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移住者の受け入れによる過疎地域の活性化に繋がる仕組みの提案
竹森祐輔
1. はじめに

我が国は、2005年より人口減少の一途を辿っている。特に地方においては、過疎化が進行し、少子高齢化や雇用不足といった問題が各地で起きている。
その一方で、都市部で育った人や、就職により都市部での生活を長く続けてきた人、都市部での生活が合わない人、農家での生活を望む人などが、地方に移住し新しい生活を始めるという動きが活発化している。2007年には団塊の世代が一斉退職し、この動きがより一層活発化していくと考えられる。
また、田舎暮らしをメインテーマとした雑誌やテレビ番組、移住者向けのHPも多数存在し、地方の移住者受け入れ体制も次第に整ってきている。
移住者の増加は、生産力の向上、農地再生など過疎地域にとっても多くのメリットがある。
しかし、移住者受け入れ体制が整ってきているとはいってもまだまだ発展段階にあり、課題は山積みである。
受け入れ側はこの課題を解決する仕組みをつくり、地域活性化に繋がる移住者受け入れ体制を整える必要がある。
本論文では、現在各地域で挙げられている移住者受け入れに関する課題から、その解決に繋がる仕組みの提案を行うことを目的としている。

2. 過疎地域について
過疎地域とは、過疎地域自立促進特別措置法(以下、過疎法)により設定されている人口要件、財政力要件を満たす地域のことを指す。
平成21年4月1日現在、全国に1,777の市町村があり、そのなかの約41%にあたる730が過疎地域と指定されている。また、過疎地域人口は全人口の8.3%しかいないのに対し、過疎地域面積は全市町村面積の約54%を占めている。つまり、国土面積の約半分の地域で全人口の10%に満たない人たちが生活していることになる(表-1)。さらに、過疎地域における高齢化率は30%を越えており、高齢化がかなり進んでいることがわかる(図-1)。

3. 移住者受け入れの課題
移住者の受け入れに関しては、多くの課題が挙がっているが、その中の一部を以下に記す。
(1)移住者の集落内での孤立化
移住者の中には、移住した集落になかなか馴染めず、外出も必要最低限しかしなくなり、生活の大半を家の中で過ごす者もいる。これは、移住者や集落住民の人間性にもよるが、地域独自の風習や行事に対応できず、そのまま集落住民との関係性を絶ってしまうことが原因である(写真-1.2)。
(2)耕作の放棄
農村集落への移住者は、美しい農地景観の復活などを目的とし、耕作放棄地の再耕作などの農作業に取り組むが、実際の農作業のきつさや経済的利益の少なさなどの現実を目の当たりにし、耕作を放棄するケースもある(写真-3)。
また、自治体より与えられた耕作地が住宅から遠い場所にあり、毎日の管理が重荷になり耕作を放棄するというケースもある。
例として長崎県五島市では、1996年以降Iターン農業研修生として25 名受け入れたが、上記のような理由により14名が離農している。
(3)空き家不足
移住者が集落内にある空き家を再利用することは、新たな家屋を建てる必要がなくなる為、移住者に対し経済的メリットをもたらす。また、外部からの新たな家屋による集落景観の破壊を防ぐことにも繋がる。
しかし、その集落内の空き家が不足している地域も見られる。空き家があっても、大規模な改修を必要とするものも少なくない(写真-4)。
上述したように、移住希望者の経済的な面から見ても、空き家があるほうが移住しやすく、また景観の面から見ても、新築よりも空き家の再利用が望ましい。
これから増加すると予想される移住者を受け入れるには、空き家の確保が必要となる。
(4)地域のイメージと現実の差
観光と生活では、その地域の見え方が全く異なるということをよく理解しないまま移住した人が、そのギャップに向き合えず、短期間で地元に戻るというケースも課題として挙げられる。観光で来た時には、観光客としておもてなしされていても、住民となれば地域住民もおもてなしの必要はないため、扱いも異なってくるのは当たり前である。
また、生活するとなるとその地域の良いところだけ見ていくわけにはいかない。移住の前にイメージと現実の差を埋めておくことが必要であると考える。

