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トンネル工事における補助工法の効果についての考察

(前)長崎県出島バイパス建設事務所
建設課 係長
長崎県有川土木事務所 道路課
 係長
横 尾 利 春

1 はじめに
近年,未固結層で低土被り地におけるNATMによるトンネル施工では,地山の変位を小さくすることや切羽の安定を目的とした補助工法の技術的進歩が著しい。
一般国道324号(出島バイパス:L=4.8km)道路改築工事は,その大部分がオランダ坂トンネル(L=約3km)である。オランダ坂トンネルの起点側坑口から約500m区間は,未固結層を主とし低土被りで,かつ地表部は住宅密集地でライフラインが縦横無尽に張り巡らされているというトンネル施工にとっては厳しい条件であった(図ー1参照)。このため,切羽の安定及び地山の変位抑制を目的として,計測管理のもとにいくつかの補助工法を採用した。
本報告は,トンネルの計測管理で得た結果から,今回採用した補助工法の効果について考察を行うものである。

2 出島バイパス事業の概要
長崎市は,長崎県の南部に位置し,人口約42万人を擁する長崎県の県都である。本市の可住地は,同程度の人口を有する他都市に比べかなり少なく傾斜地の市街地化が進んでおり,都市内幹線道路やバイパス,環状線の整備など交通容量の拡大に取り組んでいるものの,地形的制約等によりモータリーゼーションの発展に対応した交通体系の確立が遅れている。
市内中心部には図ー2に示すように,主要幹線が集中しているとともに,その幹線においては軌道(路面電車)が敷設されている。
また,JR長崎駅,県内離島の玄関口である長崎港を抱え,この地域の道路整備を上回る交通需要の増大や交通の発着点が都心部に集中することに加え,都市周辺部相互を連絡する交通が同じく都心部を通過することなどを背景に,各所で交通渋滞を誘発しており,この交通渋滞は長崎市の都市機能に多大な影響を及ぼしている。

出島バイパスは,交通渋滞が著しい長崎市中心部を縦貫する地域高規格道路(長崎南北幹線道路)の起点部に位置し,同時に竣功した高規格幹線道路の九州横断自動車道(長崎大分線)の長崎I.C.に,長崎中心部から直接アクセスする一般国道324号のバイパスとして整備された。
また,出島バイパスは住宅密集地の直下を通り市中心部と郊外を結ぶ自動車専用道路として計画されたため,全体の約6割はトンネルである。トンネルは,上り線2,923m,下り線2,967mの2車線併設トンネルであり,県内最長の道路トンネルである。トンネル工事は,終点側である早坂町からの2本同時の片押し施工である。表ー1にオランダ坂トンネルの概要を取りまとめた。

3 地形・地質概要
トンネルルート起点側から約1.5kmは,標高30m~150mのなだらかな丘陵地形であり,2km地点にかけては比高差で約50mの谷地形となる。終点側の約1km区間は,標高約230mの山岳地形である。図ー3の地質縦断図に示すようにトンネルルートの地質は,基盤岩として長崎火山岩類の凝灰角礫岩が分布し,その上位に安山岩溶岩及び安山岩自破砕溶岩などが分布する。

トンネル切羽位置の地質は,終点側から1.7km間は火山礫凝灰岩及び凝灰角礫岩であり,起点側の0.5kmから1.3km間は,火山円礫岩層と安山岩自破砕溶岩である。起点側坑口から0.5km間は,火山円礫岩層,湖沼堆積層,土石流堆積層であり,これらの地質は固結度が低く,切羽の安定と地山の大きな変位の発生が懸念された。
図ー4に施工中の追加ボーリング及び切羽観察結果も考慮した起点側坑口付近の地質縦断図を示す。

4 計測の目的と内容
補助工法を採用した起点側において実施した計測工位置を図ー5に示した。計測工種は,以下に示すような理由により通常の計測工種に加えて,坑内計測の水平傾斜計及び坑外計測の地中変位計(3成分測定用)を追加採用した。表ー2には,本トンネルで採用した計測工種を一覧表としてまとめた。
・土被りが薄く地山が未固結であるため,トンネル掘削が地上部住宅密集地に与える影響が大きいと考えられる。
・計画トンネルルート上は,ライフライン及び未確認の井戸(写真ー1は実際に切羽に出現した井戸)もあることから,切羽前方の地山変位を把握することが必要である。
・地上部は住宅密集地であることから,十分な地表面沈下測定ができない。
・トンネル上部が住宅密集地であり,事前に地表部からの補強対策ができない。
・トンネル掘削による地表面に対する影響を早期に捉え,管理基準値内での施工を行うための計測管理が必要である。
・補助工法を併用したトンネル掘削の変形モード等を確認し,より効果的な補助工法を選定する必要がある。

