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大分空港への海上アクセス導入について
~日本で唯一のホーバークラフト就航に向けて~

大分県 土木建築部
港湾課 主査
後 藤 公 俊

キーワード:ホーバー、海上アクセス、ホボッタ

1.はじめに
旧大分空港は、大分市(現在の大洲総合運動公園箇所)にありましたが、航空旅客の需要増大に対処するための空港施設の拡充に対応できなかったことから、現在の国東市に移転し、昭和46年に現大分空港として供用開始されました。
当時は高速道路もなく、県庁所在地である大分市からのアクセスは陸路で約80 分を要しており、移動時間の短縮が空港移転の課題となっていました。その対策のひとつとして、民間企業によるホーバークラフトの運航が現大分空港の開港と同時に開始され、空港アクセスの向上が図られました。しかしながら、主要部品の調達が困難になったことや、リーマンショックによる景気後退で大分空港利用者数が大きく減少したことなどにより、平成21年10月末をもって第一期のホーバークラフトの運航が終了しました。
その後、大分空港へのアクセスは陸路のみとなっていましたが、県庁所在地である大分市からのアクセス時間は、高速道路が開通した現在も約65 分かかり、全国的に見ても長時間を要しています。
大分空港の平成30年度の利用者は、16年ぶりに200万人を突破し今後もインバウンド需要の高まりやLCCのシェア拡大などにより更なる増加が見込まれます。大分空港は、本県唯一の空の玄関口として地域発展のための重要な交通基盤であり、観光振興や企業誘致など本県の地方創生を加速させるためには、課題である空港アクセスを改善し、その活性化を図る必要があることから、海上アクセス導入に向けた検討が始まりました。

2.海上アクセス導入に向けて
(1)手法の検討
大分市中心部から大分空港へのアクセスは、陸路では別府湾を大きく迂回する必要があるため、両地点を直線で結ぶ海上アクセスは距離的・時間的な利点があります(図- 1)。

図1 陸路と海上アクセスの比較

また、陸路と海路の複数ルートとなることで災害時等におけるリダンダンシーも確保できることから、船舶による「海上アクセス」が最も有効かつ効果的と判断しました。船型については、高速船と過去に大分で運航していたホーバークラフトを比較検討した結果、整備の時間と費用が抑えられることに加え、運航速度が速く、空港利便性がより高まる「ホーバークラフト」の導入を決定しました。
運航形態は、船舶の調達や発着地整備は県が行い、運航は民間事業者が行う、いわゆる「上下分離方式」を採用することにより、安定的な収支を確保するとともに、民間のノウハウや創意工夫を活かしたサービスの提供を図ることとしました。

(2)発着地の選定
大分市側の発着地として、旅客ターミナルやホーバークラフトを格納する艇庫、駐車場などを整備するための十分なスペースを確保する必要があり、旧ホーバークラフト跡地の西新地と、大分港西大分地区の2箇所が候補地になりました。
検討の結果、JR大分駅や西大分駅に近くアクセスに優れることや、フェリー乗場やかんたん港園など、ベイサイドエリア一体での賑わいの創出が期待されることなどから、「大分港西大分地区」にホーバークラフト発着地を新たに整備することとしました。

3.運航事業者の選定
令和2年6月に外部有識者等による運航事業者選定委員会を立ち上げ、7月にプロポーザル方式による公募を開始、10月に第一交通産業株式会社を運航事業候補者に選定しました。その後、同年11月に県と運航事業者との間で「事業実施に向けた基本的事項に関する協定」を締結し、運航事業を20年間継続して実施すること、県がホーバークラフト3隻を購入して運航事業者に貸与すること、県が運航事業に必要な施設を整備し運航事業者に使用させること、県は運航事業に係る赤字補てんを行わないこと、運航事業者は運航事業を行うための現地法人を設立することなどを決めました。
令和4年10月に現地法人である「大分第一ホーバードライブ株式会社」が設立され、運航開始に向けた準備が進められています。

4.船舶の調達
(1)造船事業者の公募
ホーバークラフトは、現在では国内で製造されていない極めて特殊な船舶のため、同型船の建造実績や取引の確実性、運航の安全性を担保できる参加要件を設定し、一般競争入札を実施しました。
入札の結果、イギリスのGriffon HoverworkLtd.(グリフォン・ホバーワーク・リミテッド)を調達先として決定し、令和3年11月よりホーバークラフトの建造に着手しています。
調達する船舶は、旅客定員80 名、最高速力45 ノット(時速約83km)で、高速ディーゼルエンジン2基と推進プロペラ2台を備えたホーバークラフト3隻です。各船は、500㎏相当分の荷物スペースや4台分の自転車スペースのほか、車椅子スペース2箇所、バリアフリー客席8席、乗降用スロープ2箇所を設けるなど、障がい者や高齢者、妊産婦等に配慮した仕様としています。

(2)船舶デザイン
国内唯一となるホーバークラフトの導入にあたり、県民や国内外の人に親しみや愛着を持ってもらうとともに、効果的に広くPRするため、船体デザインを募集しました。県内外のデザイナーから全98 点の応募をいただき、審査委員会を経て、令和4年10月に3隻それぞれのデザインを決定しました。
デザインは「ホーバークラフトに乗りこんでスペースポート、そして宇宙へと向かう、非日常的でかっこいい乗り物」のイメージが表現されたものとなりました(図- 2)。

