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無動力式自動流量調節ゲートの考案

建設省 八代工事事務所
河川管理課 専門職
鴇  治 幸

建設省 八代工事事務所
河川管理課 維持係
福 島 研一郎

1 はじめに
ダム等河川構造物が設置されている河川では,鮎などの魚類が上流へ自然遡上できない状況にある。近年,多自然型川づくりを始め自然と調和した川づくりが進められる中,球磨川では「魚がのぼりやすい川づくり推進モデル事業」の一環として,ダム本体に階段式魚道設備を設置することになった。貯水位が変動するダムに設置する魚道では魚道部に流れる水量も変化するため,流下水量を一定に保つ側水路・ゲート方式による流量調節機能が必要とされた。
そこで,側水路より魚道部へ補完する水量を,ダム貯水位に応じて自動的かつ無動力で,一定量に保つことを目的とした無動力式自動流量調節ゲート(写真一1)の開発を行い,模型実験によりその機能を確認した後荒瀬ダムに設置したものである。

2 無動力式自動流量調節ゲートの概要
(1)本ゲートの機能および開発経緯
荒瀬ダムは発電用水取水ダムであり,ダム水位は常に変動する。魚道水路に放流可能な取水量は0.5m3/sと定められているが,階段式魚道部は,EL32.5(HWL)の時,取水可能最大水量0.499m3/s を流下するよう設計されている。従って,水位がEL31.0(LWL)に低下すると,流下水量は0.065m3/s にまで減少する。
流量調節ゲートは,EL32.5の時側水路流下水量を0とし,水位の低下に伴う階段式魚道部流下水量の減少を補充する形でゲートを徐々に開放,側水路流下水量を増加させ,EL31.0の時最大水量0.435m3/s を下流側階段式魚道部に放流するものである。
(2)ゲート設備の概要
設備の構成は,ゲート本体,戸当り金物,導水管,止水壁,中間プール,越流壁からなっている。ゲート本体は,無動力・自動化を実現するため浮体構造(フロート式)とした。また,本設備は,その使用目的より常時没水・流水中にある事,並びに浮体構造である事より,主材質はステンレス(SUS304)とした。
(3)ゲート作動および流量調節方法
本ゲートは,魚道流入口水位がEL31.0以上では常時一定の喫水線を保ちながら浮いている状態であり,上流側水位変動に追随して戸当り金物に沿って昇降する。
ゲート本体のスキンプレート部にはT字状の開口部が設けられており,ゲートの昇降により導水管入口部との重ね合わせにより通水面積(流水断面)を変化させる。
ゲート部の通過水量は,上流側水位ー中間プール水位の水位差と通水面積の変化によって決定される。

3 模型実験および検討
(1)実験の概要
ゲート本体の開口形状を決定するため通水量の確認・検証(通水断面に対する流量係数の検討)並びに自動作動の安定性の確認を目的とし,アクリル板で縮尺率1/10のスキンプレート取替可能な模型を作り実験を行った。
模型実験は寸法縮尺1/10で行った為,各水位における目標水量は,フルードの相似則により流量換算を行い決定した。また,模型での漏水量を予想して補正も行った。
(2)実験結果
模型実験結果から表ー1に示す流量調節性能をもつ断面形状を最終断面として決定した。最終断面形状は,目標実験水量に対し最大約10%程度少なく,魚道放流量0.5m3/s に対しては最大約8%の減となっている。しかし,導水管流入口の実施形状は模型に比較し水が流れやすい形状と予想される。従って,若干流水量が増加し目標水量に近づくものと考えられ,問題ないと思われる。
また,ゲート本体は,どの水位に対しても常に安定した状態に保たれており,水位変動に対する作動性も概ね良好であった。

(3)実験による改良点
数回の実験により下記の問題点が見つかり改良検討を行った。
●上昇作動時最大5mm程度の作動遅れが生じた。
 作動抵抗(ゴム・ローラ径)の低減を図り,また,水位変動によって生じる発生浮力を増加させた。
●最大上昇位置を越えた場合,下降時に著しい作動遅れ(25mm程度)が発生した。
 上・下限ストッパーを設置し,想定外の作動域をなくした。
●水勢の大幅な拡散効果はなかった。
 越流壁の高さを高くし,初期流速を軽減する。導水管の内高を高くし,水流下方に流速の遅い部分を設けた。
●水密性が悪い。
 水密ゴムの形状をL型とし,現地調節可能な構造とした。

4 現地設置および完成後の確認
無動力式自動流量調節ゲートは,平成11年3月荒瀬ダム魚道に設置された。現場据付にあたっては,扉体,戸当りおよび導水管の位置関係について特に入念な施工管理を行った。
現場における通水試験において下記の項目について確認を行った。
●全体的に良好な水量調節機能を発揮している。(最終実験結果と大差なし)
 水量の確認は,本水路と側水路の合流点の水位が設定水位で一定である必要がありこれを確認した。
●水位追随性は,EL32.2で最大2cm程度の遅れで,水量調節には問題ない。
●喫水線の確保は良好。
●ゲート本体の安定度は良好。
●振動・遊動の発生はない。
以上のように流量調節機能,作動性ともに良好な結果が得られ,当初の目的を十分に果たすことができた。

5 まとめ
今回考案した無動力式自動流量調節ゲートは,無動力で自動流量調節機能を持つため設備の簡易化を図ることが可能となり,設備費で約25%,維持管理費で約60%のコスト縮減ができた。また,故障原因の率の高い開閉装置・制御設備がないため故障発生率の低減がはかれた。さらに,全設備が水路内にあることにより景観的にも優れた構造となっている。低水位の時には,魚道としての機能も有している。
この考案は「階段式魚道設備」として共同特許出願を行っている。
今後は,ゲートの信頼性,耐久性を確認するため追跡調査を行う予定である。また,ゲート内流速の最適化を図ることにより,魚道ゲートとして単独使用が可能と考えられ,今後更に研究を進めていきたい。
なお,荒瀬ダム魚道設備で行った魚類の遡上調査では,多数の魚の遡上がみられ魚道設備の効果が確認された。

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