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石打ダムの周辺整備とデザイン的要素について

熊本県土木部河川課
主幹兼利水係長
(前熊本県石打釈迦院ダム建設事務所
主幹兼工務課長)
上 木 征 夫

1 はじめに
近年,水と緑の豊かなダム湖やその周辺を,レジャーやレクリエーションの場として開放して欲しいとの要望が日増しに強くなっており,各地のダムにおいて様々な試みがなされている。
石打ダムも,新たな観光資源として多くの人々がダム周辺の自然や景観と親しめるような諸々の検討を行った。
ここでは,ダム天端,管理棟,仮設備跡地整備工およびダム資料館建設等においてとりいれたデザイン的な工夫や親水性に配慮した整備の内容について紹介したい。

2 ダムの概要
石打ダムは,二級河川波多川水系八柳川の熊本県宇土郡三角町中村地先に,洪水調節,流水の正常な機能の維持並びに水道用水の補給等の多目的ダムとして建設を進めているもので,波多川総合開発の一環をなすものである。
本事業は,昭和50年に予備調査に着手,昭和54年度から実施調査,昭和59年度に建設採択され,本体のコンクリート打設は平成元年9月に開始し,平成3年1月に完了した。
平成4年度は,昨年10月に開始した試験湛水を本年6月に終了させ,残りの事業として跡地整備工事やダム資料館建設等を実施している段階であり,全事業を完了する予定である。ダムの位置並びに諸元は、図および表に示す通りである。

3 石打ダムと三角町
ダムの位置する三角町は,熊本県のほぼ中央部より西に突き出した宇土半島の西南端に位置する海,山,島に恵まれた港町であり,南部は天草五橋により天草の島々と結ばれ,港湾,島など海洋型の観光レクリエーション施設の整備に力を入れている。
その第一の例としては,明治三大築港の一つとしてオランダ人水利工師ムルドルの設計で造られた石積み埠頭を有する西港が挙げられる。これは,築港後約1世紀の歴史を持ちながら当時の施設がほとんど残り,今でも利用されている土木工学上からも貴重なもので,現在この西港の修景に着手し,再び明治の薫りがただよう町を目指してさらに整備が進められている。
第二に,三角東港および周辺の開発が挙げられる。東港はJR三角線の終着駅「三角駅」前にあり,県の重要港湾にも指定され熊本県の「海の玄関口」となっている。平成2年3月には「くまもとアートポリス’92」の一環として円錘型のフェリーターミナルビル「海のピラミッド」が完成し,港にふさわしい町のシンボルとして観光客にも親しまれている。
第三に,「戸馳花の島」構想がある。半島の南部に位置するこの島は気候温暖で,古くから島のいたるところで花卉栽培が盛んであり,蘭の花を中心とした「日本一の花の島」にする計画である。
また,三角町は石打ダム建設に関しても,新たに創出されるダム湖およびその周辺を観光レクリエーションの中核として位置づけており,平成元年3月にはJR三角線に「石打ダム駅」を完成させ,“駅に一番近いダム”をキャッチフレーズに熊本市をはじめ周辺からの観光客を呼び込んでいく意向である。

このように周囲の環境も整いつつある中で,それにふさわしい魅力のあるダムとするため,石打ダム本体のデザインやダム周辺の親水性と景観に様々な試みを行った。

4 石打ダム周辺の整備方針
ダムの周辺の整備については,地元の要望が反映されたものとするため,地元役場職員を含むダムのためのワーキンググループを作り,この中で整備方針の検討を続けてきた。その結果以下のとおり基本方針を定めた。

5 周辺整備の実施状況
前述の方針に基づき実施した整備および現在実施中の整備については,次の通りである。
5-1 ダム天端周辺のグレードアップ
ダム本体の天端部の整備内容としては,展望テラスの新設,高欄・照明灯・名版(親柱)および歩道部等のグレードアップがある。
① 展望テラスの新設
本ダムは,高さが38.5mと低い割には堤頂長が256mと長いため,展望テラスの設置場所を見晴らしのよいダム天端中央部の非常用洪水吐の上下流ヘ張り出して設けた。設計基準は歩道橋(群衆荷重350kg/m2)に準じPC-I桁を使用し,コーナー部は現場打鉄筋コンクリートとした。また,身障者椅子用のスロープや,休憩ベンチ,日陰用のシェルター,植樹(プランター)等を設け,車道部にはオレンジ色の特殊舗装でマーキングを行った。照明灯としては地元特産の“みすみ蜜柑”を模した球形とし,照明はオレンジ色に光るナトリウムランプを使用した。足回りは赤御影の擬石平板ブロックで塗装を行うとともに,壁高欄部は,三角町の特産物や町のイラストマップを描いたデザイン陶板やミュージック高欄を設置し,暖かみと親しみやすさを演出した。

