九州地区における土木コンクリート
構造物設計・施工指針(案)のとまりとめ
《九州地区長寿命コンクリート構造物検討委員会》
構造物設計・施工指針(案)のとまりとめ
《九州地区長寿命コンクリート構造物検討委員会》
九州大学 大学院 工学研究院 教授
松 下 博 通
国土交通省 九州地方整備局 企画部
技術管理課 課長補佐
技術管理課 課長補佐
川 野 晃
国土交通省 九州地方整備局 企画部
技術管理課 検査係長
技術管理課 検査係長
川 内 学
(社)九州建設技術管理協会
1 はじめに
平成11年に起きたコンクリートの早期劣化やコンクリート片の剥落など,コンクリート構造物の信頼性を損なうような事例の発生により,従前にも増してコンクリート構造物の品質向上を図ることが急務となっている。
このような中,コンクリート構造物の劣化対策,今後の建設事業のあり方など様々な検討が行われ,「コンクリート構造物耐久性検討委員会(平成11年度設置;旧建設省,運輸省,農林水産省)」の提言をはじめとし,信頼性確保の取り組みが全国的に実施されているところである。
九州地方整備局では,平成14年度に学官の委員で構成する「九州地区長寿命コンクリート構造物検討委員会(以下「委員会」という)」を設立し,九州地区におけるコンクリート構造物建設の今後のあり方について3ヶ年にわたり検討を行ってきたが,平成17年3月にその成果として「九州地区における土木コンクリート構造物設計・施工指針(案)(以下「指針」という)」をとりまとめた。
指針は,コンクリート構造物の品質向上のため,九州地区で建設する土木コンクリート構造物を計画的かつ効率的な運用を図るために,構造物の計画段階において考慮すべき性能や,計画・設計から施工段階までのプロセスの中で実施すべき対策など,コンクリート構造物を建設するうえで実施すべき事項を盛り込んでいる。
特に,アルカリ骨材反応対策をはじめ,新技術・新材料導入の検討,設計・施工段階におけるひび割れ対策や過密配筋対策,また,設計・施工・施工後の各プロセスで,必要に応じて第三者を交えた専門評価機関を活用するなど,品質向上のための新たな取り組みも記述したのが特徴である。
本稿では,委員会における検討内容や指針の内容,今後の活用方針等について紹介する。(検討委員会の主な成果とその活用方針の概要を図ー1に示す。)
2 委員会における検討内容
委員会は,松下博通九州大学大学院工学研究院教授を委員長として,九州各地でコンクリートを研究している学識経験者をはじめ,整備局の委員で構成し,平成14年度から16年度の3ヶ年で7回の委員会を開催し審議を行った。(委員会名簿を表ー1に示す)
委員会では,構造物の重要度,要求性能,施工・維持管理の難易度,供用環境など様々な要因に対して,必要な期間その性能を満足するコンクリート構造物を建設することがライフサイクルコストの縮減や長寿命化に繋がるとの観点から,テーマ毎に3つのワーキングを設置し,コンクリート構造物をとりまく課題の整理を行い,構造物を建設するうえで実施すべき対策など指針に盛り込むべき事項の検討を行った。(各ワーキングの検討内容を図ー2に示す)
また,コンクリート材料に関する検討では,九州地区で入手可能でコンクリート材料として適用可能と思われた代替骨材についての検討を行い,その有用性を確認するためフレッシュ性状や強度性状等の各種試験を実施した。その結果を踏まえ指針に取扱いを規定すると共に,今後の活用場面で参考となるよう,試験結果については「資料編」にとりまとめた。
3 とりまとめ指針の構成及び内容
(1)全体の構成及び位置付け
指針の構成は,計画設計,施工計画コンクリートの配合設計,コンクリートの製造・施工,維持管理の各段階からなっており,それぞれの作業段階において留意すべき基本的事項を示しており,全11章で構成している。(構造物の建設作業の流れと本指針各章の位置づけを図ー3に示す。)
記述方法としては,最近の技術基準類の性能規定化への流れを踏襲し,遵守すべき事項等を条文(箱囲み)に記載し,条文を補足説明する事項を【解説】に記載した。また,指針を補完する目的から,各種実験結果や参考文献等を「資料編」に掲載した。
なお,本指針は国土交通省のコンクリート構造物に関する各種規定・基準や指針(土木工事共通仕様書,土木工事設計要領,土木工事施工管理の手引など),「日本道路協会道路橋示方書」および「土木学会コンクリート標準示方書」を補完するものであり,本指針に示されていない事項は,上記の各種規定・基準や指針,ならびに「土木学会コンクリート標準示方書」に従うものとした。
(2)全体の概要及び特徴
とりまとめた本指針の概要及び特徴的なところを以下に紹介する。
【計画段階】(第2章,3章)
・設計業務や建設工事の内容および流れを明確にし,発注者,設計者,施工者等,構造物建設に関わるものの責任体制を明らかにした。(図ー4に設計段階の建設プロセスフローを示す)
・構造物の建設業務の中で発注者と設計者,もしくは発注者と施工者の間で,協議して決定する事項を明らかにした。
・構造物の建設に携わる当事者(発注者,設計者,施工者)のみで技術的な懸案事項や問題点を解決することが難しい場合など,必要に応じて第三者を交えた専門評価機関を活用した協議を行い,対策を検討することとした。
・構造物の建設にあたって考慮しなければならない要求性能の種類と定義を明らかにした。
・構造物の部材毎に,設計耐用期間および要求性能の例を一覧表にまとめた。
【設計段階】(第4章)
・ひび割れ対策として,設計段階において講じるべきことを明記した。
・各要求性能に対して行う照査の基本的な考え方を示した。
