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九州技報 第3号 巻頭言

九州大学長
高 橋 良 平

石炭採掘に伴う鉱害問題に関与した経験の中で,学際的共同研究の必要性を痛感したものの一つに有明海周辺,就中,佐賀県江北町一帯の軟弱地盤の問題があった。鉱害をうける前迄の江北町の旧干拓農地は大規模の美田であったが,炭鉱の揚水により地盤を構成する粘土層は脱水により圧密・沈下を起こし,農地と家屋は著しい被害を蒙った。軟弱粘土は砂層をはさんで上・下の二層があり,広く分布しているが,このうち上位の軟弱粘土層は永い年月の自然乾燥によって,その上部は圧密化し,農地及び農家の建築基盤としての強度をもつ迄になっていたのである。所が,炭鉱揚水により下位の粘土層及び上位粘土層の下部部分の水分が新たにぬけ,圧密したため地表が沈下し田面の傾斜,沈水を起こす外,家屋にも傾斜や破損等の被害が惹起されたのである。
農家が移転復旧を拒否するなどの為,数軒を一まとめにしてすぐ横に仮設した家屋に移して復旧を行う事になったのであるが,新しい埋土の加重のため埋土高の7割が再沈下することに加え,家屋の加重によっても再沈下を起こすため,家屋基礎様式の選定に当っては3軒の実験家屋をつくるなどの慎重な検討を加えた。採鉱,建築,土木の先生方との共同研究であって,やっとの思いで家屋問題は解決されたかにみえたが,周辺田面を復旧し始めた所,再び家屋が盛り上がったり傾いたりし始めたのには驚いた。
自然を相手とする研究分野では,理・工・農と多分野にまたがるアプローチ,総合的解析が必要であり,どの部分かを手抜きすると覿面のしっぺ返しを喰う場合が多い。特に九州の場合には台風銀座の名の通り,考えられない程の降雨量をみるほか,シラス,ソーラ層,赤ホヤ,黒ボク等々,特殊な土質土壌が賦存するので長崎水害で痛感されたように,気象学から人間行動学迄にわたる多様なアプローチが必要である。
今日の社会のニーズは次第に複雑多岐になり,好むと好まざるとを問わず,当事者はこれ等に応えざるを得なくなってきている。特に自然環境を損わず,アメニティにあふれる施設をつくろうとするなどの建設関係部門に於ては,二律背反する問題を同時に満足させなければならぬ事が多くなってきたが,この種の要求は今後益々多くなってゆく事は明らかである。従って,建設関係者は常に新しい情報に耳を傾け,新技術を開発する必要があるが,このような意味から,“九州技報”は関係諸者に大きなインパクトを与える格好の情報ソース・技術誌であり,本誌の益々の発展を祈念するのは,独り筆者のみではあるまい。

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