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ひむか(宮崎県北)の「いのちの道」としての
高速道路ネットワーク整備について
九州地方整備局 新保二郎
1.はじめに

国道218号は、九州中央部を東西に横断する道路であり、ひむか(宮崎県北)地域と熊本方面を結ぶ唯一の緊急輸送道路として、災害に強く、物流・経済活動を確保する安全性・信頼性の高い高速道路ネットワークの整備が求められている。
このような中、延岡河川国道事務所では、地域間移動を支援するための交通網、特に、未整備の高速道路ネットワークである、東九州自動車道の県境~北川間、国道10号延岡道路、国道218号北方延岡道路、国道218号高千穂日之影道路の整備を行っている。

本稿は、ひむか(宮崎県北)地域における救急医療活動(高度な医療が早期に受けられる体制)の現状と課題を整理し、平成20年に一部区間が開通した国道218号北方延岡道路の利用による救命効果の事例を踏まえながら、当該地域における高速道路ネットワーク整備の必要性を示すものである。
また、ひむか(宮崎県北)地域は、旭化成を中心とした産業集積があり、近年は高度医療関連産業の集積も進んできており、世界シェアトップクラスの分野のメーカーが複数存在している。そこで、広域的な地域連携の観点から高度医療機器の製造業『いのちを守る産業』の現状についても、高速道路ネットワーク整備の必要性について整理した。

2.宮崎県における高速道路ネットワークの現状

宮崎県内の高規格幹線道路は、平成21年度末現在までに約140kmが開通しているが、その開通率は42%と九州では最下位、全国と比べても著しく整備が遅れている状況にあり、特に、宮崎県北地域では、依然として断片的なネットワーク整備にとどまっている状況である。

※国道10号延岡南道路・国道10号延岡道路・国道218号北方延岡道路の開通区間を含む

3.「いのちの道」としての高速道路ネットワーク整備

延岡河川国道事務所では、地域間移動を支援するための交通網として、高規格道路を整備中である。
その中で、平成20年4月に一部区間が開通した国道218号北方延岡道路の救急医療活動面へもたらした整備効果を以下に示す。

【国道218号北方延岡道路の事業概要】

国道218号に並行し延岡市北方町蔵田から延岡市天下町(あもりまち)へ至る全長13.1kmの自動車専用道路で、平成20年4月までに延岡市北方町の北方ICから延岡市天下町の延岡JCT・ICまでの8.5kmが開通している。

【整備後の状況】

宮崎県北地域の高次医療機関への所要時間が約10分(約53分→約43分【日之影町立病院から県立延岡病院間】)短縮され、救命率の向上等に寄与した事例がある。

北方延岡道路開通による実際の救命事例

平成21年5月4日に掲載された夕刊デイリー新聞社の取材による記事を紹介すると、平成20年10月9日15時半頃、元日之影町議会議長の抜屋博信さんが、日之影町の山中で、刈り払い機で草刈の作業中、木に跳ね返った刃が右足のすねを直撃し、動脈が切れて大量出血。日之影町立病院へ搬送されたが出血量の多さ等から処置不能となり、県北部医療圏における唯一の第3次医療機関である県立延岡病院(延岡市)へ、国道218号北方延岡道路を利用して救急搬送され、大手術の末に奇跡の生還を果たした。との救命事例が示された。

4.宮崎県北地域における救急医療の現状と課題
(1)救急医療活動(救急搬送)

前述のように宮崎県北地域では救急医療では課題を抱えており、宮崎県内における救急出動件数は、年々増加傾向あり、過去10年間で約1.4倍(H18/H9)に増加している状況である。また、宮崎県北地域は県内の他の地域に比べて医療サービスが低く、10万人当りの病院数では県内最下位、医師数においても県平均を下回る町村が存在し、特にその傾向は県境付近の町村に多くみられる。

宮崎県北地域における救急搬送の実態を把握するために、管内の消防本部(消防本部を持たない非常備町村においては町村役場)、病院からのデータを収集し、救急搬送に関わるODの件数・平均搬送時間について分析を行った。

  1. 【消防本部】延岡市、日向市、【国民健康保険病院】高千穂町、五ヶ瀬町、椎葉村、美郷町(南郷診療所)、【役場】門川町、美郷町、日之影町、諸塚村(計10箇所)