図2 ホーバークラフトのデザインと船名

(3)船舶名称
また、船名についても募集を行い、全国から計2,507 点の応募をいただき、審査委員会を経て、本年2月に、1 番船「Baien(ばいえん)」、2 番船「Banri(ばんり)」、3 番船「Tanso(たんそう)」に決定しました(図- 2)。
3隻の船名の由来となった三浦梅園、帆足万里、広瀬淡窓は、江戸時代に、それぞれ現在の大分県国東市、日出町、日田市において、西洋の天文学や医学、儒学など広く学問の研究や普及に取組んだ教育者として「豊後の三賢」と称されている、大分県が全国に誇る先人たちです。

5.施設の整備
(1)旅客ターミナルの設計
新たに整備する旅客ターミナルは、県民や国内外の来訪者を迎え入れることから、本県の玄関口としてふさわしいランドマークとなる施設をめざしました。さらに、国内唯一となるホーバークラフトの魅力を伝えるとともに、別府湾の素晴らしい景観等を楽しむことができ、近接するかんたん港園やフェリー乗場などの、ベイサイドエリア一帯における「にぎわい空間」の創出も重要となります。そのため、プロポーザル方式により広く公募を行い、応募があった17者から藤本壮介建築設計事務所・松井設計設計業務委託共同企業体が設計者に選定されました。
提案された旅客ターミナルは、宇宙港(スペースポート)となる大分空港を象徴し、なだらかに空へと向かって上昇する外観のほか、大分県の原風景である杉林をイメージした屋内・屋外スペースが計画されています。西大分地区に整備する旅客ターミナル施設は、屋上に展望台を備えるとともに、長さ約150m のスロープ状の屋根を歩いて登ることができる構造となっており、訪れた人が思わず足を運び、美しい別府湾を感じたくなるような姿が意図されています(図- 3、4、5、6)。

図3 大分側ターミナル上屋外観パース

図4 大分側ターミナル上屋内観パース

図5 空港側ターミナル上屋外観パース

図6 空港側ターミナル上屋外観パース

(2)旅客ターミナルの工事
ホーバークラフトが発着する大分市側のターミナルは、450台収容可能な駐車場、乗用車・バス・タクシーがターミナル上屋近傍まで乗入れできるロータリー、旅客ターミナル上屋、ホーバークラフト格納用の艇庫、ホーバークラフト乗降施設の船揚場、ホーバークラフトの騒音・飛沫対策の遮音壁等の施設を新たに整備しています。
令和4年10月10日に大分側旅客ターミナル上屋の起工式を工事受注者である佐伯・柴田特定建設工事共同企業体の主催で執り行い、ホーバーターミナル工事が本格的に動き出しました。
空港側の旅客ターミナルは空港に近い場所に設置することから、海岸から旅客ターミナルまでの約600mをホーバークラフトが陸上走行する必要があり、航走路や照明灯、ホーバークラフトのスカートゴムの摩耗軽減のための散水施設、空港へ接続する旅客ターミナル上屋等を整備します。
空港側においても令和5年1月21日に空港側旅客ターミナル上屋の建築工事受注者である菅・木戸特定建設工事共同企業体の主催で起工式を執り行いました。
令和5年度にはターミナル周辺や駐車場の舗装工事や外構工事を計画しており、ホーバークラフトの就航に向けた準備を着々と進めている状況です(写真- 1、2)。

写真1 大分側船揚場 施工状況

写真2 大分側旅客ターミナル 施工状況

6.施設名称が決定
建設中の新たな旅客ターミナルの名称は、「ホーバーターミナルおおいた」に決定しました。県民だけでなく初めて大分県を訪れる観光客の皆さんも含めて、誰もがホーバークラフトの乗り場と認識できる名称としました。
また、その「ホーバーターミナルおおいた」の通称は、「HOV.OTA(ホボッタ)」に決定しました。「ホーバー」や「おおいた」の語感を残し、ホとボの連続や、跳ねる音を取り入れるなどして、可愛らしく親しみやすい響きを目指し、欧文表記の一部「H・O・V・O・T・A」を用いています。
さらに、「HOV.OTA(ホボッタ)」のシンボルマークも決定しました。シンボルマークのデザインは、ターミナル外観の特徴的な形状である「空へと上昇していく」ような勾配を取り入れる構成となっており、勾配が文字の大小のリズムを生み、旅への期待感を演出します。上下のラインは、呼びかける吹き出しのようにも見え、人が集う場の賑わいを表現しています。デザインコンセプトはターミナルの設計者である藤本壮介氏と、2020 東京オリンピックのスポーツピクトグラムをデザインした廣村正彰氏が共同で考案されました(図- 7)。

図7 ホーバーターミナル名称とロゴマーク

7.おわりに
県では、ホーバークラフトの就航を契機に西大分地区で賑わいづくりの検討も進めています。令和6年7月には国道10 号の憩い交流施設「たのうらら」の開業も予定されており、西大分地区が新たに生まれ変わろうとしています。
日本ではここ大分にしかないホーバークラフトに乗れる日も間近に控えており、大分空港とホーバークラフト発着地の周辺がますます賑わうことを期待しています。

図8 完成イメージパース

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