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長時間透水試験を活用したダム基礎処理施工
~立野ダムにおける追加孔抑制対策への取り組み~

国土交通省 九州地方整備局 
立野ダム工事事務所 工事課長
岩  元 隆太郎

キーワード:基礎処理工、グラウチング、追加孔、長時間透水試験

1.はじめに
立野ダムは、政令指定都市熊本市中心部を貫流する一級河川白川沿川の洪水被害を防ぐことを目的とした治水専用ダムである(図- 1)。2018年9月に基礎掘削工事に着手し2023年出水期までにダムの洪水調節機能が発揮されるよう施工中である。

図1 立野ダム流域図

2.基礎処理工の概要
(1)目的及び種類
基礎処理工とは、ダム貯水池から地盤内を経由した漏水を防ぐためにダム基礎地盤・リム部地盤(図- 2)の遮水性を高めることを目的として、地盤内にセメントミルク(セメント+水)を注入する工事でグラウチングとも呼ばれる。

図2 立野ダム完成イメージ図

カーテングラウチングはダム基礎地盤とリム部地盤の遮水性を改良することを目的とした削孔長の比較的長いグラウチングで堤体及び基礎地盤の安全性を確保し、所要の貯水機能を確保するために実施する。
コンソリデーショングラウチングはダム着岩付近において、浸透路長が短い部分の遮水性改良と不均一な変形を生じるおそれのある断層・破砕帯、強風化岩等の弱部を対象とした補強のため実施する。

図3 グラウチング概要図

(2)グラウチング施工手順
グラウチングの施工方法は、まず①基礎地盤をボーリングで削孔し、その後②削孔した箇所の岩盤がもつ透水性状を透水試験・水押し試験で確認する。岩盤がもつ透水性状を把握する目的は、実際ダムに貯水された際には地盤へ高い水圧が作用するため、高い水圧下での地盤への透水性を把握するためである。
③透水試験・水押試験実施後に圧力をかけながらセメントミルクを注入する。

図4 グラウチング施工手順

改良方法は中央内挿法により基礎地盤へのグラウチングでの改良効果を確認するために注入孔の間隔を狭めながら施工するものである。最初に施工するのがパイロット孔で地質性状や地質境界を確認するためにコア取りする。続いて1次孔、2次孔、3次孔と順番に孔間隔をつめて施工していく。規定孔の最終次数孔(図- 5 では3次孔)の施工を終えて改良目標まで改良されていない箇所は追加孔を施工する。

図5 中央内挿法施工順番イメージ

(3)改良効果の確認
改良目標値は、ダム型式、地盤の透水性状、改良特性等を考慮して設定されるもので、ルジオン値が用いられる。ルジオン値とは、地盤が高い水圧の作用下にあるときの地盤への透水性を評価する指標となる。ルジオン値の求め方は、試験区間に0.98MPaの有効注水圧力で注入した時、試験区間1m当たりの1分間当たりの注入量であり、透水試験や水押し試験を実施することにより求められる。
透水試験・水押し試験は、基本的に全ステージにおいてセメントミルク注入前に実施する。パイロット孔施工時の透水試験であれば、地盤がもともと持つ透水性を評価でき、1次孔施工時の水押し試験であればパイロット孔施工による地盤への注入効果、2次孔施工時の水押し試験であればパイロット孔~ 1次孔施工による地盤への注入効果、3次孔施工時の水押し試験であればパイロット孔~ 2次孔施工による注入効果を把握できるようになっている。最終的に基礎処理ブロック単位で改良出来ているかを把握するためには、追加孔まで完了後チェック孔を実施し、チェック孔施工時の透水試験結果のルジオン値で評価する。

3.立野ダムの基礎処理内容
(1)基本方針
立野ダムのダムサイトは、左岸~河床部に先阿蘇火山岩類(Pa)、右岸側は高位標高部に立野溶岩(Tt)、その下位に立野層(T)が分布しており(図- 6)、それぞれで透水性が異なっている。このため、左岸・河床と右岸で大別して止水方針の検討を行っている(表- 1)。

図6 ダムサイト周辺の地質断面図

(2)左岸・河床部の止水方針
先阿蘇火山岩類塊状部(Pam)(写真- 1)は、割れ目の状態が透水性に影響を及ぼしている。先阿蘇火山岩類自破砕部(Paa)(写真- 2)は、基質と礫の境界性状や風化の程度が透水性に影響を及ぼしている。
透水性を支配する要素の分布を踏まえ、リムを含む左岸~河床部は、改良目標値に地山の透水性が達するまでの範囲を止水する方針とした。

