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牛頸ダムコア材料の選定と品質管理について

福岡県牛頸ダム建設事務所
工務課長
伴  信 良

西日本技術開(株)調査部土木試験室
課長代理
山 下 伸 二

1 まえがき
牛頸ダムは,御笠川治水計画の一環として二級河川御笠川水系牛頸川の福岡県大野城市大字牛頸地先に建設中の治水ダムで,堤高52.7m,堤頂長383m,堤体積106.5万m3,総貯水量228万m3の中央遮水型ロックフィルダムである。本流域は近年,福岡都市圏として急速に都市化が進み,商業,工業,住居地域として発展しているが,出水期にはしばしば洪水による被害が発生している。また水不足は毎年のように起っており,河川の正常な機能は著しく阻害されている。そのため当ダムは,洪水調節と既得用水の補給を行って流水の正常な機能の維持と増進をはかることを目的としている。
本地点は昭和45年度より予備調査を始め昭和59年10月本体工事に着工,昭和62年7月に盛立てを開始し,昭和63年12月に盛立てを終了した。現在は,平成2年度の完成へ向けて仕上げの段階にある。
本報告では,まさ土をコア材料として使用した経緯について初期の調査試験から盛立試験にわたって詳述するとともに盛立試験の結果に基づいて作成した品質管理基準について触れ,さらに品質管理の実績について述べるものである。

2 牛頸ダムの概要
(1)ダムの諸元
ダムの諸元ならびに標準断面を表ー1および図ー1に示す。

(2) 地形・地質の概要
当地点は図ー2に示すように福岡,佐賀県境をなす背振山地の東端,牛頸山(標高448m)の北山麓に位置する。牛頸川は牛頸山に源を発し,北東に流下して御笠川本流と合流する。その流域面積は13.9km2で流路延長は8.3kmである。ダムサイトは御笠川との合流点から約5km上流側にあり,周辺は花崗岩風化地形特有の円味を帯びた標高100~270mの丘陵で,比較的起伏の多い地形を呈している。
ダムサイトの基盤は,中生代白亜紀の早良花崗岩で,これを第四紀の未固結推積物が一部被覆している。花崗岩は塊状粗粒で所々にペグマタイトやアプライトの岩脈が認められる。また花崗岩の表層部は風化して粘土状,砂質土状のいわゆる“まさ”となっている。

3 コア材料の調査試験概要1)
当地点のダムサイト近傍には,遮水性に富む良質のコア材料がないため風化花崗岩のまさ土を使用することにした。しかし,材料試験の結果(表ー2),締固め密度や強度は十分であったが,透水係数は一般に必要であるといわれている室内試験値の1×10-6cm/sec以下が得られず,まさ土単体では遮水性に問題のあることが判明した。したがって,遮水性を改善するため原石山およびダムサイト周辺の表層部に分布する粘性土を混合して使用することにした。
まさ土と粘性土の混合材料による試験結果は図ー3に示すとおりで,目標の透水係数を確保するためには粘性土の混合が30%以上必要であるという結論を得た。また密度は,室内の標準締固めエネルギー(1Ec)で1.78~1.80g/cm3が得られ,コーン指数も10kgf/cm2で施工性に関しても満足することが明らかになった。さらに強度も十分な値が得られたのでコア材料の設計値を表ー3のように設定した。なお,コア材料はまさ土に粘性土を混合して使用するため,その全量を全てストックヤードに互層に積んでパイルした。

4 コア材料の盛立試験
室内試験の結果に基づいて設定した材料基準を確認して施工方法を決定するために,ストックパイル材料を用いて盛立試験を実施した。
転圧機械は,当地点のコア材料がSM(シルト質砂)~SC(粘土質砂)に分類され,これらの土質にはタイヤ系,タンピング系,振動系のいずれも適用可能とされている2)ので,ここではタンピングローラーと振動ローラーおよび振動タンピングローラーの3機種を採用した。
また,まき出し厚さと転圧回数は,一般にまき出し厚さが20~30cm,転圧回数が6~12回の間で採用されている3)ので盛立試験においてもこの範囲で検討を行った(表ー4)。

