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国際防災元年にちなんで

建設省国際防災の10年推進室長
田 畑 茂 清

1 はじめに
1987年12月の第42回国連総会の報告によれば,全世界の地震・台風・洪水・地すべり・火山噴火等の自然災害は,過去20年間で,死者300万人,被災者8億人以上,直接被害額は約230億ドル(約3兆円)とされています。
また近年では,メキシコ地震,コロンビアのネバド・デル・ルイス火山噴火が1985年に,エルサルバドル地震が1986年に,アルメニア・スピタク地震,バングラデイシュ洪水が1988年に,サンフランシスコ・ロマプリータ地震が1989年に発生するなど,枚挙にいとまのないほど世界のどこかで大災害が発生しています。
今から6年まえ,1984年の第8回世界地震工学会議において全米アカデミー会長のF・プレス博士が「国際防災の10年」構想を提唱し,これが全世界の災害に関係する学者の賛同するところとなり,1987年の第42回国連総会において日本をはじめとした93国から「1990年代を国際防災の10年とする決議案」が共同提案されたのです。全会一致で採択されたこの「国際防災の10年」は,まさに国際的な防災元年の幕あけといってよく,我が国は防災分野の先進国として,あるいは世界に貢献する日本として,この「国際防災の10年」の推進のために積極的な役割をはたすことが世界中から期待されているのです。

2 世界の自然災害と我々のすすめる国際協力
今世紀における世界の主な自然災害の発生状況を図と表で見てみましょう。
災害別の発生件数をみると6割以上が洪水・風水害であり,次に雪害・寒波や地震災害(津波を含む)となっています。特に近年は洪水・風水害が多発しており,この点については地球の温暖化によるものではないかという科学者もいます。地震災害は,太平洋プレート周辺部のアジア・北アメリカ・南アメリカに,雪害・寒波はアジア・ヨーロッパ・北アメリカにおいて目立っています。アフリカにも寒波による災害があるはずだと思われる方もあるでしょうが,これは飢餓の方に入るものと思われます。
災害別の死者・行方不明者数についてみると,洪水・風水害とともに地震災害によるものが目立っており,特に災害一件あたりの死者・行方不明者数をみれば,約1,200人にも達しています。アジアの洪水・風水害による死者・行方不明者数が90%近くを占めていることなどを見ると,如何にアジアは災害による被害を多くこうむっているかがおわかりいただけるでしょう。

我々がすすめている災害対策に関連する国際協力は,災害対策援助推進事業,地震工学研修などを実施しているほか,国際協力事業団(JICA)などを通じて開発途上国への防災分野の専門家の旅遣,開発途上国からの研修員の受け入れ等の国際協力を積極的に推進しています。例えばー
(1) 世界で最も進んだ耐震技術を有する我国は昭和35年度より途上国を対象に研修生を受け入れ建設省建築研究所国際地震工学部において研修を実施中で,現在53カ国714名が受講し,各国で地震対策に従事しています。
このほか,JICA等と協力して,防災行政管理者セミナー,火山学・火山砂防工学セミナー等の集団研修や,ペルー・リマック川防災研修等の防災分野の個別技術研修38件をすすめています。
(2) わが国の現在の経済繁栄は戦後の治山・治水事業による災害の撲滅作戦にあったといっても過言ではありません。この経験と技術を発展途上国の防災に役立てるため,災害対策援助推進事業をすすめているほか,バングラデイシュの洪水対策等防災関連の事業について調査をすすめています。
インドネシアの火山砂防技術センターやペルーの地震防災センター等のプロジェクト方式の技術協力や,防災関連の開発プロジェクトのための各調査などについても専門家の派遣などを行っています。
(3) 1985年のメキシコ地震災害,コロンビアの火山噴火に対する援助を契機として1987年に「国際緊急援助隊の派遣に関する法律」が成立し,医療や救急援助を実施するとともに災害復旧に関して専門家を派遣しています。
近年,アルメニアの地震やバングラディシュの洪水などが発展途上国で多発しており,わが国に対して援助要請が増加の一途をたどっています。早急に災害対策関連のわが国援助の推進方策を検討することが大切なのです。そのためには,開発途上国における災害発生状況を詳細に把握するとともに,途上国における災害対策の課題の検討を行い,各国の実状に応じた援助推進方策を作っていかなければなりません。
特に大地震によって建物のガレキに埋まった道路の啓開,津波・洪水によって孤立した町への応急仮橋の架設,地すべり・土石流によって埋没した街の土砂の除去などは,大都市復興のための緊急対策の第一歩であり,ライフライン確保の主要対策でもあります。これらの対応は,わが国の建設技術援助の総力をあげて取組む課題ではないでしょうか。そのためには,開発途上国の災害復旧に適用可能な制度づくり,建設技術開発等もすすめなければならない点も数多くあることでしょう。

