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ゴミ掘削における悪臭防止対策について
-本庄江防潮水門工事-

建設省筑後川工事事務所長
林  健次郎

建設省川辺川工事事務所
調査設計課長
・前建設省筑後川工事事務所
川副海岸出張所長
古 庄 俊 博

樟花建設共同企業体
(フジタ・松尾JV)
作業所長
田 中 正 道

1 まえがき
佐賀県本庄江地先に昭和60年4月より防潮水門建設工事が開始されたが,この工事に伴いゴミ埋立地の掘削工事が生じた。このゴミ埋立地は,佐賀市の生ゴミ等の投棄埋め立てにより生じたものであり,約1ヘクタールの面積に6~8mの深さに埋め立てられている状況である。
この掘削により悪臭が発生し,これにより周辺地域社会に悪影響を及ぼすところから,悪臭防止の対策が必要となり,次の順序で調査検討を行ったので,以下にその概要について記述する。
 ・ 臭気調査
 ・ 悪臭防止対策調査
 ・ 散布設備計画

2 臭気調査
2.1 調査の目的
悪臭防止に対しては悪臭防止法,及び法に基づく地方自治体の条例等により指導されている。その中で最初に必要なことは,臭気の測定である。本例では悪臭の発生源がゴミであり,単純な発生源ではないので次の方法によった。
2.2 調査の方法
(1) モニターによるアンケート調査
  6段階臭気表示(表ー1参照)
  9段階快・不快度表示法(表ー2参照)
(2) 官能試験法
  三点比較式臭袋法
(3) 臭気物質の濃度測定
これらの方法により必要に応じて現地及び室内での調査を実施した。

2.3 調査の内容
ゴミ埋立地の中央にパワーショベルで4m×4m深さ2mのゴミピットを掘り,測定点を以下のように定め必要な臭気環境調査を行う。
測定点
 ①ピットより風下 0m  地表
 ②   〃    5m 高さ1.5m
 ③   〃    10m  〃 〃
 ④   〃    20m  〃 〃

2.4 調査の結果
(1)モニターによる調査結果を表ー3に示す。

(2)三点比較式臭袋法による臭気濃度についての測定結果を表ー4に示す。

(3)臭気物質の濃度測定結果を表ー5に示す。

(4)考察
発生源からの臭気は典型的なゴミ臭であり,臭気濃度としては小さかったが不快度が高く,風下10mでも臭気強度が3.5以上であり,臭気対策の必要性が認められる。
なお,調査は嗅覚正常者を選出する試験に合格したモニターによって行われた。(写真一1)

3 悪臭防止対策調査
掘削現場付近,ゴミ搬出道路の沿線,ゴミの搬出先の周辺には,人家がそれぞれ散在している。また,掘削現場及び搬出先の区域には広い面積があるので,対策工事としては,消臭剤による効果が最も期待できるという予測の下に,調査を進めた。

3.1 調査の目的
消臭剤は,各メーカーにより各種製造されているが,種類の選定,使用方法等を効果測定調査により検討する。

3.2 調査の方法
調査の方法は2.2に記載した方法と同様とし,下記の通りである。
 (1) モニターによるアンケート調査
 (2) 官能試験法
 (3) 臭気物質の濃度測定

3.3 調査の内容
主な項目は,消臭剤選定テスト,消臭剤噴霧テスト,消臭剤持続テストの3項目あるが,以下にその内容を記述する。
(1)消臭剤選定テスト
採取したゴミ1kgを,45ℓのビニール袋にいれ,図ー1,写真ー2に示すような装置を使用し,ゴミ臭を噴霧器に送り消臭剤を噴霧する事により,処理臭をモニターにより識別した。また,三点比較式臭袋法の簡便法により臭気濃度を測定する。

