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レーザースキャナーによる施工管理に関する一考察
九州地方整備局 江里口貴生
1.情報化施工とは

情報化施工とは、ICT(情報通信技術)を土木施工に導入し、施工に関する情報の効率的利用を図ることにより、施工の効率性、安全性、品質の向上、省力化等に関する施工の合理化を図るものである。国土交通省で取りまとめている「国土交通分野イノベーション推進大綱」の中でも、国土交通省の将来像と今後の戦略として情報化施工に関連した内容が盛り込まれており、現在、トータルステーション(以下、TSという)を利用した出来形管理を展開するなど、3次元測量結果を利用する方法が急速に進展し始めている。

2.取組内容

今回は、近年、地形測量において利用が進みつつあるレーザースキャナーに着目し、その測量方法を活用した施工現場での出来形管理、品質管理並びに監督検査の効率化について検討を行ったものである。
レーザースキャナーの特徴としては、一度に広範囲の対象物の計測が可能で、近年、地形測量などの分野で注目されている。一方で、その精度については、測定条件にも大きく左右されることが解っているが、それらを土木現場で使用し、結果を定量的に評価されたことがないのが現状である。そのため今回、様々な建設現場で活用しているTSと比較して検証を行ったものである。
レーザースキャナーが従来の巻尺、レベル、あるいはTSを用いる方法に対して優位な点、および留意点は下記のとおりである。

1)優位性
・広範囲の計測を短時間で実施できるために測量作業が大幅に効率化する。
・測量結果を3次元CADで処理することにより、容易に鳥瞰図や縦断図・横断図など、必要なデータが抽出できる。

2)留意点
・計測箇所をピンポイントに計測できない。
・取得データの計測密度にばらつきがある。
・凹み部分など計測機器から不可視の部分は計測できない。

3.現地における検証実験
3.1 レーザースキャナーの計測精度の検証
1)検証理由
レーザースキャナーの特性として、TSの様に特定の点を計測することが出来ない。そのため、レーザースキャナーで計測された点群データのばらつきの評価、および入射角による精度への影響の確認を行う必要がある。

2)検証方法
検証方法としては図-1のとおりとし、TSで測定した計測値との比較を行った。

①検証板の材料の違い
図-2のように乾燥したコンクリート(白っぽい表面)、濡れたコンクリート(黒っぽい表面)、土砂(90°を除く)を設置して計測を行った。
②計測距離の影響
計測距離を50m、100m、200m、300mで計測を行った。
③入射角の違い
レーザースキャナーの機械位置を原点として、検証板の角度の条件を90°、45°、10°とした。


図-1 距離と入射角の検証実験イメージ図


図-2 検証板の形状及び条件


写真-1 精度検証実験状況

3)計測結果
①検証板の材料の違いについて
材料の条件による影響はほとんどないという結果が得られた。
②計測距離の影響について
計測平均値の誤差は、距離に比例して増加する傾向を示した。(50mでは約7mmに対して、100mでは約10mm、200mでは約15mm、300mでは約20mmの差が発生している。)
③入射角による精度への影響
入射角が小さいほど、誤差が大きい。また、標準偏差についても大きくなる傾向がある。これはレーザーが特定の幅を持っており、入射角が小さい場合はレーザーのあたる範囲が拡大するため、計測値にバラツキや誤差が大きくなると考えられる。レーザーの幅は、距離と共に拡大することから、距離が遠いほどこの誤差が大きくなる傾向がある。

3.2 レーザースキャナーを用いた現場計測実験
1)実験目的
本実験は、レーザースキャナーを現場利用する上での留意点について、実験結果を基に整理すること、また、現場利用の計測手順(出来形計測手順・数量算出手順)についても確認を行い、レーザースキャナーを用いた計測手法の現場適用性及び数量算出までの導入効果について評価を行うことを目的として行った。

2)適用工種
現場計測実験を行うための対象現場として考えている適用工種について、表-1のように検討を行った。

表-1 適用工種区分

その結果、「災害対策現場」「無人化施工現場」が最適であると判断し、今回は雲仙復興事務所で施工されている「水無川1号砂防えん堤左岸部護岸工事」の現場を使用して実験を行った。図-3が実験の位置図及び現場状況写真である。


図-3 実験の位置図及び現場状況

3)検証方法
検証方法は図-4の通りとし、TSでの計測結果を基準として、レーザースキャナーによる計測点結果との対比を行う。
但し、レーザースキャナーは出来形の端部の計測が出来ないため、 計測結果を3次元CADに取り込んで計測地形面を作成し、TSの計測結果と対比する。


図-4 レーザースキャナーの計測点との 比較方法

4)現場計測
現場計測の対象については、図-5の赤線で囲った部分とし、計測の条件としては下記のとおりとした。
①計測は盛土施工前と施工後の2回分けて行う。
②計測距離は目的地から200m及び300mの位置からとする。
③レーザー発射間隔は0.05°とし 0.1°,0.15°,0.25°,0.5°の5パターンでデータ出力を行う。
また、レーザースキャナーの設置場所は、入射 角が10°以上を保てるよう注意した。


図-5 現場計測の測定範囲


写真-2 レーザースキャナーによる計測状況

5)結果
図-6に計測した点群データを示す。本データとTSで計測した結果を用いて数量算出を行い、その差について比較を行った。数量算出方法としては、平均断面法及び点高法(メッシュ法)を使用して土量の算出を行った。表-2が測定結果である。


図-6 レーザースキャナーの計測結果(色つきの点群データ)

表-2  計測結果

表-2より、TSの2m間隔の平均断面法の結果を基準と考えると、レーザースキャナーと比較すると、差は約8m3(1390.2m3(TS測定平均値)-1382.3m3(レーザースキャナー測定平均値)(全体の0.6%)となり、ほとんどないと考えられる。メッシュ法についても同様な結果となった。
ただし、TSによる計測を行う時は凹みを直線として読み取るため、その誤差が生じることがあるので注意を払う必要がある。

4.まとめ
4.1 出来形計測と計測密度設定について
表-3は、現場計測結果を踏まえ要求精度による区分をまとめたものである。なお、精度良く計測を行う為には、レーザースキャナーの設定位置や取得間隔などは十分に検討が必要である。

表-3 出来形計測に対する計測密度設定例

4.2 数量算出について
計測密度については、レーザー発射間隔が0.15°以下であればTS並の数量算出結果が得ること可能である。
また計測距離が200m程度の場合(約50cm間隔に1点)は、レーザースキャナーの計測結果を5m間隔の平均断面法及び1m間隔のメッシュ法により、TSの平均断面法の2m間隔相当の算出が可能である。ただし、対象物地形が複雑な場合は0.5m間隔のメッシュ法で行う必要がある。
なお、計測距離が300m程度の場合(約80cm間隔に1点)でも、検証の結果、TSの平均断面法の2m間隔相当の算出が可能であるが、地形の細かい凹みは取得することができないのでその点は注意が必要である。

5.今後に向けての検討

今回の現場計測結果により、レーザースキャナーを用いた出来形算出は、TSと同等レベルの作業時間で高密度(TSで2m間隔での計測結果相当)な計測結果を得ることができた。また、レーザースキャナーは被計測値に作業員を必要としないため、危険箇所や緊急時に詳細な地形形状が必要な場合で有効活用出来ると考えられる。
今後も、表-1で検討した工事区分の他工種について検討し、現場計測実験を行う予定であり、検討を重ねレーザースキャナーの活用により監督検査業務の効率化の一助となれば幸いである。

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