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情報化施工の普及に向けた取り組みについて
国土交通省 荒井猛
1 はじめに

情報化施工とは、建設生産プロセスのうち「施工」に注目して、ICT1 (情報通信技術)の活用により各プロセスから得られる電子情報を活用して高効率・高精度な施工を実現し、さらに電子情報を他のプロセスに活用することによって、建設生産プロセス全体における生産性の向上や品質の確保を図ることを目的とした建設施工システムである。(図-1 情報化施工の実現イメージ)

図-1 情報化施工の実現イメージ
当初は、軟弱地盤上の盛土工事、トンネル工事やシールド工事、基礎工事などの特殊な工事において、施工の信頼性を確保するために地山状況を計測しながら施工する観測施工に始まった。近年では、測量・測位技術や制御技術の進歩により、建設機械の自動化技術や情報の統合利用技術を用いた情報化施工が、汎用の建設機械を用いる土工事や舗装工事などの一般的な土木工事においても、一部の大規模工事を中心に導入されつつある。しかし、後述する課題により、本格的な普及には至っていないのが現状である。このため、情報化施工の本格的な普及を目指し、産学官による『情報化施工推進会議(委員長:建山和由 立命館大学教授)』が2008年2月に設置され、普及に向けて解決すべき課題の抽出、対応方針や役割分担、スケジュール等について議論されてきた。
これまでの議論の成果として、情報化施工の戦略的な推進のための指針となる「情報化施工推進戦略」(以下、推進戦略とよぶ)が2008年7月31日に策定・公表された。
本稿では、建設施工を取り巻く課題、情報化施工技術の現状と課題、情報化施工の普及推進に向けた今後の取り組みなどについて紹介する。

2 建設施工を取り巻く課題

近年の建設生産システムにおいては、将来の人口減少・少子高齢化、施工品質確保への要求、技術競争力確保、安全・環境への配慮などを背景とした各種の課題があり、その対応が求められている。
推進戦略では、建設施工を取り巻く課題として、以下の課題を示している。

(1) 生産効率の向上
建設施工はこれまで、かつての人力施工から建設機械の導入、さらには建設機械の性能の向上という「建設施工の機械化」により、その生産効率を高めてきた。
しかしながら、今後予想されている人口減少・少子高齢化の急速な進展や、グローバル化の爆発的進展、地球規模での資源・環境問題という状況下においても、建設施工がその役割を果たすためには、これまでの機械化をさらに推し進めるだけでなく、ICTを活用することにより、製造業における自動化技術やコンカレントエンジニアリングによる最適化技術などを建設施工にも適用し、投入する資源(エネルギーや資材等)を少なくする効率的な施工を実現していくことが、将来の重要な課題となることが予想される。

(2) 熟練技術者・技能者の不足
わが国は、かつて経験したことのない人口減少社会を迎え、若年労働者の確保が大きな課題となっている。その中でも建設産業は、厳しい経営環境の下で賃金が低下傾向にあるなど労働条件等の悪化が進み、若年労働者の入職者の減少、熟練技術者の高齢化が急速に進展しており、団塊世代のリタイアに伴い、今後、急速に熟練労働者が不足することが予想される。

(3) 発注環境の変化と品質確保の重要性の高まり
品確法の施行や技術を評価指標とする入札契約方式(総合評価方式,プロポーザル方式)の普及、発注者責任の明確化と公共工事の調達システム全体の見直し・検討など発注環境が大きく変化している。さらにダンピング入札の増加などを背景に手抜き工事などの不良工事の危険性増大が指摘される中、良質な社会資本を国民に提供するために、より適切かつ効果的な監督・検査を実施することが発注者に求められている。

(4) 施工現場の安全確保
過去5ヵ年間(H14~18)での建設業(土木工事)における死亡者数のうち、約1/4は建設機械との接触・下敷き・挟まれなどによるものであり最大の要因となっている。この死亡事故を回避するには、人と建設機械を混在させない対策が効果的であり、建設機械との接触事故の危険性が高い区域への検測作業員・作業指示者・作業補助員の侵入回避が求められている。

