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鶴田ダム管理開始から50年を振り返って
川野晃

キーワード:管理開始50 周年、ダム再開発事業、ダム見学

1.はじめに
鶴田ダムがある川内川は、熊本県球磨郡あさぎり町の白髪岳(標高1,417m) に源を発し、鹿児島県北部を東から西に向かって流れ、羽月川、隈之城川等の支川を合流、川内平野を貫流し薩摩灘へ注ぐ、幹線流路延長137㎞、流域面積1,600km2の一級河川である(図-1)。

鶴田ダムは、この川内川のほぼ中央にあたる河口から約51㎞に位置する、大口盆地と川内川下流をつなぐ狭窄部の薩摩郡鶴田町(現:さつま町)に建設された、九州最大の重力式コンクリートダムである。
ダム下流を洪水から守り、また大鶴湖に貯まった水の力を利用して発電することを目的として、九州地方整備局が管理するダムでは最も古い昭和41年(1966年)に完成し、同年4月より管理を開始して以来、今年(平成28年)が50周年の節目を迎えた。
管理開始から半世紀にわたり地域の暮らしを支え、多くの出水を経験し、下流の洪水被害の軽減に寄与してきたが、中でも昭和47年7月と平成18年7月の2度、計画規模を超える洪水時操作(いわゆる「ただし書き操作」、以下「異常洪水時防災操作」という。)を経験するなど、建設当初の計画から運用の見直しも行われてきた。
本稿では、この長い歴史の中で発生した主な洪水と運用の変遷、現在事業が進められている国内最大規模のダム再開発事業と、それを活かしたインフラツアーやダム見学の取り組み等について紹介する。
2.鶴田ダムの概要
鶴田ダムは、流域面積が川内川流域の約半分の805.に及び、堤高117.5m、堤頂長450m、堤体積111.9 万m3の大きさと、総貯水容量は123,000 千m3と巨大な貯水池を形成する。
昭和35年4月、洪水調節と発電を目的とした多目的ダムとしてダム建設に着手。翌昭和36年6月にはダム本体工事に着手し、昭和41年3月にダム竣工(写真-1)。同年4月より管理を開始し、現在に至っている。

3.ダム運用の変遷
(1)建設当時の鶴田ダム貯水池運用
鶴田ダムは、ダム地点での計画洪水流量3,100m3 /s のうち800m3 /s の洪水調節を行う計画であった。総貯水容量123,000 千m3 のうち、有効貯水容量が99,800 千m3 で、洪水調節容量は最大42,000 千m3 、発電容量は77,500 千m3 であった。当時の容量配分図は図- 2 のとおりである。

(2)昭和47年7月出水における鶴田ダム「異常洪水時防災操作」と「工事実施基本計画」改定
鶴田ダムでは、建設後間もない昭和44年、46年、47年に大規模な出水が頻発した。特に昭和47年7月出水では、6日明け方から川内川中流域で1 時間雨量110㎜、3時間雨量230㎜という局地的豪雨をもたらし、2日前からの降雨による出水と相まって洪水の規模を一段と増大することとなった。3回にわたる波状出水のため、3回目の出水で治水容量の限界を超えたため、異常洪水時防災操作を伴う洪水調節を行い、またダム下流においても時期を同じくして豪雨があり、本川の流出とダム下流の流域からの流出とが合わさり、大きな出水となった。鶴田ダムは、7月6日にダムへの流入量が最大2,260m3 /s に達し、ダムから最大2,260m3 /s を放流する異常洪水時防災操作を行った。
この洪水により、川内川流域において死者・行方不明者8名、家屋全半壊・流出472戸、床上浸水695戸、床下浸水1,399戸など甚大な被害が発生した。この洪水被害により、洪水調節容量の不足などを主な争点とした鶴田ダム水害訴訟が争われた。(平成5年4月結審)
この洪水を契機として、昭和48年3月に川内川の治水計画の見直しにより川内川工事実施基本計画を改定し、計画規模を年超過確率1/80 から1/100 に変更を行っている。また、鶴田ダムでは、この変更に伴い発電容量の一部買い取りを行い、洪水調節容量を当時の42,000千m3から75,000 千m3に見直し、洪水調節機能の増強を図り(図-3)、計画最大流入量4,6000m3 /s のうち2,200m3 /s の洪水調節を行い被害を軽減するものであった。

(3) 平成18年7月出水における鶴田ダム「異常洪水時防災操作」と「ダム再開発事業」
平成18年7月21日、北部九州に停滞していた梅雨前線がゆっくり南下を開始し、22日~23日にかけて活発化した前線の影響で、鹿児島県北部を中心に記録的な豪雨をもたらした。この豪雨により、川内川流域に設置されている全25雨量観測所のうち20 観測所で既往最高の降雨記録を更新、全15水位観測所のうち11箇所で既往最高水位を記録するなど、7観測所で計画高水位を上回った。特にダム下流の宮之城水位観測所(さつま町) では、11.66mの既往最高水位を観測、計画高水位を2.92mも上回る洪水となった。
川内川流域3市2町において甚大な被害が発生し、流域全体で浸水面積は約2,777ha、浸水家屋数2,347戸に及んだ。

