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散水車使用による凍結防止剤散布アタッチメント開発について

国土交通省 九州地方整備局    
九州技術事務所 技術活用・人材育成課
施工調査係長
武 藤 美 代

キーワード:道路維持、散水車、凍結防止剤散布、作業の効率化

1.開発の背景
九州地方整備局において頻度は少ないが冬期に路面凍結防止のために凍結防止剤(塩化ナトリウム水)を事前散布している。散布には散水車を使用しているが、路面凍結剤散布を前提としていないため路面に均一に散布できず、同じ箇所を複数回にわたり散布しており作業効率が悪い状況である。降雪予想に対応する中での作業時間が制限される中、作業を完遂しなければならないこともあり、人員確保ならびに資材確保に苦慮している。
今回このような課題に対し、散布を少ない回数かつ短時間で路面全体への均等散布が可能となるように散水車の散水排出口に取り付けるアタッチメントの開発を行い、作業の効率化を図ったので報告する。

2.アタッチメントの基本構造検討
2.1 基本事項
路面凍結を防止するための凍結防止剤(塩化ナトリウム水)の事前散布は、雪寒対応マニュアルの記載内容を目安に実施されている。確実かつ効率的に路面全体に均等散布できるようにするために、下記の機能要件としたノズルを複数配列した多孔式の散水アタッチメントを開発するものとした。
①散水幅3.25m以上を均一に散布可能とする。
②塩化ナトリウム水は1m2あたり0.1L(リットル)を散布する。
 (雪寒対応マニュアル記載目安)

2.2 使用する既製品
開発する多孔式散水アタッチメントに使用する部材は、入手しやすく、コスト面でも優れている市販品からノズル及びバルブの2方式を選定した。ノズルは、3 種類(フラットスプレーノズル、斜方フラットノズル、フルコーンノズル)を選定し、室内試験でスプレーパターンにより散布特性を検証し、ノズル形式を選定することとした。

2.3 散水路面幅、アタッチメントの設定
対象とする散水幅は、一般国道の1 車線幅として3.25mで設定した。また、多孔式の散水バーアタッチメント幅は、車両走行時の安全性を考慮して、車両幅2.32m以内の形状とした。
■対象路面幅:3.25m
■対象アタッチメント幅:2.32m以内
なお、対象車両の散水方式は、重力式と圧力式の方式があるが、重力式の場合は水溶液の残量によって、自然配水時の圧力が変化し、一定量を散布することができないため、まず圧力式による散布を前提としたアタッチメントの検討を行った。

3.室内水理実験
3.1 室内水理実験概要
本検討では、圧力散水0.49Mpa を基本としてノズル配置検討を行い、水理実験による散布流量分布並びに風による噴霧の飛散状況を検証した(図- 1)。

図1 流量分布試験状況

検討では、フラットスプレーノズル/ フルコーンノズルの2 つのノズルについて、均一分布となるように、4 つの案を設定した(図- 2)。
◇案1、2 フラットスプレータイプで配置間隔(460mm、400mm)を変化させた配置。
◇案3 フラットスプレーに+両端ノズルに斜方ノズルを使用し、散水幅の両端への効果を検証。
◇案4 フルコーンタイプを用いてノズルタイプの違いによる散水効果を検証

図2 実験で使用したノズル

3.2 室内水理実験結果
各案とも重複して配置することで、均一に散布が可能であることが検証できた。また、フラットスプレータイプは打力が強く、ノズルから車道間の散布力から走行風等の影響による飛散は少ないが、風によって噴射角が変化し、隣接するノズルと干渉する恐れがあるため、密に配置する案3のフラットスプレータイプが影響が少ないと評価した(図- 3)。多孔式散水バーアタッチメントのノズル配置は、案3のノズル型式のフラットスプレーノズル型番1/4KSH1665(7個),両端は斜方ノズル型番1/4KSH2790-35-RO(2個)を採用した。

図3 流量分布検証結果(案3)

4.実証実験
4.1 実験目的
現場実証実験では、路面凍結を防止するための凍結防止剤(塩化ナトリウム水)の事前散布を少ない回数・短時間で路面全体に均等に散布できるよう散布作業の効率化を目的として、現場での開発アタッチメントについて散布機能及び保守性を検証した。

4.2 実験概要
現場実証実験では、圧力式ノズル方式及び重力式バルブ方式の2方式を検証した。
圧力式ノズル方式のノズル部材は、フラットスプレーノズル(両端は斜方ノズル)を採用し、材質はSUS304として交換可能な構造とした。重力式バルブ方式は、ボールバルブ及び流量調整可能なニードルボールバルブ、散水幅を調節するためのエルボ配管を使用して散水機能を検証した(図- 4)。

図4 試作機装置取り付け状況

散布機能は①散水量検証と②散水状況検証の2項目について実施した。
①散水量検証は車両を停止した状態で圧力式ノズル及び重力式バルブの2 つの方式について、散布の均一性や散布量を定量的に検証した。併せて重力式ニードルボールバルブ方式を用い貯水量によって散水量が大幅に変わる場合のバルブによる流量調整機能を検証した(図- 5)。
②散水状況検証は重力式のバルブ方式により直轄管理区間の現道において、車両を実走させ検証した。走行時の散布状況や走行風、自然風による散布の影響を散水車の後続車からビデオ撮影を行い、散布機能への影響を評価した。
保守性に関しては、取り付け取り外し作業並びにノズル・バルブ交換作業、ストレーナー洗浄作業時の作業性を検証した。

