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道路橋の点検と診断
徳重俊博
中野周史

キーワード:維持管理、点検、診断、判定会議

1.はじめに

我が国の道路橋(橋長15m 以上)は、約15.8万橋に及んでおり、このうち、高速道路および直轄国道は約2.0万橋(12%)、県管理国道および県道は約4.7 万橋(30%)、市町村道は約9.1 万橋(58%)となっている。今後は、この膨大な橋梁ストックを適切に管理し、利用していくことが重要な課題となっている。
米国では1980 年代に多くの道路橋を含む社会インフラが老朽化し「荒廃するアメリカ」と称する現象を引き起こしたことは記憶に新しい。我が国においても、1954 年(昭和29 年)の第一次道路整備五カ年計画以降順調に整備され、特に高度経済成長期に架設された大量の橋梁が急速に老朽化することが予想されている。
道路橋の高齢化に伴って、各種損傷を早期に発見し、適切な処置を施し長寿命化を図っていくためには、点検と診断は不可欠なものとなっている。
図ー1に九州地方整備局管内の橋梁の現状を示す。

2.九州地方整備局管内の橋梁の現況
(1)橋梁数と橋梁の種類

九州地方整備局は一般国道20 路線および新直轄1 路線、総延長約2,200㎞を管理し、この中に3,210 橋(橋長2m 以上、橋側歩道橋を含む)が架設されている。九州地方整備局管内の橋梁を材料について区分すると、PC 橋が50%、RC 橋が22%、鋼橋が25%となっており、コンクリート系の橋梁が約70%を占めている。また、橋梁延長を材料別に区分すると、鋼橋、PC 橋がそれぞれ42%、RC 橋及びその他が16%となっている。

3.道路橋維持管理の流れ

橋梁点検が本格的に実施されるようになったのは、昭和63 年7 月に「橋梁点検要領(案)」(土木研究所)が示されて以降のことである。これにより、原則橋長15m 以上を対象に10 年程度に1 回の近接点検を行うこととなった。その後、「橋梁定期点検要領(案)平成16 年3 月(国道・防災課)」(以下、「要領」という。)が制定され、次回点検までの間に緊急的な対応が必要になる事態を避けるという観点と、補修等の必要性の判定精度(信頼性)の観点から5 年以内に近接点検を行うことと定められている。効果的な維持管理を行っていくためには、定期点検、診断から補修補強工事の実施、記録の一元管理までのマネジメントを行っていくことが必要である。

(1)点検の種類

要領に示されている点検には道路パトロールカーから目視で行う「通常点検」、5 年ごとに近接目視で行う「定期点検」、事故や火災などの不測の損傷時、損傷の急激な進展した際に行う「中間点検」、塩害等特定の事象を対象に行う「特定点検」、地震、台風、集中豪雨等の災害時や大きな事故に遭遇したときに行う「異常時点検」がある。
橋梁の損傷状況を定期的に把握し、効率的な維持管理を行う基本となるのは定期点検である。

(2)橋梁の定期点検と診断

定期点検は、既往資料の調査、点検項目と方法、点検体制、現地踏査、管理者協議、安全対策、緊急連絡体制、工程等について点検計画を立案し、近接目視を基本に実施し損傷程度等を記録する。
診断は点検結果を受けて、架橋環境(気候、架設年度、設計当時の基準書、施工、材料、交通量、補修・補強履歴等)、損傷程度の評価結果、その原因や進行性、橋全体の耐荷性能等への影響、当該部位、部材周辺の部位、部材の現状等を考慮し、複数の損傷を総合的に評価するものである。

① 点検項目

点検項目は点検する部位・部材・材料ごとに損傷の種類を26 種類に分類している。

②対策区分の判定

対策区分の判定は損傷状況を把握した上で、当該橋梁の各損傷に対して補修や緊急対応の必要性について、定期点検で得られる情報から複数の部材の損傷を総合的に評価し、橋梁全体の状態についての所見を記録する。
対策区分の決定については、職員が定期点検時に現地立会を行い、各橋梁の損傷等の進行状況を確認するとともに、事務所毎に「対策区分判定会議」を開催し最終的な対策区分判定を決定している。対策区分判定内容を表ー2、対策区分判定の流れを図ー5、対策区分の判定例を写真2~3に示す。

③ 点検・診断の記録

定期点検・診断結果は、要領に示される記入要領に従い様式1~11 に記載されるとともに、橋梁諸元、点検結果、補修履歴等は橋梁管理カルテに登録される。この結果を、平成24 年度から運用されている「全国道路橋データベースに登録し、一元管理される。