1)鶴田ダムの洪水操作
鶴田ダムでは、21日15時頃から本格的な洪水調節を開始し、22日9時以降の急激な流入量の増加に対して調節を行った。その後、異常洪水時防災操作の水位となった14時40分から約4時間、異常洪水時防災操作を実施した。以降23日19時40分までの間、流入量=放流量の操作を継続して実施した。
なお、異常洪水時防災操作に移行した約1時間後の22日15時28分に約4,043m3/s の既往最大流入量を記録し、その時の放流量は2,758m3/s で1,285m3/s の洪水を貯留した(図-4)。
ダム下流約13㎞に位置する宮之城地点(さつま町) では、鶴田ダムで洪水調節を行わなかった場合の水位(推定値) に対して、洪水調節により最高水位を最大で約2.5m低下させるとともにピーク時の最高水位で約1.3m水位を引き下げ、また、洪水調節によって河川のピーク水位に達する時間を約4時間遅らせることで、住民の避難と警察・消防及び自衛隊等による救助・救出活動の時間確保に役割を果たした。

2) 鶴田ダム再開発事業による貯水池運用の見直し
国土交通省では、この洪水被害を契機として、川内川激甚災害対策特別緊急事業(平成18~23年度)と相まって川内川流域の洪水被害を軽減するため、平成19度より鶴田ダム再開発事業に着手した。
鶴田ダム再開発事業は、発電容量と死水容量を治水容量に振替えることで、洪水期の洪水調節容量を最大75,000 千m3から最大98,000 千m3(約1.3倍) に増量するものである。このため既設の放流管より最大で約25m下に新たな放流管を3条設け、大雨が予想される際に、貯水池の水位を下げて洪水調節容量を確保するものである(図-5)。容量配分図を図-6に示す。

鶴田ダム再開発事業により、現在の川内川に平成18年7月規模の洪水が発生した場合、甚大な被害を被った宮之城地区において、激特事業(平成18~23年度)後の水位から、さらに約1.0m水位を低下させることができる。
なお、再開発事業による新たな貯水池運用は、平成28年4月より運用を開始している。

4.鶴田ダム再開発事業による運用開始
平成28年4月、鶴田ダム再開発事業による増設放流設備及び増設減勢工、付替発電管の工事等が完成したのを受け、管理開始から50周年を迎えたのと時期を同じくして、再開発事業による新たな貯水池運用を開始した。
運用開始以降、4月に初めて増設放流設備からのゲート放流を行い、5月10日には、50年間で2番目に早い時期での洪水調節を実施した。更に、6月11日からの洪水期より貯水位を制限水位である標高121.10mより低い水位での運用とし、再開発事業による洪水調節容量98,000 千m3を活用する本格的な治水運用がスタートした。
既に(7月18日現在)、本格運用後8回の洪水調節を実施し、下流の被害軽減に効果を発現させている。
洪水期に備え、貯水位をこれまでより約15m低い水位へ低下させたダム貯水池の状況を写真-2に、本格運用後、初の洪水調節を行っている状況を写真-3に示す。
なお、鶴田ダム再開発事業は、既設減勢工(放流水の勢いを軽減する水路)の改造工事など、関連工事を含めたすべての完成は平成29年度末を予定している。

5.ダム見学とインフラツアー
鶴田ダムでは、多くの皆さんにダムへの理解や関心を深めてもらおうと、ダム内部や操作室などへの見学を受け入れて来た。平成23年度からは鶴田ダム再開発事業の見学者受け入れが始まったことや、平成25年度からは地元旅館組合や旅行会社と連携したインフラツアーが行われるようになり、訪れる見学者も増えている(写真-4)。
鶴田ダム管理所では、管理開始から50周年を迎えたのを機に、新作ダムカードVer.1.1(2016.3)や50周年チラシ(職員手作り)の配布、管理所玄関では50周年ポスター等で見学者を迎えている。
国内最大規模のダム再開発事業も完成まであと2年ほど、工事の進捗によりダムの景色も刻々と変化を続けている。“ 今しか見られない”“ 今見て欲しい鶴田ダム” へ、是非多くの方に訪れて頂きたい。ダム見学やインフラツアーに関することは、鶴田ダム管理所や川内川河川事務所ホームページなどから閲覧できる。

6.おわりに
鶴田ダムは、この半世紀に多くの洪水を経験し、2度にわたる抜本的な計画の見直しやダム運用の変更を行い、機能を向上させてきた。
ダムの建設に深く関わられた地権者の方々はもとより、ダム建設に携わった多くの関係者、また、管理開始以降50年間に鶴田ダムと関わってこられた方々の並々ならぬ努力と、更には地域の支えにより今の鶴田ダムがあることを、現在管理に携わる者として肝に銘じたい。
今回の再開発事業により、先に完成した川内川激特事業と相まって、治水安全度は向上しているが、近年の地球温暖化の影響で記録的な豪雨による甚大な災害が全国各地で頻発するなど、施設の能力を上回る洪水の発生頻度が高まることが懸念されている。
地域の安全・安心の確保や被害の軽減のため、我々もこれまで以上に気を引き締めて、ダムの運用や管理に努めて参りたい。
次の50周年に向け、鶴田ダムがこれまで以上に地域に親しまれ、地域の発展に寄与することを祈念している。

鶴田ダム管理所HP〔ダム見学に関すること〕
http://www.qsr.mlit.go.jp/turuta/g3_damkengaku/index.html

川内川河川事務所HP〔再開発事業・インフラツアーに関すること〕
http://www.qsr.mlit.go.jp/sendai/tsuruta-damu/index.html

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