4. 農家移住者の受け入れ体制の提案
前述したように、移住者受け入れについては、まだまだ多くの課題があり、これを解決しないことには、移住者受け入れによる過疎地域の活性化は実現できない。
そこで、以下にこれらの課題を解決するための仕組みの提案を行う。なお、本論文では筆者が特に受け入れ体制の検討が必要と考える、農家への移住者を対象とした提案を行う。農家への移住者受け入れ体制の検討が必要と考える理由は、前述の課題に加え、移住者による農地再生は通信販売やツーリズム、美しい農地景観を活かした観光など、農家の副収入に繋がると考えるからである。
(1)段階を踏んだ移住計画
移住希望者が移住する前に、いくつかの段階を踏むことで、実際に移住し生活していく上での理想と現実の差を埋めることに繋がると考える。以下にどのような段階を踏むのかを記述する。
Step1. 移住希望者を対象とした観光ツアー
まずは、観光マップ等に掲載されているような観光地を巡るツアーではなく、より過疎地域での生活を移住希望者に理解させるためのツアーを設ける。移住希望者はここで交通の不便さなどを体験し、その地域を住民の視点で見ることができる。
Step2. 過疎地域インターン
次に、移住対象地域に数週間滞在し、農家などでインターンを行う。学生を対象としたインターンは全国各地で行われている。これらの目的は、学生に就業体験をさせることで、就職活動の手助けとなるなど、就職してからの理想と現実の差を埋めるために行っている。ここで提案する過疎地域インターンはStep1を踏んだ移住希望者を対象とし、過疎地域での就業体験を積むことで、都市部での就業との違いをより明確に理解し、理想と現実の差を埋めることに繋がる。
また、観光旅行のように短期間ではなく数週間滞在することにより、地域住民との交流時間が増え、より住民目線の情報を得ることができる。期間中にその地域ならではの行事や習慣、風習を体験することは、地域を知ることができ、移住後に地域に溶け込むことに繋がる。
Step3. 農業経験値に応じた農地の耕作
移住者には農業経験値に応じた農地を耕作させる。急斜面の棚田や高い場所にある段畑は平地の農地に比べ、管理が困難である(写真-5)( 写真-6)。受け入れ側は、農業初心者に対してはできるだけ住宅近くにある平地の耕作地を用意し、経験を積むにしたがって、より耕作が困難な棚田や段畑の耕作を行えるようにする。また、農業初心者の近隣には農業経験豊富な地元住民がいることが望ましい。
これにより、農業の厳しさに少しずつ適応していくことができる。また、経験豊富な住民がすぐ近くにいることで、初心者でも安心して農業を営むことができる。
(2)移住者・地元住民間のルールづくり
移住後の移住者・地元住民間のトラブルを防ぐためには、いくつかのルールづくりは必要である。例えば、地域行事への参加や、生活上のルールの共有である。各地域の移住者受け入れ担当者は、事前に地元住民への説明会を開きルールを決めておくと、移住者受け入れをスムーズに行うことができる。
また、家屋の新築や商店を経営する者がでてくる可能性は大いにあり得るので、集落景観を阻害する家屋や看板ができないよう、あらかじめ景観計画や景観条例を策定しておくことも必要と考える。

5. おわりに
現在、過疎地域となっている場所には、都市部の人が見たこともないような美しい風景をいたるところで見ることができる。過疎地域の活性化のためには、地域にもともとある豊かな資源をうまく活用していくべきである。
移住者の受け入れは、少子高齢化が著しく進む過疎地域に活気を与えることができる非常に有効な手段である。
移住者を永住者にし、地域再生の力となってもらうには、受け入れ体制をしっかりと整え、地域住民と移住者との間にある壁をできるだけ素早く取り払い、馴染み合うようにしていく必要があると考える。
参考文献

ⅰ 全国過疎地域自律促進連盟公式HP
ⅱ 平成17年国勢調査
ⅲ 平成21年9月5日長崎新聞

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