4.九州管内の点検状況

九州地方整備局管内では、平成15 年度から定期点検を行っており、ほぼ2 回目の点検が完了する時期にきている。
(1)対策区分判定結果

2 巡目の定期点検の結果の対策区分判定はC 判定が33%、S 判定が5%となっている(図ー6)。

図ー7は、C 判定区分の損傷部材数とその割合を示している。C 判定区分の割合は、鋼橋及びコンクリート橋の全部材数に対してそれぞれ主桁(横桁、縦桁等を含む)は2 .4%、床版は6 .8%、支承は3 .5%となっている。このことは例えば鋼橋の場合、主桁(2%)と床版(8%)の損傷割合を比べると約4 倍の割合差があり床版損傷が、主桁損傷に比べ損傷がかなり進展していることが言える。これは、主桁に比べ床版が直接輪荷重の影響を受けることや雨水や凍結防止剤等の影響を受け易い環境化にあるためと思われる。
また、各部材の損傷種類割合は、主桁、床版に着目すると、大きい順から鋼橋主桁の腐食は82%、コンクリート橋主桁の剥離・鉄筋露出は36%、鋼橋床版の剥離・鉄筋露出は33%、コンクリート橋床版の剥離・鉄筋露出は43%を示している。

(2)損傷の傾向

九州地方整備局管内橋梁の損傷を発生部位毎に整理すると、以下のような傾向が見られる。
①鋼主桁の腐食は桁端部が多い。
②コンクリート主桁の剥離・鉄筋露出は外桁に多い。
③RC床版の漏水・遊離石灰は張出し床版に多い。
①~③の状況を図ー8に示す。

鋼主桁腐食に対しては、桁端部の損傷比率は中間部に比べ大きく、漏水等による腐食がし易い環境化にあることや、再塗装が中間部に比べ施工性に劣ることがいえる。
また、コンクリート外桁は雨水等による影響を受け易い環境化にあり、損傷の進展が内桁に比べ早いと考えられる。
RC 床版に対しては、中間部より張り出し部が損傷の発生率は高い。これは、中間床版部と比べ雨水等の影響も受けやすいことも考えられるが、古い橋梁の場合は、軸方向鉄筋不足も考えられる。
これらの現象は、数多くの事例からの顕著な傾向であり、今後、設計する上での設計・施工上の留意点にもなると思われる。

(3)床版の損傷

近年、コンクリート床版が突然抜け落ちるという事例が報道されているが、九州地方整備局において床版損傷事例(写真ー4~7)が報告されてきている。これらの原因や損傷プロセスは未だ不明な点は残るが、以下3 項について概ね共通する特徴を有する。
①直上の舗装にくぼみや網の目状のひびわれが確認されていた(ひびわれから濁水が染み出た跡がある場合もある)。また、同一箇所での舗装補修の頻度が多く、具体的にはポットホールとパッチングの舗装補修を繰り返し行っている状況である。
②前回点検(5 年以内)までは床版下面の著しいひびわれ等の損傷は観察されていない場合がある。
③短期間のうちに同じ橋梁の別箇所で同様の損傷が発生する。
従来から舗装面に見られる局部的なくぼみや網の目状のひびわれが、その直下の床版上面コンクリートにおいて土砂化の損傷を伴う場合が多いことは、実験、実橋の両面から認識されていたが、こうした損傷は単に舗装の損傷として取り扱われ土砂化したコンクリートを除いた後、舗装の補修のみ、あるいは床版面を簡易的に断面修復して補修舗装をおこなう場合が多い。この場合、土砂化したコンクリートの除去が不十分であれば、短期間のうちに同じ事象が再現されることになる。そのため、床版下面に亀甲状のひびわれと漏水・遊離石灰、うき等の変状が現れている場合には、急激に損傷が進行する場合があることから、繰り返し路面補修を行っている箇所においては、注意が必要である。

5.おわりに

今後、橋梁の高齢化に伴い維持補修費が増大していくことが予想されることから、橋梁点検・診断を効率的・効果的に行い、損傷を早期に発見し適切な維持管理対策を実施していけるよう取り組んで行きたい。

【参考文献】
1)橋梁定期点検要領(案)
  平成16 年3 月 国土交通省 国道・防災課
2)橋梁の長寿命化修繕計画(現況と計画)
  平成25 年4 月 国土交通省 九州地方整備局

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