使用する消臭剤は,適当と考えられる3種類とし,下記の組合せとする。
測定点
 ① A 剤    0.5 0. 75 1. 0(濃 度%)
 ② B 剤    0.5 0. 75 1. 0(濃 度%)
 ③ C 剤    0.5 0. 75 1. 0(濃 度%)
 ④ A,B混合   0.5 0. 75 1. 0(濃 度%)
調査項目
(a)モニター5名により,1:1識別法による測定を測定点①②③④について行う。
(b)三点比較式臭袋法の簡便法による臭気濃度の測定を,測定点①~④までの最も良好なものおよび,原臭について行う。
(2)消臭剤噴霧テスト
テストは,2,3で記載したゴミピットを使用し,このピットに消臭剤を噴霧し,処理前と処理中における臭気環境を調査する。
測定点
 ① ピットより風下 0m  地表
 ②         5m 高さ1.5m
 ③          10m  〃 〃
 ④         15m  〃 〃
調査項目
(a)モニターによる6段階表示法による臭気強度の測定を測定点①~④について行う。
(b)三点比較式臭袋法の簡便法による臭気濃度(室内)の測定を測定点①③およびピット内について行う。
(c)ガス分析による臭気物質の濃度の測定を測定点①③およびピット内について行う。
(3)消臭剤持続テスト
室内と屋外の各々について測定する。
室内では,10ℓポリ容器にゴミを1kg入れ,消臭剤の濃度を2%,10%の水溶液として,各30㎖散布する。
各容器から適時臭気を採取して下記の調査を行う。
測定点 ① 0時間後
    ② 1時間後
    ③ 2時間後
    ④ 18時間後
調査項目
(a)モニターによる臭気の質についての測定を,測定点①~④について行う。
(b)三点比較式臭袋法の簡便法による臭気濃度の測定を測定点④について行う。
屋外では,埋立地より掘削されたゴミで,それぞれ1.0m3(1m×2m×高さ0.5m)のゴミ山を3つ作り,その中の2つのゴミ山に噴霧器で消臭剤を噴霧し,1つの山は噴霧後ただちにシートで被覆する。その後,3つのゴミ山について一定時間ごとに表面より臭気を採取して下記の調査を行った。
測定点 ①無処理のもの
       直後,1時間後,5時間後
     ②消臭剤を噴霧し解放したもの
        直後,1時間後,5時間後
     ③消臭剤を噴霧しシートで被覆したもの
        直後,1時間後,5時間後
     ④霧処理で1時間後に鍬返したもの
調査項目
   三点比較式臭袋法の簡便法

3.4 調査結果
(1)消臭剤選定テスト
モニター5名による1:1識別法に基づく評価は下記のとおりである。

表-6の評価結果によれば,最も良好と考えられる処方は,B剤の0.75%である。また,濃度を濃くすると薬品臭が強くなることが考えられる。
この最も良好と思われる処方について,原臭および処理臭についての三点比較式臭袋法の簡便法による測定結果を下表に示す。

(2)消臭剤噴霧テスト
消臭剤は最も良好と判断されたB剤を用い,その5%水溶液を噴霧器より噴霧して測定を行った。
6段階表示表,三点比較式臭袋法,およびガス分析の各々の結果を以下に示す。

(3)消臭剤持続テスト
モニターによる臭気の質の測定結果を表ー10に示す。また,三点比較式臭袋法の簡便法による臭気濃度の測定結果を表ー11に示す。

3.5 室内試験と現地試験との関連について
一般に,室内試験に用いた消臭剤の噴霧濃度の5~10倍の濃度の消臭剤を現地で使用しないと同等の効果が得られないとされている。その理由としては,室内の密閉状態と広い屋外の自然状態との差によるものと考えられている。
本例の実験結果を分析してみると,表ー12のとおりである。

原点の臭気濃度が異なるので正確な値は求められないが,数倍の濃度となっており一般例と一致している。

3.6 考察
悪臭防止対策調査の結果から考察されることは下記のとおりである。
(1) 室内試験により,ゴミに対する消臭剤の品種を選定したが,B剤が最も適応していることが確認された。
(2) 室内および屋外試験により消臭剤(B剤)の即効性が認められ,また持続性も期待された。
(3) 屋外のピット内への消臭剤(B剤)の噴霧による現地テストでも,各モニターの評価結果および濃度分析結果共,臭気の強度,濃度のいずれも大きく改善されることが実証された。
(4) 現地では,5%程度の消臭剤(B剤)の使用が最適とされる。

4 対策設備の計画
ゴミの掘削,運搬,埋め立ての諸元は概略下記のとおりである。
  掘削面積・深さ  100m×120m 平均7.0m
  運搬距離・時間      2.0km   6分
  埋め立て面積      3,500m2
調査の結果から,ゴミ臭による不快感が特に強い場所と時は,掘削時・積み込み時・積み卸し時等のようにゴミを鍬返す時と,その場所である。また,運搬時にも臭いが発生する。これらの臭気発生源に対して個々の散布設備が必要である。これらの設備計画を示すと表ー13のとおりである。
なお,掘削用パワーショベル3台,運搬用ダンプトラック10台を使用するとして,1日当りの消臭剤5%溶液の散布量を参考までに掲載する。また,その設備の一部を図ー2,写真ー3に示す。

5 おわりに
この調査は昭和60年4月に実施し,その後設備計画検討を経て,掘削工事を昭和60年11月から昭和61年2月まで,第一期工事分として実施した。ゴミ全体の約7割を搬出したが,ほぼ計画どおりの悪臭防止対策を施すことにより,周辺地域社会ヘ悪影響を及ぼすことなく工事を実施することが出来た。
現在は第二期工事分を実施中で,昭和63年1月までゴミ掘削工事が継続される。

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