横断歩道橋防食構造に関する一考察
国土交通省 九州地方整備局
九州技術事務所 機械課長
九州技術事務所 機械課長
牧 野 千代春
国土交通省 九州地方整備局
九州技術事務所 機械課 機械設計係長
九州技術事務所 機械課 機械設計係長
原 堅 次
1 目 的
横断歩道橋の防食に関しては,定期的なメンテナンスの実施や高耐久性塗装の採用による塗膜の長寿命化を図る等の防食対策を実施しているが,その効果はそれほど期待出来ず数年で腐食が見受けられる例や,腐食による錆汁が発生し景観を損ねる事例も少なくない。横断歩道橋は道路景観形成としての美しさも要求されることから,防食に対する効果的な対策が求められている。
このため,横断歩道橋における腐食多発部位の防食性能向上を目的とした構造等の設計検討を行いメンテナンスコストの縮減を提案するものである。
2 歩道橋腐食度調査の実施
2.1 事前調査
今回の検討を行うにあたり,現状の横断歩道橋の設置環境や構造形式等による腐食の状況を調査し,腐食度の詳細調査を行うための基礎資料とした。
2.2 事前調査橋梁の選定
選定にあたっては,今後検討する防食構造が広く活用できるよう調査施設は以下の4項目に配慮し選定を行った。
① 設置環境分類
設置環境(交通量や飛来塩分等)による腐食性の相違の把握を行う。設置環境条件の分類に当たっては,海岸からの距離と交通量により分類し,今回はより環境が厳しいと考えられる海岸より2km以内の沿岸部を対象とする。
② 構造形式
防食構造を検討する対象構造形式の選定にあたっては,当該地域の一般的な構造形式を上部工形式,床版形式と桁の断面形状から分類を行い選定した。
③ 架設年次
架橋数が多い年次に対して選定を行うこととし,適用技術基準の違いにより1968年以前と1985年以降に区分し,最も架設数が多い年度のものを選定する。
④ 補修履歴
同条件で比較が可能となるように塗替塗装をはじめとする補修履歴に配慮する。最終で塗装された年次から現在までの経過年数を5年毎に区分し最も多い区分のものを選定した。
2.3 事前調査の結果
今回調査を行った中から,特に腐食が著しいと思われる箇所を以下の写真-1に示す。
2.4 腐食度調査
事前調査の結果から,今回の調査では設置環境毎に対する腐食度の相違は見られず,構造形式の違いによる腐食が多く確認された。
よって,腐食度調査歩道橋を選定するにあたっては,以下の条件により選定し調査を行った。
① 沿岸条件…劣悪環境(沿岸部+市街地)・最良環境(郊外部)
② 構造的要因…床版形式・排水構造・舗装種別・階段桁構造
調査対象歩道橋を表-1に示す。
2.5 腐食度調査の結果
現地調査結果において,損傷箇所(腐食,防食機能の劣化)として,①橋面(床版),②橋面(地覆部),③高欄,④排水装置(橋両部),⑤排水装置(階段部),⑥階段部(階段桁),⑦階段部(踏板),⑧支点部,⑨橋脚柱の9箇所の部位で確認された。
3 腐食度評価
3.1 腐食度評価区分の設定
腐食度評価を行うにあたっては,分析作業の簡便性及び透明性の向上を目的として,点検要領に記載されている「腐食」と「防食機能の劣化」の損傷程度の評価区分を基に,表-2に示す3段階の腐食度を設定した。
3.2 着目部位の抽出
本検討による選定防食構造がより広範囲の歩道橋にて適用できるように,現地歩道橋の腐食状況及び構造特性(補修緊急度等)を踏まえた検討着目部位の抽出を行った。
抽出方法として,評価対象部位毎の腐食度評価結果を,その他の評価項目を基に設定した補正係数により補正し,総合評価が高い部位を着目部位として抽出した。また,評価対象歩道橋は現地調査を行った箇所を対象とし,その平均値にて評価を行った。評価対象部位は現地調査にて損傷確認した9箇所の部位を評価対象部位とした。
腐食度の補正係数を設定するにあたっては,歩道橋の維持管理を経済性,施工性,使用性,耐久性等を総合的に判断し実施するうえで,補修・補強等の要否の判断指標(材料)として考えられる項目を抽出し,各評価項目の重要度に応じて補正係数の重みを決定した。