写真1 先阿蘇火山岩類塊状部(Pam)

写真2 先阿蘇火山岩類自破砕部(Paa)

(3)右岸の止水方針
ダムサイト右岸側は、上位に高透水性である柱状節理の立野溶岩塊状部(Ttm)(写真- 3)、その下位に固結度が相対的に低い立野溶岩自破砕部(Tta)と立野層が右岸奥行き方向に広く分布する。

写真3 立野溶岩塊状部(Ttm)

Ttm は、開口した節理や割れ目を透水要因とする高透水性の岩盤である。右岸奥側においても高透水性の割れ目が分布しており、水みちとなり得るこれらの割れ目を改良し漏水を抑制する必要がある。Ttm の下位に分布するTta・立野層については、地層・層相ごとの透水性・浸透破壊抵抗性を踏まえ、止水対象とする範囲を検討するとともに、作用する動水勾配による浸透破壊に対して安全性を確保する必要がある。以上より「立野溶岩からの著しい漏水を抑制する」ことと「立野層・立野溶岩自破砕部の浸透破壊に対する安全性を確保する」ことを右岸側の止水方針とした。

表1 箇所ごとの止水対象、改良目標値、孔配置

(4)基礎処理施工経過
立野ダムの基礎処理は止水対象地盤が多く、範囲も広域に渡っている(図- 7)ことから計画段階よりダム建設全体工程のクリティカルになることが懸念された。

図7 基礎処理施工範囲

そこで、基礎処理工の施工に先立ち右岸リム部主カーテンを施工するための右岸上段リムトンネル、主に右岸立野層川側端部gep・測線1 付近の立野溶岩自破砕部(Tta)を施工するための右岸下段リムトンネル、左岸リム部の主カーテンを施工するための左岸リムトンネルを施工している。基礎処理は2018年11月から施工数量の多い右岸立野層川側端部gepに着手、2019年6月に右岸リム部に着手、2019年11月に右岸側線1 付近のTta に着手、2021年3月に左岸リム部に着手し、現在は、堤体周辺を主として施工中である。いずれの箇所においても追加孔が発生しており追加孔の抑制が課題となっている。

4.右岸立野層川側端部gepの課題・対応
(1)右岸立野層川側端部gepの課題
右岸立野層川側端部gepは砂礫層である立野層の中でも特に締まりの不良な層であり、浸透破壊抵抗性を確保するという観点から設計がなされており上下流方向に厚みを持たせた複数膜の施工が必要となった(図- 8)。

図8 gepの改良幅

gepの施工箇所は右岸下段リムトンネルからの施工により狭い範囲で孔配置が密集していることもあり、中央内挿法や同時注入規制を考慮すると施工機械を多く入れての施工(写真- 4)が不可能であった。また、規定次数4次孔に対して5次~ 7次孔の追加孔(図- 9)が発生したこともあり、全体4膜のうち1膜目の施工は1年9ヶ月の期間を要し2020年8月に完了した。

写真4 施工状況

図9 gep1膜目KB4ルジオン値低減図

1膜目の施工結果から見えてきた課題として、gepの透水・水押し試験では図- 10に示すように圧力定常状態における定常流量ではなく、図-11に示すような圧力定常状態における流量減少傾向を示すステージが多く見られた。これらのステージは定常流量に達する前の流量により透水性を評価している可能性があり、ダム貯留時の実現現象とは違う透水性を過大評価している可能性があった。

図10 圧力定常状態における定常流量の例

図11 圧力定常状態における流量減少傾向の例

(2)長時間透水試験
通常施工で実施している標準の透水・水押し試験ではgepがもつ本来の透水性を捉えきれていないと判断し、より丁寧な試験実施により、適切に透水性を評価することを目的として長時間透水試験を実施することとした。長時間透水試験は、通常2時間程度で水押し試験を実施するところを、圧力定常状態において流量が安定するまで試験時間を長くとる方法である。透水性を適切に評価することで追加孔の削減にも繋がることが期待された。試験対象ステージは、2膜目以降の3次孔以降の孔で、通常の試験結果で5 ~ 10Luを示したステージとした。また試験方法は、通水時間24h × 1 段階(圧力は0.98Mpa程度)とした。

図12 長時間透水試験の例

(3)長時間透水試験結果
長時間透水試験を実施した全ステージで標準の試験結果よりも低いルジオン値を示した(図-13)。以上のことからgepの真の透水性は、標準の試験結果で得られる透水性よりも低透水である可能性が高いと推測された。

