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佐賀県内水対策プロジェクト(プロジェクトIF)について

佐賀県 県土整備部 河川砂防課
防災・減災担当係長
宮 原 尊 洋

キーワード:内水対策、浸水被害、流域治水

1.はじめに
佐賀県では、令和元年佐賀豪雨(令和元年8月豪雨)と令和3年8月豪雨により、内水氾濫による甚大な浸水被害が発生しました。この出水を契機に佐賀県内水対策プロジェクト、通称「プロジェクトIF(イフ)」を立ち上げ、取組を進めています。今回は、プロジェクトIF の概要についてご紹介させていただきます。

2.近年の豪雨による被害状況
県内では平成30年から令和3年まで4年連続で大雨特別警報が発表されており、甚大な被害が発生しています。
(1)令和元年佐賀豪雨
令和元年8月26日から30日にかけて県内各地で猛烈な雨や非常に激しい雨が断続的に降り、記録的短時間大雨情報及び大雨特別警報が発表されました。この一連の大雨では、1時間降水量で佐賀(佐賀市)110.0ミリ、白石(白石町)109.5ミリと、各地点での観測史上1 位の値を記録したほか、3時間降水量で白石の245.0ミリを含む2地点、6時間降水量では白石の279.0ミリを含む2地点、12時間降水量では294.5ミリの佐賀、24時間降水量では390.0ミリの佐賀を含む2地点、48時間降水量では佐賀の430.5ミリを含む2地点、72時間降水量では461.0ミリの佐賀など、多くの観測地点で史上1 位の値を記録し、まさしく記録的な豪雨になりました。
この豪雨による被害も甚大で、武雄市では3名の方が亡くなられ、重傷者も佐賀市で1名、武雄市で2名確認されています。また、六角川流域や筑後川流域などに広がる低平地地域を中心に大規模な内水氾濫が発生し、住家等被害は6,060棟(全壊87、大規模半壊107、半壊759、一部損壊(浸水以外で)24、床上浸水773、床下浸水4,310(※全壊、大規模半壊、半壊には浸水被害によるものを含む。))に上りました。このほか、杵島郡大町町にある工場からの油流出事案も発生するなど、影響は多方面に及びました。

図1 令和元年佐賀豪雨による浸水被害の状況(武雄市)

(2)令和3年8月豪雨
令和3年8月11日から19日にかけて県内各地で猛烈な雨や非常に激しい雨が断続的に降り、14日には顕著な大雨に関する情報及び大雨特別警報が発表されました。この一連の大雨では、期間内の総降水量で嬉野(嬉野市)1,178.5ミリ、鳥栖(鳥栖市)1,031.0ミリ、佐賀1,018.5ミリ、大町(杵島郡大町町)1,017.0ミリを記録したほか、12時間降水量では嬉野の387.0ミリを含む2地点、24時間降水量では嬉野の555.5ミリを含む2地点、48時間降水量では嬉野の773.5ミリを含む5地点、72時間降水量では嬉野の929.5ミリを含む6地点、最大日降水量では嬉野の439.5ミリを含む3地点で観測史上1位を記録する、記録的豪雨になりました。
この豪雨では軽傷者4名が確認されたほか、令和元年佐賀豪雨の時と同様、六角川流域や筑後川流域などに広がる低平地地域を中心に大規模な内水氾濫が発生し、住家等被害は3,587 棟(全壊5、大規模半壊90、半壊1,078、一部損壊(浸水以外)25、床上浸水299、床下浸水2,090(※全壊、大規模半壊、半壊には浸水被害によるものを含む。))に上りました。

図2 令和3年8月豪雨による浸水被害の状況(武雄市北方町)

3.浸水被害への対応
(1)令和元年佐賀豪雨による浸水被害への対応
令和元年佐賀豪雨では、特に浸水被害が広範囲に及んだ六角川水系において、一般被害の状況を把握するため、出水直後から国(武雄河川事務所)と県が連携して実地調査に着手しました。調査の結果、浸水面積約5,759ha、浸水家屋3,240戸(床上浸水1,209戸、床下浸水2,031戸)という甚大な被害が判明。これを踏まえ、国、県、市町が連携して令和元年12月に「六角川水系緊急治水プロジェクト」をとりまとめました。
このプロジェクトは、「河川における対策」、「流域における対策」及び「まちづくり、ソフト施策」の3 つの柱で構成。その中でも中核的であったのは、河川における対策に位置付けられ、プロジェクトとりまとめと同時に採択された河川激甚災害対策特別緊急事業(国:遊水池整備、河道掘削、排水ポンプ増強等 県:河川改修、排水機場新設)であり、現在、早期の効果発現に向けて進捗が図られています。