上記の方針にて設定した補正係数及び腐食度の補正方法を表-3に示す。
上記の補正を加えて算出した各対象部位の評価を表-4に示す。
そこで,総合評価値の高い順に①橋面(床版)②橋面(地覆部)③階段部(踏板)④階段部(階段桁)⑤支点部の5箇所の着目部位の抽出を行った。
4 腐食要因の特定
4.1 着目部位と構造形式との相関関係の把握
今回の調査対象歩道橋は,架設年次や塗替え回数,最終塗替え時からの経過年数も様々であり,歩道橋により維持管理の水準が統一されておらず,これらを無視して腐食度の比較を行ったとしても歩道橋の腐食に関する正確な知見は得られないと考える。
よって,着目部位毎に腐食度の比較を行うにあたっては,腐食度の比較条件を統一する目的で再度腐食度の補正を行った(表-5)。以下に,構造形式の違いによる相関関係の比較のうち腐食の発生割合が最も顕著に現れた橋面部の床版形式と排水形式に着目した結果を図-1・図-2に示す。
4.2 腐食度調査の総括
① 橋面(床版)の腐食
橋面(床版)の腐食に対しては,「床版形式」及び「排水形式」の構造形式の影響が大きく,「鋼床版-排水溝」の組合せの腐食が大きい。
② 橋面(地覆部)の腐食
橋面(地覆部)の腐食に対しては,「床版形式」及び「舗装形式(橋両部)」の構造形式の影響が大きいが,他の構造形式の組合せに対して著しく腐食度が大きい構造形式の組合せは見られない。
③ 階段部(階段桁)の腐食
階段部(階段桁)の腐食に対しては,「排水形式(階段部)」及び「舗装形式(階段部)」の構造形式の影響が大きく,「薄層舗装-排水装置なし」の組合せの腐食が大きい。
④ 階段部(踏板)の腐食
階段部(踏板)の腐食に対しては,「排水形式(階段部)」の構造形式の影響が特に大きいが,他の構造形式の組合せに対して著しく腐食度が大きい構造形式はない。
⑤ 支点部の腐食
支点部の腐食に対しては,「舗装形式(橋面)」及び「床版形式」の構造形式の影響が大きく,タイル(舗装形式),デッキプレート(床版形式)排水溝(排水形式)の3つの構造形式の組合せが他の組合せと比較して腐食度が大きい。
5 防食対策構造案の検討
防食対策構造実の検討を行うにあたっては,新設歩道橋に対する構造改良案及び既設歩道橋に対する補修構造改良の2つの視点により,経済性,施工性,維持管理等の評価項目の重要度に応じて重みを付けて評価検討を行った。対策構造案のうち橋面,階段部に主眼をおいた主対策として有効と思われる構造を表-6に示す。
6 対策構造案の立案
今回の検討で立案された中から,橋面部の防錆対策として有効と思われる構造を図-3に示す。この構造は横断勾配を幅員中央に向かって逆おがみ勾配とする事により,地覆部の鋼材表面への雨水の滞水を防止することにより防食性を向上するものである。
新設及び既設補修時の場合の評価を表-7に示す。
7 まとめ
今回の検討により,横断歩道橋の腐食の発生原因となる構造と構造形式の組合せによる腐食発生への影響が密接であることが判明した。しかし,腐食原因及び防食対策を無効とする原因は多数あり,腐食や防食においても経験や実践から得られた判断も必要とされる。また,腐食原因には不確実な要素が多数含まれており,全ての腐食原因を網羅することは不可能であり,予期せぬ事象により腐食が起こることは防止できない事が予想される。
今回立案した防食構造は,現況構造の現地調査結果及びFTAによる要因特定結果を基に,コスト・施工性・腐食性能等の総合評価結果から選定したものである。しかしながら,選定に際してはコストを除きいずれも定性的な評価によるものであり,実構造における定量的な防食構造は把握できていない。
今後は,選定された防食構造に対して実構造における確認試験を行い,防食性能について定量的に評価を行い,提案された防食構造の妥当性を検証するものである。