要があります。このため、九州地方整備局では、年に2 回「防災通信訓練」実施しています。令和3年7月14日に実施した情報通信訓練では、DX を用いた新たな試みとして、以下の新技術を用いた訓練を実施しました。
【DX を用いた新たな防災情報収集・共有】
 ・スマートフォンを用いた、高精度3D測量
 ・クラウドを用いた、3Dデータ処理および共有
 ・5Gを用いた360°動画のリアルタイム配信

3.スマートフォンを用いた、高精度3D測量
従来の3D測量では、高度な知識、高価な機材、データ処理等に数日程度の工期を必要とします。
DX を用いて変革することで、誰でも簡単に、安価で入手しやすい機材を用い、迅速にデータ処理を行うことで、災害現場の把握(3D測量)を変革することが可能となります。
本訓練ではi-Phone(LiDAR 付き)とGNSS レシーバを用いました。

3.1 「LiDAR(ライダー)」の活用
ライダーとは、光を照射して物体までの距離や方向を測定する装置です。簡単に言うと、レーダーの電波を光に置き換えたものです。
光を使用することで、電波に比べて高密度に高い精度で3D測量できます。近年、自動運転等の分野で注目され、小型軽量・低価格・高性能化が急速に進んでいます。このため、最新のスマートフォン等にも搭載できるようになりました。

写真 1 i - phoneのLiDARセンサー 

またスマートフォンには、3D測量・情報の共有に必要なカメラ、各種センサー、高い計算能力、GPS、5G等が搭載されており、大規模な量産が行われているため、機能に比して低コストとなっています。

3.2 「 色付き」の3D計測
防災として3D測量を行う際、「色がついているか」、は非常に重要です。本来3D測量データは、x、y、z の座標を持つたくさんの点で表現されます。形状を正確に知るには十分ですが、立体で表示する場合白と黒の2 色となるため、何が計測されているのかわかりにくいという問題が生じます。

図 2 「色なし」点群の計測事例、整備局で管理する排水機場(地上3階地下1 階)を計測。建物や内部の機器の形状を正確に把握することができる。3Dモデル自動作成装置試作機(九州技術)にて計測

本防災通信訓練では、ライダーで測量した3D座標に、i-Phone のカメラのデータを使用し色のデータを付加しています。色データの付加によって、3Dで表示した際に非常に見やすくなり、また密度が高い場合には、写真のように使用することができます。

図 3 写真(左)と色つき点群データ(右)の比較、「色をつける」ことで自由に視点の変更、長さや面積を計測できる写真として使用可能。リコーtheta(写真)、BLK360(3D測量)を使用。令和3年災害査定デジタル化実証実験より

3.3 GNSSの活用
現在、スマートフォンのGPSを用いた位置情報は、電子地図による現在位置の把握、写真の撮影位置の記録等、非常に多く活用されています。
しかし、スマートフォンのGPSの位置情報は、場合によっては大きくずれる場合があり、災害現場の位置の把握等に十分な精度を確保できない場合があります。そこで本訓練ではGNSS を用いました。
GNSS(全球測位衛星システム)は、米国のGPS、日本の準天頂衛星(QZSS)、欧州連合のGalileo 等の衛星測位システムの総称です。
GPSを含む複数の測位システムを併用することで、より精度の高い測量が可能になります。
本防災通信訓練では、GNSSレシーバーにて正確な座標を計測し、LiDAR による測量結果を補正することで高精度の測量を実現しています。
また、衛星を用いた測量の場合、通常は地表面が球体となります。このままでは使いにくいため、公共測量で一般的に用いられる平面直角座標系(平成十四年国土交通省告示第九号)を用いて測量を行いました。
平面直角座標系とは、球体である地球を平面として計算できるように定められた座標系で、日本を19の地域に分割して各地域に座標原点を設定することで、衛星を用いた測量結果を平面に変換しても誤差が非常に小さくなり、他の情報との重ね合わせが容易になります。

写真2 iPhone(LiDARつき)とGNSSレシーバ

3.4 スマートフォンを用いた3D測量
スマートフォンを用いた3D測量方法は、極めて簡単です。使用する機材は i-Phone( LiDAR 付き)とGNSS レシーバのみで、作業服のポケットに入る大きさです。測定装置を設置する手間もありません。i-Phone であらかじめインストールしたアプリを立ち上げ、使用する座標系を選択後以下の手順で3D測量ができます。
【測量手順】(写真- 3 参照)
○カメラをかざして、測定したいものを画面に映しながら歩く
○ときどきGNSSレシーバを画面に映してタッチする(標定点、検証点を定める)
○終了

写真 3 i - Phone による測量作業 

本訓練では、九州技術事務所の研修用堤防を測量しました。測量のイメージとしては、測量したい物をビデオに映すような感覚です。
研修用堤防をi-Phoneのモニタに映しながら歩くと、測量が終わった範囲が青く塗られていきます。測定したい物がすべて青く塗れたら測量終了です。