(2)令和3年8月豪雨による浸水被害への対応
令和3年8月豪雨は、令和元年佐賀豪雨からわずか2年後の大規模な出水でした。六角川水系では、浸水面積約5,407ha、浸水家屋3,307戸(床上浸水1,248戸、床下浸水2,059戸)という令和元年と同様、甚大な浸水被害が発生しました。
県では、同じ地域で、2年で2 回の大規模な浸水被害が発生したということを重く受け止め、これまで市町主体で進められてきた内水対策に対し、県として一歩踏み込んで主体的に関与していくこととし、令和3年9月に佐賀県内水対策プロジェクトを立ち上げました。

4.佐賀県内水対策プロジェクト
(1)佐賀県内水対策プロジェクトの体制
佐賀県内水対策プロジェクトは、防災監である副知事をトップに、危機管理を所管する危機管理・報道局、農地防災等を所管する農林水産部及び河川や道路等を所管する県土整備部で構成し、部局を横断する全庁的な体制になっています。
「プロジェクトIF(イフ)」の「IF(イフ)」は、内水氾濫を英訳した「Inland water Flooding」の頭文字を取ったものです。また、気候変動へも対応していく必要性もあり、「もし(IF)」こんなことが起きたとしたらどう対応するのか、そのためにどのような準備をするのかというような、これまでの発想を超えて取り組んでいこうという思いも込められています。

図 3 佐賀県内水対策プロジェクト(プロジェクトIF)の概要

(2)プロジェクトの取組状況
プロジェクトIF では、「人命等を守る」、「内水を貯める」、「内水を流す」を3つの柱として位置付け、できることから順次取り組んでいます。
プロジェクトIF がスタートしてから1年3 月(原稿執筆時:令和4年12月上旬)が経過しましたが、これまでの取組状況を紹介します。
①人命等を守る
人命等を守る取組では、住民自らが危機を察知し、適切な避難行動を取ることができるよう、内水氾濫の状況をいち早く把握するための内水監視カメラ23台、浸水センサー271 箇所の設置が完了し、令和4年11月1日から、これらを閲覧できる佐賀県防災・緊急マップを公開しました。この他に、多くの農業用機械が浸水被害を受けたことを踏まえ、農業用機械の退避場所を6 市町31 箇所で確保するとともに、農機具保険への加入促進にも取り組んでいます。
②内水を貯める
内水を貯める取組は、内水等を一時的に貯留して被害の軽減を図るもので、ダム、農業用ため池、クリーク(農業用用排水路)等の既存施設の活用等に取り組んでいます。
既存ダムのうち令和元年と令和3年に甚大な浸水被害が発生した武雄市にある3つの県営ダムでは、関係利水者等と調整し、令和2年から事前放流の取組に加えて出水期に予め貯水位を低下させて運用してきた貯水位を、令和4年度からは、更に1m 低下させて新たに約29 万m3の洪水調節容量を確保しました。
また、農業用ため池やクリークの活用については、これまでも取り組まれてきたところもあるが、これを拡充していくためのため池放流ゲート整備やクリークの護岸工事に着手しました。
さらに、県内では初めてとなる田んぼダムの取組も9市町約1,200haで始まっています。
③内水を流す
内水を流す取組は、内水をいち早く河川等へ排水することにより被害の軽減を図るもので、河道に堆積した土砂の除去(河川浚渫)、河川整備(河道拡幅、排水機場新設)、排水機場の機能向上(耐水化、増設)、排水ポンプ車の導入に取り組んでいます。
河川浚渫については、令和4年度の出水期までに56 箇所で完了し、河川の流下能力確保を図りました。
排水ポンプ車については、令和4年6月に5台を導入し、5つの土木事務所に1台ずつ配備しました。幸いにも今年度の出動実績はありませんでしたが、出動に備え、訓練等を実施しました。

図 4 佐賀県排水ポンプ車

5.おわりに
プロジェクトIF では、危機管理・報道局、農林水産部及び県土整備部がそれぞれ、自分たちに何ができるかを考え、本庁と現地機関の連携のみならず、国や関係市町等の関係機関とも連携しながら、がむしゃらに突っ走ってきました。これまでに成果の出たものもありますが、河川整備や排水機場の機能向上などハード整備を伴うものには効果発現までに長期間を要するものもあります。
また、河川浚渫は必要に応じて継続的に繰り返し実施していく必要がありますし、排水ポンプ車はいざという時に確実に出動できるよう維持管理していくことが重要です。
さらに、現時点では構想段階、調査段階或いは関係者との調整段階にあるもの、例えば、内水を貯留する施設の整備や住まい方の工夫のための施策などの実現に向けた取組も着実に進めていく必要があります。
プロジェクトIF では、今後も、国や市町等の関係機関と連携しながら、浸水被害の軽減に向けて取り組んでいきます。これまで御理解と御協力をいただいた方々へ感謝の意を表すとともに、引き続き、御理解と御協力をいただけますようお願いして本稿を終わります。

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