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最近の道路舗装の動向
 ―転圧コンクリート舗装について―

建設省土木研究所道路部
舗装研究室長
安 﨑  裕

1 まえがき
近年,道路舗装において,重量車両の走行による舗装路面の塑性流動やスパイクタイヤの普及による摩耗が,ますます深刻な問題となっており,道路整備の着実な進展による舗装ストックの増大も相侯って,維持修繕量の軽減のための舗装の耐久性向上が大きな課題とされている。
このため,損傷に対する抵抗力が高く,長い耐用期間が期待できるコンクリート舗装を見直す気運が高まっている。しかしながら,これまでのコンクリート舗装は舗設後の養生に長期間必要なため,供用開始まで時間がかかること,施工機械が大がかりになり,こまわりがきかないなどの短所があり,幹線道路では,一部のバイパス工事などを除き採用されることは少なく,特に既設道路の拡幅工事や補修工事では特殊な例を除き,殆ど用いられることはなかった。
しかし,その中で最近,転圧コンクリート舗装(Roller Compacted Concrete Pavement;RCCP)に対する関心がわが国で急速に高まっており,昨年の第17回日本道路会議でも多数の論文発表がなされたほか,日本道路協会の中の舗装委員会セメントコンクリート舗装小委員会の下に,転圧コンクリート舗装分科会が設置され,技術的諸問題に対する検討が始められている。
この転圧コンクリート舗装はスランプがゼロの超硬練りコンクリートをアスファルト舗装用のフィニッシャ及び振動ローラなどの施工機械を用いて舗設する工法で,コンクリートダムの施工方法の1つであるRCD(Roller Compacted Dam;転圧コンクリートダム)工法やセメント安定処理(ソイルセメント)路盤の施工法に類似したものといえる。
転圧コンクリート舗装は,従来のコンクリート舗装に比べ,装備の簡単なアスファルト舗装用機械を用いることから,工費が割安になるとともに,施工期間も短縮できるとされ,わが国でもRCCPに対する関心が高まったものと思われる。
そこで,転圧コンクリート舗装について,その概要を紹介するとともに,現状における問題点などを述べることにする。

2 転圧コンクリート舗装の特徴
転圧コンクリート舗装に用いられるコンクリートは,いわゆるゼロスランプの超硬練りコンクリートを20~30cmの版厚になるよう,アスファルトフィニッシャで敷均し,振動ローラ,タイヤローラ等を用いて転圧締固めを行うもので,コンクリートの配合と施工機械にその特異性があり,一般のコンクリート舗装に比べて,次のような特徴がある。
◦ まだ固まらないコンクリートは,ローラ転圧を行う関係上,極めて硬練りのコンクリートにならざるを得ない。このため,単位水量は従来の舗装用コンクリートが115~140kg/m3であるのに対し,90~100kg/m3前後と非常に少ない。従って,単位セメント量も少なくなり,材料費は安くなる。
◦ 舗設に大型のコンクリート舗装用機械を必要とせず,施工速度も早くできるので,施工費が安くなる。
◦ コンクリートの初期強度が通常のコンクリートに比べ大きいことから,養生期間を短縮でき,早期交通開放を図れる。
◦ 十分な転圧がなされたものは,高強度なコンクリートとなるので,重荷重にも耐える舗装ができる。

3 転圧コンクリート舗装の経緯
転圧コンクリートそのものは,1920年代にアイルランドでセメント安定処理路盤の代りに施工された例があり,わが国でも北海道の国道36号の弾丸道路(札幌~千歳間)の舗装の路盤として昭和28年に施工された例がある。
また,RCDは1970年代の初めより米国を中心に研究開発がすすめられ,わが国でも昭和51年の大川ダム(北陸地建),昭和53年の島地川ダム(中国地建)など,相次いで実際に施工されてきている。
RCDは振動ローラを用いて,一層仕上がり厚が35~70cm程度に締固め,これを水平に層状に積み重ねて施工する方法で従来のダムコンクリートに比べ,硬練りであることから,単位水量ひいては単位セメント量を節減でき,セメントの水和熱反応が抑制できることから,クーリングを省略できる。また,自走式の施工機械の利用もあいまって,急速施工が可能となるので工期短縮が図れることから,日本で普及していったものである。
転圧コンクリートを舗装表層に用いた転圧コンクリート舗装についての研究は欧米でも,1970年代後半から始められたもので,まだ歴史も浅く,表ー1にも示すように,駐車場,木材集荷場,空港エプロンなど,一般道路以外の重量車両が低速走行する箇所で,あまり平坦性が問題とされない箇所の舗装に多く適用されている。

