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CCTVカメラと遠赤外線カメラを用いた
画像処理型流速測定法の実用化に向けて
夏目浩和
梅田真吾

キーワード:流量、CCTV カメラ、画像解析、STIV

1. はじめに
九州地方整備局管内の直轄20水系では、河道計画の基礎となる高水流量観測の観測手法として浮子測法を採用している。浮子測法はトレーサ(浮子)を流し、ある区間の通過時間を計測して流速を計測する、という“ 古典的” な手法であるがゆえ、流量規模や流速機器の故障等の影響を受けず最も確実かつ簡便に観測できるという特徴を有している。しかしながら、九州地方整備局管内の多くの河川で計画規模を超過した平成24年7月の九州北部豪雨では、①観測所周辺の道路や橋梁の冠水により観測所に到着できない、②浮子投下橋梁が冠水し、浮子を投下できない、③観測員の安全が確保できない、といった理由により、一部の観測所では高水流量観測の実施そのものが困難となった。このように浮子測法の課題が顕在化する一方で、近年、ADCP・電波流速計・画像処理型流速測定法といった種々の流速観測手法が実用化されつつある。ADCP は6.0m/s 程度の流速規模までしか計測できず、電波流速計は固定式・可搬式ともに観測時に橋梁が必要なため、計画規模やそれを超過する大規模洪水時に用いることは困難であると考えられる。一方、画像処理型流速測定法は解析に適した流況を撮影した動画があれば室内で解析できる。
このような状況を踏まえて、九州地方整備局では、計画規模を超過する大規模洪水時も流量が測れるよう観測技術の高度化検討に取り組んでおり、今回、「CCTVカメラと遠赤外線カメラを用いた画像処理型流速測定法の実用化」について検討した内容を述べる。

2.CCTVカメラを用いた高水流量観測の準備
(1) 高水流量観測に適したCCTVカメラの選定
九州地方整備局管内には、河川の空間・施設監視を目的とした513基のCCTVカメラが設置されている。CCTVカメラの多くはその使用目的から高い位置に設置されているため、①観測所周辺が冠水し観測不能となった場合でも、比較的確実に河川流況の撮影が可能、②洪水時に観測員が現場にいる必要がないことから、計画規模相当の流量規模の洪水時においても、安全に河川流況の撮影が可能、という特長がある。このため、CCTVカメラの画像を解析して流量を測定できれば、新たな機器を導入せずに、「既存ストックを活用した低廉な流量観測システム」を構築することが可能である。そこで、CCTVカメラを流量観測へ活用することに着目し、活用可能なCCTVカメラとして、①流量観測所近傍にある、②旋回・ズーム機能を具備する、の両条件を満足する75基のCCTV カメラを抽出した。

(2) 画像解析に適したCCTVカメラの選定
CCTVカメラは、その目的に適した向き・角度・ズーム(以下、「画角」と称する。)で予め設定(以下、「プリセット」と称する。)されている。そのため、CCTVカメラを用いて高水流量観測を行うためには、高水流量観測に適した画角へのプリセットが必要であり、具体的には、図-1の通り本検討で採用する画像処理型流速測定法(以下、「STIV」と称する。)が適用可能となるように、①流速観測精度の向上のため河道の横断方向を望む、②対岸の計測精度の向上のため俯角を極力大きくとる、③画像解析に必要な水面状況を出来うる限り撮影でき、かつ、太陽光の直射等による白飛び・黒つぶれを防止するために空を画角に含まない、④計画規模を越える大出水でも計測できるように左右岸水面際までを画角に含む、⑤流量算出に必要な水位計測地点の基準断面あるいは第一見通断面・第二見通断面のいずれかを画角内に含む、という点に留意したプリセットが必要である。

上記75基を対象に検討した結果、図-2の通りSTIVが適用可能となる条件を満足する59基を画像解析に適したCCTVカメラとして選定した。

(3) 3次元空間座標を把握するための標定点設置
CCTV カメラの撮影画像から流速(m/s)を解析するためには、同画像中に3次元空間座標を把握するための標定点の設置が必要である。標定点は既往の研究事例などから、図-3の通り、①少なくとも6点以上、②流速計測範囲の周辺に水平・鉛直方向ともに満遍なく必要で、③既設構造物の活用、④確実に視認可能な色や大きさで設置した。写真-1に標定点(赤白のベニヤ板)の設置事例を示す。