宮崎県北地域の救急搬送は、延岡市・日向市を中心としたODの特徴を持ち、西部の山間地域では搬送時間に1時間以上を要している状況である。また、県境付近の高千穂町・五ヶ瀬町・椎葉村では、県境を越えた救急搬送が行われている実態もある(年間約40件)。
医療サービス水準が低く、救急活動体制の脆弱な地域においては、医療施設までの所要時間は非常に重要な要素であり、高速道路ネットワークの整備は、宮崎県北地域において救急医療活動を支える最低限必要な社会基盤といえる。

(2)救急医療活動(周産期医療)

宮崎県北地域においては、救急医療のみならず周産期医療でも、宮崎県北医療圏には延岡市のみに分娩可能な病院が立地している状況である。
熊本県境の高千穂町・五ヶ瀬町では、妊婦検診のみが可能な民間病院が1箇所(高千穂町)あるのみで、分娩時には延岡市内等の施設を利用せざるを得ない状況にある。また、宮崎県境から車で約2時間程度の熊本市内には、多くの分娩施設があることから、県境を越え熊本県で分娩を行うケースも存在する。
“誰もが安心して子どもを産み育てられる”という医療機会の享受の面において、宮崎県北地域では、地域間に格差が生じる課題を抱えている。

(3)救急医療関連産業

一方、宮崎県北地域では中心都市の延岡市を核として、九州東部で高度医療関連産業が近年活発化している状況にある。
高度医療関連産業では、血液製剤のウイルスに対する安全性を高める『ウイルス除去フィルター』や人工透析・血液透析療法を行うための『中空糸膜人工腎臓』、血液センター等で採血された血液・血液製剤から白血球を除去することを目的とした『白血球除去フィルター』など、日本のみならず世界でもトップシェアの医療機器が宮崎県北地域で製造されている。

自動車・半導体など大規模工場が少ない地域の中で、今後の成長産業でもあり“いのちを守る産業”として民間企業の投資が近年盛んであり、延岡市を中心とした東西・南北方面への物流が実施されている状況にある。


※2008.5 中空糸膜工場新設(約26億円):宮崎県延岡市
2009.4 ウイルス除去フィルター工場新設(約42億円):宮崎県延岡市
2009.4 白血球除去フィルター工場新設(約12億円):大分県大分市
参照:旭化成株式会社プレスリリース


この高度医療関連産業は、宮崎県北地域の方々にとって、少子高齢化等による人口減少、働く場所がないことなどによる労働人口の流出抑制のためにも重要である。また、これら製品の材料調達及び製品出荷等においても高速道路ネットワークの整備は、宮崎県北地域を支える重要な社会基盤となるものと考える。

(4)今後の整理課題(速達性が重要な治療等)

上述以外の医療分野においても、速達性に重要な意味をもつ最新医療では、脳梗塞患者への血栓溶解薬(t-PA)は、発症からごく短時間で治療可能な医療機関を受診する必要があるといわれており、宮崎県北地域は、脳血管疾患による死亡者の割合が高い地域でもあるため、これらについても今後より具体的に整理する必要がある。
また、癌検査におけるPET検査薬は、製造後の寿命が非常に短いなどの時間制約に対しても、今後、調査を行い、地域の課題を明らかにし高速道路ネットワーク整備の必要性を整理する必要があると考える。

5.おわりに

ひむか(宮崎県北)地域における高速道路ネットワークの整備は、『いのちの道』として高度な医療が早期に受けられる体制を構築し、地域生活の安心の提供に寄与するものと考えられる。
また、地域産業面においても、延岡市を中心に東西軸・南北軸の高速道路ネットワークの整備は、『いのちを守る産業』の円滑な物流を支援し、日本有数のメディカルバレーの形成に大きく貢献することが期待されるとともに、宮崎県北地域の活性化に大きく寄与するものと考えられる。
さらに、これら以外の新しい医療においても、時間制約があるものに対し、今後の継続的な調査により、地域の課題を明らかにし、高速道路ネットワークの早期整備の必要性を整理する必要があると考える。
ひむか(宮崎県北)地域のより一層の地域間連携支援・安心安全の提供を主眼に据えた高速交通ネットワークなどの基盤整備に努めるとともに、東京や福岡など都市部の方々にも当該地域の道路整備の必要性が理解されるよう、地域の方々とともに透明かつ効率的な道路整備に努めてまいりたい。
最後に、「いのちの道」として、北方延岡道路の開通効果を独自に取材され、新聞記事として掲載し、ひむか地域の現状と課題をとりまとめられた夕刊デイリー新聞社に敬意を表する次第である。

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