② 手摺高欄および照明灯
ダム天端の手摺高欄および照明灯は落ち着きのあるブラウン色で統一して,景観のアップを図った。また,明かりは展望テラスと同じくオレンジ色に光るナトリウムランプを使用した。
③ 壁高欄部の化粧型枠と歩道部の擬石ブロック
ダム天端部の壁高欄は三角西港の石積岸壁と波をデザインした転用タイプの化粧型枠(ウレタン製)を製作して,コンクリート打設を行った。
当初デザインを決めるに当たって内部検討に約1ヶ月,発泡スチロール製の型枠試作とコンクリート試験打設後の細部の修正に約1ヶ月,さらにウレタン製の化粧型枠が出来上がるのに1ヶ月を要した。化粧型枠の枚数は2ブロック分とし,1枚2.5mを上下流分(15m/1BL÷2.5m/枚)×2×2BL=24枚作成して平均8.5回転用した。工事期間は1ブロック(上下流15×2=30m)を組立3日,コンクリート打設1日,養生3日,脱型1日の計8日1サイクルで行い8日×30/22×17BL÷2BL=93日≒3ヶ月を要した。
また,滑り止めを兼ねて歩道部には赤御影の擬石ブロックを施工して,明るくモダンな感じを出した。

④ ダム天端の名版(モニュメント)
ダム天端道路の入口に地元特産の蜜柑形状をした直径1mの名版(親柱)を設置した。設置に際しては子供たちが見て,手で触れることのできる高さに設置し,その切り口には鮮やかなモザイク画を描いた。

5-2 アートポリス構想による管理所および資料館の建設
本県では,“後世に残せるものは文化しかない”という考えにより文化的資産として最も価値のある建物等を建設していき,熊本の環境デザインの向上に努めていこうという「くまもとアートポリス」が展開されており,特に公共建築物は,その地域における環境形成に重要な役割を果たすべき存在として,できるだけ質の高い耐久性のあるものを永年使用し続けて行くべきものとして位置づけられている。
このような観点から,石打ダムにおいても管理所の設計と資料館の設計をアートポリス参加により実施した。
① 管理所の建築概要
この石打ダム管理所は,堰堤の下流側にできるであろうダム資料館に対峙するかたちで壁がつくられ,この壁が各々変化している。そして,この壁から直行するかたちで建てられた壁によって,建築が構成されている。それぞれの軸の壁は8枚で構成され,より革新的なものから古典的なものへと形を変えている。この壁の変化は水の変化,つまり雲となり雨,そして,川になり海となることを表している。建築の内部は,ダムの湖底に水没した美しい林をイメージして,外部のコンクリート打放しとは対照的にカラフルなデザインを施した。そして,今となっては湖底の美しい集落が見ることができないように,この建築の内部も管理所という建築の機能上,覗くことは困難である。“水の中は誰も知らない”そういう物語を組み立ててみた。(以上設計者 青木茂氏の言葉より)

② 資料館の建築概要
建築全体と大地との関係を,ダムのそれとは対比的に扱いながら,力の場をあらわす建築的な構成とする。即ち,主たる展示室部分を地盤からわずかに持ち上げ,これを支えるダイナミックな構造としての建築形態を外観での特長とする。ダムに比較すればわずかな量塊にすぎない資料館を,ダムと対話するほどの力をもった構成とするためには,ダムの静に対して動的な形態で対比させるべきだと考えた。
建築的構成は,管理所からの軸をふくんで石打ダムの雄大な風景をうけとめる,おおきな手のひらとしての曲面と,これによって分割された閉じられた場所(展示室)と開かれた場所(展望ロビー)が,ダイナミックに関係するような形態となっている。(以上設計者 入江経一氏の言葉より)
管理所については平成2年度に工事が完成し,資料館についても現在施工中である。このような繊細な感受性とダムとのつながりを基調に設計された2つの建築物の存在は,ダム周辺の景観に大きなアクセントを与えるとともに,石打ダムを人々に強く印象づける要因になると期待される。