(5) 地球温暖化問題
建設産業は、我が国全体の約1割のCO2排出量を占めており、建設機械の効率的な稼働による燃料消費量の削減が求められている。

(6) 国内外における技術競争力
産業のグローバル化が進む中、我が国の建設業の海外受注額も近年増加している。今後、国内はもちろん広がる海外市場を獲得するためには、所定の施工品質を工期内に実現できる高い技術力と高い生産性が必要である。

(7) 社会資本の補修・維持管理費増大
高度成長期に建設された社会資本が老朽化を迎えることから、今後補修・維持管理費の急速な増加が予想され、経済的で効率的な補修・維持管理手法を確立することは喫緊の課題である。
以上、述べたような建設施工を取り巻く課題に対し、情報化施工の導入は、高効率・高品質な施工を実現し、さらに電子情報データを他の建設施工プロセスに活用できるなど、発注者・施工者双方にとって、強力なツールとなる可能性を有している。

3 情報化施工技術の現状

建設施工における自動化技術は、製造業における産業ロボット導入による生産性向上に触発され、1980年代に研究・開発が進められた。しかし、当時の技術は、建設施工向けの位置特定技術、移動体制御技術、情報通信技術が未発達で、常時施工場所を移動しながら施工する建設施工に利用するレベルになかったため、現場の期待する作業速度、精度が実現できないという課題を抱えていた。
その後、通信に関する規制緩和や通信技術の発展、TS2 (トータルステーション)やGNSS3 (汎地球測位航法衛星システム)などの位置特定技術の開発・普及などに伴い、2000年代に入って建設施工に利用できる環境が整い、実用化に向けた研究・開発が進められた。
近年では、設計データに基づいて建設機械の作業装置を数値制御するマシンコントロール技術(写真-1)や、TSによる出来形管理技術(写真-2)、GNSSやTSによるローラの締固め管理技術(写真-3)などが開発されており、これらは既に実用段階にある。さらに、振動ローラの加速度応答を用いて締固め強度を管理するような新たな品質管理技術についても、実用化に向けて各種の研究・開発が進められている。その他、3次元CADやGIS(地理情報システム)を用いて施工プロセス全体で情報を共有化するような情報の統合管理技術が導入されている事例もある。

写真-1 マシンコントロール技術

写真-2 TSによる出来形管理技術

写真-3 GNSSによるローラの締固め管理技術

4 情報化施工の普及によるメリット

(1) 国民のメリット
情報化施工の導入により、施工時の品質データが記録されることで、土木構造物本体の品質のトレーサビリティが確保されることとなる。これにより、国民が土木構造物をより安心して使用できる環境が得られ、完成後も必要に応じて施工品質を追跡でき、手抜き工事の防止や、瑕疵に対する責任の所在が明確化できる。(図-2 情報化施工の普及によるメリット)
また、建設機械の数値制御や施工情報の統合管理技術の導入によって、建設機械の作業効率が向上するほか、目視が困難な夜間作業でも効率的な施工が可能となり、結果的に工事期間が短縮される。さらに、建設機械の作業効率が向上することで、建設機械の稼働時間が短縮され、燃料消費量(CO2発生量)の削減効果も期待される。

図-2 情報化施工の普及によるメリット
(2) 工事発注者のメリット
工事発注者のメリットでは、出来形・品質に大きな影響を与える施工データ、材料データ、建設機械の稼動情報などが人手を介さずに連続的に把握でき、施工者と共有することが可能となる。これらのデータは、工事発注者の監督・検査時の判断材料の1つになり、監督・検査業務を効率化できるとともに、施工管理が確実に実施されていることが確認できるようになる。
また、3次元設計データが、各施工プロセスで”川下”へと流れていくデータ連携の仕組みが構築でき、それを受発注者間で共有できれば情報の切れ目がなくなり、情報連携不足によるトラブルやミスの防止が図られるとともに、双務性が高まることが期待される。さらに、施工データが電子化されることで書類作成を極力省略することが可能となる。
設計面では、従来の施工方法よりも精度の高い施工が実現することで、これまで設計で考慮されてきた施工のばらつきに対する安全率の見直し等による設計のスリム化につながる可能性がある。これにより、土木構造物の建設コスト縮減が期待できる。また、施工に関する情報量が増えることで、技術者がデータに基づく合理的な判断を行うことができるようになる。
維持管理面においても、施工中に得られる施工データを土木構造物のカルテとして活用し、メンテナンス履歴に統合していくことで、例えば点検における管理基準値データとして活用して補修箇所を特定・予測するなど、合理的・効果的に補修・維持管理を行い、メンテナンスコストを縮減できる可能性がある。