盛立試験の結果は図ー4および図ー5に示すとおりで次のように要約できる。
① 盛立試験材料の含水比は13~16%で,74μm通過率は20~25%である。なお,粒度は図ー4に示すようにばらつきが小さいが,これは材料の混合を入念に行ったことと使用材料を室内の予備試験の結果に基づいて予め選定したことによるものと考えられる。
② 乾燥密度は,どの転圧機械においても転圧回数にかかわりなく1.74g/cm3以上が得られ,設計値を確保することができた。
③ 透水係数は,振動ローラーだけがすべての転圧回数で設計値(1×10-5cm/sec)を満足したがタンピングローラーでは転圧回数が12回以上で,また,振動タンピングローラーでは転圧回数が10回のみ設計値を満足した。
④ 振動ローラーでは,転圧回数の増大に伴う密度増加が認められるが,他の機種では明瞭でない。一方,透水係数は,どの転圧機械においても転圧回数の増大に伴い小さくなる傾向がみられた。
⑤ 74μm通過率は,転圧によって3~4%の増加が認められ,この転圧による粒子破砕(74μm通過率の増加)はタンピングローラーが最も多い。
⑥ 締固め度4)(D値)は,タンピングローラーで90~95%,振動ローラーで93~98%,振動タンピングローラーで92~97%が得られ,振動ローラーが最も大きい。
なお,締固め密度は材料の最大粒径によって異なるのでWalker Holtzの方法5)によって現場密度を補正し,室内締固めエネルギー1Ecの最大乾燥密度を基準にとって算出した。
また,盛立試験に伴い,まき出し材料を用いて実施した室内材料試験より以下の結果を得た。
① 盛立試験材料は,日本統一土質分類によるとシルト質砂(SM)に分類される。
② 盛立試験材料の含水比はすべて最適含水比の湿潤側にあり,ωopt+0~3%を満足している。
③ 自然含水比における1Ecの締固め密度は1.86~1.88g/cm3である。また,透水係数は1×10-6~2×10-7cm/secの範囲にあり,密度,透水とも室内試験値としての所要の値を十分満足している。
④ 最小透水係数は,最適含水比の1.5~3.0%湿潤側で得られる。
⑤ 締固めのエネルギー効果が認められるのは1Ecまでである。すなわち,当ダムのコア材料では,むやみに締固めエネルギーを上げても,その効果はほとんど期待できない。
⑥ 1Ecで締固めた材料の強度定数はc’=0.94kgf/cm2,φ’=38°38′で,設計値を大きく上廻っている。

5 材料基準と施工基準および品質管理基準
盛立試験とこれに並行して実施した室内試験および昭和51年から昭和54年にわたって行った材料試験の結果を併せて総合的な検討を行い,コア材料の材料基準と施行基準ならびに品質管理基準を次のように設定した。
(1)材料基準
コア材料はストックヤードにパイルする段階で必要に応じて加水を行っている。室内試験で得られる締固め密度や透水は,その加水効果などによって既往の調査結果よりも良好な値が得られる傾向にある。しかしながら設計値を確保するには,含水比や細粒分含有率(74μm通過率)に許容範囲があり,加水や曝気あるいは粘性土を混合するなどの材料調整を行わなければならない。
そこでここでは,以下に示すような考えに基づいて材料基準を設定した。
(i)施工含水比
既往調査と盛立試験およびこれと並行して実施した室内試験の結果によると,所要の透水係数を確保するためには,材料の含水比を最適含水比の湿潤側(ωopt+0~3%)としなければならない。しかしながら,図ー6に示しているように,たとえ材料の含水比がωopt+0~3%にあっても自然含水比が13%程度以上でないと,目標とする透水係数(室内試験値で1×10-6cm/sec以下)を得ることができない。
一方,締固め密度は含水比が高くなると低下し,自然含水比が18%を越えると設計値を確保することが困難となる(図ー7)。すなわち,密度,透水ともに設計値を満足するためには,材料の自然含水比が13~18%の範囲にあって,しかも,ωopt+0~3%でなければならない。

(ⅱ)粒度
所要の透水係数を確保するためには74μm通過率は20%程度以上を有していなければならない(図ー8)。

ストックヤードには,74μm通過率が10~18%のまさ土と18~30%の粘性土が互層にパイルされており,盛立試験ではこのストックパイル材料を混合して使用した。その結果,74μm通過率は20~23%が得られた。また透水係数は三種の転圧機械のうち,振動ローラだけがすべての転圧回数で設計値を確保することができた。
盛立試験材料の粒度曲線は図ー4に示したとおりで,74μm通過率は20~23%,4.76mm通過率は80~95%であり極めて均ーである。これは材料の混合を入念に行ったことと,使用材料を室内の予備試験の結果に基づいて限定したことによるものと考えられる。実際の盛立では,粒度はもう少しばらつくことが予想されるので,4.76mm通過率はある程度余裕をもった値を設定しておく必要がある。
以上より,コア材料の材料基準を表ー5のように設定するが,その基本的な考え方を示すと次のとおりである。

① 含水比
含水比は,下限値を透水係数からの制限で13%とし上限値を密度の制限から18%とする。ただし含水比は13~18%の範囲にあってもωopt+0~3%でなければならない。
② 74μm通過率
74μm通過率は,所要の透水係数を確保するために20%程度以上を必要とするが,材料の混合,まき出し,転圧という施工段階で3~4%程度の増加が認められるので下限値を18%とする。
③ 4.76mm通過率
4.76mm通過率は,74μm通過率ほどには透水係数に影響を及ぼすことはないと考えられるので,余裕をもたせるという意味で75%以上とする。
④ 最大粒径
最大粒径は,盛立試験で採用した150mmとする。
(2)施工基準
コア材料は,設計値を確保するため必要に応じて加水あるいは曝気などの含水量調整を行わなければならない。以下,材料の混合方法と含水量の調整方法について述べる。
(ⅰ)材料の混合方法
ストックパイル材料は,まさ土と粘性土が互層に積まれているので,材料が均一に混ざるよう混合しなければならない。
混合の方法は,盛立試験で行ったようにブルドーザーで押土,混合し(図ー9),さらに必要に応じてパワーショベルなどで混合する。

