国道202号福岡外環状道路における掘割道路の工事報告について
九州地方整備局 今田一典
1.はじめに
一般国道202号福岡外環状道路は、西九州自動車道や福岡都市高速道路など、広域的な高速道路ネットワークと一体となって福岡都市圏の外郭を形成する福岡県福岡市博多区立花寺から福岡市内南部を横断して西区拾六町に至る国道202号のバイパスで、福岡都市高速5号線を併設する道路延長約16.2kmの幹線道路である(図1)。
自動車交通の効率的な分散を図り、福岡市西南部地域の交通混雑の緩和を図るとともに、福岡都市圏の外郭を形成し、秩序ある都市の発展に寄与する目的で計画された道路改築事業である。
昭和48年度に事業化の後、昭和52年度より用地買収に着手し、平成20年度までに15.2kmを暫定2車線で供用しており、このうち、8.2kmについては、平成21年3月に完成4車線で供用を図っている。
福岡外環状道路の未供用区間として、現在整備を進めている諸岡~井尻地区(延長約1km)については、JR鹿児島本線と西鉄天神大牟田線の連立事業との調整及び周辺環境に配慮し、福岡都市高速5号線は連続高架、福岡外環状道路は掘割道路形式にて計画したものである(図2、図3)。
本稿では、この掘割道路部(アンダーパス)の主要な工事概要及びU型擁壁工の施工時における創意工夫(コスト縮減、工期短縮、新技術・新工法の採用等)の代表事例について紹介する。
2.福岡外環状道路の概要
(1)道路諸元
路線名 一般国道202号福岡外環状道路
(区間)自:福岡市博多区大字立花寺
至:福岡市西区大字拾六町
(道路延長) 16.2km
(構造規格) 第4種1級
(設計荷重) B 活荷重
(設計速度) 50km/h
(車線数) 4車線
並行路線
路線名 福岡都市高速5号線
(道路延長) 16.2km
(構造規格) 第2種1級
(設計速度) 80km/h
(車線数) 4車線
(2)地形・地質・地下水の概要
当該区間は、福岡空港より南西方向へ約1.8km程の平野部に位置し、御笠川や那珂川が北方へ向けて流下しており、肥沃な福岡平野を形成する。
地質構造は、中生代後期白亜紀の花崗岩類をその基盤とし、その上位に諸岡川や御笠川をその供給源とする未固結堆積物が堆積している。
基盤をなす花崗岩類は早良花崗岩と呼ばれるもので、その性状は一般的に粗粒な黒雲母アダメロ岩(花崗岩と花崗閃緑岩の中間)である。基盤岩の深度は、起点側では、深度15m付近に位置しているが、終点側では深度25m~30m付近に位置し、起点部~終点部に向け地下深部へ傾斜している。
基盤岩の上位を覆う未固結堆積物は、新生代第四紀更新世(洪積層)の博多粘土層及び荒江層、完新世(沖積層)の中州層や埋土などにより構成されている。博多粘土層は花崗岩起源の砂・砂礫・粘土層により構成され、荒江層は砂礫・砂・火山砕屑物等を主体とし粘性土層は少ない。
地下水は、南側に位置する山地から北側の平地部に流れており、水位はほぼ地表面に存在している。水質は、粘土層を境に沖積層(自由地下水)と洪積層(被圧地下水)に2分され、両地下水とも鉄分を含むが全体的に見て洪積層の方が鉄分を多く含んでいる。
3.工事概要
当該区間の掘割道路部は、全長890mであるが、JR鹿児島本線及び西鉄天神大牟田線との立体交差部の鉄道直下の延長38mは、RC1層4連ボックスカルバート(幅35m×高さ8.9m×4BL)をR&C工法(アール・アンド・シー工法)にて施工し、その前後近接部の延長58mは、RC1層4連ボックスカルバート(幅35m×高さ8.9m×4BL)をプレキャストボックスカルバート及び現場打ちにより施工し、さらに、その前後擦付け区間の延長794mついては、U型擁壁工(幅40m×高さ12m×31BL)を現場打ちにて施工するものである。
