可動堰型越流堤方式への改良に伴う洪水調節効果について
(六角川水系牛津川牟田辺遊水地施設改良)
(六角川水系牛津川牟田辺遊水地施設改良)
山本佳久
キーワード:遊水地、施設改良、可動堰型越流堤
1.はじめに
平成21 年7 月洪水は、六角川水系において確率規模1/20 程度の洪水であったが、広範囲で河川水位が計画高水位(以後「H.W.L」という。)を上回ったため内水被害が発生し、ポンプの停止及び絞り込み等を実施した。特に牛津川7k600付近では河川水位が堤防天端付近まで達したが、水防団による土嚢積みが実施されたこともあり、堤防からの越水は免れた。
一方、牛津川上流に位置する牟田辺遊水地は1/100 規模の洪水を対象として計画されているため、平成21 年7 月洪水では洪水調節容量90万m3のうち約30万m3の調節容量に留まり、調節容量に余裕を残した状況となった。この出水により、牛津川の治水安全度と牟田辺遊水地の洪水調節機能のバランスが取れていないことが明らかとなり、頻度の高い中規模洪水に対しても効果を発現するよう、牟田辺遊水地の施設改良が求められた。
本稿では、牟田辺遊水地の更なる活用を図るため、可動堰型越流方式への改良に伴う洪水調節効果について報告するものである。
2.牟田辺遊水地の概要
1)牟田辺遊水地の経緯
平成2 年7 月、低気圧の接近に伴い、梅雨前線の活動が活発化し、30 日未明から降りだした雨は、2 日の午前中にかけ南渓(なんけい)雨量観測所で連続雨量415㎜にも及ぶ激しい降雨となり、24 時間あたり最大雨量340㎜(7 月1 日15 時から24時間)を記録した。
このため、六角川水系の六角川本川・支川牛津川では、災害発生の危険水位である「警戒水位」を大幅に超え、一部区間によっては河川計画の基本となる「計画高水位」を上回る異常洪水に見舞われました。図-1に示すように堤防破堤9箇所、また至るところで堤防越水(写真―1)が発生し、浸水面積10,430ha、床上浸水家屋3,028 戸、床下浸水家屋5,658 戸と甚大な被害(写真―2)が発生しました。
この平成2年7月洪水は、牛津川の主要地点である妙見橋で計画高水流量毎秒950m3を超える毎秒1,100m3(既往最大流量:氾濫戻し流量)を記録する大出水となり「六角川水系激甚災害対策特別緊急事業」が採択され、流下能力不足箇所の河道掘削及び築堤(地盤改良含む)、水門・樋管等の河川構造物の整備及び橋梁の改築、牛津川下流の流量軽減を目的とした牟田辺遊水地の建設等の整備を実施してきました。
なお、平成2年7月洪水を契機に、平成4年4月に工事実施基本計画の改定を行い、佐賀県多久市南多久町に牟田辺遊水地が計画された。
牟田辺遊水地は、工事実施基本計画の目標である1/100 の洪水に対して最適なピークカットを行う洪水調節施設として位置づけされ、河道ピーク流量毎秒1,000m3のうち毎秒100m3をカットし、妙見橋での基本高水ピーク流量毎秒1,250m3を毎秒1,150m3に洪水調節する施設として平成14年6月に完成しました。牛津川位置図を図-2に示す。
2)牟田辺遊水地の諸元
当該遊水地の場所は、六角川左支川牛津川中流部右岸15k100 ~ 16k400 に位置し、緩やかな河床勾配をもつ低平地に広がる箇所に建設された。施設規模は、計画規模:1/ 100(妙見橋対象)で、計画降雨:330㎜/日対象降雨量は平成2年7月降雨波形としている。
3)牟田辺遊水地の諸元
当該遊水地の場所は、六角川左支川牛津川中流部右岸15k100 ~ 16k400 に位置し、緩やかな河床勾配をもつ低平地に広がる箇所に建設された。施設規模は、計画規模:1/ 100(妙見橋対象)で、計画降雨:330㎜/日対象降雨量は平成2年7月降雨波形としている。
3.越流堤改良の契機
牟田辺遊水地完成後、平成21 年7月洪水時に初めて下流域への効果を発揮しましたが、牟田辺遊水地地点における洪水調節容量は32 万m3であった。しかしながら、この時の牟田辺遊水地内の水位は、T.P.+10.86m と計画貯水位T.P.+12.01mより約1.1m 低く、計画貯留量90 万m3に対し、32 万m3しか洪水を貯留していなかった。写真ー5に越流状況を示す。
一方では、この洪水により牛津川下流砥川大橋上流7k800 付近においては、計画高水位5.79mを72㎝超え6.51m の水位を記録した(図-3参照)。さらに、牛津川野水位がH.W.L. を超えたため牛津川沿川の10 箇所の排水機場の排出停止又は、ポンプ運転調整を余儀なくされ、各地区で甚大な内水被害が発生した。
更に、平成24 年7月洪水時に2度目の洪水調節が行われました。平成21 年7月洪水と比較すると、妙見橋上流3時間雨量で、約1.4 倍、砥川大橋地点での推定ピーク流量は約70m3/s の増であった。(図-4参照)
しかし、今回もまた牛津川でH.W.L. を超えたため牛津川沿川の10 箇所の排水機場の排出停止又は、ポンプ運転調整が実施され内水被害が発生した。