(3) 施工企業等のメリット
建設機械のマシンコントロールでは、設計データが建設機械に入力されているために現場への丁張りの設置作業が大幅に削減するほか、数値制御の導入により建設機械の作業効率も大幅に向上するため、工期短縮や省人化が図られる。これらの作業効率の向上が建設施工コストの縮減につながるものと考えられる。
施工品質でのメリットとして、情報化施工では、現場の詳細地形データや3次元設計データを用いて、施工手順のシミュレーションやマシンコントロールを行うため、オペレータの熟練度に大きく依存しない施工速度や施工品質の確保を実現することが可能となる。
また、施工現場の安全性向上についても、情報化施工における建設機械の自動制御は、施工機械との接触事故の危険性が高い区域内に検測作業員が侵入するリスクの低減や土工板が自動制御されることで、オペレータは車両の運転に集中でき、操作ミスによる事故の低減が図られるといったメリットが考えられる。

5 情報化施工の普及に向けた課題と対応方針

建設施工を取り巻く課題や状況の変化への対応などを背景としつつ、情報化施工は、技術的には既に実用段階にあると考えられるため、普及のための環境整備が大きな課題である。
推進戦略においては、普及に向けた課題について、以下に示す工事発注者の課題、施工企業等の課題、共通課題という3つに大きく分類し、各々の対応方針などを示している。

(1) 工事発注者の課題
情報化施工の普及に向けた工事発注者の課題としては、施工管理および監督・検査の情報化施工への対応が考えられる。
情報化施工で得られる連続的な施工データを監督・検査に適用することにより、工事発注者として求める出来形・品質が実現していることを、より確実に確認できる。しかし、施工データに対する工事発注者、施工者の共通理解と、情報化施工に対応した施工管理手法が整備されなければ、施工者に二重の施工管理を求めることとなり、本来の導入目的が達成できない。
現状の基準額の多くは、従来手法によるノウハウの蓄積を前提に構築されている。情報化施工による施工精度の向上や、新たな品質管理手法に適応した設計基準の見直しが必要であり、情報化施工を用いた施工管理を的確にかつ効率的に実施できる施工管理要領やマニュアルの整備が課題である。
このように工事発注者は、情報化施工という”ツール”を普及・活用させるために情報化施工に対応した施工管理および監督・検査などの”ルール”の見直しが必要である。
また、情報化施工技術を導入するには、建設機械に3次元設計データを入力する必要があるが、この入力用データは、発注者から提供される設計図書(平面図、縦断図、横断図等)から読み取り、手作業で作成している非効率な状況にある。このため、施工での利用に必要な情報を整理し、CALS/ECの活動とも密接に連携することで、数値データとして施工者に提供するための環境整備が課題である。

(2) 施工企業等の課題
情報技術の革新は非常に速く、情報技術の名称や機能名が不統一、公表資料が分散しているなど、利用可能な技術やその効果についての情報収集が容易でない。このため、各社が販売・導入している情報化施工の技術内容やその導入効果、発注者の評価、海外での導入事例や効果、導入の理由などを収集し、導入を検討している施工企業や発注者が容易に参照、情報共有できる仕組みを構築する必要がある。
一方、情報化施工に対応するために建設機械の改造(制御機器の搭載等)にコストがかかるだけでなく、情報化施工に対応した建設機械の数が少ないため、現場への輸送コストがかかることも普及の阻害要因となっている。今後、大規模工事だけでなく、中小規模の現場へ情報化施工を普及させるには、アタッチメント方式による情報化機器の搭載が可能な建設機械のオプションを拡大するとともに、情報化施工機器・ソフトウエアのリース・レンタルの拡大等により、ユーザが容易に調達できる環境整備が課題である。

