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堰・水門・樋門等の健全度評価
~ゲート設備とコンクリート構造物との複合診断に向けて~
橋本克也

キーワード:維持管理計画、長寿命化、維持管理マニュアル、河川コンクリート構造物点検

1.はじめに

高度経済成長期から増加した堰、水門、樋門等の河川構造物は、建設後40 年を超過し老朽化による整備、更新等の機能維持に要する費用が増大している。
平成20 年4月から「河川用ゲート設備点検・整備・更新検討マニュアル(案)」(以下、「本省版マニュアル」と呼ぶ。)が運用され、平成23年5月には河川砂防技術基準維持管理編(河川編)の策定を経て「河川構造物長寿命化及び更新マスタープラン」が平成23 年6月に取りまとめられた。
筑後川は古くから河川改修に取り組まれており、老朽化した施設が多いため、維持管理費用の増大は避けて通れない状況から限られた予算で効果的に維持管理することが求められている。

2.取り組みの経緯
コンクリート構造物の劣化度診断は、河川構造物、道路橋、トンネルなどで取り組まれており、ゲート設備単体での劣化度診断、更新・改造検討の事例も数多く存在する。しかし、河川環境に適したコンクリート構造物の点検、診断から評価手法は確立したものが無い状況であり、点検から健全度評価の体系整理が求められていた。
ゲート設備においては、基本的方策が本省版マニュアルで示されたが、河川毎の特性や環境条件等を踏まえた具体化が必要であった。
そこで、ゲート設備とコンクリート構造物との両面から健全度を評価し、長寿命化に主眼を置いた効率的・効果的な維持管理計画策定を目指して、平成21 年度に学識者を交えた「筑後川老朽施設維持管理検討委員会」を設立し2ヶ年にわたる検討の結果、点検から評価までを体系的に整理した「筑後川版・河川管理施設維持管理検討マニュアル(案)」(以下、「本マニュアル」という。)を平成23 年3月に取りまとめて運用中である(取組経緯と本マニュアル編集概要は図-1参照)。

3.本マニュアルの特筆点
筑後川は、幹川流路延長143 ㎞、流域面積2,860km2に及ぶ九州最大の河川で、感潮区間が河口から23k000 地点の筑後大堰までと長く、有明海から山間部までの変化に富んだ環境に多数の施設が設置されていることから、①筑後川の流域特性を反映した補修、更新等の優先順位付けや②環境条件・使用条件を考慮した健全度評価付けを行うこととした。
以下に本マニュアルの主な点を記す。
1)総論
多数の施設で効率的な保全計画を立てるために、施設規模、被災規模、設置環境、使用条件などから、社会的影響度と優先度評価マトリクスを作成し、補修等の優先順位付けを容易にした(図-2)。

2)ゲート設備
ゲート設備に関しては、本省版マニュアルを筑後川の特性に合わせて主に次の点をカスタマイズした(図-3)。
①ゲート設備に関する点検、評価、保全の維持管理体系を整理。
②設備機器単位毎の健全度評価基準、点検結果の判定基準と傾向管理結果とを組み合わせた評価を体系化。併せて、点検シートの改善、傾向管理手法の具体化、健全度評価の整理)
③通常点検では点検できない没水部や主要部材の板厚調査などを行う塗り替え時点検の試行。

3)実施状況と考察
平成23 年度の点検から当事務所管内のゲート設備で本マニュアルに基づく点検と健全度評価を試行する中で、点検業者の方々のご協力のもと、点検に於ける課題とその解決策検討を進め、本マニュアルの補完を行っている。
また、維持修繕費関連予算の要求にあたり、本マニュアルを活用した優先順位付けを試みて妥当性を検証中である。

4)コンクリート構造物
(1)コンクリート構造物の維持管理体系
筑後川流域にあるコンクリート構造物の主な劣化要因として、コンクリートの中性化(全川)、塩害による劣化(感潮域)である。また、アルカリ骨材反応による劣化事例も出ている。
コンクリート点検は図-4に示すとおり、目視による「定期点検」(約10 年サイクル)と感潮区間で行う「特定点検」を基本とし、定期点検でS判定とされた構造物は劣化機構の推定と詳細調査を実施することとした。これらの点検手法、点検頻度、点検箇所等をマニュアル化している。
評価基準および維持管理の区分は、土木学会【2007 年制定】コンクリート標準示方書〔維持管理編〕を基に、定期点検の「損傷評価基準」、「対策区分」を定めた。なお、特定点検では鉄筋位置での中性化残り、全塩化物イオン量を健全度評価指標に採用した。
その際、中性化残り、全塩化物イオン量の判定指標は、「コンクリート標準示方書」や「非破壊試験を用いたコンクリート構造物の健全度診断マニュアル(土木研究所)」を参考に設定した。
(2)コンクリート点検の実施状況と考察
骨材の品質に問題がある可能性が高い年代で感潮区間の施設を皮切りに点検を実施し、データ蓄積を行っているところである(表-1)。
中途でデータ不足であるが、これまでの点検結果から次の傾向が見える。

●中性化
 昭和41 ~ 60 年が、それ以前の施設よりも中性化残りが薄い傾向にある。
●塩化物イオン量
 河口部から10.0㎞までの施設で、塩化物イオン濃度が高い傾向にある。また、昭和41 ~ 60年に設置された施設の劣化進行がその年代以外の施設より進んでいる傾向にある。
●アルカリ骨材反応
 昭和41 ~ 60 年に設置された施設において、アルカリ骨材反応が確認されたため、確認された施設は継続的に経過観察することとし、表面の変状が見られた場合は、詳細調査を行う予定である。
 細骨材に海砂を用いた昭和41 ~ 60 年初頭の構造物やアルカリ骨材反応を示す川砂が細骨材に混在していた可能性がある昭和60 年以前の構造物点検は要注意である。

4.今後の取り組み
1)点検の実施
ゲート設備について、定期点検はもとより、通常は動かせないゲートの運転時点検を強化するとともに、塗り替えや修繕時に行う点検で没水部の調査、板厚計測、溶接部の詳細調査を充実させ保全計画策定と施設の長寿命化を目指す。
コンクリート構造物について、これまでに73施設の点検が完了し、必要に応じて詳細調査と補修検討を進めているところである。
今後とも計画的に点検・評価していくとともに、排水機場等のコンクリート構造物点検へ範囲を広げて実施する計画である。

2)施設維持管理計画への反映
構築したデータベースシステムへの点検データ蓄積を今年度から本格的に行うよう計画しており、点検データに限らず修繕・整備・更新や補修履歴データなどを確実に蓄積し、それらを随時活用することで最適な補修時期と優先度評価を加えた短期保全計画策定に供するものとし、中長期の維持管理計画および長寿命化計画策定の基礎資料へ活用できるようデータ蓄積を行う。
さらに、ゲート設備とコンクリート構造物個々の維持管理計画を相互調整して、より効率的な維持管理を目指したい。

5.おわりに
本マニュアルは、現時点での知見に基づき取りまとめたものであるが、河川の特性により適した維持管理手法の確立へ向け、各種データ蓄積を実践しながら適宜改訂していくことが肝要である。

謝辞
本マニュアルの取りまとめにあたり、「筑後川老朽施設維持管理検討委員会」において2年間にわたりご指導を頂いた委員長の九州大学豊貞雅宏特任教授(兼大阪大学招聘教授)をはじめ、福岡大学添田政司教授、(独)土木研究所藤野健一主席研究員、関係各位にこの場をお借りして御礼申し上げます。

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