山国川におけるDXの取組
~AIを用いた河川管理からスカイバーチャルツアーに至るまで~
~AIを用いた河川管理からスカイバーチャルツアーに至るまで~
国土交通省 九州地方整備局
山国川河川事務所 管理課
管理課長
山国川河川事務所 管理課
管理課長
橋 口 仁
キーワード:山国川、DX、AI、スカイバーチャルツアー
1.はじめに
山国川水系は、その源を英彦山(標高1,200m)とし、中津平野を経由し周防灘に注ぐ、幹川延長56㎞、流域面積540km2の一級河川です(図- 1)
また、その流域は耶馬日田英彦山国定公園や名勝耶馬渓の指定を受けるなど、豊かな自然環境を有した風光明媚な河川です(写真- 1)。
2.取組の背景
山国川では水利用の安定化を目的の一つとして、昭和60年に耶馬渓ダム(以下、ダム)、平成2年に平成大堰が完成しました。しかし、農業用水や水道用水等に広く利用されている一方で降った雨が溜まりにくく、海へ流れ出るのが早いという特徴(急勾配、岩河床)から現在でも高い頻度で渇水が生じています。このため、ひときわ慎重な低水管理が求められていますが、農業用水量や河川流量等が時々刻々と変化することなどからダムの補給量を高精度で予測することは現状では困難です。
そこで、過不足を無くし、補給量を最適化する効果的・効率的な低水運用の方法を模索していました(図- 2)。
そんな中、「九州インフラDX センター(以下、DX 推進室)」が令和3年4月より発足。同年6月の会議において様々なDX 技術が紹介される中、カメラ画像より水位を検知する“edge AI カメラ” による監視が紹介されました。早速、当事務所が抱えているこれらの課題に対し、DX の技術を用いることで解決に繋がらないか相談したことが、山国川DX 導入のスタートとなりました。
3.AIを取り入れた河川管理
(1)危機管理への活用
まずは前述した“AI によるカメラ監視” の適用を検討しました。平成大堰では洪水時の流入量が毎秒80m3を超え、さらに流入量の増加が見込まれる場合は主ゲートを開けます。その際、河川を利用している方々が水位の上昇に巻き込まれないよう確認をするため、カメラ等により監視・確認をします。人間の目と併せAI による水位並びに人物の感知により、これらを補完することはできないか、現地による試験を実施しました。結果として試験当時は監視対象物がカメラから遠い場合は、判別が難しいことが判明しました※(写真-2)。※現時点では遠方の人物検知の目途が立ってきていることから、再検討を予定しています。
しかし、遠距離の活用が困難であれば監視対象を近距離に限定して再検討、この技術を排水機場などに流入する中小河川での監視に活用できないかと考えました。このAI 技術を活用することにより、水位計を別途設置することなく、監視カメラ一つで水位状況と併せ堤内地のリアルタイムの状況を把握することが可能となります。将来的には自治体と連携することで周辺住民への周知のほか、ポンプ停止等の異常時における危機管理対応(避難命令等)の一助になればと考えています。今後、当事務所の排水機場にて現地試験を実施する予定です(写真- 3)。
(2)低水管理への活用
次に取組のきっかけとなった低水管理について検討を行いました。現状での低水管理の実態は、河川の自流及び農業用水の取水量、最下流の取水堰からどの程度の越流水深(通過流量=平成大堰流入量)を勘案し、ダムからの補給量を適宜決定しています(図- 2)。しかし、ダムから補給した水が平成大堰に届くまでの時間は約10 時間を要します。この間に河川の自流や農業用水の取水量は刻々と変化しているため、それらを想定しながらダムからの補給量を決定しています。
このように経験則に頼ることの多い低水管理が課題であることをDX 推進室へ相談したところ、AI による低水管理の可能性について紹介いただきました。早速、AI の利活用について学ぶためDX 推進室と共同で専門家を招いた講習会を開催しました(約100 名の参加(写真- 4))。平成大堰の運用を開始した平成2年からの雨量や河川流量、農業用取水量等の各種データを用いることで“AI による低水管理は可能” との見解に達したことから、今後AI を活用した低水管理の構築を進めていく予定です。