図13 透水試験結果(長時間・標準)の関係

(4)適切な透水性評価
gepの標準の透水・水押し試験で5 ~ 7Luのステージが、長時間透水試験では5Lu以下になることが確認された。標準の試験は、短時間かつ局所的に動水勾配を強制的に大きくした試験であり、長時間透水試験が、実際に湛水した状況に近い透水性を示す。gepはダルシーフローとして流れる砂礫層(写真- 5)のため、流速が小さく、圧力が伝播する速度も小さくなり、水押し試験の各圧力段階で定常状態に達するまでに時間を要する。このため、標準の透水・水押し試験では実際にダムに湛水したときのルジオン値に比べて安全側の高いルジオン値となる。

写真5 砂礫層gepのコア

したがって、砂礫層であるgepの長時間透水試験の結果から、標準の透水・水押し試験で7Lu未満を5Lu以下と評価しても実際の湛水時においては危険側の評価にはならないと判断した。以上より、gepは規定孔の最終次数孔である4次孔と追加孔、チェック孔を対象に、標準の透水・水押し試験の7Lu未満は5Luと評価することとした。

(5)適切な透水性評価実施による効果
適切な透水性評価を実施することにより追加孔をどの程度削減できるかということを確認するため、標準の透水・水押し試験結果を基に施工した1膜目に適切な透水性評価を反映したケースを検討した。
その結果、標準の透水・水押し試験で5 ~7Luとなったステージを対象に実施する追加孔を25%程度削減できる想定となった。右岸立野層川側端部gepの施工数量は現時点までで6 割完了している。残り4割の残数量については、適切な透水性評価を適用することによりコスト縮減及び工期短縮に努めていく予定である。

5.左岸・河床部での課題・対応
(1)左岸・河床部の課題
左岸・河床部については、改良性に乏しい先阿蘇火山岩類自破砕部(Paa)が分布する範囲で、「軟岩等の遮水性の改良が難しい地盤では、改良目標値を5Lu程度とする代わり、浅部の複数列化によって厚みのある遮水ゾーンを形成する等、地盤状況に応じた適切な対応をとる。1)」の考え方に基づき孔配置を複列配置(図- 14)・改良目標値5Luとして計画された。

図14 先阿蘇火山岩類自破砕部(Paa)孔配置

先阿蘇火山岩類自破砕部(Paa)は左岸から河床の広い範囲に分布しており、同じPaa でも分布場所により改良性が異なる可能性があることを考慮し、施工を進める中で単列施工・改良目標値2Luの可能性について検討中である。しかし、左岸リムでは試験施工として1 ブロックを単列・2Luで施工した結果、規定次数4次孔に対し7次孔までの追加孔が発生しており(図- 15)、左岸リム部では単列での施工は困難であるという結果に至った。

図15 左岸リム部KB3ルジオン値低減図

(2)長時間透水試験
左岸リム部での単列施工は困難という結果となったが、アバット部・河床部での施工はこれから本格化するため工程及びコストを考慮すると引き続き単列施工の可能性を探りながら施工する必要がある。単列施工の改良目標値は複列施工改良目標値5Luよりも低い値である2Luとなり、透水性を適切に評価することが単列施工への変更及び追加孔削減という目標達成には重要となってくる。
このため透水性を適切に評価することを目的としてgep同様圧力定常状態における流量減少傾向を示すステージが多く確認されている先阿蘇火山岩類自破砕部(Paa)でも長時間透水試験を実施することとした。

(3)長時間透水試験結果
長時間透水試験結果は現在とりまとめ中であり、gep同様に標準の試験結果よりも低いルジオン値を示している状況である(図- 16)。結果整理後に関係機関協議を実施の上、今後は適切な透水性評価を実施し単列施工、追加孔削減に繋げていく予定である。

図16 透水試験結果(長時間・標準)の関係

6.まとめ
立野ダムの基礎処理施工に携わり、地中の見えない施工ということもあり、計画どおりに進まない事象が多く日々難しさを感じている。今後の基礎処理施工は堤体部周辺が中心となるため、他工種間との調整事項もより一層増えて課題発生についても予想される。今回検討し導入した長時間透水試験結果より得られた適切な透水性評価を現場施工に反映することでコスト縮減や工程短縮を図りながら2023年出水期までにダムの洪水調節機能が発揮されるよう工事進捗を図っていきたい。

参考文献
1)グラウチング技術指針及び同解説
平成15年4月 国土交通省河川局治水課

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