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筑後川水系河川整備計画策定に向けた筑後川流域1万人会議

国土交通省 九州地方整備局
 筑後川河川事務所 調査課長
浦 山 洋 一

国土交通省 九州地方整備局
 筑後川河川事務所 専門調査員
久 門  晶

国士交通省 九州地方整備局
 筑後川河川事務所 調査課
御手洗みたらい 瑞 枝

1 はじめに
我が国の社会資本は,戦後の半世紀の間圧倒的に不足していた。この時代は安く,早く,大量に社会資本を整備することが重要であった。国民もまたそれを強く切望していた。そして高度成長期の重点的な公共投資によって,社会資本はある程度の充足がなされた。
しかし,社会経済の発展や生活水準の向上により,国民の価値観が変化した。さらにバブル経済の崩壊を経て財政難の時代となった現在,公共事業に対して国民の厳しい目が向けられるようになり,国民の不信感が増大した。
公共事業が信頼を失った背景には,先述の社会的要因の他に,事業者としての説明責任の不十分さが国民の理解につながらなかった経緯があげられる。そこには,
① 利用者本位という観点の不足
② 良質なものを残すという観点の不足
③ 透明性確保の不徹底
などの問題点があったのではないだろうか。
現在,国民は自然豊かで安心でき,落ち着いた潤いのある社会を求めるようになっている。公共事業に対しても,より生活に密着したもの,良質なものを時間をかけて適量に整備していくことが求められる。

2 筑後川流域1万人会議の目的
(1)新しい河川法の趣旨
地域住民による環境保全への意識の高まりと,河川利用に対する多様なニ-ズに対応するため,治水・利水・環境における河川の総合的な整備を行う河川法が平成9年に改正された。
改正された新河川法では,地域の意見を反映した河川整備の計画制度が導入された。(図ー1)

(2)地域住民の目線を取り入れた計画の策定
社会情勢の変化を受け,地域住民のより良質な社会資本に対するニーズに応えるため,河川整備計画策定段階から,地域住民の目線を重視することが重要である。河川の地域特性や地域の風土・文化等,河川整備を推進するためには,地域との連携が不可欠である。地域住民の持っている地先レベルの情報や川との関わりの中で得られた経験,或いは数字では推し量ることのできない情緒的な川への思いを把握し,河川整備計画に反映することが,河川事業に対する地域住民の満足度の向上,川への愛着心の啓発にもつながっていく。また,計画の策定段階から透明性がより確保され,地域住民にとって信頼に足る河川計画となりうる。

(3)プロセスの重要性
地域住民の意見を河川整備計画に反映する際に考慮すべきは,計画策定の段階から事業の執行,維持管理に至るまでを合意形成の一連のプロセスと捉えることである。合意形成の取れた河川整備計画には,地域住民自らの意志が反映されており,河川の整備や将来的な維持管理に対する地域住民の‘‘地域の川を見守り共に育てていく”視線が常に注がれることとなる。
従来,河川整備計画に反映するための意見の聴取については,計画の説明会やアンケ-ト等の手法で実施されている。しかし,計画説明やアンケ-ト等は,幅広い地域住民の意見を把握する面では優れているものの,あくまで行政側からの一方的な計画説明に陥ってしまいがちである。しかるに河川整備計画策定におけるプロセスで最も重要なことは,地域住民と行政が直接対話により意見交換し合う機会を持つことである。直接対話による意見交換により,地域住民と行政相互の意志の疎通が期待される。

(4)継続的な連携体制の構築
現在の厳しい国の財政事情や地域住民の満足度を考える際,改修から維持管理まで一貫した事業を永続的に推進していくにはある程度の限界があるのではないだろうか。そのためにもこれからの河川行政は,行政主導から住民参加による協働で行う体制(システム)へと移行すべき段階に来ている。
河川整備計画策定における地域住民の意見聴取活動は,整備計画のためだけの単発の取り組みとしてではなく,地域住民にとって目の前を流れる川はあくまで「自分たちの地域の川である」ことを認識してもらうきっかけとなるものである。そのためにも日頃から地域住民との情報交換や意見交換等で積極的に対話することに努め,地域住民及び自治体との信頼関係や持続的な連携体制を構築する必要がある。