3 国際防災の10年
国連決議にもとづく「国際防災の10年」は本年1月からスタートしました。 International Decade for Natural Disaster Reductionの頭文字をとってIDNDRと呼ぶことになっています。
国連の決議によれば,国際防災の10年は1990年代を,国際社会が自然災害の軽減のため国際協カの推進に努めることにするもので,具体的には ①早期警戒体制の確立,②既存のノウハウを活用するための指針と戦略の考案,③防災に関連する科学,技術開発の促進,④防災情報の普及,⑤技術援助,技術移転,デモンストレーションプロジェクト,教育・訓練の促進などを目標として設定したのであります。
国連の決議とそれに伴う諸活動に対して,我が国の学界関係者は,日本学術会議内に懇談会を設置し,意見交換を行ってきましたし,政府においては,国内の事務連絡体制を充実させ,総合的かつ効果的な推進を図るため,国際防災の10年推進本部を設置し,昨年11月には基本方針を決定したところであります。
我が国の防災行政において主導的役割をはたしてきた建設省では,この「国際防災の10年」を有意義なものと考え,これに積極的に参画することにしています。このため,政府の推進本部には建設大臣が副本部長として参加するとともに,建設省内に建設技監を長とする建設省推進本部を設置し,その事務連絡調整を行う「国際防災の10年推進室」も併せて設けました。
そして今年5月11日に第1回の本部会議を開催して建設省の基本方針,当面の活動を決定したところです。基本方針の概要は次のとおりです。
(1)柱となる事項
① 防災に関する国際協力・国際援助及び国際交流の推進
② 我が国の災害対策の推進
③ 国際防災の10年に関する啓発・広報活動の推進
(2)長期的課題
① 開発途上国等における防災に関する技術の向上および普及,人材の育成,防災体制の整備等に関する支援
② 災害対策のためのプロジェクトに対する支援
③ 国際会議等を通じての我国の防災に関する経験および知識の伝達並びに各国相互の経験および知識の交流の推進
④ 国際緊急援助の拡充と推進
一方国内的には
⑤ 国土保全はじめ各種の防災関係事業,観測.調査・研究の一層の推進
⑥ 地震予知・震後行政対策・地震防災技術の研究開発等震災対策の推進
⑦ 災害情報等震災体制の拡充・強化
PRとして
⑧ 毎年10月第2水曜日の国際防災の日の定着と防災知識の普及・向上活動の推進
(3)推進の方策
① 建設大臣が副本部長として参画している「国際防災の10年推進本部(本部長内閣総理大臣)」が実施する諸活動に積極的に参画・参加する。
② 建設省推進本部を毎年開催し,当面の活動(アクションプログラム)を策定し,必要なものは,各種五箇年計画等の策定に反映させていく。
③ 地建等において組織づくりをおこない,地域ごとに幅広い活動を展開させるとともに,関連公益法人との密接な連携・協力体制を整備し,国際防災の10年事業を推進する。
④ 国連等の国際機関,学会,各国との密接な連携と協力により,各種防災関連の事業を推進させる。