(ⅱ)含水量の調整方法
使用材料の自然含水比は13~18%とするが,すべてωopt+0~3%とするので,必要に応じて加水などによる含水量調整を行う。なお,含水量の調整は以下の手順で行う。
① 混合したストックパイル材料の含水比を測定する。
② 材料の含水比がωn<ωoptかωn>ωoptかを判定する。なお,判定の基準値は,これまでに実施した室内試験の結果を参考にして(図ー10)ωn=ωopt=15%を目安とする。
すなわち,自然含水比が15%以下であれば加水を行い、18%を超える材料では曝気する。ただし,盛立に伴って実施する管理試験の結果を逐次加えて,図一10の相関を明確にし,必要に応じてωn=ωoptの値を修正する。
なお,含水比が最適含水比よりも乾燥側(ωn<ωopt)にある材料は透水性に問題があるので,加水を行う際には加水量を管理,調整しなければならない。

(ⅲ)締固め度
盛立試験で使用した三種の転圧機械による締固め度はタンピングローラーで90~95%,振動ローラーで93~98%,振動タンピングローラーで92~97%が得られた。締固め度の管理基準値はこれらの結果と他ダムの値などを参考にして95%と設定した。なお締固め度は盛立当日に判定しなければならないので図ー11に示す相関図を用いて決定するとともにRI法によっても確認する。ただし,盛立時に実施する管理試験の結果を逐次加えて図ー11の相関を明確にし,精度を高めていく必要がある。
以上の結果に基づいて施工基準を表ー6のように設定するが,その基本的な考え方を箇条書きで示すと次のとおりである。
① まき出し厚さは,25cm程度(転圧後の仕上がり厚さは20cm)とする。
② 転圧機械は,三種の転圧機械による比較試験から,振動ローラーが密度,透水ともに最も優れていることが判明したので,振動ローラーを採用する。
③ 転圧回数は6回でも設計値をほぼ確保することができるが,転圧回数を増やすと密度は増大し,透水係数は小さくなるので,これらの結果を考慮して8回とする。
④ 締固め度は振動ローラーで93~98%が得られたことと,他ダムの基準6)を参考にして95%とする。

(3)品質管理基準
既往の調査結果と盛立試験およびこれと並行して実施した室内試験の結果に基づいて,品質管理基準を表ー7のように設定した。また,品質管理試験の項目と頻度は表ー8のとおりとした。

6 品質管理の方法と実績
コア材料の品質管理は図ー12に示すフローに従って実施したが,特に材料の含水比と74μm通過率の測定に重点を置いた。
つまり,採取場(ストックヤード)から搬出される材料の含水比と粒度を測定して,その値が基準値を満足しているかどうかをチェックし,基準値を満足しない場合には加水や曝気などの材料調整を行った。なお,含水比と粒度はJISの方法に準じて試験を行うと当日の判定ができないので,含水比はフライパン法(図ー13)により,粒度は独自に考案した迅速法(図ー14)によって行った。また,施工含水比は盛立試験や材料試験の結果に基づいて13~18%と定めていたが,15%を越える材料にはウェービング現象が著しく認められるケースがあったので,上限の目標含水比を15%程度として(図ー15)盛立を行った。ただし,この場合も所要の透水係数を確保するためωopt+0~3%としなければならないので,自然含水比の変化によるωoptの移行(図ー10)に十分注意を払って材料の管理を行った。
品質管理試験の結果は表ー9に示すとおりで管理基準値を十分に満足するとともに,天候に恵まれたこともあって非常に均質な材料を盛立てることができた。

6 むすび
牛頸ダムのコア材料は近傍に遮水性に富む良質の材料がないこともあって,風化花崗岩のまさ土を使用したが,単体では遮水性に問題があったので原石山およびダムサイト周辺の表層部に分布する粘性土との混合が必要となった。このため,ストックヤードにまさ土と粘性土を互層に積んで仮置し,これを混合して使用した。ダムの盛立ては盛立試験と室内材料試験の結果に基づいて設定した管理基準にしたがって行ってきたが,あまり例のないような好天に恵まれたこともあって特に問題もなく昭和62年12月末に盛立てを完了することができた(写真一1)。
最後にダムの盛立てに際して絶えず御指導を戴いた建設省開発課,建設省土木研究所ならびにダム技術センター他関係各位に深く感謝の意を表する次第である。

参考文献
1)堤晴夫:牛頸ダムコア材料の混合試験について,ダム日本,財団法人日本ダム協会,PP.71~PP.86,1979
2)加藤三重次:建設機械,技報堂,PP.171,1971
3)土質工学会:フィルダムの調査・設計から施工まで,PP.276,1983
4)山口柏樹・大根芳男:フィルダムの設計および施工,技報堂PP.423~PP.428,1973
5)土質工学会:土質試験法,PP.291~PP.294,1981
6)土質工学会:フィルダムの調査・設計から施工まで,PP.305~PP.306,1983

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