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雲仙・普賢岳土石のコンクリート用骨材
としての適用性試験

建設省九州技術事務所
材料試験課長
金 丸  弘

建設省九州技術事務所
材料試験第二係長
森 山 義 幸

1 はじめに
雲仙・普賢岳は,平成2年11月17日,約200年ぶりに噴火,その後火山活動は活発化し,平成3年5月には水無川で土石流が発生,この時期には火砕流が頻発し,6月3日には大規模火砕流により,死者・行方不明者41名,50戸を焼失する大惨事となった。
また,6月8日の火砕流によりその先端は国道57号まで到達し,被災範囲の広がりと,発生土石の蓄積量は膨大なものとなっている。
このような状況のもとで,降雨等により水無川で土石流が発生し,下流域まで流下堆積を繰り返し現在も懸命なる土石の排土作業は行われているが土捨場の確保等その処理にも困難をきたしており早急な対策が望まれている。
本稿では,雲仙・普賢岳で発生した土石の有効利用の一環として,コンクリート用骨材としての適用性について調査・試験を実施したので,その結果を報告するものである。

2 土石の試料採取
試料の採取は,平成4年2月に現地立入制限もあり,1箇所の試料とした。
採取位置は,雲仙・普賢岳下流約6.5km(国道57号から約500m下流)であり,その位置(図ー1),採取状況(写真ー1),堆積状況(写真ー2)を示す。

3 土石流の特性
(1)粒度分布(分級試験)
搬入した土石流の試料約2000kgを各分級毎に重量を測定した。図ー2は土石流の粒度分布を表わしたものであるが分級試料によって大粒径の混入で大きな差異を生じた。
土石流の最大寸法は300mmで40mm以上が4%,40~20mmが4.3%,20~5mmが29.5%,5mm以下が62.2%であった。
これは,標準的なコンクリート配合と比較した場合,普賢岳の土石をコンクリート用骨材としてそのまま用いると粗骨材料が不足することになる。今回,土石流を採取した位置が立入可能な下流域の1箇所のみの採取しか出来なかったので,今後全体的な粒度分布状況調査を行う必要がある。

(2)含水量試験
代表試料200kg程度を採取して実施した含水量試験結果を表ー1に示す。含水比は細骨材・粗骨材のいずれも4.6%とほぼ同等の値であった。通常,粗骨材の場合は細骨材に比べて含水比は小さくなる傾向にあるが,これは火山ガスが抜けて空隙の多い粗骨材ができたものと判断される。

(3)骨材としての品質試験
① 比重・吸水率,洗い試験
細骨材および粗骨材の品質試験のうち比重・吸水率,洗い試験結果を表ー2に示す。

◦ 比重・吸水率について,細骨材はコンクリート標準示方書(以下,標準示方書)で特に規定値はないが,粗骨材の比重は,2.5以下,吸水率は3.0%以上と規定値外にあり,使用に当たっては,考慮しなければならない。
また,細骨材の方が表乾および絶乾比重とも大きく,吸水率は反対に小さいことから,細骨材の方が粗骨材に比べて良い材料といえる。
◦ 洗い試験で失われるものは,細骨材および,粗骨材のうち40~20mmは,標準示方書の規定値内に納まっている。一方,20~5mmの粗骨材については,標準示方書の規定値から2割程度外れている。
② ふるい分け試験
細骨材と粗骨材の粒度分布を図ー3.1と図ー3.2に示す。
◦ 細骨材の粒度分布は標準示方書の標準粒度に比べ5~2.5mm粒径が若干多いものの,その他の粒径は標準粒度の範囲内にある。
◦ 粗骨材の粒度分布は大きい粒径がほとんどなく10mm以下が60%以上を占めている。
このような粗骨材をコンクリート用骨材として用いると単位水量が増し,乾燥収縮は増大すると考えられる。

