植木BPにおけるPI方式の導入について
建設省 九州地方建設局
熊本工事事務所調査第二課長
熊本工事事務所調査第二課長
宮 石 晶 史
建設省 九州地方建設局
熊本工事事務所調査第二課計画係長
熊本工事事務所調査第二課計画係長
日名子 信 広
建設省 九州地方建設局
熊本工事事務所調査第二課建設技官
熊本工事事務所調査第二課建設技官
牧 野 和 敏
1 はじめに
本格的な高齢化社会が到来する21世紀初頭までの限られた時間に幹線道路ネットワークを計画的・効率的に整備するためには,国民や地域のニーズを的確に把握するとともに,道路ネットワークを構成するそれぞれの道路の機能や役割に相応しい道路整備を行うための事業調整や円滑に事業を実施するための合意形成が重要である。
このため,平成10年度からスタートする「新道路整備五箇年計画」の中で,住民参加や国民のニーズが直接把握できる仕組みの充実(図ー1)を図ることとしており,こうした取り組みの一環として,今回,一般国道3号植木バイパスの計画策定にあたり,関係地域住民の方々と直接対話をしながら計画策定を進めるPI方式を導入することとした。
平成9年12月に「一般国道3号植木バイパス道路計画検討委員会」を設置し,検討を進めているところであるが,現時点までの経過と今後の課題について考察する。
2 PI(パブリック・インボルブメント)方式
PI方式とは,計画策定,意志決定等の段階で国民参加の機会を確立する方式で,参加はアンケートや委員会設置など様々な手法がある。
従来,都市計画決定の地元説明会での意見交換,あるいは公聴会での意見交換が地元住民の道路事業に接する最初の場であり,計画策定の段階において住民との意見交換の場はなかった。
今回のPI方式では,計画策定の段階から,広く意見,意志を調査する時間を確保し,かつ策定の過程を設けることとなり,住民代表参加による検討委員会において,計画を策定している(図ー2)。
3 植木バイパスの概要
植木バイパスは,国道3号のバイパスとして,国道3号植木町における交通渋滞解消のために必要とされる道路である。
・国道3号の交通状況(H6交通センサス)
交通量:33,160~33,810台/日
混雑度:2.22~2.51
混雑時旅行速度:26.9~30.6km/h
・主要渋滞ポイント:舞尾交差点,植木町役場前交差点
地元の状況としては,早期整備の要望が大変強く,植木町の都市計画マスタープラン(H10.3)においても位置づけられている。さらに街づくりに対する住民の関心も高まっており,この街づくりに関連が深い当バイパス計画にPI方式を採用することにした。
4 検討委員会
4.1 委員会形式を採用した理由
PIの手法として,不特定多数の住民等を招いて説明会のように議論する方法やアンケート等があるが,前者だとどうしても偏った意見となり,収拾がつかなくなる危険性が考えられる。住民代表が過半数を占める委員会形式であれば,住民代表の活発な意見と行政側が対等に向き合って,よりよい計画検討が行えるのではないかとの考えから,今回は委員会形式を採用した。
4.2 委員の選定
委員の選定については,基本的に有識者で構成することとしており,学識経験者,農業・商工会・地域自治会・女性等の幅広い分野より選定している。その際に,公平性・透明性を保持する立場から,町・市・県の関係各部局に人選を行ってもらった。
4.3 委員会の構成
住民代表10名(植木町7名,熊本市3名),学識経験者(1名),行政関係者(7名)の計18名とし,運営主体(主催)は建設省,熊本市,植木町との共同主催。
4.4 委員会の運営方針
4.5 委員会での検討の進め方
4.5.1 PI方式実施フロー
実施フローを図ー3に示す。
4.5.2 地域住民からの意見の聴取
委員会に加え,広く住民の意見を聴取し,計画策定に反映させることを目的に,地元の14,000世帯に対し,チラシを配布し(図ー4参照),植木バイパスの計画に対する意見を募った。
地元住民意見内容の代表例は下記のとおり。
〇路線位置に関して
・バイパスよりも国道3号拡幅がよい
・国道3号の東側ルート案を要望
・ルートが西回りの場合,植木IC接続ではなく,起点は植木IC以北へ
〇道路の構造に関して
・車優先ではなく歩行者,車椅子等が通行可能な広い歩道の確保を
・通過交通の排除を促進
・全線4車線の自動車専用道路を整備(主要道路との交差は立体)ただし,側道を全線設置し,沿道の発展を促進
・通過交通だけではなく,出入り可能な道路構造を望む
・沿道利用抑制等の規制はせず,沿道が大いに利用できるようにしてほしい
・広範囲な面的開発が可能となるようなパイパス整備を要望
〇建設促進に関して
・早期バイパス建設を要望
4.5.3 検討内容
4.5.3.1 事業の必要性
バイパスの必要性・機能・ルートの考え方について検討(図ー5)。
4.5.3.2 路線計画・構造計画
検討にあたっては,行政より3案(ケース)を提案し,委員会で意見交換をする方法をとった。
(1)ルートの比較検討(図ー6,表ー2参照)
① Aルート(西側案)
・市街地の通過を避け,国道3号の西側をバイパスで通過する案
② Bルート(現道拡幅+ミニバイパス案)
