熊本駅周辺におけるJR鹿児島本線等
連続立体交差事業の部分開業について
連続立体交差事業の部分開業について
谷水秀行
キーワード:連続立体交差、高架化、駅
1 はじめに
熊本県では、平成23年3月の九州新幹線の全線開業や同年4月の熊本市の政令指定都市移行の効果を県内全域に波及させるとともに、九州における地理的特性を最大限に生かした、熊本駅周辺地域の更なる拠点性向上に向けて取り組んでいるところである。
その取り組みの重要な鍵となるのが、JR鹿児島本線等連続立体交差事業(以下「連立事業」という。)による在来線の高架化であり、平成13年度に事業着手し、平成27年3月には、一部区間の高架工事が完成した。
本稿では、この連立事業の整備状況等について報告を行う。
2 熊本駅周辺整備
>2-1 概要
熊本駅周辺地域の整備にあたっては、平成17年6月に熊本県と熊本市で策定した「熊本駅周辺地域整備基本計画」に基づき、整備目標時期を次の2段階に分けて設定し、県市が相互に連携・協力しながら事業を進めている
①九州新幹線の完成までに完了を目指す事業
②JR鹿児島本線等鉄道高架化後の熊本駅東口駅前広場の完成までに完了を目指す事業
2-2 これまでの取り組み
熊本駅周辺では、新幹線建設、連立事業といったまちづくり、交通体系の大変革が一度に訪れることから、国、熊本県及び熊本市が一体となって各々の役割分担のもと整備に取り組んできている。
2-1で述べた①の「九州新幹線の完成までに完了を目指す事業」について、具体的には以下が挙げられる(写真-1参照)。
・熊本駅西口駅前広場〈市〉
・熊本駅東口駅前広場の暫定整備〈県〉
・(都)熊本駅帯山線〈県〉
・(都)熊本駅城山線(南北方向)〈県〉( 市電のサイドリザベーション化を含む)
・(都)春日池上線(暫定2 車線)〈県〉
・合同庁舎整備〈国〉
・熊本駅前東A地区市街地再開発事業〈市〉
※〈 〉 内は事業主体を表わす
これらの整備については、良好な都市空間の形成を図るために設置された「熊本駅周辺地域都市空間デザイン会議」による事業主体間のデザイン調整等が評価され、平成25年度の「都市景観大賞」の最高賞である大賞・国土交通大臣賞を受賞した。
3 JR鹿児島本線等連続立体交差事業
3-1 事業概要
熊本駅周辺地域はJR鹿児島本線等により市街地が東西に分断され、市街地の一体化が阻害されている上、道路等の都市基盤の遅れや踏切による交通遮断により慢性的な交通渋滞が発生している。
このような状況の中、都市内交通の円滑化や熊本駅周辺地域の都市機能強化を図るため、熊本県が事業主体となり、平成13年度から、上熊本駅付近から熊本駅付近までの約6㎞区間の在来線の高架化に取り組んでいる(図-1参照)。
事業の概要は次の通りである。
〔事業の概要〕
事業主体:熊本県
事業区間:JR鹿児島本線 約6㎞、JR豊肥本線 約1㎞
総事業費:約606億円
事業期間:平成13年度~平成30年度
構造形式
一般部:ラーメン高架橋・桁式高架橋(複線)
熊本駅部:ラーメン高架橋(島式2面6線)
上熊本駅部:桁式高架橋(島式1面2線)
除却される踏切等:15踏切、3陸橋、2地下道
新設する交差道路等:15箇所
また、本連立事業は、一般的な連立事業と比べて、以下に挙げる特徴がある。
①新幹線建設事業と並行かつ同時に施工(全国初)
②新幹線先行方式(新幹線高架橋を施工した後に在来線を高架化)による高架橋施工
③用地幅を最小にするため、新幹線、在来線の高架敷地を仮線敷地として使用
④既設跨線橋の撤去等は新幹線事業と連立事業が共同で処理
3-2 事業完成までの流れ
【一般部】
新幹線建設事業及び連立事業の完成までの流れを一般部で説明する(図-2参照)。
①まず、新幹線高架橋建設のため、在来線東側の用地を買収し、1次仮線工事を行う。