4.スカイバーチャルツアー(SVT)
各分野において小型無人航空機(ドローン)の普及や活用が進んでおり、当事務所においても堤防点検業務において人による巡視が困難な場所(川の流れが速い護岸部)の確認など、その使用は多岐にわたっています。
今回、DX 推進室と共同で製作し、全国で初めての試みとなった“ 山国川スカイバーチャルツアー” とは、従来までの決まった視点から撮影された斜め写真とは違い、河川上空から高度や左右岸別(今回は200m 毎の左右岸、高度は20m と50m に設定)に撮影ポイントを決め、カメラ付きドローンによる数十枚の高画質画像から360°映像として合成、編集ソフトを用い製作したものとして合成、編集ソフトを用い製作したものです(写真- 5)。従来の斜め写真の他、垂直写真としても活用が可能となり、今までは視認しづらかった場所もカメラアングルを自由に変えることにより確認が容易となることで、幅広い視点から河川を見ることができるほか(写真- 6)、位置図と連動することで、全体的な場所も容易に検索・確認することができます(写真- 7)。
●スカイバーチャルツアーの特徴
(1)直営作業
一番の特徴はこれら全てを職員が撮影・編集したことです。職員による対応が可能となることで災害時など緊急時の迅速な対応の他、定期的なデータ更新も容易となることで、経年的な河川の変化を保存していくことが可能となります。
(2)製作日数
要した時間も特徴的で、現在HP 上で公開している約2㎞の区間はドローン撮影を3 名体制で半日、編集を1 名で半日と概ね1日で撮影から編集を終えることができます。
ただし、編集時の注意点として、個人情報の取扱いがあります。民地ではなく、河川(公有地)上空での撮影ではあるものの、個人の顔や車のナンバーなど、個人を特定できるものについては画像処理を行う必要があります。(今回公開した映像は最低高度が20m ということもあり、顔やナンバーを認識できる映像はなし。)
(3)利活用
HP 上で公開しているデータであるため、スマートフォンやタブレットでの閲覧が容易であるため、地元説明や打合せ時の現場確認手法の一つとしての活用(写真- 8)、さらには災害時の被災前後の検証などにも役立てればと考えています。
5.山国川Sparrows の結成
スカイバーチャルツアーの取組などをきっかけに当事務所では、スカイバーチャルツアーの更新は基より防災時の被害状況の確認や河川維持管理等の充実に繋がるような活動を行っていくため、元々の免許保持者の他、新たな技能保有者を増やすため、学科や実技訓練などを経て新たに9 名の職員が免許を取得。合計12 名のメンバーにより、令和4年3月17日に小型無人航空機飛行部隊“ 山国川Sparrows” を結成しました(写真- 9)。
“Sparrow” はスズメを表す英語で“ 山国川Sparrows” という部隊名には、地域にとって身近な存在になるようにという願いを込めて名付けています。ロゴマークを女性職員が自ら作成しました(図- 3)。
6.おわり
山国川河川事務所が抱えている諸問題を何とか解決できないものかという相談から始まったDX推進室との連携。当事務所で行ったこれらの取組がゆくゆくは、他の事務所の問題解決や仕事の効率化に繋がればと願います。
また、山国川においても様々な取組が風化することの無いよう、特に“ 山国川Sparrows” は定期的な訓練を行い技術の向上に努め、山国川スカイバーチャルツアーの更新など効果的な河川管理に繋げていきたいと考えます(写真- 10)。
最後に、山国川におけるDX の取組にご尽力いただいた九州インフラDX センターの職員の皆様、FCNT株式会社、株式会社イートラストや多くの関係者の方々の御指導御協力をいただきました。この場を借りて御礼申し上げます。