(3) 共通課題
情報化施工を構成する主要技術は、機械制御技術、油圧制御技術、TS・GNSSによる測量・測位技術、3次元設計データを扱う情報利用技術など多岐にわたる。現在は、情報化施工を導入している施工企業の企業内教育や測量機器メーカーの製品講習会などを通じて、現場の技術者やオペレータを育成している状況にある。情報化施工を導入していない施工企業においては、これらの技術を習得する方法がない。この点では、工事発注側の技術者についても同様であり、情報化施工の普及を促進するため、工事発注機関、施工企業、建設機械メーカー、測量機器メーカー、レンタルメーカー等の協力の下、共通の研修体制を構築し、情報化施工に対応できる技術者を育成する必要がある。

6 課題解決のための試験施工と重点目標

推進戦略では、情報化施工普及のための課題解決に向けて、必要な検討体制を整備するとともに、実際の施工現場において、情報化施工を導入し、効果の検証等を行う試験施工や各種の制度等を活用するなどにより、具体的な検討に取り組むこととしている。
各課題については、試験施工を通じて解決すべき内容が多いため、今年度は、実用段階にある技術を中心に一部の直轄工事において、河川土工・道路土工・舗装工(路盤)などの工種について、試験施工を実施する。

(1) 試験施工の目的の明確化
試験施工の実施にあたっては、それぞれ以下のような視点から目的を明確化し、各課題を一体的に取り組むこととしている。
  ① 技術の検証(研究開発段階にある技術)
  ② 新たな品質管理手法の検証(研究開発~実用化段階にある技術)
  ③ 生産性(施工効率)の検証(普及段階にある技術)
  ④ 情報化施工に対応した監督・検査の実施(普及段階にある技術)
  ⑤ 試験施工を通じた情報発信(研究開発~実用化~普及段階にある技術)

(2) 試験施工の実施方法
試験施工は、総合評価方式や設計・施工一体型など多様な入札契約方法を活用しつつ、実施することが考えられる。このため、関係する工事の発注機関への協力要請を行い、連携して進めることとしている。また、工事発注者・施工者などを対象に情報化施工の周知を目的とした見学会を行う予定である。

(3) 重点目標とロードマップ
推進戦略では取り組むべき目標として、3つの重点目標と、そのスケジュールを示したロードマップ(図-3 情報化施工推進ロードマップ)が示されている。


図-3 情報化施工推進ロードマップ

① 情報化施工の普及に関する重点目標
直轄の道路土工、舗装工、河川土工の各工事において、大規模の工事では2010年までに、中・小規模の工事では2012年度までに、情報化施工を標準的な施工・施工管理方法として位置付ける。

② 機器・システムの普及に関する重点目標
情報化施工機器を容易に装着できるオプション設定機種を拡大する。さらに、重点目標①の実現のために必要となる情報化施工機器を搭載した建設機械(ブルドーザ・グレーダ・油圧ショベル)の普及を図る。

③ 人材育成に関する重点目標
重点目標①の実現のために必要となる情報化施工機器・システムに対応できる人材を2012年度までに1,000人以上育成する。
これらの重点目標についてロードマップに従い、目標達成に向けて各関係機関が協力して対応方針に示した項目の検討に取り組むこととしている。

7 おわりに

情報化施工で目指しているICTを利用した機械制御や計測ならびに技術者判断の高度化は、建設イノベーションと呼ぶに値する革新的な技術であり、これまでの建設施工のイメージを変え得る可能性を有している。
今後、発注者側が積極的に情報化施工を導入する姿勢を示すと共に、施工企業者等と連携して推進戦略を着実に実行し、情報化施工を広く普及させていくことが最も重要である。
本推進戦略は、情報化施工の普及に向けたプログラム(計画)であり、本格的普及に向けた第一歩にすぎない。情報化施工がわが国において本格的に根付くかどうかは、今がまさに正念場である。
このため、今年度以降に予定されている試験施工への関係各機関の協力を強くお願いしたい。試験施工を通じて、現場での関係各機関が情報化施工を「使ってみよう」と思える環境作りが重要である。
なお、推進戦略の本文及び推進会議資料は以下のホームページで公表されているので、ご覧いただきたい。

http://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/kensetsusekou/kondankai/ICTsekou/ICTsekou_index.htm

 1 ICT:Information and Communication Technology(情報通信技術)
 2 TS:Total Station (トータルステーション)
 3 GNSS:Global Navigation Satellite System(汎地球測位航法衛星システム)

【参考文献及び写真・図出典】
  「情報化施工推進戦略」

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