②在来線を1次仮線に切り替えたのち、在来線のあった場所に新幹線高架橋を建設する。
同時に、在来線高架橋建設のための2次仮線工事を行う。
③平成23年3 月に、新幹線が全線開業するのとほぼ同時期に、1 次仮線を走っていた在来線を新幹線高架下の2次仮線に切り替え、1次仮線のあった場所に在来線の高架橋を建設する。
④そして、平成27年3月の高架化完了に伴い、2次仮線を走っていた在来線を高架橋に切り替え、踏切を除却したのち、交差道路や側道の整備を行って一般部としては事業完了となる。
【熊本駅部】
また、熊本駅部においては、施工スペースの関係から、「鹿児島本線上り線」と「鹿児島本線下り線・豊肥本線」を2段階で施工することとなる。完成までの流れは以下の通りである(図-3参照)。
①新幹線開業時は、東口駅前広場は暫定広場として供用し、新幹線横に在来線の上り高架橋を建設している。
②平成27年3月の上り線の高架切替後、その横に下り線の高架橋を建設する。
③平成29年度末に鹿児島本線下り線と豊肥本線を高架に切替える。
④その後、現在の駅舎を解体し、新たな熊本駅舎の外壁を設置して、平成30年度末に事業完了となる。同時期に、東口駅前広場も完成形に向けて工事が進められる。
3-3 部分開業と事業効果
平成27年3月14日に、鹿児島本線の上り線約6㎞と下り線の北側約4㎞が開業し、併せて新しい上熊本駅舎及び熊本駅上り線ホームも同時に開業した(写真-3・4参照)。
この開業により、以下に挙げるような事業効果が発現している。
① 13踏切の除却による交通渋滞解消
踏切遮断による交通渋滞、踏切事故が解消されることとなり、安全安心な生活環境が実現した(写真-5参照
②分断解消による利便性向上
鉄道により分断されていた地域が一体化されるため、地域住民の方々の利便性が飛躍的に向上する。
③鉄道高架化による周辺開発の誘発
鉄道の高架化にあわせた、土地区画整理事業や市街地再開発事業等との一体的な整備により、周辺開発が誘発されている。例えば、各種専門学校等の建設により昼間人口が約4,800人創出されたり、民間のマンション建設誘発により、周辺地域(春日地区)の夜間人口が約30%増加するなどの効果が発現し始めている(写真-6)。
3-4 今後の整備
本連立事業では、平成30年度の事業完了に向け、残る区間の高架橋工事を進めていく。
連立事業により新しくなる熊本駅の在来線駅舎は、後世に残る品格ある駅舎とすべく、平成22年に文化勲章を受章された世界的な建築家安藤忠雄氏にデザインを手がけていただき、熊本の城と森をイメージした力強く美しい駅というコンセプトで設計されている(図-4参照)。
東口駅前広場は、建築家の西沢立衛氏による「公園のような駅前広場」というコンセプトのもと、新たなたまり空間を創造するものとなっている。現時点の整備は暫定形となっているが、連立事業の完了後は、現在の在来線駅舎は新幹線側に約40m後退し、それにより東口駅前広場は現在の約2倍の広さとなる。
新しい在来線駅舎をデザインした安藤忠雄氏と東口駅前広場の西沢立衛氏は、ともに建築界のノーベル賞と言われるプリツカー賞を受賞されている。駅舎と駅前広場が完成した際には、二人の巨匠がコラボレーションした駅として、熊本駅が国内外から注目される世界的な駅になるものと期待している。
4 おわりに
連立事業の完了後には、東口駅前広場の完成整備やJR九州による大規模な在来線跡地開発も控えており、熊本駅周辺地区のさらなる活性化が期待される。
今後も、世界に誇れる熊本駅、そして周辺地域が魅力あるものとなるよう、引き続き取り組んでいきたい。
最後に、平成27 年3月に部分開業を迎えられたのは、これまで本連立事業に、様々な形で携わってこられた方々の御尽力の賜物である。ここに敬意を払わせて頂くとともに、記して謝意を表すも
のである。
のである。