国道202号南波多地区の落石対策として
岩石接着工法を用いた事例紹介
岩石接着工法を用いた事例紹介
建設省 佐賀国道工事事務所
工務課長
工務課長
乾 晃 義
建設省 佐賀国道工事事務所
建設監督官
建設監督官
堀 康 孝
建設省 佐賀国道工事事務所
工務課設計係長
工務課設計係長
植 田 定
1 はじめに
近年の建設業界においては,様々な分野より各種の新技術・新工法が提案されているが,公共事業においては,これら各種の新技術・新工法について,その適用性を評価して積極的に活用を図る必要がある。
建設省では,建設関係以外の分野も含め広く民間等から新技術・新工法を収集し,これら新技術の成立性および公共事業への適用性に係わる評価を行い,有用な新技術・新工法の活用促進を図っているところである。
今回ご紹介する特殊セメント(DKボンド)を用いた岩石接着工法も,新技術活用促進の一環として,当該技術の活用の効果・歩掛・施工管理等に関して調査を行う,技術活用パイロット事業として現在鋭意施工中である。
2 施工箇所の概要
本工事箇所は,佐賀県伊万里市南波多町大字水留の国道202号線沿いに位置する。(図ー1)
国道沿いの高さ40~50mの崖の斜面上には多数の自然転石群が不安定な状態で点在しており,平成9年の岩盤斜面等緊急調査で早急に対策が必要であると判断されているところである。
本箇所では,現道部防災対策改良工事と平行して,平成2年度より防災局改事業でL=1.4kmのバイパス工事を行っており,今年度には終点側のL=0.5kmを暫定的に既設村道(行合野志気線)にタッチさせ,緊急時には車両を迂回させることが可能となる。今後は引き続き起点側の整備を行っていくが,バイパス部の全線開通まではまだまだ時間を要するので,危険度の高い現道部の落石対策を行っているのである。
3 工法の選定
当該路線は,唐津市~伊万里市を結ぶ唯一の幹線道路であり,交通・経済等流通の要となっているため,全面通行止めの規制を伴う岩石群の撤去工事は難しい状況である。よって,現道を供用しながら施工が可能である岩石接着工法で対策を行うものである。
1)落石対策工について
落石対策工は大きく2つに分類される。まず1つは,発生源対策としての落石予防工と,もう1つは,発生した落石による被害を軽減するための落石防護工である。それぞれの対策工としては,図ー2のとおりである。
これらの工法は効果の単独または複合したものを期待して用いられている。工法の選定にあたっては工法の特性を考慮するとともに,現地の社会的条件・施工性・経済性などを考慮する必要があるとされている。
2)岩石接着工法について
岩石接着工法の特徴としては以下のようなものが挙げられる。
① 自然環境を損なわない。
② 資機材が軽量なため仮設ヤードをあまり必要としない。
③ 経済性に優れる。
④ 大規模な仮設工を必要としない。
本施工箇所は,斜面上に繁茂している樹木に覆われ,一見では無数の転石群が点在しているようには見受けられない。これらの樹木は落石抑止にも役立っていると思われ,岩石接着工法の採用により,樹木を伐採することなく施工が可能となるため,自然環境を損なわないだけでなく,切土撤去工法にくらべより安全・安価な工法といえる。
また,本工法に必要な資機材は,コンプレッサー・揚水ポンプ・発動発電機・モルタル注入機・グラウトミキサ・ホース等の,従来より使用されてきた資機材のみでまかなうことができ,特殊機械等は必要としないのも特徴のひとつといえるであろう。
経済性の問題はその比較対象工法により大きく異なると思われるが,仮に一般的な工法としての切土撤去工を採用したとすれば,切土工・残土処理・切土後ののり面保護工(法枠工等)・グランドアンカー工(場合により生じる)・用地の追加買収等が必要となる。これに比べ岩石接着工法は,既存の状態での対策工となるので,経済性の優位性は明らかである。
また,今回の施工箇所には,ロックネットおよびストンガードが施工されていたため,現道における交通規制は行わず,土留め工等の大規模な仮設工も必要なかった。
4 施工状況
1)岩石接着工法について
岩石接着工法は,岩塊の亀裂前面を覆う目地モルタルと亀裂内部に充填する注入モルタルに分かれる。目地モルタルおよび注入モルタルの設計数量は,調査時に現地でそれぞれの亀裂を実測しその容積を求める方法をとっている。
岩石接着工法の目的は,落石の可能性が高い転石と碁岩を連結一体化すること,または転石自体の亀裂を接着することであるので,もっとも重要なのは岩塊とモルタルの接する部分が,充分な引張強さを有することである。このことから,大きな亀裂部または岩盤空洞部をすべてDKボンドモルタルで充填することは,不経済となる。よって,空隙の大きい亀裂を施工する場合は,施工対象岩塊と同等以上の強度を要する岩片(粒径10~20cm)を用いて中詰めを行い,モルタル材料の節約をはかることとした。
2)施工手順
岩石接着工法の施工手順を図ー3に示す。
清掃・水洗工は,施工面(岩着面)の堆積土や苔などを取り除くため,ジェットポンプおよびワイヤーブラシ等で岩石の亀裂部分を入念に清掃し,DKボンドの効果をより高めるために行う。
つぎにモルタル目地工の施工であるが,人力によって持ち込まれたDKボンドフィラー(無機質粉体)およびDKハイエマルション(高分子樹脂接着増強剤)を混練しすべて手作業にて行う。大きな亀裂箇所は,現地の岩片を利用してDKボンドモルタルで接着する。亀裂箇所の目地工の厚さおよび岩片の混入率は,亀裂の大きさにより決定した。但し,岩片率はおおよその目安であるため,目地モルタルの正確な実施数量が分からないのが欠点である。
最後にモルタル注入工であるが,グラウトミキサーで混練したモルタルをモルタル注入機によって押し上げて注入する。大きな亀裂部は予め岩片を中詰めしておき(岩片率は表ー1に準ずる)数回に分けて注入を行い岩石内部の小さなクラックへも充分にいきわたるよう施工する。注入の際には,モルタル流量計を用いて使用量を把握し材料検収の資料とした。
本工法の最大の特徴としては,岩石内の深部にある亀裂(またはヘアークラック)にDKボンドモルタルがいきわたることにより,転石とそれを支える基岩とを充分に接着し,背面および周囲に連結一体化することで,各岩石の重心を後背移動させてその安定化を図ることにある。
3)DKボンドモルタルの品質等について
DKボンドモルタルの配合および品質について以下に示す。
5 今後の問題点
まず第一に,目地モルタルはすべて人力による手作業であるため,作業員の技術力・熟練度に左右される部分が大きい。
第二に,モルタル目地工・注入工の設計数量は,急傾斜地上の亀裂を直接計測して決定するため,高い信頼性を有する数量とはいえない。また,岩盤内深部の亀裂は計測できないので,施工時に充填される深部の数量は施工が完了するまで正確にはつかめない。したがって,施工箇所によっては変更時に大幅な増量が生じることもあると思われる。現実今回の工事では,新たに対策が必要な箇所も見つかり,数量の大幅な増量および工期の延期が生じた。
6 まとめ
岩石接着工法は,開発されてより25年程経過しており,阪神・淡路大震災や新潟県中部地震等において,変状・異常なしとの情報もあるが,九州地建では施工実績が少ないため,品質性・耐久性等の信頼を受け定量的な晋遍化に至るには,なお,工事実績の積み重ねと解析が必要である。
よって,今後も技術活用パイロット事業としてますますの活用が図られることを念顛するものである。