現在は、全体890m(39BL)のうち、鉄道直下部を含む23BLが完成し、残るU型擁壁部の16BLについて施工中である。
4.鉄道直下のR&C工法の概要
当該工事の主な特徴は以下のとおり
・1日約12万人の乗客と約460本の電車を運行するJR鹿児島本線と1日約30万人の乗客と約500本の電車を運行する西鉄天神大牟田線という重要幹線鉄道営業線の1.3m直下に道路構造物を築造するもので、鉄道直下では最大クラスのR&C工法による工事である。
・地下には共同溝、上空には都市高速5号線が併行し、工事における制約が著しく厳しい作業条件下での工事である。
・鉄道直下での函体けん引工作業は、夜間0時過ぎ~3時半頃間の3時間強程度に制約される。
・土木工事でありながら、軌道監視、軌道整備などの軌道工事も含まれる。
・周辺環境に敏感な地域住民の生活圏の中での工事である。(工事時間は8:00~17:00に制約)
(1)工事数量諸元
○けん引函体(4BL)
カルバート(1BL)の寸法
35.0m(W)×8.9m~9.2m(H)×9.36m(L)
内空容積 3,206m3(空m3)
コンクリート量 980m3、鉄筋量 150t
○けん引用ジャッキ類
西鉄鉄道直下部の工事では、函体けん引用フロンテジャッキ(1,500kN)53台、切羽土留用フェースジャッキ152台、ルーフジャッキ(1,500kN)104台、中押し用ジャッキ(1,500kN)53台、FCPL制御ジャッキ(1,500kN)20台、函体けん引補助ジャッキ(1,000kN)14台の合計396台を使用。
(2)R&C工法の概要
アール・アンド・シー工法は、従来の箱型ルーフを使用するSC工法及び箱形ルーフ工法を統合した施工法の名称であり、小断面の鋼製箱形ルーフにフィリクションカットプレートを載せ、これを地下構造物の計画位置に設置し、ルーフ後端には既製の函渠を据え付けてけん引により函体の設置と共に箱形ルーフの回収を行う工法である(図4)。
函体築造後の函体けん引工以降の施工手順は以下のとおり(図5)。
けん引工においては、電車運行時間から夜間0時過ぎ~3時半の3時間強程度の作業時間に制限されることから、日当たりけん引量は、平均35cm程度と作業効率が非常に悪い環境での工事であった(写真1,2)。
5.西鉄直下近接部のプレキャストカルバートボックスの施工概要
・工場で製作したプレキャストコンクリート製品(1断面当たり19分割、代表延長1.26m、1ピース当たり20t程度)を大型移動式クレーン(200t吊)を使用して、据え付けとPC鋼棒による締付固定を行う手順で施工(図6,7)。
・大断面(幅35m程度、高さ9m程度のカルバートボックス)の構造物を、多分割の工場製品(プレキャストコンクリート)で行う実績も少なく、初期の段階では、施工がスムーズに進まず苦労をしたが、ある程度の慣れと要領を掴めてからは、迅速な施工が図られた。今後の構造物のプレキャスト化に向けて大きな実績となった(写真3)。
6.一般部U型擁壁部の施工概要
標準的な1BLの工事内容は以下のとおり
U型擁壁本体工
40.0m(W)、12.0m(H)、15.0m(L)
コンクリート量 2,036m3、鉄筋 112.7t
床堀 6,300m3、埋戻 700m3
場所打ち杭(φ1,200㎜)28本
土留・仮締切工 鋼材重量 508t
薬液注入工 56本
7.工事における創意工夫の取組み事例の紹介
(1)コスト縮減(契約後VE提案)の取組み
・底版を張出し、その上部の埋め戻し土の重量を自重に組み入れられるようにし、浮上り対策の場所打ち杭を計116本から59本に削減(図9)。
