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九州技報 第23号 巻頭言

建設省九州地方建設局
 局 長
菊 地 賢 三

古代の狩猟用の弓矢の製作,使用や,農耕は当時から相当の技術であったでしょうし,さらに火おこしなどは画期的ハイテクであったろうと思います。技術は人間の生活に立脚し,常によりよいものを目指して競争し発展してきました。また,伊勢神宮の遷宮は二十年毎に行われていますが,建物の寿命が二十年しか持たないということは考えられず,建物だけでなく備品,装束等すべてのものを新調するということから,これは技術の伝承のために行われたものであろうと思われます。同じように,神社や各地で行われている祭りは,単に伝統文化の維持だけでなく,技術の伝承を目的として行われていると言っても良いのではないのでしょうか。
私たちのメインの技術である土木工学は英語で言えば,シビルエンジニアリング,これはミリタリイエンジニアリング,軍事工学に対応する工学で,市民工学のことですが,まさしく自然と人間を結びつける技術だと思っています。自然の方がよっぽど強い力を持っていますが,その自然から人間の安心を確保し生活を便利にするのが技術だと思っています。土木工学を学び始めた頃,土木工学というより土水工学という方が正確なのではないかと思っていたことがあります。土質学と水理学が土木の基礎であると考えたからです。建設省に入ってしばらくして,この考えは変わり土木で良いのだと思いました。技術を駆使する目的としてまず人間がいるのは当然ですが,対象となる自然側に大地や水等があり,さらにそれらと人間を含めた環境というものがあると感じたからです。すなわち土木の土は我々が物理的に取り組める自然事物の総称であり,木は環境を意味していると理解したからです。土木はそういう総合技術なのです。やりがいのある仕事と思いました。人に誇れる仕事と思いました。土木建設の5Kは何でしょう。私は感動,基準,工夫,元気,それに公共性と思っています。手足も身体も頭も心も気持ちも他人の分も入っています。
わが国の技術はわが国だけから発祥しているだけではありません。むしろ外国をルーツとする方が多いでしょう。外国から歴史的にも大量に技術が入ってきています。例えば平城京や平安京の格子状の都市作りは,中国の技術をそのまま当てはめた都市です。計画性がなじまないせいか,日本人が好きにやると放射環状型や宿場町型の都市になってしまうようです。東京や大阪のようにごちゃごちゃしている方が国民性になじむのかもしれません。和魂洋才という言葉があります。もともとは和魂漢才という言葉ですが,国民には外国の新しい技術や制度等をそのまま受け入れず,日本の風土に合ったものや合わせられそうなものを取捨選択して受け入れるという特性があるようです。制度等の場合,日本型〇〇として同化させ,技術の場合,技術者にも最新技術を受け入れ,日本人の生活に合わせ,消化するだけの潜在能力が素地として昔から備わっていたため,最新の高度の技術が容易に,低コストで導入できました。
もはや技術なしと10年ほど前にいわれたことがあります。技術は競争の歴史であり,何よりも市民の必要性に立脚しています。人々がよりよい生活,よりよい環境を求める限り,高度の技術は競争により次々と産まれますし,生活に合わせた普段の技術は人間がいる限り必要で,なくなることはありません。私たちは私たちの技術を的確に発展させ,また伝承していくため不断の努力を重ねていかねばならないと思います。

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