九州川標(かわしるべ) プロジェクト
九州地方整備局 飯田茂幸
1.まえがき
九州地方整備局では、平成21年度から「九州川標(かわしるべ)プロジェクト」を推進することとしている。このプロジェクトは、住民にとって分かりにくいと言われている河川情報を分かりやすく迅速に提供し、情報の共有化を図ることで、流域住民の安全・安心の向上に繋げる取り組みである。ここでは、本プロジェクトの実施に至った背景や具体的な取り組み内容について紹介する。
2.取り組みの背景
九州地方においては、近年、甚大な洪水被害が頻発している。平成17年9月の台風14号による豪雨では、大淀川や五ヶ瀬川流域で甚大な洪水被害が発生し、翌年7月の梅雨前線豪雨では、川内川流域で未曾有の洪水被害が発生している。これらの災害で明らかになった課題は、非常時の情報をいかに分かりやすく迅速に提供するか、また、提供した情報が住民の避難行動に活かされるためには、常日頃どうしておくべきかである。
九州地方整備局では、これらの課題を解決するために、学識者やマスコミ、NPO等からなる「九州川標検討会」を平成19年10月に設置して、河川情報の共有のあり方について検討を開始した。同時に現場において具体的な改善策を実践しながら検討を進め、平成21年3月6日に提言「川の安全・安心情報の共有に向けて」がとりまとめられた。この提言を受けて、河川情報の改善と共有化を図る取り組みを、「九州川標プロジェクト」として平成21年度から推進することとした。
3.河川情報の課題
住民への情報の伝わり方等を把握するために、住民による「河川情報モニター」を平成20年度から直轄20水系に167名配置した。モニターから頂いた意見等をもとに、住民側が認識している河川情報の課題を整理すると次のとおりである。
- ①普段使わない用語や難しい情報が多くて、意味が解らない。
- ②すぐに知りたいときに、情報が入手できない。
- ③情報が整理されておらず、どの情報を見たらよいのか分からない。
- ④情報を受けてもどんな行動をとったらいいのか分からない。
このような課題があるため、情報が住民側に適切に伝わらず、人によって受け取り方が違ったり、いざというときに適切な行動がとれなかったりする問題が現場で起きている。
4.改善の基本方針
前記課題を踏まえて、情報内容や伝達方法、仕組みづくり等の観点から、河川情報を適切に共有するための基本方針を次の7項目に設定した。
- ①用語を分かりやすく、そして一目で分かるようにする。
- ②情報はひとまとめに使いやすくする。
- ③役に立つ情報を提供する。
- ④使えるものを活用して、伝える手段を増やす。
- ⑤普段から基礎的な情報を共有しておく。
- ⑥住民の声に耳を傾け、常に改善する。
- ⑦人から人への情報伝達も大事にする。
5.具体的な取り組み
前記の基本方針を達成するために、具体的に実践すべき取り組みとして次の8項目を選定し、これを「九州川標プロジェクト」として推進することとした。
(1) 情報の内容を充実させて、役に立つ情報を提供
住民の避難に役立つ情報を提供するために、水位の予測情報の提供や携帯電話への警報メールの送信、水位を知らせる警告灯の設置等を行うとともに、河川情報と避難情報の統合や情報内容の充実を図る。(図-1参照)
(2)「 危険度レベル」を用いて、水位の情報を分かりやすく提供
河川の水位の状態を分かりやすく伝えるために、危険度レベルを示す水位標を河川内に設置し、危険度レベルを用いて河川の水位情報を提供する。(図-2参照)
(3) 治水施設の機能や稼働情報を分かりやすく提供
危機管理意識の向上につなげるために、堤防やダム、ポンプ場等の治水施設の機能とその限界について模型等を用いて分かりやすく地域に説明する。また、洪水時における施設の操作情報を分かりやすく提供する。(図-3参照)
(4) 非常時の情報が行動につながるように、基礎情報を普及
非常時の情報が避難行動につながるようにするために、市町村と連携して地域単位の「水防災勉強会」等を実施し、水防災に関する基礎情報の普及を図る。(図-4参照)
(5) NPO等と連携して、水防災に関する知識を普及
自助・共助による防災体制を構築するために、防災に精通するNPO等と連携して水防災教育を推進し、防災知識の普及を図る。(図-5参照)
(6) 関係機関と連携して、情報提供手段を拡充
情報が迅速確実に伝達されるために、使い慣れているテレビ(地上デジタル放送を含む)や市町村が有する防災無線から河川情報を提供できるように関係機関と連携を図る。(図-6参照)
(7) 情報の伝わり方を点検して改善
わかりやすく使いやすい情報にするために、住民による河川情報モニター(川の情報ご意見番)を配置して情報の伝わり方等を点検し、改善を重ねる。(図-7参照)
(8) わかりやすい「川の標識」へ改善
わかりやすく理解しやすい「川の標識(看板)」にするために、標識のデザインや基本仕様を統一して改善を図る。(図-8参照)
6.取り組み事例の紹介
現在、九州管内で取り組んでいる事例を紹介する。
(1) PUSH型携帯アラームメールの社会実験
PUSH型携帯アラームメールは、事前に登録された方に雨量・水位等必要な情報を自動的に携帯電話にメールで配信するシステムである。
平成21年6月10日~平成21年10月31日に社会的実験として試験運用を行った。社会実験終了後、事前に登録頂いた方に情報の分かりやすさ及びシステムの使いやすさについてのアンケートを依頼し、現在アンケート結果の分析を行っている。
(2)水位危険度レベル標識の設置
水位危険度レベル標識については、九州管内20水系の中からモデル河川として4水系(川内川、白川、菊池川、本明川)を選定した。
現在、このモデル河川について、設置箇所を選定し、設置箇所毎に学識者、住民等とともにデザインの検討を行っている。
(3) ダム情報電光掲示板及びダム放流警報看板の見直し改善
これまでのダム情報板は「ダム放流中」「キケン」という情報のみであったが、ダムの詳細な情報(放流量等)に加え、河川の情報や市町村の情報も表示できるように河川管理者と市町村と連携し改善を行う。
管内の直轄ダムにおいて、ダム情報板の設置位置、表示内容について点検を実施し、順次ダム情報板の改善を行っている。(図-10参照)
(4) 河川標識の見直し改善
誰でも一目で分かりやすい川の標識にするため、平成21年5月に「川の標識の管理と整備に関するガイドライン」を策定し、これを九州管内の事務所( 河川・ダム) および県へ周知した。
九州管内の全ての水系において、当ガイドラインに基づく既存標識の点検を実施し、順次新しい標識に改善している。(写真-1参照)
7.あとがき
本プロジェクトの推進にあたっては、県や市町村等の関係機関と緊密な連携を図るとともに、今後3年間は、学識者やマスコミ、NPO等からなるフォローアップ検討会を実施して、取り組み結果を評価するとともに、逐次改善を重ねて効果的な取り組みとなるように努めていく。
治水対策については、ソフト対策とハード対策が車の両輪の関係にあることから、ソフト対策の要となる本プロジェクトを充実発展させ、九州管内の治水対策の強化につなげていきたいと考えている。