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全旋回掘削機による基礎工事について

三菱重工業株式会社神戸造船所
建機部建機設計課主任
奥 本 和 信

1 まえがき
全旋回掘削機は従来の揺動式オールケーシング機並びにロックオーガ機等による施工において,掘進不能又は難行等にいたる要因としての岩盤・転石・玉石・地中障害物並びに高水位砂礫層に対応すべく開発されたものである。
従来のこれら要因の出現に際しての対策を掲げると下記の通りである。
(1)揺動式オールケーシング機での対策例
イ)表層面附近の障害物(舗装面,既設構築物)については予めバックホー又は人力により撤去したのち,埋戻し整地を行い本施工に備える。
ロ)掘進途中における転石。構築物等の不確定障害物については,まず,チゼル等の重錐による落下破懐を試みる。
 前項で不能の場合は人力による孔内斫りや発破もしくは泥水中でのチゼル等による暗中模索的な作業を繰返すことが多い。
 泥水中での転石・障害物等の撤去確率は非常に低いものであり,その他機器による場合もほぼ不確定要素が多く同様な傾向である。
ハ)支持層の岩盤が所定深度より浅い場合や岩質が土質調査図・設計図と相違して硬い場合は所定深度の確保が難しく,杭長変更を余儀なくされることが多い。
二)高水位砂礫層におけるケーシング引抜き不能については上位機種による対応のみであり,その他特殊な方法が見出せない。
(2)ロックオーガ機併用での対策例
ロックオーガは転石や支持層の傾斜により穴曲りを招きやすいため,その併用施工に当っては修正を必要としたり,転石や岩盤の残留と転石の戻りによってケーシングの圧入不能が生じる問題を含みつつ採用に至っている。
(3)その他併用工法対策例
オールケーシング工法と併用するその他の工法や機器は各社各様に開発実用化されているが,破砕を主目的とする併用方法のため一長一短があり,不確定要素を含んだものであることは否めない。
近年は山岳系・海浜系・傾斜地系等の大形構造物の需要が多くなると共に耐震性や地滑り抑止の機能をより高める必要から崖錐堆積層や氾濫源堆積層及び岩盤層の複雑な地盤構成下での施工が求められている。
また,都市部においても既設構造物並びに既設杭等の障害物要素を含んだ施工が求められている。以上のように不確定要素が多い現場で確実に施工できる機械の開発普及が待ち望まれていたのである。

2 機械の主要仕様と特長
(1)仕様
主な仕様及び全体外形図を表ー1及び図ー1に示す。

(2)機械の特長
イ)全油圧式回転機構
全旋回式ボーリングマシンは従来の揺動式オールケーシング機に替わり,ケーシングチューブを自動的に油圧クランプ(拘束)して油圧モーターで回転させながら,油圧シリンダにより押し込み引抜きを行う画期的な掘削専用機である。
ロ)芯出し
本機は油圧駆動による場内自走機能を有するため,杭芯セットが比較的容易に行えることから,安全かつ敏速な作業が行える。
ハ)適応地盤
実施工に際してはカッタビット装着の特殊ファーストチューブ使用により,岩盤・転石・玉石混り砂礫層・人造的障害物層等あらゆる地盤への適応が可能となり,前項で述べた諸々の問題を確実に能率良く施工できる。
ニ)安全
人が孔内に入り悪条件下での孔内作業を強いることが無くなることや,無理な作業姿勢を取ることが少ないため労働災害の低減にも寄与する。
ホ)大深度掘削掘
回転式であるため,確実に孔壁とケーシングチューブとの間の摩擦抵抗を低減できるので,ケーシングチューブの引抜き不能を招く恐れが非常に少なくなることから,より安定した大深度掘削や高水位砂礫層における周面拘束性の高い地盤においても比較的容易な対応ができるものと期待できる。
へ)垂直精度
一方向回転で掘進するためケーシングチューブに加わる加重が一方向であるためケーシングチューブの横振れが少なく,摩擦抵抗が少なくなり無理な押し込みを必要としないことから高精度の施工ができる。
また,求心力の高い特殊な自動クランプ装置を採用しており,ケーシングチューブの均質的拘束が保持されることにより鉛直・杭心ズレの精度が向上する。
ト)アタッチメント
回転力を利用した応用機器や治具等の開発も今後大いに期待できることから,より優れた器具や機械との併用により多目的な応用工法が望める。
チ)自動クランプ
ケーシングチューブを回転させながら自動的にクランプできるための油圧ホースの脱着が極端に減少し,油漏れが少なく脱着に伴う事故や故障の確率が低い。

3 全旋回オールケーシング工法の概要
本工法はケーシングチューブが全周回転しながら圧入されることにより,特殊ファーストチューブのカッタビットで切削しつつ,ハンマグラフ等により孔内掘削を行って掘進する方法である。岩盤・転石・障害物等の掘進に当っては,チゼル等の応用器具を併用することがある。
従って,本工法はあらゆる地盤での削孔が可能となることから,多種の用途に適応できる。その主なる施工法を概述すれば下記の通りである。

