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熊本県営住宅健軍団地建替事業
―福祉施設併設(合築)への取組み―

(前)熊本県 土木部 住宅課 参事
井 手 秀 逸

1 はじめに
県営住宅健軍団地は,戦後,海外からの引揚者や沖縄からの疎開者を受け入れることを目的に昭和36~37年にかけ建設された改良住宅(RC造3階建・63戸)で,建物の老朽化や設備の陳腐化が進行しており,建替えの検討が急務であった。
また,団地が位置する健軍地域は,熊本市中心部から南東へ約6㎞,健軍商店街アーケードや路面電車の健軍電停に近接した生活利便性の高い地域ではあるが,高齢化率が約24%と熊本市平均の約18%に比べ高く,特に健軍団地入居者については,全入居世帯の85%が高齢者世帯という状況であり,コミュニティ形成での問題も抱えていた。
このような状況の中,バートナーシップ(PS)やユニバーサルデザイン(UD)を基本理念に,福祉行政と住宅行政とが連携し,ひと(当事者)を中心とした地域福祉推進の福祉機能併設(合築)モデル団地として,本建替事業はスタートした。
なお,住宅部分については「改良住宅」としての建替えではなく,若い世代の入居を含めた新たなコミュニティの形成を目指し,「公営住宅」としての整備を行うこととした。

2 事業の概要
〇所在地  熊本市栄町2-15
〇敷地面積 3,109m2
〇建設年度 本体工事H15~16年度
      外構工事H17年度
〇事業費  住宅·集会所部分:887百万円
      福祉施設 :310百万円
      合  計 :1,197百万円
〇構造規模 SRC造9階建(一部7階)
〇延床面積 住宅部分(2~9階):3,702.58m2
       団地集会所(1階):105.97m2
       福祉施設(1階):990.20m2
        合  計 :4,798.75m2
〇住戸数  50戸(2DK(54m2):24戸,3LDK(72m2):26戸)

3 事業の特徴
(1)福祉機能整備のためのコンセプト
福祉施設併設にあたり,福祉機能整備のためのコンセプトを次のとおりとした。
① 先駆的な複合在宅福祉サーピスの開発や普及
利用者のさまざまなニーズに応えられる小規模多機能サービスやワンストップサービスなど,ひと(当事者)を中心とした柔軟なサービス形態,認知症高齢者の介護や子育て支援サービス,時代の要請に応じたサービスなど,先駆的な複合在宅福祉サービスの開発や普及の拠点とする。
② 地域共生(コミュニティ)ケアのモデルを構築
地域住民やボランティア,あるいは商店街などの地域の方々とのパートナーシップにより,誰もが地域の中で安心して生活を続けられる支え合いの仕組みを,地域共生ケアのモデルとして構築する。
③公営住宅整備と連携した福祉機能併設(合築)モデルの提示
「住まい」と介護や生活支援サービスとの融合を図り.住民生活の質の向上に寄与する公営住宅のモデルを市町村に示す。

なお,施設運営にあたっては,民間の自由な発想やノウハウ及び人材等を最大限に活用し,行政と民間事業者とのパートナーシップを進めていくために,県内に本拠を置く社会福祉法人やNPO法人などを対象とした事業企画案を公募により求め,さらに入居団体へは福祉施設部分を有償で貸し付けて運営を行ってもらう方式を採用した。公募には10団体が応募し,NPO法人「おーさあ」の案が採択され,「健軍くらしささえ愛工房」の名称で平成17年10月20日にオープンした。現在,地域のサービス拠点施設として,地元商店街などと連携しながら,様々な活動が展開されている。(詳細は熊本県のHPに掲載)

(2)施設整備における主な取り組み
〇福祉施設部分について
① 地域福祉サービスモデルの施設として,地域住民が立ち寄りやすいウッドデッキ(「縁がわ」)や交流スペース,子育て支援のプレイルーム等を設置した。

② 子育て支援のプレイルームと高齢者や障害者が通うデイルーム部分との世代間交流を容易にする複数の通路を確保した。

〇住宅部分について
①ユニバーサルデザインに対応
・住戸内は全て引き戸を採用し,幅も80cm以上と広めに設定した。また,玄関には手摺付きの腰掛けベンチを設置した。

・車椅子にも対応した玄関引き戸と流し台が設置された住戸を各階毎に1戸配置した。

・火傷や浴室内での転倒防止等を図るため,サーモ付き水栓,低床ユニットバス(幅80cmの引き戸採用)を設贋した。
・ワイドスイッチを採用し,コンセントの取付高さも配慮した。
・玄関の鍵穴は,操作しやすいリバーシブルで「すり鉢状」のものを採用した。
・共用廊下は,車椅子での通行等を考慮し,有効幅160cmを確保した。
・エレベーターは,車椅子及び視覚障害者対応のものを採用した。

②県産資材の使用による地産地消の推進
・床材,造作材.玄関コート掛け等,県産材の杉や桧を積極的に使用した。
・3LDKタイプは2室(続き間)を,2DKタイプは1室を県産の畳敷きとした。

③防犯対策の推進
・玄関錠にはピッキング対策錠を採用した。
・エレベーターの扉には防犯窓を,かご内には鏡を設置した。
④多子世帯向け優先入居枠の確保
・団地入居者の新しいコミュニティ形成のために新規入居者の募集にあたり少子対策(子育て世帯への支援)及び幅広い年齢層の居住を実現するため,多子世帯(18歳未満の児童が3人以上いる世帯)を対象とした,優先入居枠8戸を確保した。

4 おわりに
現在,本県の高齢化率は23.6%であり,全国平均の7年先を行く水準である。公営住宅の整備を含む社会資本の整備にあたっては,超高齢化社会への備えを早急に進めることが,県政の重要な課題である。したがって,今回の県営健軍住宅の建替事業にあたっては,本県では初めての試みとして県営住宅への福祉施設併設という選択肢を選んだ。計画段階の当時,福祉行政と住宅行政との連携推進が叫ばれてはいたものの,福祉行政における県の支援業務の役割が限られていることから,建設費の補助制度などで制約を受ける面もあり,併設部分は県単独施行という形を取らざるを得なかった。
しかし,平成17年度に地域住宅交付金制度が創設され,公営住宅整備に際して福祉施設を併設する場合,提案事業として地域の実情にあわせて交付金を活用することが可能となり,地城の自主性を尊重した施設整備ができるようになったことは実に喜ばしいことである。
最後に,今回のプロジェクトでは,施設の設計内容や建設費等に関するハード整備と,施設運営や維持管理等に関するソフト整備の両面において,併設ならではの諸問題に直面しさまざまな紆余曲折を経たが,関係者の熱意と努力により無事完成を迎えることができた。この健軍団地の「地域の縁がわづくり」がモデルプロジェクトとなり,県内外の自治体へと広がっていくことを期待している。

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