ポンプ場の合理化設計について
―小松川排水機場における事例―
―小松川排水機場における事例―
建設省宮崎工事事務所
調査第一課長
調査第一課長
末 吉 治 彦
(株)東京建設コンサルタント
九州支店 取締役支店長
九州支店 取締役支店長
堀 川 光 治
1 まえがき
建設省において,本格的に排水ポンプが設置し始められて約20年以上を経過し,昭和60年末現在で約200機場(ポンプ台数約450台)に達しており,排水容量も全体で約2,600m3/sとなっている。また,建設費は排水容量1m3/s当り2億円とすれば,約5,000億円が投資されたことになる。
排水ポンプ設備は,主ポンプ,動力伝達装置,主原動機,自家発電機,補機類,センサー,操作制御盤,除塵機等多数の機器類の集合体で,このうちひとつの機器が故障を起こしても,排水機能に何らかの影響を及ぼし,排水不能となる場合もある。
建設省技術研究会指定課題としての「機械設備の信頼性評価に関する研究(昭和59~61年度)」では,不具合発生頻度の高いものは,補機類(真空ポンプ,冷却水ポンプ等),主原動機,センサー等の順となっている。これらは,主として自然劣化によるものが大半を占め,次に環境不良,保守点検,不可抗力の順となっている。
したがって,排水ポンプ設備の信頼性を向上させるためには,冷却,潤滑水系統のセンサ類と制御機器,回路の改良,さらには冷却,潤滑水系統そのものの簡素化が必要と考えられる。
このような視点から,排水機場の信頼性の向上,建設費の節減,維持管理業務の簡素化,経費節減等,現行排水機場設計の見直しを行うため,「排水機場設計合理化検討委員会」が設置され,昭和61年度より全国ベースでの合理化検討が進められ,「小松川排水機場……大淀川」がそのケーススタディとして設計の対象とされたものである。
小松川排水機場は,宮崎市街地に位置していることから景観的な配慮が要求されるとともに,設置スペースも非常に狭いという特殊条件下に置かれており,そのような立地条件を考慮し,冷却方式の簡素化,機場本体および吐出水槽のコンパクト化等,合理化設計を採用したので,その内容について報告するものである。
2 合理化検討委員会における検討経過
合理化検討委員会の昭和61~62年度における主な検討内容は表ー1に示すとおりである。
3 小松川排水機場の概要
(1)概要
小松川は,大淀川左岸の宮崎市街地を大淀川とほぼ平行に北から南へ流れ,大淀川左岸4/100地点で,小松川樋門により大淀川へ流下する流域面積5km2,流路延長5km,流域内人口約4万人の都市河川である。
小松川流域は洪水のたびに内水被害が生じているため,ポンプ排水計画が立案され,排水量5m3/s/台のポンプ3台,計15m3/sの排水ポンプが設置されることとなった。(表ー2参照)
ポンプ設置位置は図ー1に示すように宮崎市役所横の狭いスペースに限られており,また,大淀川河畔の橘公園ならびに観光ホテル街に隣接していることから,景観を考慮した設計を行うことが要望されていた。
(2)現行方式の問題点
土木,建築,機械電気等の総合的な見地から現行方式の一般的な問題点は表ー3に示すような項目があげられる。当排水機場の場合,これらの問題点に加え,景観的な配慮から上屋高をできるだけ低くする。また,狭いスペースであることから機場本体を小型化する等の問題があげられる。
4 ポンプおよび原動機型式の検討
(1)型式(案)の選定
ポンプ型式,原動機型式,および冷却方式をそれぞれ組合せた上で,合理化方式(案)として図ー2に示すような5案を選定した。
ポンプの型式については,現行方式の立軸ポンプ(案)の他に,安価な横軸ポンプを呼水操作無で起動させる地下設置型(案),および起動操作が簡単な水中ポンプ(案)の3案を合理化方式(案)として選定した。
主原動機型式については,立軸ポンプの場合,現行方式のディーゼルエンジンの他に,ガスタービンエンジン,およびモーターが考えられた。両者とも回転駆動のため自重および動荷重が小さく空冷で対応できる特徴がある。
ディーゼルエンジンの冷却方式については,現行の放水方式に対して,冷却系統を著しく簡素化できる吐出管クーラー方式が考えられた。
(2)ポンプ型式の検討
現行方式と合理化方式5案について,概略構造を検討し,経済性を含めた比較を行った結果を示すと表ー4のとおりとなる。これよりポンプ型式としては,
① 合理化方式(第4案)……… 横軸ポンプ
② 合理化方式(第1案)……… 立軸ポンプ
③ 合理化方式(第5案)……… 水中ポンプ
の3案が代表案として選定できるが,次のような理由から当排水機場におけるポンプ型式としては「立軸ポンプ」を採用することとした。
① 経済的には横軸ポンプと大差がない。
② 横軸ポンプは地下設置型であり主駆動部が水位以下となるため,治水安全上問題がある。
③ 水中ポンプは耐久性の問題がある。
(3)原動機型式の検討
ポンプ型式が立軸ポンプの場合,原動機型式としては,
① デイーゼルエンジン
② ガスタービンエンジン
③ モーター
の3案が考えられるが,表ー4からわかるようにこの3案の中では,ディーゼルエンジンの場合が最も経済的である。ガスタービンエンジンの場合,現在のところ対応機種が少なく,コスト的にも割高となり,また,モーターの場合は主発電機の他に予備発電機が必要となることからコスト的に割高となる。従って,当排水機場における原動機型式としては「ディーゼルエンジン」を採用することとした。
(4)冷却方式の検討