(4)桜島・野尻川の土石流堆積物の物性比較
桜島・野尻川の土石流の有効利用の一環として平成2年度にその骨材を利用して大隅工事々務所が,帯工や側壁等に土石コンクリートの試験施工を実施した。
ここで普賢岳・水無川の土石と桜島・野尻川の土石について物性比較するため桜島骨材の性状試験結果のうち比較できる項目について報告書から抜粋させてもらった。
① 比重試験
細骨材の比重は表乾比重2.52,絶乾比重2.46とほぼ同じ値である。
粗骨材は40~20mmで表乾比重2.41,絶乾比重2.35,20~5mmで表乾比重2.43,絶乾比重2.37と雲仙普賢岳に比べ4~6%比重は大きいが,いずれも,標準示方書の規定値2.5以上から外れている。
② 吸水率
細骨材は,2.52%粗骨材の40~20mmは2.35%,20~5mmは2.48%と標準示方書内に納まり,雲仙普賢岳土石とは異なっている。
③ 洗い試験
細骨材は,4.9%,粗骨材は,3.7%と標準示方書の規定値から外れており,洗い試験で失われる率は普賢岳より大きい値となっている。
④ ふるい分け試験
桜島土石流の粒度分布については,細骨材の占める割合は全骨材中の重量の約55%と多いことから同じような特徴を示している。
また,粗骨材の粒度分布は大きい粒径が少ない一方,細骨材の粒度分布は,標準粒度におさまる範囲であった。
細骨材の粗粒率(F・M)は,2.58と普賢岳の骨材に比べ細粒分が多いようである。
以上の結果から,桜島の土石と普賢岳の土石とも火山岩の共通点が多くみられた。今回実施した普賢岳の土石の試験項目は少なかったため,今後他の試験項目を増やして詳細な物性,化学試験等を計画する予定である。

4 コンクリートの配合試験
(1)骨材の混合割合
細骨材及び粗骨材の混合割合については,土石流の粒度分布を基に,表ー3のとおりとした。

(2)試し練り試験
コンクリートの配合条件を設定するに当たり,骨材性状は,通常の骨材と比較してあまり期待できないものと考え,無筋構造物程度を想定し,水セメント比55%を基に単位水量の調整によって所要の条件として,スランプ8±2.5cm・空気量4±1%を満足するよう試し練り試験を行った。
図ー4は,試し練り試験によって得られた単位水量とスランプの関係を示したもので,sℓ=0.58W-102の一次回帰式で表わされ高い相関性が認められた。

目標としたスランプおよび空気量を満足させるための単位水量は190kg/m3となり,通常よりも極端に大きな値となった。これは骨材の混合割合を土石流の粒度分布に合わせたことにより,細骨材率が63.3%と通常の約2倍と多かった結果からといえる。試し練り試験結果は,表ー4の通りであった。

(3)圧縮強度試験
圧縮強度試験供試体は,水セメント比55%単位水量180,190,195kg/m3の3配合について,それぞれ3本×2材令の6本製作した。圧縮強度は,表ー5のとおりであり,スランプが大きくなるに伴って小さくなる傾向にある。
また,材令28日の強度は,いずれも300kgf/cm2以上が得られており,コンクリートの強度性状としては問題ないと判断される。

5 今後の検討課題
土石流のコンクリート用骨材としての適用試験を実施したが,粗骨材の品質としては,標準示方書の規定値を外れるものであった。しかし,コンクリートは強度的には問題なく,その有用性は確認されたと考えている。
今回の試験によっていくつかの問題点も明らかとなったので,‘‘問題点と今後の課題’’として,次の事項について検討を加えたいと考えている。
(1)材料について
① 土石流の粒度分布は,砂分が60%以上であることから,試料採取地点を数箇所(面的および深さ方向など)で実施し,土石流の全体的な粒度性状を把握することが必要である。
② 粗骨材の品質が劣り,その絶対量が不足するため,大粒径の骨材を破砕するなどの設備や他地点からの流用などの検討および,骨材品質の詳細検討が必要である。
(2)配合について
① 単位水量が増大し,単位セメント量が増すことから,高性能減水剤及び流動化剤等の使用を検討および,乾燥収縮,断熱温度上昇等の性能を把握する必要がある。
② 細骨材率が大きいことから,粗骨材の全体量を把握する必要がある。
(3)強度性状
セメント水比と圧縮強度の関係および耐久性の性状等を把握する必要がある。

6 おわりに
雲仙・普賢岳の噴火に伴う火砕流堆積物の総量は1億m3を超すに至っている。
建設事業にかかわる今日の情勢は,建設副産物に関する総合的な施策として,今まで顧みられなかった材料についても利用の可能性や,用途について調査研究が行われ,一部実施されている。
今後,普賢岳の土石についても継続調査を行い実用性のあるものにしたいと考えている。
最後に,試料採取などにあたり,建設省長崎工事事務所小浜出張所および,長崎県島原振興局雲仙岳土木災害復興部の御協力を得たことにお礼を申しあげます。
写真ー3~5は,土石流が水無川を越流氾濫した直後の写真(平成4年8月撮影)。
 長崎県島原振興局提供

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