3.遠赤外線カメラ流量観測システムの整備
CCTVカメラは、既存ストックの活用により低廉なシステム構築が可能な点で優れている一方で、光量が不足する夜間の撮影画像による解析は困難である。そこで、夜間でも明瞭な撮影が可能な遠赤外線カメラによる流量観測システムを山国川柿坂観測所に設置し、平成26年4月より連続モニタリングを行っている。
同観測システムは、写真-2に示す様に現地に施工されており、STIVの解析対象である表面流速に作用する風の影響を考慮するため風向風速計を設置し、連続モニタリングを実施している。流量観測のために必要な準備内容は、CCTVカメラと同様である。

4.流速解析結果
(1)STIV 解析による流速解析結果
平成26年度に出水記録のあった15観測所映像を対象にSTIV解析を行った事例として、肝属川王子橋観測所(平成26年6月27日)、大淀川岳下観測所(平成26年6月27日)、山国川柿坂観測所(平成26年7月3日)の結果を図-4、5、6に例示する。STIVの流速解析精度の検証においては、参照データとして浮子観測値を用いており、双方とも表面流速を対象としているため、更正係数を乗じることにより水深平均化処理を施している。解析に使用したソフトウェアはKUSTIV(㈱ビィーシステム製)であり、流速検出を自動的に行うFFT-STIV 及び流速検出を手動で行うManual-STIVの両手法の適用が可能である。特別な記述がない限り、本解析ではFFT-STIVを用いている。

①肝属川王子橋観測所(CCTV,日中)
はん濫注意水位程度の出水における解析対象画像とSTIVによる流速解析結果を示す。同図には、浮子測法の結果を合わせて示した。これより、本地点において、浮子とSTIVの流速は概ね良好に一致している。

②大淀川岳下観測所(CCTV,夜間)
はん濫注意水位程度の出水における解析対象画像とSTIVによる流速解析結果を示す。出水のピークが夜間であったため、橋梁の街路灯を光源として解析を行った。流速横断分布は、CCTVカメラの近傍で視認性のよい右岸側ではSTIV流速値と浮子測法は概ね一致するが、CCTVカメラの遠方で視認性の悪い左岸側では過大評価となった。

③山国川柿坂観測所(遠赤外線カメラ)
水防団待機水位を超過し平成26年度最高水位を記録した7月3日洪水ピーク時における解析対象画像とSTIVによる流速解析結果を示す。出水規模が小さかったため浮子観測は実施されておらず流速値の検証はできていないが、FFT-STIVによる解析結果とManual-STIVによる解析結果が良好に一致していることを確認した。

(2)浮子測法との流量比較
CCTV カメラと浮子による同時観測に成功した4 観測所を対象に、STIVによる流速計測値から流量を区分求積で算出した結果を図-7に示す。浮子測法とSTIVによる流量算出値は概ね一致した。流量規模が100m3/s 程度では、数m3/s の流量誤差が比較的大きな相対誤差として現れている。

5.今後の展望と課題
上記の検討結果の通り、CCTVカメラを用いた画像処理型流速測定法の有効性を確認できたことから、九州地方整備局では河川関係事務所及び流量観測業者がCCTVカメラの画角設定からSTIVを用いた流速・流量算出に至る一連の解析が実施できるような技術指針として、「CCTVカメラを活用した水文観測ガイドライン(案)観測編・解析編」を作成した。
なお、本ガイドライン(案)の記載内容は、今後、「流量観測の高度化マニュアル(高水流量観測編)」(土木研究所ICHARM)に加筆され、九州地方整備局の取り組みが全国展開される方向で検討が進められている。
一方、①CCTVカメラの夜間・遠方の視認性低下に伴う異常値対策、②遠赤外線カメラの流速値と浮子測法の流速値の比較検証、といった引き続き検討すべき課題も残っている。CCTVカメラの夜間・遠方の視認性低下に伴う異常値対策については、DIEX法及びManual-STIVの適用により改善される可能性が示唆されており、今後も引き続き検討を行う予定である。また、別途検討成果によると、CCTVカメラの高画質化・照明タイプの変更により、視認性の向上を図れることが明らかになったため、今後は、これらの検討成果を反映したガイドライン(案)に改訂する予定である。
さらに、CCTVカメラを用いた観測システムは、観測中カメラを固定する必要があり、水防活動等への支障が懸念される面もあるため、今後は、独立した専用カメラを試験的に設置することで継続的な観測システムを構築し、比較検討を行うことでCCTVカメラの運用面の課題整理・検討も行う予定である。

6.おわりに
画像処理型流速測定法の実用化にあたっては、「CCTVカメラを活用した水文観測ガイドライン(案)観測編・解析編」に基づく、観測・解析体制を確立させる必要がある。今後は、九州地方整備局管内の河川関係事務所において、STIVが適用可能な観測所における観測体制・解析体制を整えて参りたい。

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