転圧コンクリート舗装は,北米においては,一工事当りの施工面積が数万平方メートルにもなるような大規模な施工例が多く,特に駐機場,木材集積場など面的な広がりをもつ箇所の舗装において用いられている。一方,スペインは,転圧コンクリー卜舗装を一般道路にも適用している,殆ど唯一の国であるが,それも比較的交通量の少ない地方道路の舗装が主体で,幹線道路では,アスファルト混合物によるオーバーレイを前提にRCCPを実施している。
わが国での転圧コンクリート舗装の施工例としては,表ー2に示すように,大阪市内にあるセメント工場内を始めとして,まだ数箇所程度で,施工面積も小さく,試験研究的段階に留まっている。

4 転圧コンクリート舗装の設計施工の現状
転圧コンクリート舗装は,まだわが国では,先に述べたように試験研究段階であり,欧米でも,一部の国を除き,一般道路用にはあまり用いられていない。それは,転圧コンクリート舗装の平坦性が,通常のコンクリート舗装と比べて,あまり良くないので,高速走行で乗り心地が重視される一般道路の舗装に適用するには,まだ問題があるとされているからであろう。転圧コンクリート舗装には,欧米の文献等からではよく分からない点がまだ数多くあり,わが国での今後の研究で解決していく必要がある。
ここでは,現在における転圧コンクリート舗装の実情や課題について述べていく。

(1)構造設計の現状と今後の課題
これまでのコンクリート舗装の構造設計は,路盤の支持力係数(K値),コンクリートの曲げ強度から推定される疲労耐力と,交通荷重の大きさとその頻度および温度条件等から求まる疲労荷重の繰返しとを比較し,設定された設計寿命期間内に十分な疲労抵抗を有しているかどうかを判定することにより,版厚を決定してきた。
欧米においても,転圧コンクリート舗装の版厚設計法自体は,在来の手法に拠っており,RCCP独自の設計法を採用している事例はなく,設計基準曲げ強度も,従来の舗装と同じ値を用いているのが多いようである。このことは,転圧コンクリート舗装で用いるコンクリートも従来のコンクリートと同じ強度特性,疲労特性を有していると見なしているためと考えられる。
ただ,RCCPの締固め方法が,従来のコンクリート舗装と異なることから,曲げ強度と圧縮強度の比も一般のコンクリートと異なるとの報文もあり,転圧コンクリートの静的曲げ強度と疲労耐力との関係(疲労曲線)も含めて,今後さらにつめていく必要がある。
また,RCCPのコンクリートの収縮率は,通常の舗装用コンクリートに比べ,7割程度と云われており,乾燥収縮等によるひび割れは,従来のコンクリート舗装に比べて少ないと考えられ,収縮目地間隔は広げることが可能と思われる。しかし,一方で,目地部補強のための目地金物を設置することは施工性からみて極めて困難であることから,構造的に補強されない収縮ひびわれが,大きな弱点となる可能性もある。これまでの欧米の例では,収縮目地を特に設けず,ひびわれの発生を放任した例では数メートルから十数メートル毎にひびわれが生ずると報告されているが,そのひびわれが供用性に及ぼす影響について,残念ながら著されていないので,今後の課題として,人為的な収縮目地の設置の是非や目地部補強の必要性の有無など,目地に関する検討も残されている。

(2)配合設計の現状と今後の課題
転圧コンクリート舗装におけるコンクリートの配合設計の方法として,現在,2つのやり方に大別される。第1の方法は従来の配合設計の延長上にあるコンクリート工学的な方法であり,他の方法は,路盤材としてのセメント安定処理混合物(ソイルセメント)の経験に基づく土質工学的な配合設計法である。
前者のコンクリート工学的方法は,コンクリートの強度が水セメント比と相関があることを利用し,水セメント比をいくらか変化させた配合毎にコンクリート供試体を作成し,定められた材令における強度試験の結果から,所要の強度が得られる水セメント比及びその他の配合を決定するものである。
転圧コンクリート舗装で用いられるような超硬練りのコンクリートでは,通常のコンクリートに比べ,セメントペーストの量が少なく,コンクリートマトリックスを形成するのに最小限必要な量,即ち,細骨材の空隙を埋めるに必要なだけの量に近づいている。このため,コンクリート工学的な配合設計では,セメントペーストの不足による不完全なコンクリートとなるのを避けるため,RCDで採用されているのと同じ,骨材の空隙を基にして配合を決める考え方がとられている。即ち,粗骨材と粗骨材との間にできる空隙はセメントモルタルで,また,細骨材と細骨材との間にできる空隙はセメントペーストで充填し,コンクリート中には空隙が残らないようにするもので,配合設計のためのパラメータとして,セメントペーストの細骨材空隙充填率Kp(又はα)と,セメントモルタルの粗骨材空隙充填率Km(又はβ)を用いている。理論的には,Kp=1,Km=1の場合が最も理想的な配合となるが,実際は,施工性の面から,Kp=1.0~1.3,Km=1.3~1.6程度の値の配合を採用しているようである。