5-3 資料館の展示工事
ダム資料館は,ダム周辺整備の拠点として建設するもので,次の様な施設を備えた建物である。
① 展示室
石打ダムについての詳細な紹介,説明を行うとともに,ダム事業や治水利水の重要性について理解を深めてもらうための展示演出を展開する。演出の方向性としては小中学生の利用を前提とし,グラフィック,映像および模型を使用し参加性,体験性を重視した資料を整備し,ダムについてわかりやすく親しみやすいものを目標とした。なお,これらの課題を克服し,目的を達成するため,展示業務の企画,設計について多くの経験とノウハウを持った日本科学技術振興財団に展示物の検討および設計についての業務委託を行った。
展示工事は以下のとおり7種によって構成されている。
展示ー1「波多川総合開発事業」
波多川総合開発事業の概要を三角町の地形を示す内照式装置によって紹介し,三角町と波多川のかかわりを通して,石打ダム建設に対する理解を深めてもらう。
  ◇展示形態……グラフィック,コンター模型
展示ー2「三角町と石打ダム」
映像とマルチメカビジョンによって,石打ダムができる前とできた後の変化を紹介し,石打ダムの役割と効用を印象づける。
  ◇展示形態……映像,マルチメカビジョン
展示ー3「石打ダムのすべて」
石打ダム建設の過程を映像やグラフィックによって紹介,解説し,石打ダムを代表例にして,一般的なダムの建設,管理の重要性を理解してもらう。
  ◇展示形態……映像,グラフィック,縮小模型
展示ー4「やさしい水」
水に関するQ&Aを示しながら,水のさまざまな利用形態と,それによってもたらされる水の恵みの豊富さを学んでいく。
  ◇展示形態……パソコン装置,グラフィック
展示ー5「おそろしい水」
洪水や渇水の脅威やその被害の深刻さを新聞を模した壁面で紹介する。災害の記録などをグラフィックで表現し,新聞の写真欄をイメージして2台のモニターで洪水と渇水と実写映像を展開する。
  ◇展示形態……TVモニター,グラフィック
展示ー6「世界のダム」
世界各地で活躍するさまざまなダムを,内照式パネルで紹介する。内照式パネルのうち7基の特徴的なダムのパネルは,ハーフミラーを用い,スイッチ操作により,それぞれダムの構造をわかりやすく表現した模型が現れる。
  ◇展示形態……構造模型,グラフィック
展示ー7「熊本の治水・利水史」
熊本における治水・利水の歴史を,治水の神様とも称されている加藤清正の治水・利水事業をテーマにしたハーフミラービジョンを中心にわかりやすく紹介する。先人達の努力や工夫を印象づけながら,歴史の中に石打ダムを位置づけ,治水利水事業の大切さを訴えていく。
  ◇展示形態……縮小模型,映像グラフィック

② レストスペース
地元三角町が資料館内に設置する施設(コーナー)であり,町の観光インフォメーションと観光記念品,特産物および軽飲食の物販をおこなう売店を設ける。なお,当施設を含めた資料館の運営は町の第3セクターにより行う。
5-4 ダム湖周辺の跡地整備
ダム周辺の跡地整備については,周辺整備の基本方針に基づき,三角町全体の中での観光開発の拠点として位置づけ,小中学生を対象とした社会見学の場,桜の名所として整備し,観光客を誘導できるよう計画を進めてきた。また,各広場の植栽計画については,平成4年度2月に本県に設置された土木部緑化事業調整連絡会議において
・立地条件に適し,かつ維持管理のしやすい樹種の選定
・各樹種に適した植栽方法および植栽密度
について検討を行った後に実施した。
各整備(広場)の概要は以下のとおりである。
① 記念広場
ダムサイト右岸広場は,石打ダム湖の入り口でもあり多くの来訪者が立ち寄る所でもある。また,広場内にはダム資料館も建設されるため,ダム周辺整備の中枢の機能も併せ持つ。
 ◇広場……展望広場,休息広場駐車場
 ◇施設……ダム資料館,屋外説明サイン安全施設,便益施設,休息施設
② 休息広場
ダム右岸側の付替町道沿いに小休止できるような休息広場を設ける。大型バス2台,普通小型車8台の収容が可能な駐車場を設置し,湖面を見わたすことができるよう視界を確保しながら四季の花木や貯水池側ののり面部にツワブキ等の地被植物を配植する。
 ◇広場……休息広場,駐車場,便益施設
 ◇施設……安全施設,休息施設
③ 水草広場
ダム右岸側上流部の貯水池内に,既存の流れを取り込んだ水性植物園的な水草の広場を計画する。水際には自然石を組んで植物の生息環境を造り,八ツ橋等を設置して花菖蒲などの鑑賞ができるように配慮する。
 ◇広場……芝生広場駐車場
 ◇施設……石組護岸,八ツ橋,安全施設,休息施設,便益施設
 ◇植栽……水生植物