・土留兼用場所打ち杭の削減に伴って生じる鋼矢板及び土留支保工の鋼材量の増大に対し、土留の逆解析・予測解析により作用側圧の推定を行いながら施工することで締切りの規格を上げずに安全性を確保しつつ鋼材量の増大を防止(図10)。
(2)新技術・新工法の採用事例の紹介
・都市高速の高架下で上空制限(4m)での支持杭(H鋼杭L=17m)打設において、リーダーを分割収納し、上空制限条件下での作業を可能にしたオーガー掘削機械『アレックス工法』を採用(図11, 写真4)。
・道路と掘削底面の高低差(約10m)と高い箇所における前後区間の施工において、コンクリート土留壁や矢板等での土留工法に替えて、補強材と盛土材との摩擦力で壁面に強度を発揮させる工法として、ジオテキスタイルを用いた補強土壁工法を採用し、比較的スピーディな施工を図った(図12, 写真5)。
(その他の新技術・新工法に関する事項)
・側壁及び壁高欄コンクリートの打設時に、気泡除去率が90%以上と高い気泡取り具(ピカコン及びピカコンⅡ)[NETIS:SK-04007]を使用
・底版コンクリート打設後の養生に、通常の養生マットに比べて保湿性能の高いQマット[NETIS:KT-980368-A]を敷設
・側壁の水平打継目に表面凝結遅延剤(ディスパライト)[NETIS:KK-990050-A]を散布して打継目処理することにより、マイクロクラックの発生を防止し、ムラのない均一な打継ぎ目を実現
・場所打ち杭の施工において、ハンマークラブを自由落下させないことにより、掘削時の騒音と振動を低減するSKS工法[NETIS:QS-030076]を使用
(3)その他の創意工夫の取り組み事例の紹介
(工期短縮に関する事項)
・使用する掘削BHを設計0.8m3→1.2m3級にランクアップし作業能力を向上。
・U型擁壁コンクリートの打設ロットは、土留切梁部材を埋設することで打設ロット回数を低減。
・鋼矢板背面の地表面付近の土圧を低減させることで、矢板自立に必要な構造物背面の埋戻し、高さを低くし、工程的に早い段階での1段目切梁撤去を可能とした。
・JR工事に一時中断を要請し、全面覆工板上によるJR工事との同時施工を可能とした。
・ベルトコンベヤ併用掘削による工程短縮の提案
・切梁埋殺しによる覆工、中間杭早期撤去による舗装・設備、ランプ部など、後工事の早期乗り込みを可能とした。
・流動化処理土使用による埋戻期間の短縮の提案
(周辺環境への配慮に関する事項)
・現場周囲の仮囲いについて、民家近接箇所などでは、ばんのう板H=3.0m+防音シートH=1.0mを設置して周辺への騒音低減。
・場内の埃対策として、散水車による場内散水や工事車両のタイヤ洗浄を実施。
・薬液注入工における周辺地下水への影響低減のため中和酸性の材料を使用。
・掘削後の掘削側への地下水の流入による周辺地下水の影響を極力低減させるため、鋼矢板接合部に膨張止水材による止水効果の向上。
・作業に近接する都市高速橋脚を全周、防護材で覆うことで既設構造物の損傷事故を防止。
・都市高速桁にクローラクレーンブームが接触しないように、ブーム先端にセンサーを設置するとともに、接近する作業での上空監視員を配置。
8.おわりに
以上、諸岡~井尻地区における掘割道路(アンダーパス)の工事概要及び施工時における様々な創意工夫について紹介しましたが、これは、発注者と施工業者が一体となり、様々な工夫と努力、真剣な取り組みの成果だと思っております。
当該工事は、住宅密集地であり、工事における制約が著しく厳しい作業条件である中、経済性、工期、安全、品質のいずれをも高いレベルで求めながら、最新の土木技術を生かした施工事例であり、今後の同種工事の参考となれば幸いです。