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川裏腹付け盛土工に用いたダブルミキシング工法について

建設省 武雄工事事務所
 工務第二課長
羽 野 勝 利

1 はじめに
現在,政府は公共工事について,その執行をめぐる最近の状況や厳しい財政事情,コスト意識の高まり等を背景として公共事業の効率的・効果的な執行に努めるため「公共工事コスト縮減対策に関する行動指針」を策定し,同時に建設省においても「公共工事コスト縮減対策に関する行動計画」が策定された。
九州地方建設局においても,政府の行動指針および建設省の行動計画を踏まえ,平成9年度に「建設省九州地方建設局公共工事コスト縮減対策に関する行動計画」を策定し,コスト縮減に対してより一層の取り組みを行っているところです。
こうした状況の中にコスト縮減の対策の実施例としてスラリー式機械攪拌工法,ダブルミキシング工法を紹介するものです。

2 施工概要
本工法の施工は佐賀市の西部,嘉瀬川を横断する国道207号線と国道444号線のほぼ中間で建設省嘉瀬川出張所の下流,右岸部の新田地区で堤防の川裏部の盛土工事に伴うスベリ防止のため盛土施工前に地盤改良を行うものです。

現況の堤防は全体的に痩せた断面となっており,天端には集落を連絡する町道があり,法尻には農業用の水路が下流まで並列しており,施工条件としてはかなり狭い法尻部での施工となる。
土質的には堤防表面には山土での盛土があるが,その下には佐賀平野特有の軟らかい粘土層が,4.0m~6.0m堆積している。その下がN値3~8の沖積砂質土が1.5m~3.0mの深さでほぼ全域に堆積している。
砂質土の下部についてもN値0の軟らかい粘土層が続いている。

この条件下の中で安定解析を行い,盛土完了後の安定のため図ー3,図ー4のとおり縦1.20m×横1.30mピッチでφ=1000mmの改良杭で7.20m~8.40mの改良深度の改良率50%の複合地盤改良を行うことにした。

3 工法の概要
工法的にはスラリー機械攪拌混入工法でセメント系改良材と水の混合によって製造されたセメントミルクを原地盤に攪拌注入することによって改良体を形成する工法で下記の改良設備から成り立っている。
(1)セメント系改良材と水の混合によって,適当な濃度にスラリー化するためのスラリープラント
改良材を貯蔵するサイロ部と水源により水中ポンプで汲み上げ貯蔵するタンク,改良材と水を混合するミキサーおよびスラリーを一度貯溜するアジテーターとセメントミルクを処理機に圧送するグラウトポンプから成り立っている。
(2)改良材スラリーを原地盤に攪拌混合する処理機
プラントより圧送されたスラリー(セメントミルク)を原地盤を掘進しながら攪拌翼の両翼2点より噴出する。攪拌翼の径はφ1000mmで上下2枚翼となっており,お互いの攪拌翼が正逆回転することで改良体の共回りをなくすシステムになっている。

4 施工状況
今回の施工にあたっては,川表にプラントを設置し堤防を越して川裏部の改良機ヘセメントスラリーを供給することになった。
改良機はバックホーをベースマシンとした改良深度9.0m施工可能なDMO70型機を使用,施工延長約330mにプラントを2台設置し,延長のほぼ半分づつを受け持つようにして改良機をセットした。川裏部の狭い場所を改良機の稼動できるスペースを約5.0mとり,3列の改良杭を横方向に打設しながら後進するような方法を取った(旋回や方向転換は不可能)。
改良の空打部0.50mは良質な山土であり,これが改良機の足場となり敷鉄板などの仮設材が不要であった。
プラントからスラリーセメントを堤防高3.5mを越しての施工やN値の高い砂層の攪拌など品質的な不安もあったが,粘土層,砂層の改良の出来ばえには問題もなく,当初計画していた工期内での施工完了ができた。