4 我々は何をなすべきか
国際防災の10年事業推進のためのスローガンとして建設大臣賞を受けた『防災を土台に確かな国づくり』を高く掲げて,これからの10年間,21世紀に向けての激動の中,防災のための国際協力と国内防災対策にまい進していくことになったわけでありますが,実際に我々は何をなすべきなのでしょうか。少し具体的に述べてみたいと思います。
(1)国際会議に参加しましょう
国際防災の10年のスタートにあたり,防災に関する国際協力のあり方,地域開発と防災といった問題について議論し,防災および国際防災協力の重要性を国内外に印象づけるとともに,各国相互間の知識や経験の交流を促進するために,下記のとおり国際会議を我が国で開きます。特に鹿児島で開催されるセッションにはぜひ参加してもらいたいものです。
  日時 1990年9月27日~10月3日
  場所 横浜プリンスホテル(9月27日~29日)
     鹿児島城山観光ホテル(10月1日~3日)
  主催 国際防災の10年推進本部
     横浜市,鹿児島県,国際地域開発センター
  テーマ等  世界の自然災害
        防災の現状と課題
        防災対策の成功と失敗
        防災対策と国際協力
        都市化と防災
        被害軽減のための災害情報
        災害危険地域に住む知恵
        防災活動における市民参加
        災害に強い地域づくり
        IDNDRの意義と今後のすゝめ方
        現地視察
  規模 海外50名程度,国内450名程度
(2)国際緊急援助隊の隊員になりませんか
地震・風水害等の災害によって大きな被害を受けた国に対して,災害国の要請に応じて災害緊急援助隊を派遣する制度が我が国にもあります。
従来は,人命救助のためのレスキュー隊,医療救急のための医療隊が編成されており,主に前者は消防隊員,後者は国立病院の医師・看護婦が隊員になっています。災害の緊急援助には,その他に緊急輸送路の啓開・応急仮設橋の架設・救急ポンプ排水・土砂の除去等や応急仮設住宅の建設,被災建物・橋梁等の診断・補強,復旧計画の指導等を実施しなければなりません。
災害の種類・状況に応じて災害復旧隊の編成は変わりますが,あらかじめ隊員を建設省に登録しておいて,災害発生後24時間以内に要請に応じて成田に集結できるようにしておくのです。
もちろんそのための研修(専門技術と語学)や資機材の整備・開発,実践的訓練などを実施しておくことが大切です。
如何ですか? 災害復旧のベテランの方,皆様の技術を海外で試してみませんか。

(3)国際交流アドバイザー制度を作って下さい。
近年,国際化が急速に進展し,地方における国際化も顕著になってきており,地域の特性を生かした国際交流機能も活発化し,地域活性化を進めなければなりません。また,海外からの研修員の受け入れ,専門家派遣等の技術協力,各種国際交流事業の実施も地方建設局,工事事務所において積極的に推進していただいています。防災分野も例外ではありません。
中部地方建設局では,管内各地域における国際化を支援するため,年間約120名の外国人研修生を受け入れているほか,建設事業専門家として各国に派遣された海外経験者を多数有している現況に鑑み,彼らを「国際交流アドバイザー」として登録し,地方公共団体や中小建設業の求めに応じて諸外国の種々の情報に関する相談を受け付けています。もちろん,海外からの研修生たちからの悩みや研修の効果的な実施方策についても相談にのっているわけであります。

(4)防災視察団を組織して外国へ行ってみませんか
平成元年11月17日から6日間,大分県砂防協会がネパール砂防事業視察団を企画し,武蔵町の正本町長を団長として総勢21名の県・市町村の方々が参加された事例を紹介しましょう。
視察の目的は,ネパールが世界有数の山岳地であり,このため山腹崩壊による交通路の被害・発電ダムの堆砂,人的被害等種々の社会的影響が生じており,急峻な国土において,いかに土砂災害を回避し,地域開発をおこなっているか,その現状を視察しようとするものです。その際,大使主催の歓迎晩餐会やネパール政府高官との意見交換をおこない,大分県の一村一品を持参し,ローカル外交にも資している。
国際防災の10年を期して,このような防災の視察団を組織して,スイスのなだれ防止工事やリゾートと防災対策,アメリカのセントヘレンズ火山泥流対策等を視察されることをすすめます。そして,防災の故の姉妹都市が出来あがればうれしいこと限りなしなのですが………。

(5)国内の防災対策もお忘れなく
昨年アメリカサンフランシスコで発生したロマプリータ地震は,わが国の都市での震災対策のあり方にも大きな教訓を残しました。地震観測網の充実と速報体制の確立,被災構造物の迅速・効率的復旧方法の研究,応急対策におけるボランティア活動のあり方等は学ぶべき点がたくさんありました。今後は,震後行政のあり方を検討している地震対策推進本部において行政に反映させていく方策をつめていきたいものです。
東京都や川崎市などは新庁舎建設に際し,大きく防災センターを庁舎内に配置しています。大正海上火災の本社ビルも防災のためのあらゆる対策をほどこしています。我々自身が防災の真っただ中に身をおくのだということを真剣に受けとめて,事にあたりたいものです。

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