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阿蘇山直轄砂防事業について
~阿蘇砂防事務所が開所しました~

国土交通省 九州地方整備局
阿蘇砂防事務所 調査課
調査課長
寺 本 泰 之

キーワード:阿蘇砂防事務所、事業概要、開所式

1.はじめに
令和3年4月1日に、阿蘇地域の土砂災害対策を強力に推進するため、砂防関係事業を担当する直轄事務所としては41 番目の事務所として阿蘇砂防事務所が新設され、立野ダム工事事務所と同じ庁舎にて業務を行っています。
本稿では、平成30年から開始された阿蘇山直轄砂防事業とともに、令和3年4月18日に開催された開所式の模様を紹介いたします。

2.阿蘇山直轄砂防事業の概要
〇事業目的
豪雨や火山噴火による災害リスクを抱える阿蘇地域において、砂防堰堤等を整備し、集落や国道57号、国道325号、JR豊肥本線、南阿蘇鉄道等への土砂災害を防止・軽減する。
〇事業区域
 阿蘇カルデラ内
〇事業費
 約150 億円
 (砂防堰堤等を概ね25 施設程度整備)
〇事業期間
 平成30年度~令和9年度(予定)

2.1 流域の概要
阿蘇砂防事務所の事業区域である阿蘇カルデラ内には阿蘇市、高森町、南阿蘇村があり、約4万2千人の方が暮らし、熊本と大分・宮崎を結ぶ国道57号、325号、JR豊肥本線等の重要幹線もある交通の要衝でもあります(図- 1)。
さらに、年間1,500 万人もの観光客が訪れており、更なる観光需要が見込まれており、世界文化遺産登録に向けての動きも始まっています。

図1 阿蘇地域の概要

2.2 阿蘇地域の概況
阿蘇カルデラは斜面の傾斜が30 度以上と切り立っており、中央火口丘も傾斜が急であるという地形条件に加え、阿蘇観測所の平均年降水量は約3,200㎜と全国平均の2 倍で、特に梅雨期の豪雨での災害が顕著であります(図- 2)。

図2 厳しい自然環境

これまでに、阿蘇地域では昭和28年、平成2年、平成24年と甚大な土砂災害が発生しております。また、阿蘇中岳では活発な火山活動が続いており、近年では平成28年に爆発的噴火が発生し、阿蘇市を始め広域で降灰が確認され、本年の10月にも噴火が発生し、警戒レベル3に引き上げられました。
火山噴火後の降灰状況によっては、豪雨による土砂災害が拡大する危険性があるため監視が必要となります(図- 3)。

図3 阿蘇地域での主な災害

2.3 熊本地震による土砂災害
平成28年の熊本地震では、多数の土石流、地すべり、がけ崩れなどが発生し約190 件の土砂災害が発生しました(写真- 1)。

写真1 熊本地震による土砂災害 上 大規模な崩壊事例(阿蘇大橋地区) 下 緩傾斜地の崩壊事例(高野台地区)

また地震後の降雨により、新たな斜面崩壊や土石流が発生したことで、下流域への被害が拡大しました(写真- 2、写真- 3)。

写真2 熊本地震後の降雨による新たな斜面崩壊<

写真3 熊本地震後の降雨による土石流

3.阿蘇山直轄砂防事業
3.1 事業箇所と進捗状況
阿蘇地域の度重なる土砂災害から、集落や国道、JR豊肥本線、南阿蘇鉄道等への被害を防止・軽減するため、平成30年から直轄砂防事業に着手しました。現在17箇所の砂防堰堤に着手しております(図- 4)。

図4 事業実施箇所図(令和3年度)

令和3年3月には阿蘇市に整備した四ツ江川砂防堰堤が直轄後、初めて完成したことから、阿蘇市長や地元県議、区長等の関係者にご列席いただき完成報告会を行いました(写真- 4)。
引き続き、関係機関や地域の方々と連携し25施設程度の砂防施設の整備を進めていきます。

写真4 四ツ江川砂防堰堤完成報告会

3.2 阿蘇山噴火対応
これまで熊本復興事務所において直轄砂防事業を実施してきましたが、事業を強力に推進するため新たに阿蘇砂防事務所を開設し、3課21名の体制で事業を進めることとなりました。また、土砂災害防止法に基づく火山調査も阿蘇砂防事務所にて所掌しております。火山噴火による大規模な土砂災害が急迫している状況において、市町村が適切な住民避難指示の判断を行えるよう、国が被害想定される区域・時期の情報(土砂災害緊急情報)を提供することになります(図- 5)。