3 筑後川流域1万人会議の進め方
(1)取り組みの内容
筑後川河川事務所では,筑後川水系の直轄管理区間に関係する県及び市町村と連携して「筑後川流域1万人会議」を実施している。「筑後川流域1万人会議」とは「筑後川水系河川整備計画」の策定に向けた,河川法第16条の2第4項に基づく地域住民からの意見聴取活動である。
筑後川では平成15年10月2日に「河川整備基本方針」が決定し,平成16年度から平成17年度の2カ年で「筑後川水系河川整備計画」を策定する予定である。
筑後川流域は,福岡,佐賀,大分,熊本の4県にまたがり,流域市町村は12市37町7村にも及ぶ。流域内人口も107万人を有する九州最大の河川である。このような広大な流域は,上流から下流まで個性ある地域特性を有している。このため各地域に根ざした情報を綿密に入手し,国民の意向を把握する方法として「筑後川流域1万人会議」を実施している。(図ー2)
筑後川流域1万人会議の数ある取り組みの中で,直接対話による意見交換を行う『地域住民懇談会』について以下で述べていく。

(2)実施にあたっての体制
地域住民懇談会については,意見を聴取しようとする地域の自治体である市町村の協力が不可欠である。地先レベルの意見を引き出すためには,公的に地域を代表する自治会及び区長会等とのコネクションが必要であり,そのコーディネーターを市町村が担うのである。(写真ー1) この取り組みは,自治体にとっても地域住民が抱いている河川の課題や将来への夢などを直接知り得る好機となる。地域住民懇談会とは,河川整備計画策定を行う国土交通省のみならず,地域の自治体にとっても有益な取り組みであると言える。
先述の地域住民懇談会は,代表者ヒアリングと住民懇談会の2段階構成で実施している。この2段階の取り組みは,河川整備計画における原案策定での基礎情報となり,それは筑後川沿川市町村で校区単位を基本として約100箇所以上で行っていく。(図ー3)

(3)形式の工夫
地域住民懇談会では,従来の説明会方式をやめ,地域のコミュニティである公民館等を利用した直接対話を基本としている。会場中央に該当区域の航空写真を広げ,この写真を元に議論を行う。議論の進め方として「昔の筑後川」「今の筑後川」「将来の筑後川」という3つのキーワードで自由な意見交換を行う。地域の筑後川への思い出を紐解いていくうちにはじめは控えめであった意見も次第に活発に出されるようになる。加えて“地域の意見を聞かせて欲しい”という前向きな姿勢も必要である。これからの河川行政は地域と共に進めていくという意志の表示が不可欠であろう。(写真ー2)
地域住民懇談会にあっては,事務局である行政側の体制も重要なポイントとなる。筑後川河川事務所では,地域住民懇談会を事務所全体で取り組むこととしており,事務所全課でのチーム編成のうえ,事務官・技官の区別なくともに地域と向き合う体制づくりを行っている。これは地域住民懇談会が単に整備計画を策定するにとどまらず,多くの事務所職員の意識の向上と,地域とのコミュニケーション力の育成にもなるからである。

4 おわりに
(1)行政間の連携・行政側の資質
地域住民懇談会においては,1級河川の直轄管理区間ならば国土交通省管理,県管理区間であれば都道府県が対応するため,いわゆる縦割り行政の弊害を指摘されることが多い。しかし「筑後川流域1万人会議」における地域住民懇談会で,は国・県・市町村の垣根を越えた,行政間の連携体制のもとに実施しているのが特筆すべき点であろう。なかでも市町村は地域行政の総合窓口であると共に,まちづくりの視点からの河川を熟知している。地域住民懇談会においても,地域窓口としてのコーディネーターの役割を担っており,市町村の果たす役割は非常に大きい。今後は共通の認識を持つよう関係をさらに密にし,国・県・市町村の協働体制を図ることが肝要である。
社会資本整備の進め方は,近年大きな変化を求められている。その変化の時代には,単なる技術力だけが求められるのではなく,誠実な姿勢,幅広い情報収集力,人格や倫理観など,人間力や懐の深さが河川行政マンに求められている。

(2)地域のよりよい川づくりを目指して
これまですでに久留米市,大川市及び日田市などの主要都市での地域住民懇談会を終えたが,改めて地域の人々の川・筑後川に対する熱い思いを感じている。そして,ここ数十年にわたり安心・安全な地域の暮らしを守る治水事業を進めてきたが,地域から川を遠ざけることになったのではないか,いつのまにか地域と川との間に見えない垣根ができてしまったのではないか等,懇談会に参加したメンバーの多くが感じた正直な感想である。
今回の地域代表者からのヒアリングや住民懇談会などの取り組みは,一連の河川整備計画策定作業に向けた活動でもあるが,地域住民と国土交通省及び自治体職員が気持ちをひとつにして,今後のよりよい川づくりを行う上での鍵ともなるであろう。
懇談会ではこれまでの河川事業についての厳しい意見も出されるが,どの会場でも最後には地域の人々から「良いことをやっているね。ずっと続けて欲しい。頑張って下さいね。」という言葉を異口同音にかけて頂いている。「筑後川流域1万人会議」とは,これから未来へとつながる筑後川の大いなる第1歩となることと信じている。(写真ー3)

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