従来の水冷却方式の場合,補機類が多く複雑な小配管を伴うことから故障の原因になりやすいため,当機場においては「吐出管クーラー」を採用し,軸受は新素材の「セラミック軸受」を,また,自家発電機用原動機は「ラジエータ一方式」を採用し,無水化を図った。
以下,それぞれについて説明を加えることとする。
a 吐出管クーラ一方式
吐出管クーラーは,ポンプの吐出管内に熱交換機を内蔵し,ポンプの吐出水で冷却水を冷やすものであり,図ー3に示すようにシステムを著しく簡素化できるとともに,メンテナンスが容易である。
b セラミック軸受
従来のゴム軸受は,主軸の外側に保護管を取付け,その中に潤滑水を通して回収循現させる複雑な機構であり,電気的な補器類も多い。これに対して新素材のセラミック軸受は完全な無水化が可能であり,補機類を一切必要としないことから信頼性が向上し,メンテナンスも容易となる。(図一4参照)
c 自家発電機の空冷化
自家発電機はポンプより先に駆動させる必要があり,吐出管クーラーでの冷却ができないことから,ラジエータ一方式により空冷化する。
5 上屋形式および上屋高の検討
(1)クレーン規模と上屋形式の決定
上屋形式については,室内クレーンを設置する方式とトラッククレーンを使用する方式の2案が考えられ,それぞれのクレーン規模は検討の結果
① 室内クレーン方式 ……… 電動16t
② トラッククレーン方式 … 160t
となった。この容量をもとに上屋形式について比較を行った結果,トラッククレーン方式の場合,上屋の高さは低くできるが,機器の搬入・据付・搬出等の操作が難しいこと,160tクレーンの市場性が少ないこと,クレーン半径を確保するために土木躯体の延長を長くする必要があることなどから当排水機場の場合問題点が多い。したがって上屋形式は現行の「天井クレーン方式」を採用することとした。
(2)上屋高の決定
現行方式の場合,エンジンフロアーで組立てたポンプ本体をクレーンで吊り上げて据付けを行う方式であり,その移動スペースのために11.2mの上屋高となる(図ー5参照)が,ポンプ本体を小分割して,直接ポンプフロアーで縦方向に組立て,芯出し,据付けを行う方式とすることにより,9.7mにすることが可能であり,1.5mの短縮となった。
6 ポンプ設置方式とポンポ室延長の検討
(1)ポンプ設置方式の決定
当排水機場のポンプ設置方式は,ポンプの規模から,原則として「二床式」となるが,吐出弁の取り出しスペース等のためにポンプ室長が長くなる原因となっている。そこで,「半二床式」を採用し,吐出管クーラーや吐出弁の上部をオープンスペースにすることとした。
(2)ポンプ室延長および幅の決定
ポンプ室延長は,主機械の設置スペースと運転操作および保守点検等の必要スペースを考慮して決定されるが,半二床式の採用とともに,油圧クラッチ内蔵型減速機や短面間弁を採用することにより,現行方式より2mの短縮が可能となった。搬入口部と玄関および監視室は,現行方式の場合,冷却水槽の上部にエンジンフロアーを挟んだ形で配置しているが,当排水機場の場合,敷地輻が狭いため,監視室を除塵機の上部に設置することでポンプ室幅を現行方式より5.2m短縮することが可能となった。これは,冷却方式の合理化により,冷却水槽が不要になったことを有効に利用した改良である(図ー5参照)
7 吐出水槽型式の検討
吐出水槽の現行方式は,原則として,スタンドの高さを計画堤防高とするために,サージアップには,開口部を大きくして対応しているが,当排水機場の場合,大きなスタンドは景観上の問題がある。そこで,逆流防止弁のメンテナンスのための必要最小限幅として,流水方向は1.5mとし,3連のうち1連を開口部とする計画とした。また,スタンドをなくした直接放流方式も考えられたが,圧力変動の函渠および堤体に与える影響が明確でないため不採用とした。
8 あとがき
以上,小松川排水機場に導入した合理化方式について述べたが,本来の目的である合理化設計手法の確立に関して今後の課題としては次のような項目が考えられる。
(1)水中ポンプの改良
水中ポンプは,耐久性の問題,動力源としての発電設備に対する法規制の問題等が残されているが,土木・建築構造物が小規模化され,操作性上も利点があるので,適用範囲を明確にし,問題点に対する対策を講ずることが必要である。
(2)ガスタービンエンジンの改良
ガスタービンエンジンの採用により,冷却系統の簡素化と機械荷重の低減を図ることが可能であるが,対応機種が少ないこと,コスト高になる等の問題があるので,今後の改良が必要である。
(3)新冷却方式の標準化
吐出管クーラー,およびセラミック軸受の採用は冷却方式の簡素化,信頼性の向上等を可能にしたが,今後は標準化・規格化を図り,性能の向上と設備費の低減を図ることが必要である。
(4)トラッククレーン方式による上屋の小規模化
天井クレーンの採用は,使用頻度の問題,建屋高が高くなる等の問題が残されているので,取りあえず小規模な排水機場においてトラッククレーン方式を試験的に採用し,問題点を解明することが必要である。
(5)吐出水槽の直接放流方式の採用
吐出水槽の開口部をなくした直接放流方式の採用に対しては,堤防に与える振動等の影響が解明できていないため,今後,計測等によって問題点の究明が必要である。
小松川排水機場は昭和62年12月から工事に着手し,現在鋭意建設中であるが,完成後は新冷却方式の効果,吐出水槽のサージング現象,各機器のメンテナンス状況,および天井クレーンの稼動状況等について追跡調査を行い,排水機場合理化設計手法確立の資料とする所存である。