このように、牛津川の治水安全度と牟田辺遊水地洪水調節機能のバランスが取れていないことから、頻度の高い中規模洪水に対して効果を発現するよう、牟田辺遊水地の施設改良を行うこととした。
4.越流堤改良方式及び構造検討
1)越流堤方式の検討
越流堤改良方式の検討として、追加新設案、可動堰化案を含め幅広く検討した結果は表ー1に示すとおりである。
また、今回改良施設は暫定構造物で将来的には現況の越流堤(越流高T.P+11.01m)形状に戻すという状況も鑑み、河道整備状況に応じて堰倒伏水位を上げることで向上が見込める運用が可能となる方式も検討の対象とした。検討の結果、他の比較案とコストの面においても有利である等の理由から、既設越流堤の頂部を下げてその上に起伏ゲート(H=0.80m)を設置する可動堰方式(表ー1参照)に改良することとした。
2)可動堰ゲートの構造検討
牟田辺遊水地は、下流水位有りの条件が存在すること、水位有りの状態で強制的に倒伏させる必要があることから、強制倒伏が可能な軸ねじり式扉体構造より、経済性等を考慮しトルク軸式扉体構造を採用した。
3)可動堰ゲート方式に伴う堰柱構造の検討
堰柱の平面形状は、流水阻害を少なくするよう小判型形状とした。
堰柱高は、洪水時の浮遊物などのゴミがかりを最小限とするため、極力既設越流堤から突出しない高さとなるよう設定する。既設越流堤高さにあわせた扉体高(倒伏水位)から、水密ゴムや施工精度等を考慮し10㎝の余裕をとり設定した(図-6)。
5.越流堤可動堰化における洪水調節効果検討
中小洪水に対応することを主とした、牟田辺遊水地により1/20 規模(平成21 年7 月洪水規模)の洪水が発生した場合は、約倍の30 万.の貯留量が増大し、牛津川下流8k800 付近で約-8㎝の水位低下があり計画高水位以内の約-5㎝の水位となる。なお、改良前の同地点では計画高水位を約4㎝超える水位となる検討結果となった(図-7)。
更に、1/30 規模(整備計画規模)の流量に対して越流堤を可動堰化することで、牛津川12k400 付近で約-17㎝の水位低下となり計画高水位以内の-1㎝の水位となった。なお、改良前の同地点では計画高水位より16㎝オーバーする検討結果となった。
なお、1/100 規模の洪水が発生した場合は、ピークカット効果が低減することになるが、現況の河道整備状況、事業進捗状況を考慮すると改修が進んでいない河道状況では1/100 規模の洪水が流下する場合でも改良を行った方が、牛津川7/400 付近で6㎝の水位の低減効果が見られる検討結果となった。
平成24 年7 月13 日洪水では、妙見橋水位観測所において、平成21 年7 月洪水を上回り平成2 年7 月洪水に次ぐ既往第2位となる水位を観測した。本洪水について牟田辺遊水地の改良を行った場合を想定し、その効果を計算した結果は表ー2の通りである。
可動堰ゲートの倒伏条件は、遊水地内の土地が平常時に農地として利用されているため、越流頻度と遊水地内の浸水被害増大を防ぐ観点から、牛津川水位が現況越流堤高T.P.+11.01m を超過し更に水位上昇し続けてT.P.+11.40m を超えた時点で倒伏し、牛津川水位がT.P.+10.21m を下回った時点において、遊水地の浸水被害を拡大しないようにゲートを起立させる操作を実施することとした。その操作イメージを図-9に紹介する。
6.越流堤可動堰化に伴う遊水池内の影響検討
既存の越流堤の可動堰化に伴い、遊水池内へのピーク流量が増大することから、平成21 年7 月実績洪水で洪水調節効果の検討について算出された牟田辺遊水地水位ハイドログラフより、ピーク水位時の湛水面積及び湛水時間を整理した(表-3参照)。
流入量の増大により遊水地水位及び湛水面積は現況施設に対していずれも増大するものの湛水時間は新規に湛水する部分を除き最大で30 分程度の増加に留まる結果となった。湛水時間は24 時間以内であり農作物(稲作)への影響は少ないものと考えられる。
7.おわりに
今回の牟田辺遊水地越流堤改良は、暫定的な対応であり、河道改修も、過去2回の激甚災害対策特別緊急事業で、外水対応の築堤等の整備と、その後の内水対策を重点的に実施してきた。
更に、近年の出水状況から、緊急的に河道掘削等を施工し水位低下を図ることも行っている。
しかし、河道掘削を実施しても数年後には又元の河道に戻るという現状がある。
また、高水敷には繁茂しているヨシ等が流水阻害を起こし、洪水時には水位上昇を起こしている。
掘削してもまた元に戻ろうとする河道と、流水阻害を起こしているヨシ原は、六角川の河川整備を行う上で大きな課題であり、幾多の現地実験等を実施してきているが、現状においてもなお解決に至っていない状況である。
この様な、河道特性を持った六角川において、今回の遊水地越流堤の改良が、今後の洪水において有効に活躍し、下流域の洪水被害が軽減する。最後に平成25 年3月末完成した可動堰型越流堤の完成写真と、従来の固定式越流堤の写真を掲載する。