写真 4 実際の測量中の画面、青着色が測量終了した範囲

写真 - 5 は測量に用いた研修用堤防(写真)、写真- 6 は測量した3Dデータです。数センチ程度の誤差で測量できました。測量には5分程度の時間を要しました。測量が終了すると、すぐにその場で3Dモデルの確認ができます。2つを比較していただくと、3Dモデルで現地がよく再現されているのがわかります。

写真 5 九州技術研修用堤防(写真) 

図 4 九州技術研修用堤防(3D測量結果)

4.クラウドを用いた、3Dデータ処理および共有
従来技術は、測量後の3Dの計測データ(点群データ)は、以下の通り取り扱いが難しいものでした。
①測量した生データはそのまま使用することはできないので、ノイズ除去、標定、データ変換などの作業が必要です。これらの処理にコストと時間を要します。
②データのサイズが大きく、ハードディスクに入れてやり取り・保管する必要があります。
③閲覧等の作業に、高価なPC とソフトウエアが必要で、それらを扱うスキルも必要となります。

これらの問題はクラウド及び高度な自動処理を組み合わせることで解決できます。
①クラウドを使用することで、データ処理を自動化し低コスト化・短時間化しました。
②クラウド上でデータを保管することで、物理的なデータのやり取り、保管が不要となりました。
③インターネットのブラウザで3Dモデルの閲覧や様々な高度な処理を行うことで、高価なPC とソフトウエアも不要です。
④操作も直感的に行えるわかりやすいインターフェイスを用いることで、特別なスキルがなくても短時間で活用できるようになります。

本訓練では、i-Phone で測量した3Dデータをクラウドにアップロード、クラウドで自動処理し、出来上がった3Dモデルをインターネットで共有しました。要した時間は撮影から共有まで10分程度です。
図 - 5 は、出来上がった3Dモデルをインターネットで共有し、面積、直高を計測した画面です。マウスでクリックするだけで、簡単に距離、面積、体積等の算定が可能です。画面は延長、法長、面積、直高の計測結果を表示しています。

図 5 3Dモデルのインターネット共有画面

4.1 DXで変わる防災情報の共有
現在の被災情報の共有は、デジタル写真によるものがほとんどです。また、3Dモデルが使用されている場合もありますが、測量後のデータ処理、共有にコストと時間を要します。
本訓練で用いた技術を使用すれば、被災現場から調査開始後10分程度(今回の訓練程度の被災範囲)で、3Dモデルを用いた災害現場の共有が可能となります。また、こうした3Dデータは災害査定や復旧に活用可能です。

5.5Gを用いた360°動画のリアルタイム配信
近年、5Gが導入され社会の様々な仕組みが変革しているところです。そこで本訓練では、5Gを用いた360°動画の伝送訓練を行いました。
通常のカメラでは、撮影者が被写体を選んで撮影することが必須ですが、360°映像では映像を見る側が見たいところを選べるため、様々な状況を確認しなければならない災害現場では非常に有効な技術です。
九州地方整備局ではVR(360°写真)の災害情報を現地からリアルタイムで共有する「災害情報共有クラウドシステム」を令和元年から運用しています。しかし災害現場からの360°動画のリアルタイム伝送は、安定した大容量の通信回線確保が困難なため実現できませんでした。
また現在の技術では、災害現場で建設重機を遠隔操縦する場合、複数画面の情報を伝送する必要があります。複数のカメラの設置、映像の伝送が必要となりますが、360°映像であれば、1台のカメラの1映像の伝送で遠隔操縦ができる可能性があります。

写真 6 5G対応エッジAIカメラ(360°対応)

本訓練では、5G対応エッジAIカメラ(360°対応)を用いて実験を行いました。5Gエリアの筑後川河川敷を被災地と見立て、同じ条件の4画像と5G画像の比較を行いました。
写真 - 7 は360°映像(半天球)のデータです。半球上の映像を四角にゆがめて伝送し、見るときに元に戻すという仕組みです。

写真 7 360°動画(キャプチャ) 

写真 - 8 は、4Gと5Gの比較で、回線以外は同じ場所、同じ機材を使用しています。写真- 7 の赤枠の部分を拡大しています。実際は動画のため、写真での比較よりも差があるように感じました。

写真 8 4G(左)と5G(右)の比較

5Gでは安定して360 度映像の伝送が可能であることが確認できました。今後は建設重機の遠隔操縦等の実証実験を行いたいと考えています。

6.まとめ
今回の訓練では、様々な最新技術を用いて災害対応をデジタル化する試みを行い、デジタル技術の活用が十分に有効であることが確認できました。また、整備局では12月に「災害査定のデジタル化実証実験」を実施しましたが、災害発生時にデジタル技術を用いることで、その後の災害査定等に非常に大きく貢献できると考えています。
今後は災害時の調査・情報共有だけではなく、測量、災害査定、設計、合意形成、施工、管理の一連の工程のデジタル技術を開発し、被災地が一日も早く日常を取り戻すための助けになりたいと考えています。
最後に、本訓練に協力いただいた、SCANX株式会社、株式会社オプティム、日本工営株式会社、FCNT株式会社に深く感謝いたします。

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