(1)場所打ちコンクリート杭工法
本工法はケーシングによる回転切削を除き従来のオールケーシング機による場所打ち杭工法と何ら変わるところがないため,施工方法については割愛する。

(2)既成杭の埋込み杭工法
予め削孔された孔内に既成杭を建込み,杭外周の空隙部に充填材(剤)を充填しつつケーシングチューブを引き抜き回収して杭を築造する方法である。
本工法は竪坑や温泉地での耐食性杭への応用も可能である。

(3)鋼管杭の中掘り圧入工法
鋼管杭をケーシングチューブに代えて直接回転圧入しながら孔内削孔をハンマグラブ等により行い,所定深度までの圧入設置を行ったのち,孔底処理・根固め・打撃処理等により築造する方法である。
本工法も竪坑への応用も可能である。

(4)柱列式山留杭工法
従来工法では施工不能や超難行工事と言った障害物層や転石・玉石層において山留不能を余儀なくされる場合や崖錐層での抑止杭について前項の場所打ち杭や既成杭を築造する工法である。

(5)置換杭工法
他工法の先行工事として,障害物層(転石・捨て石・既成杭を含む)を削孔したのち,砂やミルクにより置替杭を築造する方法である。

4 施工事例
全旋回式オールケーシング工法を採用した工事は,近年各地において増加しており,九州においても類似工法を含めて30件程度の施工実績を有するものと思われる。
また,本機(MT 150 RS型)においても実施工中を含め九州だけでも3件の施工実績を有するに至っている。
施工実績の工事名称等は下記の通りであり,本紙面を借りてその1例の工事概要を以下に紹介する。
 ① 九州横断自動車千綿工事
 ② 宮崎326号北川7号橋下部工工事
 ③ 若戸大橋(拡幅)若松工事〔現在施工中〕

(1)工事概要
 工事名称  宮崎326号北川7号橋下部工工事
 工事場所  宮崎県東臼杵郡北川町大字川内名字八戸地内
 発注者   建設省九州地方建設局延岡工事事務所
 施工者   五洋建設株式会社
 協力会社  塩見工業株式会社
 施工区分  P1橋脚の基礎杭及び仮設用砂置換杭
 使用機種  三菱全旋回ボーリングマシン MT 150 RS型
 工事期間  昭和63年1月~昭和63年3月
本工事道路は延岡市と大分市を結ぶ最短路であり山間部のみを通る工事箇所でもある。
工事箇所は,北川上流の本川中流に位置し,地層構成は厚く堆積(11~12m)した玉石混り砂礫層と基盤岩である砂岩(軟岩Ⅱ),又は頁岩層から成っている。従って橋梁下部工における基礎工事箇所は,地質構成から難工事となる。
故に,本工事における基礎杭は全旋回方式掘削機による場所打ち杭が採用された。
以下に,本工事区間の一般図と地質調査の一部抜粋を添載する。

(2) 施工状況
本工事の橋脚部は鋼矢板締切式築島により基礎杭の施工を行うべく計画されていたが,仮桟橋用H鋼杭の打設状況より判断し,鋼矢板打設が不能と判定されたため,盛土と蛇籠による築島に変更された。
そのため,躯体施工に際する仮締切り工法が再検討されたが,転石・玉石混じりの砂礫層と岩盤層からなる地層に適応できる工法も見当らないため,鋼矢板締切り前に予め砂置換杭を施工し目的である鋼矢板締切りを行う施工法が採用された。
また,本施工に当っては,砂置換杭(φ1,500×ℓ15,000×40本)の施工を先行し,その後本設基礎杭(φ1,500×ℓ17,994×8本)を施工した。
この施工実績による削孔時間平均値は概ね下記の通りであった。
① 転石・玉石混じり砂礫層   18分/m
② 支持岩盤層(頁岩・砂岩)  100分/m
併せて,1本当りの施工時間(実働)を示せば,
  ① 砂置換杭(指定仮設杭) 365分/本
  ② 本設基礎杭       865分/本
となる。
参考として杭伏図及び状況写真の一部を以下に添付する。
杭施工については殆ど問題なく完了することができた。
施工順序の作業工程は従来のオールケーシング工法に共通するため割愛する。

5 あとがき
全旋回掘削機(MT 150 RS)の主要仕様並びに施工事例について概要を述べましたが,今後本工法が優れた施工法として発展するとともに附帯器具や施工技術の開発が確立し,ここ数年で一般的工法となるものと期待しております。
最後に,施工事例についてご協力を得ました「建設省延岡工事事務所並びに五洋建設(株)・塩見工業(株)」関係各位に深甚の謝意を表する次第であります。

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