・国道3号の現道拡幅を基本とし,市街地の一部区間をミニバイパスで通過する案
③ Cルート(東側案)
・市街地の通過を避け,国道3号の東側をバイパスで通過する案
(2)道路構造タイプおよびアクセス道路の検討
(表ー3参照)
① 自動車専用道路タイプ
・主要幹線道路(一般国道等)とのみアクセス
② 一般道路タイプ(アクセスコントロール無し)
・平面交差点が多く,交通が煩雑
・一般の市町村道以上の道路とアクセス
③ 一般道路タイプ(アクセスコントロール有り)
・交差点の立体化等により平面交差点が少ない
・補助幹線道路以上の幹線道路(市町村道の1級幹線道路以上)とアクセス
第5回委員会までの検討において,バイパスの路線位置としてはAルート(西側案),道路構造タイプとしては,一般道路タイプ(アクセスコントロール有り:国道県道などの主要幹線道路や特に主要な市町村道とアクセス)が良いという委員会での合意形成が図られた。
4.5.4 検討結果の公表
委員の発言趣旨の自由度を保持し,その発言内容の責任を過度としないため,委員会自体は原則的に非公開とした。ただし,委員会の検討結果については,第6回(最終回)委員会終了後に前回チラシと同様に,地元の14,000世帯に「PI方式による道路計画検討報告」のパンフレット(図ー7)を配布。
4.5.5 委員会の反省
委員会終了の場で,委員会の進め方についての反省会を行った。本当にこういった進め方で良かったのかどうかを地元代表者を中心に率直な意見を述べて頂いた。今後のPIを進めていく上で貴重な意見として受け止めている。
主な意見は下記のとおりであった。
・広域的な道路交通をも担うことから,委員の選定は,関係市町だけでなく,広範囲からの選出でも良かったのでは。
・委員会での検討結果を自治会等で取り上げてはいたが何しろ資料がない(終了後回収されてしまう)ため,住民の声を吸い上げるまでには至らなかった。
・婦人会で取り上げたが,始めての人にわかってもらえるよう説明するのは難しく,ほとんどが 「早くできれば・・・・」という意見だった。
・不動産関係からルートの位置や道路の構造等について質問を迫られて返答に困った。
・公的施設にアンケート箱を設置したり,ホーム・ページ等も活用して,メディアをもう少し広げてもよかったのでは。
4.5.6 今後の予定
委員会の検討結果を考慮し,関係行政機関にて都市計画決定原案(S=1/2,500)を作成し,引き続き都市計画決定のための地元説明に入っていく。
5 今回のPI方式による効果と課題
5.1 効 果
・今後の都市計画案を策定する上で,地域のニーズをこれまで以上に反映したルートや構造案となる。
・計画段階における住民の合意形成がより図られ,用地買収等,今後の事業展開が円滑になるものと期待される。
・新聞等広報手段も用いながら住民への情報伝達に努めているため,道路事業に対する信用と正当性が醸成されることが期待される。
5.2 課 題
今までは設計の出来上がった段階で1つのルートしか見ることが出来ず,「何故このルートなのか」「何故この構造なのか」ということが解らないまま不透明な部分を残していた。
社会資本の整備水準が高まり,従来のやり方では国民のニーズを捉えきれず,行政サービスを受ける国民の満足度が低下し,「無駄が多いのに一方的に決めている」と公共事業への批判も増加している現状であり,満足度をアップさせるには国民と一緒に考える政策づくりが必要とされている。
この取り掛かりとして今回植木バイパスのPI導入と至ったが,初めての試みということもあり,必ずしも上記命題に十分対応したものとは言い切れない面もある。
政策情報の積極的な公開や広報公聴機能の強化とはいいながらも,個人所有地等の位置等,微妙なプライベート分野の権利の保護から,委員会自体は非公開,委員会資料は回収という手段をとっている。また住民代表である委員の発言の自由度を高め,責任分担も過度とならないようにするための配慮も必要であり,どのような情報を公開し,対話をどのように行うかなどについての具体的な方針が示されていない現時点ではやむを得ないのではないかと思われる。
しかし比較案を提示することにより,路線位置,道路構造の決定根拠を住民自身で判断・納得できるという利点をもつため,事業の透明性の確保という観点からいえば,大きな意味を持つと思われる。
冒頭でも述べたように,政策や計画の決定過程を透明化し,合意に基づき事業を実施する対話型行政が必要とされている。
国民と行政の対話を進め,行政情報の公開と行政の説明責任を果たしながら,国民に問いかけ,多様な考え方を取り込むためには,説明責任や情報公開をどうマニュアル化していくかが最大の課題となる。
6 まとめ
今回は植木バイパスヘのPI方式の導入での経過報告であり,本来の効果としては,今後行われる都市計画決定,事業化,用地買収,工事着工となった際に表れるものであるから,このPIが事業推進のバックアップとなり得たかについては現時点では明確に言及することはできないが,期待は大きいものと考えている。
今回の試行で得られたノウハウは今後のPI方式の導入に役立てていくよう,課題や問題点の整理考察をこれからも続けていく所存である。