・過密配筋への対策として,配筋状態の評価指標に関する内容および過密配筋に対する施工上の対策を示した。
・工場製品は,製品の品質や施工面から,使用が有利な場合では工場製品の適用を積極的に検討することとした。
【施工計画段階】(第5章,6章)
・コンクリート構造物の施工にあたって,事前に計画しておかなければならない項目を挙げ,解説にはそれぞれの項目に対する具体的な対応を示した。
・水和熱による温度ひびわれやアルカリ骨材反応などのコンクリート構造物に生じる初期欠陥を改善可能なセメントとして,九州地区では高炉セメント[B種またはC種]およびフライアッシュセメント[B種またはC種]の使用を標準とした。
・良質な天然骨材の枯渇化への対策として,フライアッシュ原粉,高炉水砕スラグ,しらす,まさ土などを代替骨材として定義し,それぞれの取扱い方法を示した。
【施工段階】(第7章,8章,9章)
・コンクリート構造物に発生する欠陥を防ぐために,施工計画の遵守と事前にそれらの防止対策を講じることを明記した。
・解説では,各施工段階において発生しやすい欠陥とその対策を明確にした。
・構造物の建設において実施する検査項目として,国土交通省の品質管理基準(案)に従うことを明記した。
・さらに,フレッシュコンクリートの単位水量測定,コンクリートの充てん性,完成時に非破壊による鉄筋位置の確認検査等を,必要に応じて実施することを明記した。
【維持管理段階】(第10章,11章)
・工事記録は,構造物の維持管理の基礎資料となるものであるため,必要な記録については供用している期間保存することを原則とした。
・コンクリート構造物の建設にあたっては,維持管理計画を策定しなければならないことを明確にした。
・適切な維持管理計画の策定や維持管理の継続は,設計耐用年数を延ばし,構造物の更なる長寿命化に繋がることを解説に記述した。
(3)ひび割れ抑制対策について
ひび割れは,コンクリート構造物の耐久性に影響を与える重要な要素であることから,本指針では施工段階のみならず設計段階における照査および対策を検討するよう規定した。
設計段階においては,セメントの水和熱に起因するひび割れが発生する恐れのある場合では,温度上昇量,温度分布,引張応力などによるひび割れ指数に基づき照査を行い,有害なひび割れの発生が予測された場合には,その抑制対策を検討することを規定した。
なお,【解説】においてその照査方法を示しているが,方法の一つとして先に九州地方整備局(九州技術事務所)で作成した「温度ひび割れ抑制対策マニュアル(案)平成16年3月」を用いることを示した。
また,抑制対策として
を設計段階に検討することを示した。
更に,「乾燥に伴うひび割れ照査」について考え方やその対策について示した。
施工計画・施工段階においては,設計段階で事前に検討された抑制対策の効果が十分に得られるよう,コンクリートの打込み,養生,型枠,ひび割れ誘発目地等について,適切に計画し施工するよう規定し,その方法等を【解説】に示した。
また,「初期欠陥の補修」の考え方を示した。
(4)過密配筋に対する対策
過密配筋は,標準的なコンクリートを標準的な方法で打込みおよび締固めを行った場合に所要の品質を得ることが困難な配筋状態をいうが,最近特に耐震性の確保を目的として鉄筋量が増加傾向にあることから,対策の必要性が叫ばれている。
本指針では,設計段階において過密配筋と判断された場合は,施工時の適切な対策を提示することを規定し,【解説】で過密配筋の評価事例や施工上の対策事例を示した。
提示する施工上の対策事例として,
を設計段階で検討するよう示した。
施工計画・製造・施工段階においては,流動化コンクリートおよび高流動コンクリートを使用する場合の打込み,締固め,仕上げ,養生等について【解説】で方法や留意事項を示した。特に,型枠および支保工の計画においては,通常のコンクリートの側圧より大きくなることに留意するよう,その考え方を示した。
(5)品質確保のための新たな確認方法
コンクリート構造物の品質確保のための新しい確認方法等について【解説】や【資料編】で事例を示した。
(6)第三者を交えた専門評価機関の活用
本指針では,良いコンクリート構造物を建設するには,施工段階のみならず設計・発注段階での品質確保の対策が必要であるとの観点から,重要な構造物については,従来の発注者と設計者(コンサルタント),発注者と施工者(工事施工業者)という協議・チェック体制だけでなく第三者を交えた専門評価機関を活用し,技術的なアドバイスを受け,コンクリートの品質を確保することとした。(図ー5に活用イメージを示す)
4 指針の活用方針(試行による検証)
これまで述べたように,本指針ではコンクリート構造物の品質向上のため,構造物の計画段階から施工段階までの流れの中で実施すべき対策などをとりまとめているが,より実態を反映した指針とするため,平成17年度から3ヶ年程度かけて,九州地方整備局管内のモデル現場において試行を実施するなど,指針の検証を行いながら今後の活用を図っていきたいと考えている。
5 おわりに
とりまとめにあたっては,「九州地区長寿命コンクリート構造物検討委員会」の委員の皆様をはじめ関係各位には,委員会での審議だけでなく各ワーキングにおいて,多大な労力を費やし多岐にわたる検討を行って頂きました。ここに紙面をかりまして,厚く御礼申し上げたいと思います。
最後に,本指針が今後のコンクリート構造物の建設にあたって,効率的な運用の一助となるとともに,コンクリート構造物の品質が確保され,より良い構造物が建設されることを期待したい。