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筑後川水系花月川の平成24 年度災害激特事業について
~地元住民との協働による小京都として有名な豆田地区の川づくり~
中原寛人

キーワード:協働による川づくり、九州北部豪雨、河川激甚災害対策特別緊急事業

1.はじめに
筑後川水系花月川は、小京都として知られる大分県日田市豆田地区を流れ、水郷日田らしい景観・豊かな自然環境と調和のとれた河川であり、それらを考慮した河川整備を行うことが望まれている。平成24 年7 月の九州北部豪雨では、花月川の堤防からの越水等により甚大な家屋浸水被害が発生したため、同年に採択された激甚災害対策特別緊急事業(以下、激特事業)により、概ね5 ヶ年間で緊急的に河川整備を実施中である。

豆田地区周辺の花月川では、これまでにも地域と協働による河川整備を実施してきており、整備された河川敷は市民の憩いの場として利用されるほか、毎年11月に開催されるイベント『千年あかり(竹灯籠)』のメイン会場として利用され、多くの観光客が訪れるなど、地域と密接な関係がある。
今回の河川整備の実施にあたっても、地元と活発な意見を交わすため、自治会長を中心とした川づくり懇談会や、次世代を担う若者との意見交換会を開催しており、江戸時代の町家風情が残る豆田地区と調和した河川整備を行っている。
本稿では、花月川における出水の状況から激特事業による施工状況について報告するものである。

2.出水の概要
(降雨状況)

九州北部地方では梅雨前線の影響により、平成24年6月30日から7月1日にかけて各地で大雨となり、その後一旦は小康状態となったものの、7月3日未明からさらに大雨となった。筑後川流域では局地的に短時間の豪雨を記録し、日田市の花月雨量観測所において、1時間81㎜、3時間172㎜の降雨を観測するなど記録的な豪雨となった。また、7月13日の夜から14日の夕方にかけても、梅雨前線の影響により再び大雨となり、日田市の花月雨量観測所において、1時間63㎜、3時間124㎜の降雨を観測するなど、3日に引き続き記録的な豪雨となった。
(水位状況)
日田市の花月水位観測所では、7月3日の豪雨により1時間に約3.5mと急激に水位が上昇し、はん濫危険水位を超え、観測史上最高の4.16mの水位を記録した。さらに、7月14日の豪雨により3日に記録した観測史上最高の水位を更新する4.37mの水位を記録した。

(被害状況)
7月3日の豪雨により花月川では、堤防が2箇所で決壊、13箇所から洪水流が越水し、日田市街部を含む沿川の地区では約700 戸に及ぶ甚大な家屋浸水被害が発生した。また花月川の堤防や護岸が崩壊するなどの施設被害も多数発生した。さらに、7月14日の豪雨でも再び花月川の堤防から洪水流が越水し、3日に引き続き家屋浸水等や堤防護岸等の施設被害が発生した。

3.応急対策工事の実施
被災した堤防、護岸等施設について特に緊急的な対応が必要な箇所の緊急復旧工事を24時間体制で実施し、7月12日に応急対策は完了したため、3日に記録した観測史上最高の水位を更新する7月14日の豪雨時には、浸水被害の拡大は免れた。

4.再度災害防止に向けた取り組み
九州北部豪雨に伴う洪水より発生した甚大な被害を受けて、花月川では再度災害防止・軽減を図るため、「河川激甚災害対策特別緊急事業」が採択され、概ね5ヶ年間で緊急的な河川整備を実施することとなった。激特事業では、平成24年7月洪水に対して浸水被害の軽減を図ることとし、河川整備計画の目標流量を対象に河道掘削、築堤及び横断工作物の改築等を集中して実施していく。

5.川づくりの検討と地域との合意形成
激特事業により河道掘削等の河川整備を行う必要がある地区の一つに小京都として知られる豆田地区がある。この豆田地区は、天領文化が花開き、当時の町割りや伝統的建造物群等の貴重な景観が残っており、歴史的・文化的な古い町並みが形成されている。激特事業で河川整備を行うにあたっては、河川環境及び地域の利活用や日田市観光の拠点としての現地特性を踏まえ、地元と活発な意見を交わすため、自治会長を中心とした川づくり懇談会を開催することとした。また、景観専門家に助言を受けるとともに、利活用についても地元青年層や高校生と意見を交わし、河川整備に関するイメージを共有した。