一方,土質工学的配合設計の方法は,適当量のセメントを加えた混合物の乾燥密度が最大になる値(最適含水比)に単位水量を定め,この最適含水比のもとで,さらにセメント量をいくらか変えた供試体を作成して,ある材令時に強度試験を行い,配合を決定するものである。ただ,最適含水比を超えた状態で施工した場合,強度低下が著しくなる例もあることから,実施工では,最適含水比よりやゝ低目の含水比が選定される場合もある。
転圧コンクリート舗装用のコンクリートの配合設計法として,これら2つの方法は,それぞれ長短があり,確立された考え方にはまだなっていない。
コンクリート工学的方法においては,考慮すべきパラメータが,強度特性に対する水セメント比,コンシステンシーに対する単位水量,ワーカビリティに対するKp,Km(あるいは細骨材率や単位粗骨材容積)など多くの係数があるが,まだ,基礎的データの蓄積が少ないため,配合修正を行う場合に,どのパラメータをどのように修正するのが最も適切なのか,完全には明らかにされていない。
また,土質工学的方法についていえば,転圧コンクリート舗装では早期交通開放のため,コンクリートが未硬化の若令時でも相当程度の強度が要求されるが,それには,締固めを十分行って,骨材の噛み合わせを良くすることが必要であり,ソイルセメントで実績の豊富な最適含水比による配合は,その点に関して信頼性は高いといえる。
しかし,この方法は配合設計時に,骨材の粒度分布(即ち,細,粗骨材の割合)を調整することを前提とせず,単に,単位セメント量と単位水量(含水比)しかパラメータとして用いていないので,材料分離のしにくさ(ワーカビリティ)などを表わすのに適切なパラメータがなく,その取扱いが明確にできないなどの問題点がある。
そのほか,配合設計に関する問題点として,2つの方法に共通することであるが,スランプ試験に代わるフレッシュコンクリートのコンシステンシーの評価方法(一部ではダムの設計で使われているVC試験機によるコンシステンシーの評価を行っている例がある。),コンクリートの強度発現のメカニズムの解明(若材令時でも相当の強度が得られる理由等)及び強度発現を最大にするための養生方法など,基礎的な研究が転圧コンクリートについて十分なされているとはいいがたく,これらも今後の課題として残されている。
なお,転圧コンクリート舗装における,単位セメント量及び単位水量についての内外の事例を,図ー1に示す。少ないながら,わが国での施工例は単位水量,単位セメント量ともに,世界的にみて少ない方に属すると云えよう。

(3)施工の現状と課題
転圧コンクリートの敷均しには,アスファルトフィニッシャの使用が,内外とも一般的である。フィニッシャによる敷均し後,密度を十分に出すために,振動ローラなどによる転圧を行うが,ローラに過度に依存すると平坦性が損なわれることが多い。このため,一部の施工例では,平坦性を確保する目的で,2層に分けて敷均しを行ったり高締固めタイプのアスファルトフィニッシャを用いて,敷均し後の締固め度が85ないしは90%以上得られるようにして,密度確保のため,ローラ転圧にあまり依存しないようにして平坦性の改善をねらった例もある。しかし,この方法でも,一般のコンクリート舗装と同程度の良好な平坦性が,確保できるとはいえないのが現状である。また,これらの方法は,施工効率が落ちたり,機械経費が高くなったりして施工費も他の方法と比べ,かさむことが当然予想されるので,今後の施工面での課題として,一般道路にもそのまま使用しうるような良好な平坦性が確保でき,しかも,低廉な施工が可能となる工法の開発が望まれる。

そのほか,わが国での転圧コンクリート舗装の施工例では,舗装側端部の密度を確保するため,鋼製型枠を使用する例が多いが,外国では,施工効率が落ち,施工費もかさむので,型枠を使用せず,スリップフォームペーバ的な方法で成型する場合が多いようである。今後,地方道などに,転圧コンクリート舗装を適用する場合,工事費を少なくするため,型枠を使用しないで,所定の締固め度が確保できるような方法の開発も課題となろう。なお,表ー3に,アスファルト舗装,転圧コンクリート舗装,在来コンクリート舗装の標準的な施工方法について比較したものを示す。

5 あとがき
転圧コンクリート舗装について,その概要と,現在におけるいくつかの問題点を構造設計,配合設計,施工に分けて示した。
転圧コンクリート舗装には,まだ数多くの解決しなければならない問題点を有するが,その高強度,早期交通開放の可能性また,工事費の低廉さ(試算では,従来のコンクリート舗装に比べ,転圧コンクリートは,直接工事費で,C交通の場合,約25%節減可能とされている)等の特質から,まことに可能性に満ちた舗装と思われ,今後の研究開発に期待したい。

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