図5 散水量検証状況

4.3 現場実証実験結果
4.3.1 散水量検証結果
・均一性検証
圧力式ノズルにおけるエンジン回転数(走行速度)1500rpm、1200rpm、1000rpmにおける散水量の均一性を検証した結果、各ケースとも均一に散布が可能であることが分かった。また、重力式バルブ方式においてもタンク内の水量が満タン程度、1/2 程度、1/4 程度の場合の散水量の均一性を検証した結果、均一散布が可能であることが分かった(図- 6)。

図6 均一性検証結果(重力式バルブ方式)

・散水量検証
重力式ボールバルブ方式の場合、タンク内の水量により散水量が異なるため、走行速度とタンク内水量を変化させ散水量を検証した。
タンク容量が満タン程度、1/2 程度、1/4 程度の場合の散水量を検証した結果、満タン時は車両走行速度47km/h、1/2 程度時は42km/h、1/4 程度時は35km/h の走行速度でマニュアル記載目安の塩化ナトリウム水溶液を散布できることが検証できた。また、製作バルブ及び既設ノズルとも1/2 タンク容量を基準とすると満タン程度時に約110%、1/4 程度時に約90% の散水量となった(図- 7)。
また、重力式ボールバルブ方式においてタンクの水量に合わせ流量調節を行う際のバルブとしてニードルボールバルブの散水量の検証も行った。
開度を100%、80%、60% と変化させた場合の散水量を比較した結果、開度100% に対する散水量は、開度80% で約60%、開度60% で約30%の散水量になり、ニードルボールバルブにおいても散水量調整が可能であった(図- 8)。

図7 散水量検証結果(重力式バルブ方式)

図8 散水量検証結果(ニードルボールバルブによる散水量調整機能)

現場実証実験の散布量検証結果から圧力式ノズル方式、重力式ボールバルブ方式ともにマニュアル基準散水量を満足する結果となった。しかし、圧力式ノズル方式は、散布する塩化ナトリウム水溶液の地面からの巻き上がりが顕著であり、周辺を走行する車両等への影響が大きいと判断し、重力式ボールバルブ方式を採用した。

4.3.2 散水状況検証結果
散水量検証結果及びテスト走行結果を踏まえ、ニードルボールバルブ(開度100%)とボールバルブを条件として、車両走行速度30km/h、40km/h、50km/h の散水状況を検証した。
重力式バルブ方式は、散布直後は局部的に散布しているように見えるが、概ね均一に散布された。
巻き上がりは少なく後続車や周辺車両への影響はない状況であった(図- 9)。
また、走行速度が速くなるにつれ、路面の散布範囲が狭くなった。(特に走行中央付近、車両両端付近)

図9 散水状況検証(重力式バルブ方式)

4.3.3 保守性検証結果
保守性検証では、アタッチメント交換作業、ストレーナー洗浄作業、ノズル・バルブ部材交換作業に関する作業性を検証した。アタッチメント交換作業は、特殊工具を必要とせず、15分程度で交換できることを確認した。また、ストレーナー洗浄、ノズル・バルブ交換作業も2分~ 5分程度で作業できることを確認した(図- 10)。

図10 アタッチメント交換作業箇所

5.試作機改良
現場実証実験結果を踏まえて、重力式バルブ方式を採用するものとして、現場実証実験で得られた車両外側部の散布状況改善の改良を実施した(図- 11)。
①ニードルボールバルブでの流量調整を採用
②噴射角度(走行方向)は15°以上を採用
(車両の部材に直接噴射しない角度に調節)
③バルブ設置個数:左右11個
(タンクが内水量が1/2 以下の場合を考慮し左右2個づつ増設)
④両端から2 箇所はエルボを設置
(噴射範囲を広角)
⑤ストレーナ部材:メッシュサイズ3mmを採用
(バルブ径の1/3 程度のメッシュサイズ)
・バルブ増設によって散布量が約1.2 倍増大するが、ニードルボールバルブで流量調節は可能であると判断した。

図11 改良後の凍結防止剤散布用アタッチメント

6.おわりに
今回、製作した散水車用アタッチメントにおいて散水機能(散布の均一性や適量散布量)並びに走行車両からの散布による散布状況(散布状況や巻き上がり)を確認でき、1 回で規定量を均一に散布できることを実証した。また、散水車のアタッチメントは、夏季と冬季において交換した運用がなされることから、アタッチメントの交換作業の作業性も評価した結果、容易に取り付け可能な装置であることを確認できた。
運用を考慮し、本散水車用アタッチメントの取り扱いマニュアルとして、アタッチメントの交換手順や運用に関する指標を作成した。
今後も、九州地方整備局管内において冬期に路面凍結防止のために凍結防止剤(塩化ナトリウム水)を事前散布する際、本アタッチメントにて試行が行われ、試作装置を利用した活用実績が積まれることを期待する。
最後に、今回の検討・開発にあたりご協力いただいた西日本技術開発株式会社、建設サービス株式会社北九州営業所、極東開発工業株式会社、 株式会社エフ・イー・オート、北九州国道事務所の皆様に感謝の意を表す。

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