6.工事実施時における配慮事項
豆田地区の河川整備を平成26年10月~ 27年5月で実施した。実施時において、施工業者との意見交換や学識者に助言をいただくなど、河川環境に関する事項について配慮を行った。また、以下では、実施時において工種毎に配慮した事項を報告する。

(高水敷掘削)
今回の河川整備にあたっては、流下断面の確保のために、高水敷を掘削する必要があったが、当該地区の高水敷では、毎年イベントが開催されている等利活用が盛んな地区であり、地元からは利活用できる高水敷の確保が求められた。
工事の実施にあたっては、イベントに必要なスペースを確保することとし、散策路の位置や掘削形状の見直しを行った。

(根継工)
高水敷掘削に伴い必要となった根継工は、水辺へのアクセスルートであり、「千年あかり」の際の観覧席としての利用が見込まれることから、地域の意見聴取や地元高校生モニターによる確認を実施した。
工事の実施にあたっては、散策路の歩行のしやすさや利用者の座り心地を考慮した。

(階段工)
当初、位置及び形状の関係で越水の一因となったことから、撤去をする方針で設計を進めていた階段工であったが、地元からは動線の確保等のため階段の存置を求められた。
工事の実施にあたっては、河道線形に沿うように可能な限り幅員を見直し、流下阻害とならないようフラット化することで存置させることとした。また、新設する護岸は既設護岸の色調を考慮し、顔料等による明度・彩度やテクスチャーによる配慮を行った。

(木工沈床)
平成24年7月洪水において、木工沈床は岸等の洗掘防止の役割を担ったものの、その一部が流出したため、当初、木工沈床に替わる工法を検討していたが、木工沈床は多様な流れを創出し良好な魚類の生息場となっていたことから、地元からは木工沈床の復元が強く求められた。
そのため、工事の実施にあたっては、木工沈床を復元することとし、護岸と木工沈床の隙間に水が走ることを防止する間詰石を設置し、前面には巨石を配置することで、木工沈床そのものの流出を防ぐこととした。また、木工沈床の高さを低く設定し、常時水中にあることで耐腐食性の向上を図ることとした。

7.工事完成後の豆田地区
工事着手前は、川が狭かった印象だったが、高水敷掘削や散策路の付替により、川が大きくなったと感じことができる。また、単調だった川の流れも完成後には、瀬・淵の復元がなされ、釣り人も戻ってくるなど、一定の効果が出ているものと考える。
前述しているとおり、豆田地区の河川敷ではイベント『千年あかり(竹灯籠)』が開催されている。平成24年は、九州北部豪雨により河道内への土砂の堆積や護岸、遊歩道等の被災が発生したため、河川利用者の危険防止のために河川内への一般の立ち入りを禁止する措置を取っており、イベントそのものの開催が危ぶまれていたが、千年あかり実行委員会との調整を行い、堆積した土砂の整正・撤去や散在しているコンクリート塊撤去などの応急対策を行うことで、なんとか開催できた。平成25 年は、地元協働による設計を鋭意進め、平成26年は、設計に基づく河川整備を行いながらの開催となった。
平成27年は、当該地区の河川整備がようやく完成し、完成後初のイベント開催となった。イベント開催日はあいにくの空模様であったが、豆田地区は多くの人で賑わっていた。

8.おわりに
今回、花月川における出水の状況から激特事業による施工状況について、豆田地区を代表例として報告したが、激特事業によるハード整備は最盛期を迎えている。豆田地区などの完成した当該区間は、「治水」、「親水」、「環境」機能、周辺の利活用状況等のモニタリングを実施し、これから整備する区間は、引き続き自治体や地域住民などの地元の協力を頂きながら、安心できる河川整備を進める必要があると考えている。また、今回の激特事業による整備が、地域の親水・観光の軸となっていくことを期待する。
最後に、豆田地区の河川整備に関してご指導いただきました、杉尾宮崎大学名誉教授、九州大学島谷教授、森田教授、曽我部准教授に感謝いたします。また、今回の執筆にあたり、貴重な資料や情報を頂いた設計コンサルタントの㈱建設環境研究所、施工業者の㈱川浪組、㈱川原建設の関係者の皆様に厚く感謝の意を表す。

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