路面性状のひび割れ・わだち掘れ・平たん性調査の頻度及び、
劣化予測の見直しについて
劣化予測の見直しについて
羽田史郎
キーワード:舗装修繕、舗装劣化調査、舗装劣化予測
1. はじめに
九州地方整備局では、管内の直轄管理国道(延長= 約2100㎞)の舗装路面の劣化調査を、昭和58 年度から3年周期(管内を3分割)で実施するとともに、予測式を用いた劣化予測を行い、その結果を路面管理に活用してきた。
今回、精度向上の観点から調査頻度及び予測式の見直しを行ったので報告する。
2. 劣化調査の現状と課題、問題点
劣化調査項目は、ひび割れ、わだち掘れ、平たん性であり、これまで下りの1車線(多車線区間は下り1車線+上り1車線)を対象に実施してきた。調査の位置づけを図-1に示す。
近年、予算が厳しくなり、より限定された舗装修繕工事が行われる中で、調査においても以下の課題への対応が求められた。
上記課題の対応として、上下線とも調査した場合、調査コストが上昇し、課題1と相反する問題が生じる。このため、調査コストの低減と活用度向上の両立を目的として、見直しを行った。
3. 問題解決のためのプロセス
3.1 実行可能性の検討
上記問題解決のため、まず調査コスト低減の実行可能性を検討(表-1)した。
表-1より、実行可能性が高い3年周期の調査頻度の見直しを行うこととした。
3.2 調査頻度見直しに伴う問題点及び対応策検討
毎年度道路管理者へ提供する調査結果のうち、未実測区間は予測式による予測値にて補完してきた。
この場合の最長予測年数は2年であり、3年目には実測値に置き換えられるため、予測式の精度が活用時に及ぼす影響は限られていた。
しかし、今回調査頻度を長周期化した場合、現予測値では予測値と実測値の乖離が増大するため、調査頻度見直しとともに、予測式の見直しも行うこととした。
3.3 目的達成の前提条件と実施手順
今回の目的達成のためには、調査頻度及び、劣化予測式の見直しが必要であり、見直しにあたって以下の条件を設定した。
・上り線実測の充実(活用度向上)かつ、現在の調査コスト以上としない
・調査頻度を長周期とした場合でも、劣化予測値の精度を低下させない
上記の条件を満たすため、図-2の業務実施手順を作成した。
3.4 劣化予測式の設定
3.4.1 劣化要因の選定
予測式作成では、入力項目である劣化要因の選定が予測値の精度に影響する。
これまでの予測式及び、今回設定した新予測式の入力項目と理由を表-2に示す。
3.4.2 予測式の作成
新予測式の作成では2案(表-3)を設定し、長期予測精度を優先した新予測2を最適案として選定した。
新予測2に基づき、舗装種別、舗装設計交通量、車線数、道路構造、調査項目別に108 パターン(密粒度AS=76, 排水性=16, コンクリート=16)の予測式を作成した。
なお、式作成に使用したデータでは、20 年経過以降の劣化が軽減(ひび割れ、わだち掘れ量が減少)しており、経過年数整理の不十分さが考えられたため、予測式の適用期間は最大で20 年間とした。
3.5 調査頻度の設定
作成した予測式により、調査頻度を設定した。
設定では、劣化の主要因であるひび割れ率を対象に、管内の主な道路・舗装構成である「単路部の密粒度AS」の式を用いて、ひび割れ到達年数を予測(表-4)した。
その結果、劣化原因調査の目安とされる「ひび割れ率=10%」の年数は、劣化要因にかかわらず3年程度であることを確認した。
また、20%程度となる年数は5~9年程度であり、舗装設計交通量や車線数の違いによる明確な劣化進行の差が確認された。一方、30%程度となる年数は、予測式の適用範囲外となった。
このため、劣化進行の差が顕在化する「ひび割れ率20%程度」の到達年数を基本に、「舗装設計交通量=3000 台以上」は、1000 台未満、1000以上3000 台未満と比べ劣化進行が早いことから、10%程度の到達年数である「3年に1回」を調査頻度とした。
3.6 調査の年次計画の作成
設定した調査頻度に基づき、平成24 年度からの調査年次計画を作成した。調査年次の優先は、3年周期の調査中断から3年経過していることから、近年の調査実績を考慮せず、現状のひび割れ率が高い(=舗装修繕の可能性が高い)区間の順(路線、事務所毎)とした。
平成24 年度は、特にひび割れ率が高い宮崎10 号、鹿児島10 号、熊本57 号、熊本208 号、佐賀202 号の上下線(721㎞)を実測した。
平成28 年度までの5年間で管内の調査が一巡する予定である。
4.問題解決の達成度評価
問題解決のために設定した目的達成の条件(3.3)について、以下の評価を行った。
4.1 調査コスト低減の評価
調査コスト低減の評価は、調査頻度の最小公倍数である18 年間を対象に、年平均調査コスト(表-5)にて算出した。
その結果、今回提案した「見直し後の調査周期で、単車線区間の上り線を追加調査」した場合でも、従来(単車線区間は下りのみ調査)の調査コストとほぼ変わらないことを確認した。
このため、上り線の舗装修繕時のデータ活用が可能となる「単・多車線とも上下各1車線調査」を今後の調査方針とした。
4.2 予測式の精度評価
新予測式の予測精度について、3年後(短期)及び9年後(長期)を対象に、予測値と実測値の誤差のばらつき(標準偏差)にて評価(表-6)した。
また、表-6をもとに、現予測式と新予測式の標準偏差の差による改善状況を図-4に示す。
図・表より、新予測式では、短期予測は同等またはやや低下するものの、ひび割れ率の長期予測は大幅に改善されることを確認した。
5.今後の展開、改善点
5.1 修繕後経過年数の充実
今回決定した予測式は、劣化の長期変化を考慮したものであるが、予測には舗設・修繕後の経年数が必要となる。このため、経年数が確認されていない区間について経年数を把握する。
5.2 予測式の検証
今回、新規に作成した排水性舗装の予測式について、管内で本格的に排水性舗装が施工されたのは平成11 年度頃からであり、今回使用したデータによる排水性舗装の劣化進行の再現性には不十分さが残る。また、近年ライフサイクルコスト削減からコンクリート舗装が着目されているが、管内での施工箇所は少ない。
このため、主な舗装種別である密粒度ASのみでなく、排水性舗装及び、コンクリート舗装についても調査結果を蓄積し、予測式の精度検証が必要である。また、劣化要因のうち今回設定しなかった項目(表-2)について、データ蓄積、分析を行い、表-6に示すひび割れ率予測精度の更なる
向上を図りたい。
向上を図りたい。
5.3 舗装データベースへの反映、活用度向上
調査成果のうち、活用性が高いデータについては、汎用表計算ソフトにて20 m及び100 m単位で出力し、各道路関係事務所へ速やかに提供する。また、舗装データデータベースに調査データを継続して蓄積させる。
さらに、舗装の長期修繕計画など、新たなニーズにも対応できるようデータを蓄積することにより、活用度の向上を図りたい。