④ 魚釣り広場
水草広場の下流部左岸側の貯水池内に魚釣り場を設置する。付替町道と湛水面との間は勾配が急であり,大規模に地形を造成した利用は難しいため導水トンネル吐口部の水勢に対するのり面保護のための階段護岸を設置し,その護岸の平地を整備して魚釣り広場とする。なお,この広場を利用するための駐車場等施設については後述するピクニック広場の利用者との関連から左岸上流部の付替道路沿いに計画した。
 ◇広場……魚釣り場
 ◇施設……階段護岸,園路工作物,安全施設,休息施設
 ◇植栽……紅葉樹
⑤ ピクニック広場
ダム左岸上流部の土捨場跡地は,既存の流れの一部分を広場側に取り込んだ親水性のあるピクニック広場として計画する。小学校等の遠足や野外教室で石打ダムに訪れたときに休息できるような広い芝生広場を設置し,自然の素材を使用した遊具等を設置する。また,下流広場は流れを利用して,岩組護岸や紅葉樹による修景を図る。
 ◇広場……芝生広場,自由広場,遊戯広場,休息広場,駐車場
 ◇施設……緩傾斜護岸,階段護岸,岩組護岸,園路工作物,安全施設,休息施設,遊具施設,便益施設
 ◇植栽……熟果樹,紅葉樹
⑥ 散策路
休息広場から水草広場と魚釣り広場を経由してピクニック広場に至るまでの区間で,付替町道以下の買収用地内に散策路を計画する。また,休息広場付近の導水トンネル吐口部には分水路を設けて水車を設置する。散策路沿いには自然石等で造った子供の百面相の像を設置したり,低木樹の花木植栽によつで快適な遊歩道となるように計画する。
 ◇広場……水車の広場
 ◇施設……園路工作物,安全施設,水車,石像等
 ◇植栽……低木の花木樹
⑦ 桜の並木路
ダム湖を周遊する付替道路沿いは高木の桜を列状配置し,その間各季節の特色を演出する中木を線的に配植して景観の連続性を図る。
また,低木樹や地被植物は道路残地や緩傾斜ののり面にこまやかに面的配植を施して景観のポイントとし,各季節を通じて花の美しい名所としての並木路を計画する。
◇植栽……花木樹,草木植栽
これらの整備のうち,散策路,魚釣り広場の施設および壁泉広場の一部については平成3年度に施工済みであり,残り施設と植栽工事については現在施工中である。
また,サイン計画として記念広場に設置するダム周辺の総合案内板,ピクニック広場のサブ案内板,各広場や周辺に設ける誘導案内板は,展望テラスのデザイン板と同じ陶製の素材を使用し,施設全体がより一体感をもったものとする計画である。

6 おわりに
本県にとって,石打ダムの完成は約10年ぶりの補助ダムの完成である。このため,ダム周辺の整備について基本方針を立て総合的な計画のもとで実施するのは今回が初めてのケースであり,試行錯誤を繰り返しながら実施してきた。
今後は,地元三角町のみにとどまらず,県内,さらに九川各地から多くの皆さまに石打ダムを訪ねて戴けるよう広報活動やイベント等の話題性づくりに務めていきたい。
また,今回紹介したダムの周辺整備については,その多くを河川総合開発の補助事業で実施している。これは,石打ダムの地元三角町等関係機関が,ダム事業に対して,大変理解を示すと共に,維持管理についても非常に協力的であったため,出来得たことであり,地元の皆さまに感謝すると共に,ご指導戴きました建設省河川局開発課御当局に深く感謝の意を表します。

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