図5 土砂災害防止法第29条(火山噴火に起因する土石流)

令和3年10月20日の噴火の際にも、緊急調査を判断するための調査を実施しましたが、幸いにも大規模な土砂災害が急迫している状況ではありませんでした(図- 6)。

図6 阿蘇山噴火後の調査状況(令和3年10月20日噴火後)

4.阿蘇砂防事務所開所式の開催
事務所が開所してまだ日も浅い令和3年4月18日に、阿蘇市内の阿蘇西小学校を会場に、新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から限られた招待者と、感染防止対策も十分に行いながらの式典となりました。蒲島郁夫熊本県知事や坂本哲志内閣府特命担当大臣をはじめとする多数の来賓の皆様や、本省から朝日健太郎国土交通大臣政務官、今井一之砂防部長にご臨席いただきました。主催者の式辞、来賓の皆様の祝辞の後、当職から事業概要の説明を行い、事務所看板の除幕へと移り、司会者の合図の下、真新しい事務所看板が姿を現し、新しい事務所の船出にふさわしいセレモニーとなりました(写真- 5)。
主催者の式辞、来賓の皆様の祝辞を簡単に紹介いたします。(肩書は開所式当時のものです。)

写真5 事務所看板序幕の様子

〇式辞(朝日健太郎大臣政務官、写真- 6)
阿蘇砂防事務所を設置することで、事前防災対策としての直轄砂防工事を強力に推進する。阿蘇地域の「いのちとくらしを守る」ため、しっかりと努力し、直轄砂防事業を通じて地域の安全安心と火山との共生を掲げる地域づくりに貢献する。私自身、元バレーボール選手でブロックというプレーが得意であった。阿蘇の皆様の暮らしと命をしっかりとブロックする、そんな事業に取り組んで参りたい。

写真6 朝日健太郎 国土交通大臣政務官

・祝辞(蒲島郁夫熊本県知事、写真- 7)
阿蘇山直轄砂防事業が着手され9 箇所の工事に着手頂いた一方で、阿蘇カルデラ内には対策が必要な箇所が多数あり、今後更に土砂災害対策の推進が必要。阿蘇砂防事務所の開所により砂防施設の整備が加速され阿蘇地域の安全安心に繋がるとおおいに期待。

写真7 蒲島郁夫 熊本県知事

・祝辞(坂本哲志内閣府特命担当大臣、写真- 8)
平成28年熊本地震で崩壊した箇所などを、一つ一つ丁寧に国の力で安全対策をしていかなければならない。長い道のりかもしれないが、阿蘇の安全、振興を実現させてまいりたい。

写真8 坂本哲志 内閣府特命担当大臣

・祝辞(馬場成志参議院議員、写真- 9)
全国で大きな災害があり、国土交通省も人が減るという厳しい状況の中で、阿蘇砂防事務所を開設して頂いた。国・県・市町村協力体制を更に充実していただきたい。

写真9 馬場成志 参議院議員

・祝辞(小早川宗弘熊本県議会議長:代理 山口裕副議長、写真- 10)
防災減災に繋がる施設の整備が本格化し阿蘇地域の皆さまの人命財産が守られることを期待。県としても、安全安心に向けしっかりと取り組む。

写真10 山口裕 県議会副議長

・祝辞(佐藤義興阿蘇市長、写真- 11)
1日も早い事業促進と防災対策が講じられる事が、地域住民の安心安全な暮らしに繋がるものと確信。地元自治体としても緊密に連絡を取り、阿蘇砂防事務所を中心に事業の進捗に邁進する。

写真11 佐藤義興 阿蘇市長

5.おわりに
阿蘇地域は多くの方が居住されており、日本を代表する観光地であるが土砂災害の発生する危険性が非常に高い地域であるため開所式で朝日政務官が述べられた「土石流をブロック!」を合言葉に、引き続き阿蘇地域の安全安心確保のために事務所一丸となり直轄砂防事業に取り組んでまいりますので、皆様方にはご指導ご鞭撻のほどよろしくお願い申し上げます。

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