5 計測結果
未固結地山で切羽の安定性を向上させる方法には,核残し,鏡吹付けコンクリート,フォアポーリング等さまざまな補助工法がある。オランダ坂トンネルは,地表部が住宅密集地であることから,地表面陥没を回避するために注入式長尺鋼管フォアパイリング(トレヴィチューブ)を採用した。
長尺鋼管フォアパイリングの効果は,模型実験,数値シミュレーション,施工実態調査などさまざまな観点から検討されている。その中で,武内i)らは,長尺鋼管フォアパイリングの効果は,『切羽安定効果と沈下抑制効果として説明できる。』としている。オランダ坂トンネルでは,これらの効果により住宅密集地において地表面陥没を引き起こさないよう注入式長尺鋼管フォアパイリングを新地側坑口から約500m間で施工した。
また,インバートの早期閉合を,掘削に伴う地山の変位を早期に抑制させるために採用した。
以下に,長尺鋼管フォアパイリングを施工することにより地表面陥没を回避できた結果とインバート部の早期閉合を行うことにより地表面の沈下が抑制できたことを,得られた計測のデータから示す。

(1)地表面陥没から回避できた事例
 (注入式長尺鋼管フォアパイリングの効果)
注入式長尺鋼管フォアパイリング施工中に確認されたせん断変位を水平傾斜計のデータを用いて図ー6に示す。

この図は,せん断変位発生前,発生直後,切羽崩壊時のデータを区間変位量で示したものである。せん断変形発生時期には,切羽は停止しており,長尺鋼管フォアパイリングを施工中であった。以降,切羽崩壊発生は,切羽掘削再開までの間で起った。
この図から,せん断変位発生後から切羽崩壊までの間の影響範囲は,切羽前方だけでなく,切羽後方にまで及んでいることがわかる。図ー7には,累積変位量を示したが,切羽崩壊直後における水平傾斜計位置でのたわみ量を赤線で示している。このたわみを見ると切羽前方では,沈下傾向を示し,切羽後方ではその沈下に対して支える傾向が読み取れる。

また,地表部に設置していた地盤傾斜計のデータでは,0.7/1000radの局部的な傾きが確認できた。このことから,図ー8に示すようなせん断変位が発生し,地表面で確認されたクラックからその影響は地表面まで及んでいることが確認できた。

以上のことから,注入式長尺鋼管フォアパイリングが切羽崩壊を最小限に抑えることができたと推定する。言い換えれば,先受け長が短い場合や,鋼管の剛性が小さい場合には,長尺鋼管フォアパイリングに梁の効果が期待できず,地表面陥没を誘発していたと考える。これ以降,長尺鋼管フォアパイリングの効果を高めるために,ラップ長を4mから6mに変更した。

(2)インバート早期併合による変形抑制効果
インバートによる早期閉合は,トンネル周辺地山のグランドアーチを迅速に形成し,トンネルの安定や地山の変位抑制効果がある。オランダ坂トンネルでは,上半脚部まで軟質な未固結層が分布しているため,A計測データより脚部沈下量に着目し,インバートによる早期閉合の効果を検証した。図ー9は,上半脚部沈下が切羽通過後にどのように推移するかを示した。この図の縦軸は,上半脚部の沈下量を収束値で除算することにより無次元化し,さらに各計測断面の土被りの影響(荷重の影響)を取り除くために土被り比(H/D,H:土被り高さ,D:トンネル直径[≒10m])で除算した値をプロットしたものである。この図から,インバート無しの場合には,上半脚部の沈下は,収束するまでに5D程度要しているのに対し,インバート有りの場合には,2D程度で収束していることがわかる。このことは,上半脚部の沈下量は,インバート有りの場合の方が小さくなることを示している。しかし,インバート施工区間の方が施工していない区間に比べ,地山の弾性係数が大きい場合には,このことは当然の結果となる。そこで,インバート施工有り,無しの区間の地山の力学特性の違いを見るために,事前に実施した孔内載荷試験の結果を図ー10に示す。この図から,トンネル踏前部及びスプリングライン部で得られた地山の弾性係数は,新地側坑口に向けて低下しており,インバー卜早期閉合の方が小さいことがわかる。
以上のことから,図ー9に示すインバート施工の有無による沈下量収束距離の違いは,インバー卜施工の効果であることを示している。

6 あとがき
本トンネルで採用した主な補助工法は,長尺鋼管フォアパイリング(トレヴィチューブ)である。この工法は,切羽の安定や沈下対策だけでなくトンネル上部のゆるみ土圧にも対処できることが,現場状況及び計測データから明らかになった。またインバートの早期閉合が,地山変位を抑制することも計測結果から明らかになった。
今後,全国で施工される都市NATMが増大していくなか,本文がその一助になれば幸いである。
なお,オランダ坂トンネルは平成16年3月27日,無事供用開始した。

参考文献
i)武内秀木,河上清和,折橋恒春,中川浩二
長尺鋼管フォアパイリング(AGF工法)の効果に関する研究,土木学会論文集
No.623/VI-43,pp233-246,1999年

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