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河川管理分野における3次元データの活用事例について

国土交通省 九州地方整備局   
大分河川国道事務所 河川管理課長
村 田 孝 行

キーワード:3次元データ、河川管理分野、樹木管理、河道管理、施設管理

1.はじめに
河川管理施設の維持管理は、目視による堤防点検や河川巡視、河道内においては、定期縦横測量による河道内状況把握など、河川の広域的な状態監視を行っているところであるが、近年3次元計測技術の向上により、河川の面的な現況把握が詳細かつ容易となっている。
河川の維持管理分野において、河川管理施設の現状把握を的確に行うことにより、変状把握や機能評価につなげることができる。
本稿は、3次元データを河川管理分野(樹木管理、河道管理、施設管理)に活用した事例について紹介する。

2.活用事例
(1)UAVを用いたsfm 写真測量による樹木管理
a)作業内容・データの計測
河道内の樹木は、洪水時の阻害となり、流下能力に悪影響を与えているものの繁茂範囲や樹高を定量的に把握することが困難であった。近年、伝統的な写真測量の技術をベースとして、SfM(Structure from Motion)ソフトウエアにより、複数の重複撮影した写真を入力して簡易な操作で3次元データを作成できるようになった。
そこで、図- 1 の通り河川距離標を検証点としたUAV(ドローン・無人航空機)写真測量により河道内を計測し、樹木群の表面形状を3次元データで取得し、樹木管理に活用した。

図1 河川距離標を検証点としたUAV写真測量

b)樹木成長量把握(事例A)
撮影時期の異なる2時期の樹木表面点群データの比較により樹木成長の把握を試みた。成長の早いメダケを対象にH29 計測とR2計測を比較し、3カ年での成長量を把握した。また、河道直線部と内湾部で成長速度が異なる傾向を確認した(図- 2)。

図2 樹木成長量

c)樹木伐採後のモニタリング(事例B)
当該河川の代表的な河道内樹木であるヤナギ類についても、樹木伐採後の裸地状態を初期値として樹木繁茂後の差分により樹木成長量を把握した。また別途238 本の年輪を調査の上、樹高と樹齢の関係を調査して成長曲線を作成した。この成長曲線とモニタリング結果より樹木再繁茂量を推定して、樹木の維持管理に活用している(図- 3)。

図3 樹木再繁茂モニタリング

d)3次元データの樹木管理への有効性
今回の3次元データはUAV を用いたsfm 写真測量により取得した。特徴としては地上検証点を設置せずに河川距離標の既存xyz座標を検証点として使用したため、現地作業が撮影のみとなり、高い精度は期待できないものの、効率的で安価に作業できた。樹木管理のモニタリングに使用する定期的な計測であれば、河川距離標を用いたUAV写真測量が安価で定量的な計測が可能である。

(2)音響測深機による河道状況の把握
a)作業内容・データの計測
河床低下の傾向にある河川の水中部においてインターフェロメトリー測深機を用い、面的な河床形状を計測した。地上部は既往の航空レーザー測量によるLPデータを使用して水中と地上を一体した河道地形モデルを作成した(図- 4)。

図4 水中部地形計測結果

b)河道管理の高密化(事例C)
水中計測の結果、200m ピッチでは分からなかった護岸前面の洗掘を確認する等、3次元ならではの河道管理が可能となった(図- 5)。

c)低水護岸の安定性(事例D)
河床地形モデル、護岸モデル、ボーリング柱状図モデルの重合せにより、護岸矢板基礎の不安定状況や護岸前面の洗掘が進行する地質であることを確認し(図- 5)、詳細設計に反映している。

図5 河床低下状況の把握

d)河口部の地形動態把握(事例E)
河口部の河床地形を把握するため、河道および海域を音響測深機で計測した。計測した3次元点群データを視覚的にとらえることができる等高線図にカスタマイズし、河口部の地形状況をモニタリングする基礎データとして整えた(図- 6)。

図6 河口部地形動態の把握

f)許可工作物周辺の変状モニタリング(事例F)
橋脚の洗掘状況について、河床計測結果に橋脚の基礎構造モデル、地質モデルを重ね合わせ、現在洗掘を確認するとともに、あわせて洪水時の流速分布を重ね合わせ、洗掘の要因分析を行っている(図- 7)。

図7 許可工作物周辺の変状

g)水深による計測手法の違い
大分川は水深が浅い場所が多く、空撮によるALB(グリーンレーザ)計測による深掘部の位置把握が可能であった。しかし水深の深い場所の多い大野川は、ALB 計測では水深3m 以上は計測困難な場合が多く、河口部や河床低下箇所の河床を把握するためには、船舶と音響測深機による計測となった。

(3)地上レーザースキャナーによる施設管理への活用
a)作業内容・データの計測
河川管理施設は、目視で年1 回以上は現況を点検している。この点検で変状が確認された場合や、施設の機能に支障が生じた場合に、地上レーザースキャナーによる3次元計測を行い、各種検討に活用している。

b)堤防の寺勾配(事例G)
堤防点検で確認された寺勾配の状況を計測し、計測結果は法面補修設計に活用している(図- 8)。

図8 堤防の寺勾配

c)低水護岸の起伏(はらみ出し)(事例H)
目地の開きが確認された低水護岸の変状を計測した。健全な状態は法勾配が一定であるため、段彩の着色を法面からの差分とすることで、護岸の起伏(はらみ出し)状況を確認し、はらみ出しの程度により補修区間の絞り込みを行い、設計に反映した(図- 9)。

図9 低水護岸はらみ出し

d)樋管周辺の不同沈下の分析(事例I)
樋管新設後の初期沈下が生じたため、樋管の函体内を3D レーザースキャナーで計測し、旧河川敷やボーリング柱状図による地質構成との重ね合わせにより沈下量把握とメカニズム分析を行い、補修設計に反映した(図- 10)。

図10 樋管周辺の不同沈下の分析

e)寺勾配の日照シミュレーション(事例J)
堤防法面の不陸である寺勾配の要因分析として、堤防に隣接する樹木による日照不足が堤防法面の張芝の生育を妨げ、裸地化により降雨等が堤防の変状を進行させていると仮定し、3次元データより日照シミュレーションを行い、日照不足を確認した(図- 11)。
当該箇所では、法面補修を実施するにあたり、日陰に強い種類の芝を選定することとした。

図11 寺勾配の日照シミュレーション

3.おわりに
本稿では河道管理分野おける3次元データの活用事例をできるだけ多く掲載し、現場での課題解決に3次元データがどのよう役立っているかを紹介した。ここで取り扱う3次元データは現地計測した地形データを主としたが、この他に計画図から3次元化した施設モデルの活用も行っている。
従来、河川の現状把握は広範であるために困難であったが、3次元地形計測技術の向上により、現状把握が容易になってきており、建設業の人手不足が懸念されるなか、特に、中小河川を数多く有する管理者には効率的な手段と考えられる。
最後に資料や情報提供頂いた九州建設コンサルタント(株)、九建設計(株)、(株)冨士設計、各受注者の皆様にお礼申し上げるとともに今後も3次元計測技術をうまく活用しながら適切な維持管理並びに河川管理施設機能の長寿命化につなげていきたい。

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