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九州地方整備局における
新技術活用促進のための新しい取り組みについて
久保朝雄
小柳典親

キーワード:技術開発、新技術活用システム、NETIS(新技術情報提供システム)

1. はじめに
九州地方は、梅雨期等の集中豪雨、台風襲来や火山活動の多発などの特性から河川の氾濫、高潮、土石流、噴煙災害等の自然災害が非常に多く、また、しらすや有明粘土等九州特有の軟弱地盤が存在しており、そのため、従来より九州地方整備局では、社会資本の整備や維持管理、防災対策等に際し、民間企業等の新技術の活用を積極的に推進し、これら諸問題に対処してきたところである。今回、このような状況を踏まえ、九州地方整備局での現状の取り組み及び新しい取り組みについて述べる。
先ず、九州技術事務所が所有する災害現場で活躍している最新の災害対策機械の一部について紹介する。

2.災害対策機械(九州技術事務所所有)の事例
(1)簡易遠隔操縦装置(ロボQ)
土石流災害や崩落事故などの復旧活動は、迅速な作業が必要であるにもかかわらず二次災害の恐れもあり、非常に効率の悪い危険な作業である。
そこで、復旧作業の迅速化と安全作業の確保を目的として、汎用建設機械の操作室へ装着するだけで遠隔操縦機械とすることができる“ ロボQ ”を開発し、保有している(写真-1参照)。

(2)分解組立型バックホウ(遠隔操縦式)
深層崩壊など大規模土砂崩落による道路の被災や河道閉塞等が発生した現場等では、災害現場までの通行経路途絶等により復旧機材が投入できない、投入できても二次災害の恐れなどで作業員の安全確保ができない等の課題がある。
そこで、迅速な災害復旧作業を行うため、容易な分解・組立てにより空輸が可能で、遠隔操作も出来る大型機械(バックホウ・1.0.)を配備している(写真-2参照)。
次に、民間事業者等により開発された有用な新技術を公共工事等において積極的に活用していくための新技術活用システムについての概要と、そのシステムに則った新技術の活用状況、新技術活用促進のための取り組みについて述べる。

3.新技術活用システムの概要
本システムは、民間事業者等(以下「開発者」という。)により開発された有用な新技術を公共工事等において積極的に活用していくためのシステムである。また、新技術情報提供システム(NETIS)を中核とする新技術情報の収集と共有化、直轄工事等での活用導入の手続き、効果の検証・評価、さらなる改良と技術開発という一連の流れを体系化したものである。
なお、NETIS(申請情報)に登録された新技術は、5つの活用方式(発注者指定型、施工者希望型、フィールド提供型、試行申請型、テーマ設定型[技術公募])により活用される。
それに加えて九州地方整備局独自の取り組みとして、九州のフィールドに適応した未評価の新技術を募集し、選考した技術の活用を行う「活用促進型[試行]」があり、それぞれのタイプで活用促進を図っている。この後、大学、産業界、研究機関、行政等からなる新技術活用評価会議で、技術の成立性や技術特性が評価され、その評価結果を開発者へ情報提供を行い、技術のスパイラルアップを図るものである(図-1参照)。

4. 九州地方整備局の平成26年度新技術活用について
ここ数年の九州地方整備局における新技術活用率(新技術を活用した工事件数を総工事件数で除したもの)の推移を見ると、平成20年度に30%を超え、年々ほぼ増加傾向で推移しており、平成26年度には50.1%を達成し、全国平均45.8%より高い結果となっている(図-2参照)。
また、新技術の活用タイプ別で大多数の活用数を占める発注者指定型と施工者希望型2タイプの活用状況(平成23年度~平成26 年度)は、発注者指定型に比べ施工者希望型が約80%の活用件数で推移している状況である(図-3参照)。

更に、新技術の活用によるコスト縮減額は、平成26年度に約60億円まで達しているが、活用のタイプの内訳では、発注者指定型が42.4 億円で約70%を占め、施工者希望型では、17.3億円と約30%を占めている。発注者指定型の活用件数が施工者希望型に比べ少ないにもかかわらず、コスト縮減効果が高い結果となっており、今後、より一層発注者指定型の活用促進を図る必要がある(図-4参照)。

