九州インフラDX推進センターについて
~インフラ分野のデジタルトランスフォーメーション
を推進する体制強化~
~インフラ分野のデジタルトランスフォーメーション
を推進する体制強化~
国土交通省 九州地方整備局 企画部
建設情報・施工高度化技術調整官
(九州インフラDX推進室長)
建設情報・施工高度化技術調整官
(九州インフラDX推進室長)
岩 﨑 征 弘
キーワード:DX、3次元データ、人材育成、BIM/CIM、AI、VR、遠隔臨場
1.はじめに
昨今、社会経済状況の激しい変化、特に昨年からのコロナ禍を契機とした非接触・リモート型の働き方への変革、抜本的な生産性や安全性向上を図るため、データとデジタル技術を活用して国民のニーズを基に社会資本や公共サービスを変革するDX(デジタルトランスフォーメーション)の分野が注目されている。中でもインフラ分野におけるDXでは業務そのものや、組織、プロセス、建設業や国土交通省の文化・風土や働き方改革を変革し、生産性の向上や働き方改革を通じて安全・安心で豊かな生活を実現することが求められている。
今回、これらの実現を促進するため、国土交通本省大臣官房にインフラDX総合推進室が設置され、建設技術の研究及び開発並びに普及に関する事務を総合的かつ一体的に推進することにより、建設現場の生産性向上を図ることとなった。
九州地方整備局においてもインフラ分野のDXを推進する体制強化を図るため、令和3年4月1日に企画部長をセンター長とした、九州インフラDX推進センターを発足することとなったので、その取り組みについて紹介する。図- 1 に九州インフラDX推進室の体制について示す。
2. 九州地方整備局におけるDX推進の概要
九州地方整備局におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)へ取り組む主な内容は次のとおりとなっている。
①災害常襲地域の九州において、災害発生時の情報収集を含め、各種ICT 機器を用いた遠隔臨場・情報収集等の技術を実装し、「リモート・非接触の働き方」を推進。
② 3次元データの活用やBIM/CIM 技術の本格導入、i-Construction のさらなる推進など、新しい働き方に対応する受発注者双方の人材育成を行う「官民のインフラDX人材育成」を推進。
このうち、①については九州地方整備局6階に設置されたインフラDXルーム等を活用して、遠隔臨場や現場からの情報発信、VR 体験等を実施する。九州インフラDXルームの主な機能は以下のとおりである。
◇没入型ドームスクリーンを用いたVR・遠隔臨場、災害時の速やかな災害現場状況の共有
◇スマートグラスを用いた現場との情報共有
◇リモートによる工事検査
②については、九州技術事務所に設置されたインフラDX人材育成センターが担うこととなっており、3次元計測機器による測量やBIM/CIM の3次元モデルの操作・習熟に関する研修の実施や、無人化操作シミュレータによる遠隔操作技術習得やVR による点検・維持管理に関する研修等を実施することとなっている。九州インフラDXセンターの主な機能は以下のとおりである。
◇ 3次元点群データの取得・活用研修
◇ GPU搭載PCを用いたBIM/CIM 研修
◇シミュレータを用いたICT 建機の遠隔操作訓練
3.インフラDXセンター体験型内覧会
インフラDXセンターの発足にあたり、インフラ分野のDXを進める官民の人材育成を行う体験型内覧会を令和3年4月26日(月)に、九州インフラDX人材育成センター(九州技術事務所)において実施したので紹介する。
①リモート機器を活用した災害現地調査
災害情報共有クラウドシステムを初公開し、災害時の360°映像の共有について説明、その後、仮想の災害現場(立野ダム建設工事箇所)にて、UAV により撮影する映像をリアルタイムで複数の遠隔地(土木研究所、九州技術事務所、立野ダム工事事務所)において、双方向で情報共有するデモンストレーションを実施した。
これらの取り組みにより、災害現場の状況についてリアルタイムでの情報共有が可能となり、災害復旧の迅速化、危険な被災現場での調査リスク軽減につながると期待されている。
②工事現場の遠隔臨場
リモート機器を活用し、立野ダム工事現場の遠隔臨場を実施。現場から「スマートグラス」を用いて画像・音声等をリアルタイムで共有した。
これらは、非接触のため新型コロナウイルス感染防止対策としても有効で、現場への移動時間削減により生み出された時間を利用して、新たな施策への取り組みを推進することも期待されている。
③3次元データ活用体験
3次元点群計測機器による計測作業を自ら体験し、3次元計測の原理や特性を学習する。その後、計測で得られた点群データを3次元データに転換し、業務に活用する方法について解説した。
点群データ取得に必要な多くの作業を自動化することで、特殊なスキルを用いることなく、誰でも短時間で作業が可能となる。また、工事の説明会等で住民の方々が工事完了後の状況を理解しやすくなる等のメリットも期待されている。
④ICT建設機械の遠隔操作体験等
九州技術事務所のグランドにおいてICT 建設機械の操作体験及びモニター方式による遠隔操作体験を実施した。
工事施工業者など建設関係者は、建設現場ではなく、オフィスや自宅などからICT 建機を遠隔で操作できるようになり、大幅な労働環境の改善につながることが期待されている。
4.インフラDXの今後の展望・まとめ
インフラ分野におけるDXの取り組みとして、今後、予定されている項目の主なものは以下のとおりである。
①DXLAN及び大容量ストレージの整備
国土交通本省と国土技術政策総合研究所、各整備局と技術事務所を100Gbps の高速回線で結び、従来、オンラインでの共有が困難であった、3次元データの共有が可能となる。
併せて、データ保管に必要な大容量ストレージやVDI、受発注者のデータ送受に用いるセキュリティセンターを設置整備し、工事発注、設計業務等の効率化が図られる予定である。
②ローカル5G基地局の導入及び活用
遠隔地からICT建設機械の操作等に用いるためのローカル5G基地局の導入が予定されており、5G回線の特徴である高画質、低遅延の特性を生かした無人化施工が期待されている。
③AIを用いた維持管理の高度化
河川、道路、砂防分野における維持管理において、AIを用いた高度化、省力化が検討されており、職員向けのAI研修を実施する予定となっている。
④デジタルガバメントの実現
業務効率化の一環として、従来は紙面等による国の行政手続き等を実施していたところを、オンライン窓口で実施していくという政府の方針に則り、河川・道路の行政手続き等についてオンライン化を進めていく予定となっている。
5.おわりに
建設業における担い手不足の解消は急務である。コロナ禍はこれらに拍車をかけており、生産性の向上、省力化・効率化は待ったなしの状態となっている。一方、各業種では、DXによる改革に成功したという事例は多くない。DXは手段であり目的となってはならず、施設整備が目標ではなく、人の動きの変革が目標であることを念頭におきつつ、着実に進めて行く所存である。
なお、今回のインフラDX内覧会実施にあたっては、多くの関係者の皆様のご協力を頂いた。この場を借りて、深く感謝を申し上げたい。