5 工法の採用について
現況が狭い場所での施工であり,DJM改良機やCDM改良機のような大型改良機は搬入の問題や作業スペースより施工が不可能であり,それに替わる工法として狭い場所での施工が可能なCCP工法での計画をしていたが,前述のような公共工事におけるコスト縮減の観点から,CCP工法と比較ができる工法がないものかと検討を行い,すでに菊池川工事事務所の高瀬地盤改良でパイロット事業での実績もあり,九州技術事務所より新技術・新工法で紹介されている小型改良機のダブルミキシング工法について比較を行うことにした。
(1)施工費の比較
① 従来工法(CCP工法)
   施工延長100m当りで積算(5列着底)
    処理杭 300本
    足場工 500空m3
    注入設備組立・解体
      計   17,310,000円
② ダブルミキシング工法
   施工延長100m当りで積算(3列浮)
    処理費 250本
    注入設備組立・解体
      計   12,373,000円
③ コスト縮減率
    (17,310,000-12,373,000)÷12,373,000≒40%

(2)改良機の特徴
① バックホーをベースマシンとした改良機のため軽量で足場の悪い場所,特に軟弱な地盤上での施工に適している。
② 施工時の振動が小さいため地盤の乱れや周辺への影響が少ない。
③ 機械がコンパクトなため狭い場所での施工に有利である。
④ ブーム先端に改良装置を付けているため,作業半径が大きく同じ位置からの打設が可能である(サイクルタイムの減少)。
⑤ 足場盛土や敷鉄板などの仮設費が軽減できる。
⑥ 小型,軽量のため運搬費や組立・解体にかかる費用が少ない。

(3)施工管理上の特徴
① 上・下2枚の攪拌翼を正逆回転することにより攪拌時の改良体の共回り現象をなくす方法で良品な改良体を形成する品質面の工夫がなされている。
② 正逆回転することで互いの攪拌翼の回転方向への進行を相殺し合い,ロッドの垂直性が維持できる。
③ 多種の管理機能を装備し,作業中に内容をオペレーターが確認し,製作を行いながら施工管理が容易にできる。

(4)工法の研究開発
この工法の開発会社は県内業者であるが,数年前から先駆の地盤改良業者とも連携をとり,また地元の大学の指導を受けながら地盤改良についての機械的開発や品質の追求,新材料による改良への挑戦,改良体施工することによる環境問題の解消,低コストでの施工方法など改良の施工性や特性をテーマにした研究を行っており,その内容や成果を論文集や発表会の場で報告している。

(5)採用の決定
工法の採用にあたっては,コスト縮減に貢献できる工法として,また機械的にも従来工法に比べて現場の要求にマッチした工法であり,施工面,品質面での評価ができると思われ,工法の採用を決定した。

6 採用にあたっての問題点・注意点
施工可能な土質は粘性土・砂質土・有機質土であり,地盤のN値が10以下の土質に適応する(攪拌翼φ1000mmの場合。)
N値の高い地盤については攪拌翼の形状をφ600mm~φ800mmなど小さくすることで施工可能にできるが設計・施工については事前に地質調査が必要である。
また,改良深度は9.0m(空打部を含む)が最大である。
現在N値20まで施工可能な高トルク型の改良機を開発中とのことであり,今後広範囲の土質への対応が可能になってくると思われる。

7 おわりに
従来河川堤防や海岸堤防での地盤改良についてはCCP工法やDJM工法,CDM工法が採用され支持地盤までの深層改良が施工されていた。
CCP工法を除けば機械重最が80t~90tの大型な改良機であり,改良機のための仮設費も大きなものがあった。
数年前から支持地盤着底の改良方法でなく,浮基礎タイプのフローティング工法が採用され,従来までのような深い改良が必要でなくなった。
しかし,改良機は大型を使用することでかなりのコスト高となっており,これに対応できる改良機としてダブルミキシング工法が開発された。
軟弱地盤での施工に有利な軽量で機動性のあるバックホータイプの改良機として,最高深度9.0mまでの施工が可能であり,改良径も土質に応じてφ600mmからφ1400mmまで使い分けが可能で,今後河川関係のみならず海岸や道路などの施工現場や構造物,建築など多力面への活用も可能と思われる。

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