次に、全国でNETIS登録されている約3,400件の新技術のうち、事後評価されていない技術が約65%、九州で登録され、九州に本社を置く会社(開発業者)により開発された新技術(以下「九州の技術」という。)では約70%あり、さらにその中でNETIS登録後直轄工事において全く活用されていないものは、全国で40%、九州の技術で約50%となっており事後評価未実施技術、未活用技術の更なる活用促進が課題である(図-5参照)。
以上の課題について、発注者指定型、九州の技術の活用促進を目的とした九州地方整備局の取り組みについて述べる。

5.新技術活用促進のための取り組みについて
(1)新技術の発注者指定型での発注支援
発注事務所において、設計段階で新技術の工法比較検討(NETIS情報等により、適用条件に合致した新技術の検討・抽出)を実施し、発注者指定型で活用しているところであるが、最新のNETIS情報による検索が必要な場合等、九州技術事務所で個々の現場の条件を勘案した工法比較支援を実施している。
また、NETIS登録技術を活用する工事の発注において、標準積算歩掛が殆ど無いため、発注事務所で円滑に発注者指定型で活用できるよう九州技術事務所で歩掛作成支援を実施している。

(2)九州独自の活用促進型[試行]の積極的な運用
活用促進型[試行]は、九州のフィールド( 軟弱地盤、しらす、火山災害対策等) に適応した事後評価未実施技術を活用する新しい取り組みである。この取り組みの活用実績を重ねていくことで、すみやかな事後評価実施へと繋がり、九州のフィールドに適応した新技術のスパイラルアップを促進させるものである。なお、平成25年度に、福岡国道事務所有明海沿岸道路出張所における道路改良工事での軟弱地盤処理工(深層混合処理工)で試行を実施した(写真-3参照)。

(3)新技術データベースの構築
新技術に関する情報(申請情報、評価情報)は、前述の通りNETISによって運用しており、新技術の工種検索やキーワード検索が可能なシステムが構築されている。
今回、九州地方整備局独自の取り組みとして、平成26年度から九州の技術等の活用促進を目的として、各現場に適用可能な九州の技術等の新技術が容易に検索できるデータベースを作成した。この新技術データベースは、道路工事、河川工事等工事区分毎に分類しており、該当する工事区分のシートを開き、必要な工種を抽出することで、九州の技術を含む九州地方整備局管内で良く活用される新技術の概要、活用実績、有用な技術の有無等の一覧表が閲覧できるものである。
各発注事務所発注担当者等が、本データベースを積極的に活用することで、九州の技術等の発注者指定型での新技術の活用促進が図られると考える。なお、本データベースは、九州地方整備局九州技術事務所HPの「新技術ポータルサイト」より閲覧出来るようになっている。

(4)九州のフィールドに適応した新技術の活用促進に関する研究について
今回、新たな取り組みとして産・学・官のワーキンググループにおいて、新たな技術情報の検討(NETIS情報に補完する資料の検討等)を行い、各新技術について、それぞれの技術特性を分かり易く整理した「工法比較表」(NETIS情報では、各新技術を比較した際、従来技術が異なるために技術の特徴が判り難い場合が有るが、従来技術を統一することで各技術の特徴の明確化が可能となる。)を取りまとめ、情報発信することとしている。なお、発注者、コンサルタント等がこの「工法比較表」を共有する事により、新技術の選定する時に、技術の特徴(優れた点や類似した技術との違い)が明確になり、発注者指定型での九州地方に適応した新技術の現場への導入促進が図られる。これにより工事コストの縮減や品質の向上、地域産業の育成、九州の産業基盤の強化に繋がると考える(図-6参照)。

6.おわりに
新技術活用促進のための九州地方整備局の取り組みについて紹介したが、今後も、社会資本の整備や維持管理、防災対策等に際し、新技術の活用を積極的に推進し、安全・安心な暮らしを支える社会基盤の形成に寄与できるように、九州地方整備局としても産・学・官との連携を図り、新技術の活用を推進していくつもりである。

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